再生医療

病気やけがで傷ついた組織、損なわれた機能を修復する治療を『再生医療』といいます。 「再生医療」で使用されるのは、「幹細胞」と呼ばれる細胞で、これはさまざまなタイプの細胞や臓器になる能力を備えています。 なかでも、骨髄から得られる「骨髄幹細胞」が現在よく使われます。 また、ヒトの受精卵からできる「ES細胞」の研究も盛んに行われています。 しかし、「ES細胞」は、受精卵を用いる点やクローン技術との関わりがあるため、実用化にあたっては生命倫理上の課題を抱えているのが現状です。
(*本文は下の方にあります)


再生医療

人間の体は、例えば皮膚や髪の毛を見るとわかるように、日々古いものがなくなり、新しいものに入れ替わっています。 これは体の中に、新しい細胞を作る基になるものがある、ということで、そうした機能を持っているのが「幹細胞」です。 そして幹細胞の中でも、最も早い段階のものがあります。人間の始まりは受精卵(胚)の状態で、これが分化していく過程で、 さまざまな機能を持った部分に分かれ、複雑な人体が構成されていきます。 つまり、胚の中に存在する原初の幹細胞は、あらゆる人体の部分になっていく可能性(多様性)を備えているのです。

【幹細胞】

骨髄の中には、血液をつくる「血液幹細胞」や、そのほかの細胞をつくる「骨髄幹細胞」 があることがわかってきました。現在、「骨髄幹細胞」は、心筋や骨などに分化できることがわかっています。 多くの可能性を有することから、「多能性幹細胞」とも呼ばれています。

従来、心臓を構成している心筋細胞は、一度死んだら二度と再生することはないと考えられてきましたが、 近年、心筋細胞や心臓の血管は骨髄から骨髄幹細胞が動員されて、ゆっくりと生まれ変わっていることが確認されました。 さらに、心臓が病的な状態になっても、骨髄幹細胞による心臓の修復が起こることがわかってきました。 また、心臓には「心筋幹細胞」「心筋前駆細胞」が存在する、といった報告もあります。

心筋細胞同様、神経系の細胞も、一度損傷を受けると再生はできないと、長い間考えられていましたが、 十数年前、神経細胞の元になる「神経幹細胞」が脳内に発見され、神経細胞も再生することがわかってきました。


■ES細胞の夢と課題

胚の中に存在するこの「万能細胞」的な幹細胞を取り出し、人工的に培養したものを「ES細胞」といいます。 いくらでも増殖し、あらゆるタイプの細胞に分化可能と考えられています。 動物での研究を経て、1998年、世界で初めて人間のES細胞の培養が成功しました。 血液から皮膚、臓器、骨、さらに神経細胞まで、あらゆるものに展開し得る細胞を、人体の外で研究したり操作したりすることができるようになった、 という、夢のような出来事でした。
しかし、ES細胞を培養するには、入れ物である胚を壊して、細胞の塊を取り出さなければならない。 つまり、そのまま子宮の中に戻せば胎児、そして人間になるはずのものを破壊している、ともいえます。 「受精の瞬間から命が宿る」と考えるキリスト教文化圏を中心に、「これは人の命を殺すことに等しい」という強い批判が起きました。 ただ、通常ES細胞には、不妊治療に伴って行われる人工授精でできた受精卵のうち、体内に戻されずに冷凍保存されたもの(余剰胚)が用いられます。 子宮に戻されない余剰胚は最終的に破棄されるため、「命を殺すことにはならない」という立場をとる人たちもいます。 結局、世界的には反対が多いものの、先進国では研究が進められてきています。

【ES細胞(胚性幹細胞)】

「ES細胞(胚性幹細胞)」とは、受精して5〜6日後の胚の中にある細胞から作ったもので、 体のあらゆる細胞に分化する機能があり、「全能性幹細胞」だと考えられています。 研究が活発に行われている国もありますが、人への適応や研究そのものについても、倫理的な問題が議論されています。


■クローン胚、そしてips細胞へ

しかし、ES細胞にはもう一つ大きな問題があります。新しい受精卵から作られるために、「今生きている人間の遺伝子組成とは異なる」ということ。 ES細胞から作りだした組織や臓器を移植すれば、遺伝子が一致しないために、拒絶反応が起きてしまうのです。 そこで検討されたのが、「クローン胚」を利用する方法です。 1998年、クローン羊のドリーが誕生し、人のクローン誕生の可能性が見えてきました。 女性の卵子から遺伝情報が入った「核」を取り除き、そこにある人の細胞の核を入れると、その人の遺伝情報を備えたクローン胚ができる。 この胚を子宮に着床させるのは許されない。しかし、ここからES細胞を培養すれば、その人とまったく同じ遺伝子を持った万能細胞ができることになり、 これは許容できるというものです。 まだ人のクローン胚作りは成功していませんが、たとえそれが可能だとしても、この方法には、卵子提供者の心身への負担、 胚を作り破壊することを認めてよいのか、といった様々な倫理的課題が存在しました。

一方、クローン胚とは全く別のアプローチで、細胞を一番初めの状態に戻す。すなわち「初期化」するための研究が進められました。 それが2006年に山中伸弥教授の研究グループが作成した「iPS細胞」です。 クローンの場合も、「卵子の核を入れ替える」という操作で初期化が起きることがわかっていましたが、iPS細胞の場合、 細胞内の4つの遺伝子を作用させることで初期化させ、元の細胞とまったく同じものを作ることに成功したのです。 また、ES細胞にあった作成過程における倫理的課題も、ここではクリアされています。


■多能性細胞が開く世界

iPS細胞のような多発性細胞によって、どんなことが可能になるのでしょうか。 血液細胞に誘導すれば輸血の問題が解決する。脊髄に作用させれば脊髄を損傷した人が再び歩けるようになる。 また、パーキンソン病やアルツハイマー病などの病気についても、働きが失われた細胞が回復する、いわゆる「再生医療」に、 非常に高い期待が寄せられています。