蕁麻疹(じんましん)

蕁麻疹じんましん)』は、さまざまな原因で起こります。 蕁麻疹のタイプについてよく知り、適切な治療を継続することが大切です。


■異物などの刺激によって、皮膚が赤く盛り上がり、かゆみを伴う

蕁麻疹は、突然、皮膚の一部が赤く腫れて盛り上がる病気です。多くの場合、かゆみを伴います。 また一般に、数時間から1日以内に症状が跡形もなく消えてしまうのが特徴です。 蕁麻疹は、どの年代でも発症します。日本人のおよそ10人に1人は、生涯に一度は蕁麻疹を経験するといわれ、身近な病気の1つです。 私たちの体には、体内に侵入した異物から体を守る免疫の働きが備わっています。 蕁麻疹は、この免疫の働きに異常が生じることで起こります。異物など何らかの刺激によって、皮膚にある肥満細胞からヒスタミンが放出され、 血管が拡張したり、血液中の血漿成分が漏れ出たりして、皮膚が赤く腫れます。 さらに、ヒスタミンが神経を刺激することでかゆみが起こります。


■蕁麻疹の2つのタイプ

蕁麻疹は、原因がわかっているタイプと原因がはっきりわからないタイプに大きく分けられます。

●原因がわかっているタイプ

原因がはっきりわかっているタイプを「刺激誘発型の蕁麻疹」といい、蕁麻疹全体の約3割です。 刺激誘発型の蕁麻疹は、さまざまな刺激が原因となりますが、代表的なものが、 服と皮膚との擦れ、日光、寒さ、温熱、圧迫、水、振動などの「物理的な刺激」によるものです。 ほかにも、「特定の食べ物」などに対するアレルギーで起こる場合があります。 また、汗をかいたり、汗は出なくても汗をかくような刺激が加わることで、蕁麻疹が起こるものを「コリン性蕁麻疹」といいます。 コリン性蕁麻疹は、運動や入浴以外に、緊張したり興奮するなど気分の変動が発汗を促して起こることもあります。 コリン性蕁麻疹は、刺激誘発型の蕁麻疹のうち、特定の食べ物などによるアレルギーが原因で起こるものとほぼ同程度(蕁麻疹全体の5%)の割合で起こります。 10~30歳代の人に多く発症します。この年代は、就職や結婚など人生のさまざまな転機を迎えることが多い時期でもあり、 コリン性蕁麻疹に悩まされている人は少なくありません。


●原因がはっきりわからないタイプ

何が刺激となって蕁麻疹が起こるかはっきりわからないタイプを、「特発性の蕁麻疹」といい、蕁麻疹全体の約7割を占めます。 特発性の蕁麻疹は、細菌やウィルスなどの感染、疲労、食べ物、ストレスなどさまざまな原因が絡み合って起こるのではないかと考えられていますが、 はっきりした原因は特定できません。 原因不明で蕁麻疹が起こることから患者さんは不安になりがちですが、多くの場合、薬による治療で症状を改善することが可能です。


■蕁麻疹の診断

蕁麻疹はその形や大きさ、問診によって診断されます。

▼蕁麻疹の形や大きさ
多くのタイプの蕁麻疹は丸く、蚊に刺されたように腫れて盛り上がります。 一方、服などに皮膚が擦れることで起こるタイプの蕁麻疹は、擦れた部分に沿って皮膚の腫れが線状に現れます。 コリン性蕁麻疹は、小さな円形のものがポツポツと現れるのが特徴です。 蕁麻疹は通常、時間の経過とともに治まるため、医療機関を受診するときに症状が出ているとは限りません。 そのため、携帯電話のカメラなどで蕁麻疹の症状を撮影しておき、受診する際に医師に見せるようにすると診断に役立ちます。

▼問診
蕁麻疹が出る場所や症状が出た時の状況などを詳しく聞くことで、原因がわかる場合があります。 そのため、蕁麻疹が出る前に食べたものや、運動を行ったかどうかなどを医師に伝えます。 また、職業や趣味などが原因を探るきっかけになることもあります。 例えば、パン作りが趣味で、パン生地を触っているときに蕁麻疹が出る場合、原因としえ小麦アレルギーが疑われます。 アレルギーが疑われる場合は、血液検査や皮膚テストを行い、原因を詳しく調べることがあります。

▼特発性の蕁麻疹の補助的な検査
【自己血清皮内テスト】
最近では、原因がはっきりわからないタイプの蕁麻疹の中に、免疫の働きの異常によって、自分の血液の成分を異物とみなすことで起こる 「自己免疫性蕁麻疹」があることがわかってきました。 自己免疫性蕁麻疹が疑われると医師が判断した場合などに、採血した血液中の自己血清を患者さんに皮内注射し、 蕁麻疹が起こるかどうかを調べる自己血清皮内テストが行われることがあります。 自己血清皮内テストで蕁麻疹が起こる場合は、自己免疫性蕁麻疹の可能性が高いと考えられます。 自己血清皮内テストは、蕁麻疹やアレルギーの専門外来がある医療機関などで受けることができます。 希望する場合は、担当医に相談してください。

蕁麻疹はさまざまな原因で起こることなど、蕁麻疹について正確に知り、適切な治療や不安の軽減に繋げることが大切です。


■蕁麻疹の治療

治療法の選択肢が増えてきている、蕁麻疹。早目に治療を開始することで、治りやすくなることが期待できます。


●軽症の場合や初期の蕁麻疹は市販薬で対処が可能

蕁麻疹が起こった場合、症状が比較的軽いものや、初期であれば、市販薬を使って対処することが可能です。 蕁麻疹の市販薬には、飲み薬と塗り薬があります。基本的には飲み薬を使いますが、、一度薬剤師に相談するとよいでしょう。 軽症で、皮膚のかゆみを一時的に和らげたいという場合は、塗り薬での対処も可能です。 ただし、市販の塗り薬には、蕁麻疹を根本的に治す作用はありません。 また、かゆみを速やかに抑えたいときは、氷や保冷剤などを使って、患部を冷やすのが効果的です。 実際、蕁麻疹のある患者さんの中には、蕁麻疹が起こったときに対処できるように、保冷剤を常に携帯している人もいます。 市販薬を1週間程度使っても改善しない場合は、薬が合っていなかったり、蕁麻疹の原因が他にある可能性が考えられるので、医療機関を受診するようにしましょう。

蕁麻疹は、症状がずっと出ているわけではないので、症状が治まってしまうと、医療機関を受診するのをためらいがちです。 しかし、蕁麻疹が頻繁に起こったり、それを長期間放置していると、重症化したり治りにくくなったりするため、早目に治療を開始することが重要です。 特に、「市販薬で対処しても症状が改善しない」「症状が重い」「ほとんど毎日のように症状が現れ、1週間以上続いている」 「症状が現れている時間がが長くなった」などの場合は、早めに皮膚科専門医や、蕁麻疹やアレルギーの専門外来のある医療機関、 あるいはかかりつけの内科や小児科などを受診することが勧められます。 症状が長引く場合や重症の場合、治療は蕁麻疹のタイプに応じて行われます。

◆原因が避けられる場合

蕁麻疹の原因を取り除いて、症状が起こらないようにします。例えば、食べ物によるアレルギーがある場合は、原因となる食べ物を避けるなどの対処をします。

◆原因が避けられない場合

汗などが原因で起こるコリン性蕁麻疹のように、原因を避けるのが難しい場合は、まず抗ヒスタミン薬を使います。

▼抗ヒスタミン薬による治療
抗ヒスタミン薬には、腫れやかゆみを起こす原因となるヒスタミンの働きを抑える作用があります。 原因を避けるのが難しいタイプ以外に、原因がはっきりわからないタイプの蕁麻疹(特発性の蕁麻疹)も、 抗ヒスタミン薬を使うことで、多くの場合、症状が改善することが期待できます。 抗ヒスタミン薬を使っても十分に症状をコントロールできない場合は、抗ヒスタミン薬の量を増やしたり、 別の薬に替えたりするなどの対処が検討されます。 また、症状が治まった場合も、自己判断で薬の服用を中止したりせず、処方された薬は飲み切るようにしてください。 途中で薬の服用を中止してしまうと、再発しやすくなります。 最近の抗ヒスタミン薬は、副作用が比較的少なくなっているので、長期間服用しても問題はないと考えられています。 抗ヒスタミン薬を継続して使用することで、蕁麻疹が起こりにくくなるとされています。 そのため、決められた用法や容量を守って服用を続けることで、再発しにくくなります。

▼オマリズマブによる治療
抗ヒスタミン薬による治療を行っても効果が現れなかった蕁麻疹に対して、効果が期待できるとされているのがオマリズマブという薬です。 この薬は、IgEが肥満細胞に結合するのを防いで肥満細胞が活性化しないようにするため、ヒスタミンが放出されにくくなり、 蕁麻疹が起こるのを抑えるとされています。 オマリズマブは、もともと喘息の治療薬として使われているものが、2017年から蕁麻疹の治療にも使えるようになりました。 副作用が現れる頻度は低く、心配はあまりないと考えられています。 「これまでの蕁麻疹治療で効果が不十分」「12歳以上」「原因不明の蕁麻疹」などの条件に当てはまる場合に、オマリズマブを用いることができます。 オマリズマブは注射薬で、医療機関で1ヵ月に1回、両肩に1本ずつ皮下注射し、健康保険が適用されます。

●適切な治療に繋がる「蕁麻疹日誌」

蕁麻疹の治療で受診するときには、必ずしも症状が出ているわけではありません。 そこで、より適切な治療に繋げるために有効なのが、日々の蕁麻疹の膨らみの数、かゆみの頻度、蕁麻疹の変化、気付いたこと、 医師に質問したいことなどを記録しておく「蕁麻疹日誌」です。 手持ちのノートや手帳などにこれらの事項を記録しておくとよいでしょう。 また、医療機関で入手できる場合もあります。

蕁麻疹を放置していると、治りにくくなったり、さらに悪化したりする恐れがあります。 また、蕁麻疹の症状が長引くと不安になりがちですが、医師の指示に従って、諦めずに根気よく治療を継続することが大切です。