NASH(非アルコール性脂肪肝炎)

従来、脂肪肝から脂肪肝炎、肝硬変、肝臓癌へと進行するのは、ほとんどが飲酒によるものと考えられてきました。
しかし、最近では習慣的な飲酒や、肝炎ウィルスの感染歴がなく、
自己免疫など他の肝障害の要因もないにもかかわらず、お酒を飲む人と同様の経過をたどる
NASH非アルコール性脂肪肝炎)を発症する人が増加しています。
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)は、肥満している人に多く見られるのが特徴です。

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■「NAFLD・NASH」とは?

肝細胞に中性脂肪が過剰に蓄積した状態の肝障害を「脂肪性肝疾患」と総称しています。 そのなかで、飲酒量がエタノール換算で1日20g以下(日本酒1合以下あるいはビール大瓶1本以下の量に相当)の者 (非飲酒者という)でアルコール性肝障害に類似した肝病変を示す例を、 「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」といいます。 当然のことながら「肝炎ウィルスマーカー(B型肝炎やC型肝炎ウィルス)」は陰性で、「自己免疫性肝疾患」は除外されます。 NAFLDには、「単純性脂肪肝」と、肝細胞変性・壊死と炎症や線維化を伴い予後不良の 「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」がありますが、NAFLDは炎症、肝細胞風船様変性、 線維化などの有無によりタイプ1からタイプ4までに細かく分類できます。 タイプ1は単なる脂肪肝、タイプ2は脂肪肝プラス炎症性細胞浸潤、タイプ3はタイプ2プラス肝細胞風船様変性、 タイプ4は典型的なNASHでタイプ3プラス線維化and/orマロリー体(アルコール硝子体)形成のある例です。

▼タイプ1&2(脂肪肝)
タイプ1:単純性脂肪肝
タイプ2:単純性脂肪肝+肝炎

▼タイプ3&4(NASH)
タイプ3:タイプ2+肝細胞風船様変性
タイプ4:タイプ3+肝線維化 and/or マロリー体

NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の確定診断は、肝生検でのみ可能で、 中心静脈周囲肝細胞を中心に3分の1以上の肝細胞に脂肪沈着があれば脂肪肝と診断し、 それに肝細胞の風船様腫大、炎症性細胞浸潤、肝細胞周囲性線維化などが見られるとNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と診断し、 ときにマロリー体も見られます。脂肪肝があるかどうかは腹部超音波検査で診断できますが、 単純性脂肪肝かNASH(非アルコール性脂肪肝炎)かの鑑別は腹部超音波ではできません。 後述するように、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)は進行すると肝細胞への脂肪沈着がなくなるため、 腹部超音波検査で進行したNASH(非アルコール性脂肪肝炎)のスクリーニングは不可能になります。

血液生化学検査において、単純性脂肪肝かNASH(非アルコール性脂肪肝炎)かの鑑別はある程度は可能です。 NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の多くは繊維化を伴い、炎症や肝細胞変性・壊死も存在するため 単純性脂肪肝に比べると炎症を反映する血清トランスアミナーゼ(ALT値)がより高値で、 繊維増生のために血小板数低下や線維化マーカー(ヒアルロン酸やW型コラーゲン)高値例が多く、 インスリン抵抗性の指標であるHOMA−IR(空腹時血糖値×血中インスリン値/405)高値、 鉄蓄積の指標である血清フェリチン高値例が多く見られます。





●NAFLD・NASHの病態

わが国には約1000万人のNAFLD患者がいて、その10%約100万人がNASH(非アルコール性脂肪肝炎) に罹患していると推定されています。 病態として、脂肪肝と内臓脂肪型肥満に伴うインスリン抵抗性(血糖を下げるインスリンは十分分泌されているが、 細胞内でのインスリンの働きが不十分な状態)と酸化ストレス(活性酸素などによる細胞や臓器障碍)に伴う 脂質過酸化によるミトコンドリア傷害が特徴的です。 NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の10〜20%は20〜30年で肝硬変や肝臓癌に進展し 予後不良の経過をとりますが、単純性脂肪肝は予後良好です。 なお、わが国は先進国の中で最も肝臓癌患者の多い国ですが、わが国の肝臓癌の85〜90%はB型(HBV)あるいは C型肝炎ウィルス(HCV)の持続感染に起因します。ただ、最近10年間にHBV、HCVに関係のない いわゆる非B、非C型肝癌が倍増しており、増加分の多くはNASHからの肝臓癌増加によるものと推定されています。



●NAFLD・NASHの発症機序

NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の成立機序については2段階説が有力で、肥満(特に内臓肥満)、 糖尿病、脂質異常症(中性脂肪高値)、高血圧などいわゆる生活習慣病を基礎に脂肪肝が成立(これらが第1段階)し、 それに第2段階として内臓脂肪細胞から産生される炎症性サイトカインや酸化ストレス、鉄過剰蓄積、 脂質過酸化などが加わると、肝臓に炎症や線維化が生じNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が成立するとの考えです。 NAFLD・NASHの発症には遺伝的素因も関与し、また乳癌術後に使用する抗がん剤のタモキシフェン(抗エストロゲン剤) や性ホルモンなどの薬剤のほか、睡眠時無呼吸症候群などでも発症し、必ずしも肥満者のみ発症する疾患ではありません。

▼NASH発症に関連する主な因子
◆生活習慣病:肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧
◆急激な痩せ:神経性食思不振症など
◆飢餓
◆中心静脈栄養
◆消化管手術後:小腸短絡術・小腸切除・膵十二指腸切除
◆薬剤起因性(肝臓への直接毒性):タモキシフェン、エストロゲン、副腎皮質ホルモン剤など

また、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)患者の約3〜4割には肝臓に「鉄」が過剰に蓄積しており、 それが炎症に結びついていることもあります。



●脂肪肝とNASH

「肥満」は一般に、体が必要としているエネルギー以上に食べ過ぎたり飲みすぎたりすることから起こります。 摂取した栄養素はまず肝臓に入りますが、その量が多すぎると、中性脂肪として肝臓に蓄積されます。 健康な人でも、肝臓にはある程度の脂肪が蓄積されていますが、蓄積が過剰になり、3割以上の肝細胞に脂肪がたまると、 「脂肪肝」と診断されます。このように、肥満は脂肪肝を引き起こす大きな要因になります。

脂肪肝そのものは比較的良性の病気ですが、中性脂肪が肝臓の細胞に溜まりすぎると、 細かい血管が圧迫されて肝臓の血液循環が悪くなり、肝機能が低下します。 放置しておくと、他の要因が加わって「脂肪肝炎」を発症します。 「脂肪肝炎」は、これまで「飲酒」によって引き起こされるものと考えられていましたが、 最近では、飲酒を原因としない「非アルコール性脂肪肝」が増加しています。 そして、その「非アルコール性脂肪肝」の約一割が「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」に移行すると考えられます。 脂肪肝では、肝臓は脂肪が蓄積して膨らんではいるものの、肝細胞の形は正常に保たれています。 ところが、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)では、脂肪のたまった肝細胞の一部が壊れて変性・腺維化を起こし、 正常に働けなくなっています。

従来、脂肪肝が肝硬変や肝臓癌に進行することはないと考えられていました。 ところが、1998年に発表された研究から、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)が独立した疾患として認知され、 脂肪肝からNASHを経て、「肝硬変や肝臓癌」に至る可能性が指摘されるようになりました。 「非アルコール性脂肪肝」は40〜50歳代前半、「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」は50歳代後半に多く見られます。 NASH(非アルコール性脂肪肝炎)は自覚症状がほとんどなく、気付かないまま進行します。 単なる脂肪肝として見逃されることもよくあるので、注意が必要です。

【関連項目】
『肝臓』
『脂肪肝』




●NASHとメタボリックシンドロームとの関係

前述のようにNAFLD・NASH患者の多くが肥満、糖尿病(空腹時高血糖)、脂質異常症、高血圧などの いわゆる生活習慣病を有しており、NAFLD・NASHは生活習慣病の肝臓での表現形といわれています。 最近の研究によると、わが国の糖尿病患者の第1位の死因は肝臓癌で、肝臓癌と肝硬変を合わせると 糖尿病患者の約13%は肝臓死であることが明らかになっています。 すなわち、糖尿病患者では脂肪肝からNASH(非アルコール性脂肪肝炎)になり、 最終的に肝硬変や肝臓癌で死亡する方が多いことを示しています。 したがって、糖尿病患者で肝機能異常や血小板減少がある場合には詳しい肝機能検査と腹部超音波検査を受け、 異常があればぜひ肝臓専門医を受診することが望ましいでしょう。 わが国のNASH(非アルコール性脂肪肝炎)症例のほとんどは内臓肥満を伴い、 50%前後は脂質異常症や高血圧を合併し、空腹時高血糖患者も30%を超え、 NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の50%以上はメタボリックシンドローム患者であるといわれています。

【関連項目】
『メタボリックシンドローム』


●NASHの検査と診断

まず、問診が行われ、飲酒の習慣や生活習慣病の有無などを尋ねられます。 NASH(非アルコール性脂肪肝炎)患者の多くが、肥満、その他の生活習慣病を併せ持っているからです。 特に肥満の中でも、腹部の臓器の周囲に脂肪が付く「内臓脂肪型肥満」があると、 脂肪肝炎を発症する可能性が高いとされるため、肥満の有無についても確認します。 内臓脂肪型肥満かどうかは、一般に使われるBMI(体格指数)ではなく、へそ周りの寸法が基準にされます。 男性で85cm以上、女性で90cm以上の場合に、内臓脂肪型肥満が疑われます。 NASH(非アルコール性脂肪肝炎)患者の70%は、この基準を超えています。

他に、高血圧、糖尿病などの生活習慣病との関連も考慮されます。 特に、高血圧では、収縮期血圧が130mmHg程度、拡張期血圧が85mmHg、 糖尿病では、空腹時血糖値が110mg/dl程度(まだ、糖尿病とは診断されない境界型)といったように、 「ちょっと高め」の人でも、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)のリスクは高いと考えられています。

問診の後、「血液検査」「超音波検査」で肝炎の可能性や脂肪肝の有無を調べます。 血液検査で調べるのは「ALT(GPT)」「AST(GOT)」「血小板」などです。 ALTやASTの値が基準値より高いと、脂肪肝や肝炎の可能性があり、 血小板数が少ないと、肝炎などで肝臓の線維化が進んでいる可能性があります。 「血清フェリチン」を調べて、肝臓への鉄の蓄積の状態を見ることもあります。

超音波検査では、脂肪肝かどうかを調べますが、超音波検査だけでは脂肪肝と脂肪肝炎を区別するのは困難です。 脂肪肝が認められ、アルコール性、ウィルス性などの肝障害の要因がなく、 血液検査で肝機能を調べてNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が疑われる場合には、 「肝生検」を行い確定診断を行います。 肝生検は、局所麻酔をかけたうえでお腹に細い針を刺し、肝臓の細胞をとって調べます。 ただし、肝生検は、まず脂肪肝の治療を進めた後、必要に応じて行うこともあります。



●NASHの治療



●NASHの予後

日本では、現在、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の予後に関する長期的なデータはありません。 アメリカで2002年に発表された10年間の追跡データでは、半数は10年後にも「変化なし」でしたが、 一部には線維化や、さらに線維化の進んだ肝硬変が見られます。肝硬変になると、肝臓癌を発症しやすくなります。
また、肝臓癌の原因を調べた05年の日本の調査では、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)やその疑いのある人から 肝臓癌が起こったと考えられる例が認められています。その数は多くありませんが、 95年以前の調査では、肝臓癌の原因としてNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が疑われる例はありませんでした。 今後、肥満や脂肪肝の増加によってNASH(非アルコール性脂肪肝炎)が増加し、 ひいては肝臓癌が増加するのではないかと危惧されています。



 治療
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