癌と言われた時の心得

■誰でも、受け入れるまでには時間がかかる

という診断を受けた時、多くの患者さんはショックを受け、頭が真っ白な状態になってしまいます。 家までどうやって帰ったのか覚えていません、という人もいるほどです。 癌の告知を受けて、不安を感じたり、落ち込んだりするのは自然な反応です。 この状態は、「衝撃」の段階と呼ばれます。患者さんは、癌であることを受け入れようとしますが(受容)、すぐにはできないものです。 死んでしまうかもしれないという不安や恐怖から、癌であることを「否認」します。 受容する方向に心が揺れたり、否認する方向に揺れたりすることを繰り返しながら、徐々に受容する方向に向かっていくのです。 そして、最終的に前向きに治療に取り組もうという「適応」の段階に至ります。 適応に至るまでには、2週間くらいかかることが多いようです。患者さんの性格や周囲の状況によってはもっと長くなることもあり、数か月かかる人もいます。


●心得1:「癌=死」ではない

癌と言われると多くの場合、「この先が不安でしょうがない」「現実を受け入れなれない」という気持ちになります。 それは、「癌=死」という意識があるからです。しかし、それは昔の話で、医療の状況が変わってきた今では、成り立たなくなってきています。 現在は日本人の2人に1人が生涯に1度は癌になる時代ですが、癌の患者さんは必ずしも癌で亡くなっているわけではありません。 癌と診断された患者さんの約半数は、癌以外の原因で亡くなっているという報告もあります。 また、最新のデータでは、癌全体の5年生存率は62%です。早期の癌に限ると、5年生存率が90%を超える癌が多くあります。 癌は慢性疾患の1つである、という考えを持つことも大切です。糖尿病などの慢性疾患は、経過を見ながら治療を続けていきます。 同じように、手術で癌を取った後も定期的に検査を受け、必要に応じて治療を受けながら、長く付き合っていく病気と考える必要があります。 癌と知って落ち込んでいる患者さんには、まず「癌=死」ではないこと、癌は慢性疾患の1つだということを説明すると、 泣いていた患者さんが笑顔で帰っていくこともあるのです。


●心得2:激しい落ち込みが2週間続いたら専門医

「適応」の段階に至ることが難しく、「落ち込んで何もする気がしない」という状態になってしまう人もいます。 激しい落ち込みがほぼ毎日続き、それが2週間になるとしたら、鬱病の可能性があります。 実際、癌の患者さんの約5~10%は、鬱病になっているというデータもあります。 激しい落ち込みとは、一日中泣いている、食欲がなくて食事が摂れない、夜中に起きてしまう、自分は生きていても仕方がないと感じる、 何もやる気がしない、といった状態です。この状態が、ほぼ毎日、2週間以上続いていたら、鬱病の可能性を考えて、 精神科や心療内科などの専門医を受診することが勧められます。 鬱病になると、癌の経過にも悪い影響を及ぼすといわれています。癌の患者さんで、悲観して絶望的になっている人たちと、 治療に前向きな人たちを比べてみると、悲観している人たちのほうが、生存率が低かったという報告があります。 その理由として考えられているのが免疫の働きの低下ですることが知られています。 そのため、癌の経過に影響を及ぼすのではないかと考えられるのです。 癌の患者さんの中から、鬱病になっている人を見つけ出し、適切な心のケアを行うことで、免疫の働きの低下を防ぎ、 癌の経過によい影響を与えることができるはずです。 ただ残念ながら、癌を治療している医師が、必ずしも癌の患者さんの鬱病にも詳しいわけではありません。 どこを受診したらよいか迷う場合は、がん診療連携拠点病院や地域がん診療病院の相談室で尋ねるとよいでしょう。


●心得3:セカンドオピニオンの希望は迷わず伝える

治療に関わる問題としては、「セカンドオピニオンを受けたいが、医師に伝えてよいか迷う」という悩みも多くあります。 癌の治療においては、セカンドオピニオンを求めるのが”当たり前”になっています。 患者さんからセカンドピニオンを受けたいという話があったとき、それを嫌がる医師はまずいません。 遠慮せずに伝えるようにしてください。それでも言い出しにくいという場合は、家族の方から話してもらうのも1つの方法でしょう。


●心得4:早まって退職をしない

癌の治療が始まると、「仕事は続けられるのか」「治療費がかさむ」といった悩みが生じてきます。 しかし、早まって退職してはいけません。癌と診断されたことで、約3割の人が職場を辞めてしまうという調査結果があります。 しかし、退職をしてしまうと、せっかく受けられたはずの労働者に対する支援制度が、受けられなくなってしまうことがあるのです。 例えば健康保険に加入している人であれば、傷病手当として給与の2/3の給付を、最長で18ヵ月受けられるという制度があります。 退職をしてしまうと、こういった制度を利用できなくなります。決断を急がず、まずよく考えることが必要です。 仕事を続ける場合は、直属の上司などに、どういう病気で、どのような治療を受け、どのような副作用があり、どのような経過をたどるのか、 ということを話しておきます。仕事の量や勤務時間についても、要望をしっかり伝えておきましょう。 産業医がいる場合は、相談してみてください。きっと協力してくれるはずです。


●心得5:「ソーシャルサポート」を構築する

癌の患者さんをサポートしていくため、「家族の負担」についても考える必要があります。 現実には、配偶者が1人でサポートをしているケースも多く、家族がその負担の大きさに疲れ切ってしまう場合もあります。 ”第2の患者”ともいわれる家族には、2つの矛盾した立場があります。1つは、とても傷づきやすくケアを必要とする”患者的側面”。 もう1つは、患者さんを励ますために明るくしていなければならないという”治療者的側面”です。 この2つの矛盾する役割が、患者さんの家族の精神的な負担となるのです。 そこで必要なのが、家族や友人や職場の同僚などによる協力体制である「ソーシャルサポート」です。 役割の内容から「情緒的サポート」「手段的サポート」「情報的サポート」という3段階のサポートに分類できます。

▼情緒的サポート
一緒にいるとホッとできる、精神面での支えになるような人。
▼手段的サポート
受診の際の送り迎えや、家事など実際的な助けをしてくれる人。
▼情報的サポート
病気や治療などについて、正しい情報を集めてくれる人。
それぞれの役割に2~3人ずついると、しっかりしたサポート体制を構築できます。 ソーシャルサポートが多い患者さんほど、癌の経過が良好であるようです。


●心得6:癌について家族で遠慮せずに話す

家では、癌の話をしにくいという人もいます。患者さんには”癌になって申し訳ない”という気持ちが強く、家族はどう接していいのかわからず、 双方が無言になってしまうのです。患者さんは家族を頼ってもいいですし、ご家族は何をしたらいいかを患者さんに聞いてください。 家の中で癌の話ができるようになると、家族みんなで癌を乗り越えていこう、と考えられるようになっていくのです。