レニン・アンジオテンシン系抑制薬

血圧を上げる要因には、さまざまなホルモンの働きがあります。 このうち、レニン・アンジオテンシン系を抑えるのが「レニン・アンジオテンシン系抑制薬」です。 臓器を保護する作用があるため、腎臓や心臓に障害がある人、糖尿病がある人などによく使われます。


■レニン・アンジオテンシン系とは?

ホルモンなどが関係して、血圧を調節する仕組み

血圧の調節には、自律神経やレニン・アンジオテンシンなどのホルモンが関係しています。 このホルモンが引き起こす一連の反応を「レニン・アンジオテンシン系」といいます。 まず、肝臓や内臓の周りの脂肪細胞から分泌される「アンジオテンシノーゲン」という物質が、 「レニン」という酵素によって「アンジオテンシンⅠ」になり、これがさらに、 「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」の働きで、「アンジオテンシンⅡ」 という血管収縮作用を持つホルモンになります。 このアンジオテンシンⅡが、血管を強く収縮させて、血圧を上げるように働きます。 これらの一連の反応を抑えることによって、血圧を下げるのが、レニン・アンジオテンシン系抑制薬です。
この薬には2種類あります。 アンジオテンシンⅡの作用を直接遮断する「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」と、 ACEに作用してアンジオテンシンⅡが作られる量を減らす「ACE阻害薬」です。



■アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

●薬の作用

アンジオテンシンⅡの働きを抑えて血圧を下げる

ARBは、日本では1998年から使われ始めた降圧薬ですが、近年、使用される機会が増えています。 この薬は、血圧を上げるアンジオテンシンⅡの働きを阻害する作用を持っています。 アンジオテンシンⅡには、血管を直接収縮させる作用と、交感神経の刺激を介して血管を収縮させる作用があります。 また、腎臓の血管や尿細管に作用して、体内のナトリウムや水分の量を増やし、血液の量を増加させます。 これらの作用は、いずれも血圧を上昇させます。 さらに、「アルドステロン」という、血圧を上げるホルモンの分泌も増やします。 そのほかにも、心臓を肥大させたり、血管壁を厚くしたりします。また、腎臓の糸球体の血圧を高め、 たんぱく尿を出しやすくして、腎機能を低下させます。 ARBは、このアンジオテンシンⅡの刺激を全身の細胞が受け取る側の”窓口”となる「受容体」という部位の 働きを遮断して、血圧を下げます。

◆臓器の保護作用

ARBには、血圧を下げるだけではなく、心肥大や、たんぱく尿の出現を抑える作用があります。 また、心臓や腎臓、脳などでの炎症や活性酸素の産生を抑えて、臓器を保護する効果もあります。


●どんな人に使われるか

腎臓や心臓に障害のある人に向いている

ARBが特に向いているのは、比較的若く、軽症の高血圧がある人です。 また、臓器を保護する作用があるため、「心肥大」「心不全」などを合併している人にも適しています。 腎臓病でたんぱく尿が出ている人には、特に適しています。
この薬の特徴は、血液中の糖を処理する「インスリン」の働きをよくする作用があることです。 この作用により、新たな糖尿病の発症を防ぐことができます。 したがって、メタボリックシンドロームの人や、 血糖値が少し高めの ”糖尿病予備軍”で高血圧がある人には、予防の意味も含めて使われることが多くなっています。

高血圧のあるお年寄りでは、「心房細動」という不整脈が起こりやすくなります。 心房細動が起こると、心臓の左心房に血栓(血の塊)ができやすくなります。それが突然、脳に流れていき、脳の血栓を詰まらせて、 脳梗塞の一つである「心原性塞栓症」を起こす危険性があります。ARBには、心房細動を予防するとのデータがあり、 お年寄りにも向いていると言えます。


●副作用・使用上の注意

動悸やめまいがするときには、担当医に相談を

ARBには、副作用はほとんどありません。せき、血管神経性浮腫などもほとんど見られません。 ただし、人によっては、「めまい、動悸、頭重感」などを感じることもあるようですが、 こうした症状は、血圧が下がったことから起こることも考えられます。 また、中等度以上の腎障害を悪化させることはあります。 気になる体調の変化があった時には、早めに担当医に相談しましょう。

◆使用上の注意が必要な場合

ARBは、幅広く使える薬ですが、注意が必要な場合もあります。 例えば、腎機能がある程度以上低下していると、血液中のカリウム濃度が高くなり、心臓に重大な影響を与える 「高カリウム血症」を招くことがあります。特に、すでに糖尿病のある人では、十分な注意が必要です。 なお、ARBだけでは十分に血圧が下がらない場合は、カルシウム拮抗薬や少量の利尿薬が使われます。

◆使ってはいけない人

妊婦が使用すると、胎児に重度の腎不全を引き起こすおそれがあるので、妊娠中や妊娠の可能性があるときは、使えません。 また、「両側性腎動脈狭窄」のある人も、禁忌です。この病気は、左右の腎臓に血液を送る比較的太い血管が 動脈硬化によって狭くなるものです。これが原因で高血圧が起きている場合にARBを用いると、「急性腎不全」 を招く危険性があります。