高血圧症の薬物療法②
【ポイント】
①高血圧で服薬中でも十分な効果を得られていない人は多い。
②薬の十分な効果を得るには、薬の種類や生活習慣などを見直すことが大切。
③薬物療法を続けることが脳卒中や心筋梗塞などのリスクを下げるのに役立つ。
■高血圧の薬物療法
3つのポイントを押さえることで、十分な効果が得られる
高血圧の治療で薬を服用していても、血圧が十分に下がっていない人が、44%もいたという調査結果があります。 これは医療機関で測っても、家庭で測っても、常に血圧が高いという人の割合です。 このような場合には、次の3点について見直す必要があります。
- ◆薬が高血圧のタイプに合っているか
- 高血圧は2つのタイプに分けられます。血管が収縮して起こる「血管収縮型」と、 血管内を流れる血液量が過剰になって起こる「血液量過剰型」です。 血管収縮型には、交感神経の働きや、血管を収縮させるホルモンが関与しています。 血管が収縮することで血圧が高くなっているのです。ストレスが強い人、神経質な人によく見られます。 血液量過剰型には、腎臓の働きの低下が関係しています。余分な塩分や水分を十分に排出できず、 血液量が過剰になることで血圧が高くなります。 塩分の摂り過ぎ、高齢、高血圧がある家族がいるなどの要因を持つ人に多いのが特徴です。
- 高血圧の治療薬にはいくつかの種類がありますが、高血圧のタイプによって効果的な薬は異なるため、 血液検査などでタイプを調べることが大切です。血液検査で「レニン」や「ノルアドレナリン」 の値が高いと血管収縮型、「ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)」の値が高いと血液量過剰型の可能性が高いと考えられます。
- ◆生活習慣が乱れていないか
- 生活習慣に問題があるために、十分に血圧が下がらないことがあります。 確認すべきポイントは、「塩分を摂りすぎていないか」「ストレスが溜まっていないか」「肥満はないか」 「適度な運動を行っているか」などです。このような問題がある場合は、その改善に取り組みます。
- ◆他の病気がないか
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他の病気によって血圧が高くなっていることもあります。その場合には、原因となる病気に対する治療が必要です。
特に多いのが「原発性アルドステロン症」という病気です。
腎臓の上部にある「副腎」という臓器に腫瘍ができ、アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されます。
アルドステロンは体内に塩分をため込む働きがあるため、血液量過剰型の高血圧を招くことになります。
この病気は、高血圧全体の5~10%ほどを占めています。高血圧の薬を十分に使っても血圧が下がらない場合、 まず疑われる病気です。血液検査でアルドステロンの値を調べることが診断に有用です。 原発性アルドステロン症がある場合は、腫瘍を取り除く手術や、「アルドステロン拮抗薬」などによる治療が行われます。
■高血圧で用いられる薬とは?
血管収縮型にはARBなど、血液量過剰型には利尿薬など
高血圧のタイプによって、効果的な薬は異なります。
- ◆血管収縮型に効果的な薬
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血管収縮型の高血圧に対しては、
「ARB」や「ACE阻害薬」がよく使われています。
どちらもアンジオテンシンというホルモンに関わって血管を拡張させ、血圧を下げます。
ただし、2つの薬には作用の仕方に違いがあります。ARBは、アンジオテンシンが血管が収縮させるのを抑える働きをします。
ACE阻害薬は、アンジオテンシンを増やす酵素である「ACE」の作用を抑えます。
副作用として、どちらも「高カリウム血症」「めまい」などがあり、ACE阻害薬の場合には、 このほかに「空咳」が起こることがあります。 ストレスや性格の影響が強い人には、「抗不安薬」や「交感神経抑制薬」が使われることもあります。 - ◆血液量過剰型に効果的な薬
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よく用いられるのは「利尿薬」です。
利尿薬は腎臓に作用し、体内の余分な塩分や水分を尿として排出させる働きをします。
血液量過剰型の高血圧は、体内の塩分と水分が増え、血液量が過剰になって起こるので、その解消に効果的です。
注意したいのは、「尿酸値が高くなる」などの副作用があることです。 腎臓の悪い人は特に注意する必要があります。ARBやACE阻害薬が使われることもあります。 これらの薬は、腎臓の細い血管を広げる働きをするため、腎臓を保護する効果があるからです。 - ◆2つのタイプに効果的な薬
- 「カルシウム拮抗薬」は、 全身の血管を拡張させる薬です。血管収縮型にも血液量過剰型にもよく効き、どちらのタイプの治療にも広く使われています。
- 血管壁には「平滑筋」という筋肉で構成される層(中膜)があり、平滑筋の細胞に「カルシウムイオン」 が入り込むと、血管は収縮します。カルシウム拮抗薬は、平滑筋の細胞にカルシウムイオンが入り込むのを妨げて、 血管を拡張させます。「動悸」「ほてり」「むくみ」などが起こることがあります。
■薬を服用する際の注意点
最も血圧が上昇する時間帯に合わせて服用する
高血圧の薬は、多くの人が1日1回朝食後に服用しています。 血圧は変動していて、朝から日中にかけて高くなる人が多いので、朝に服用するのが合理的です。 ただ、血圧の変動には個人差があり、血液量過剰型では夜も昼も血圧が下がらないことがよくあります。 このような場合、夜に服用したり、朝と夜の2回に分けて服用したりします。 朝の血圧が非常に高い場合には、朝食後だけではなく、起床直後や前日の寝る前に服用する方法もあります。 自分の血圧の変動を知るためには、家庭で朝や夜の血圧を測ってみることが勧められます。 現在の服用方法で十分に血圧が下がらない場合には、服用のタイミングについても医師と相談しましょう。
●脳卒中などの発症を防ぐために
高血圧の薬は生涯飲み続けるのが基本です。高血圧には症状がないため、薬に効果はなかなか実感できません。 しかし、血圧を適正な状態にコントロールしておくことで、「脳卒中」や「心筋梗塞」などのリスクは確実に低下します。 たとえ効果を実感できなくても、服用し続けることが非常に大切なのです。