狭心症・心筋梗塞

●「バイパス手術」では、狭くなった血管を迂回する新たな血液の通り道を作る。
●「カテーテル治療」では、狭くなった血管内にステントを留置して血管を広げる。
●医師とよく話し合い、”将来を考えた治療の選択”をすることが大切。


■狭心症・心筋梗塞とは?

心臓の血管が狭くなったり、詰まったりする病気

「心臓病」は日本人の死亡原因の第2位で、日本全国で患者数は約81万人。年間死亡者数は約19万人とされています。 これらの多くは、「狭心症」「心筋梗塞」によるものです。 心臓は、心筋と呼ばれる筋肉からできていて、収縮と拡張を繰り返すことで全身に血液を送り出す ポンプの役割を果たしています。心臓が働くためには酸素と栄養が必要で、それらを含む血液を供給するのが心臓を取り巻く 「冠動脈」です。

冠動脈の血管壁にコレステロールなどがたまって、「アテローム(粥腫)」と呼ばれる 動脈硬化の塊が形成されると血管の内腔が狭くなり(狭窄)、心筋に十分な血液を供給することができなくなります。こうした状態が狭心症です。 何らかの原因でアテロームを覆う膜が破れると、それを修復するために血小板が集まり、血栓ができます。 すると、冠動脈が詰まってしまい(閉塞)、その先への血流が途絶えて心筋が壊死し、心臓が収縮しなくなるなどの機能低下を起こします。 これが心筋梗塞です。広い範囲でこの状態が続くと命に関わることがあります。



■狭心症・心筋梗塞の症状

突然、胸の痛みが起こり、肩や歯が痛むこともある

狭心症・心筋梗塞共に、代表的な症状は「胸を締め付けられるような痛み」です。ただし、痛みの現れ方には違いがあります。 狭心症の場合は、活動時に不快な感じがして徐々に胸痛が起こってくることが多いのに対し、心筋梗塞の場合は、 安静時でも冷や汗が出るほどの強い痛みが起こります。狭心症では数分から長くて15分ほど痛みが続いた後、 安静にすると多くは自然に治りますが、心筋梗塞では激しい胸痛が30分以上続くこともあります。 また、どちらの場合も、左側の肩や腕、奥歯など、心臓とは無関係に思える部位に痛みが現れることがります(放散痛)。 心筋梗塞の方が、狭心症よりも痛みの程度が強く、持続時間も長くなりますが、必ずしも狭心症の症状が進行して 心筋梗塞になるわけではありません。狭心症の症状が全くなくても、突然、心筋梗塞を起こすことがあります。

●サインがあったら、必ず受診する

前述のような狭心症の症状が現れた場合は、痛みが治まったとしても、すぐに循環器内科を受診してください。 検査の結果、狭窄が軽い場合は、薬物療法や生活改善の指導が行われますが、狭窄が進行している場合には、 手術が必要になることもあります。心筋梗塞の発作が起きたときは、命に関わるため、ただちに救急車を呼んでください。 冠動脈への血流を再開する治療がすぐに必要になります。狭心症や心筋梗塞の治療法には、主に「バイパス手術」「カテーテル治療」があります。



■バイパス手術

新たな血液の通り道を作り、血流を改善させる

バイパス手術は従来からある治療法で、日本全国で年間に1万5000人ほどの患者さんに行われています。 患者さんの冠動脈以外の血管を使って、狭窄や閉塞のある部位の冠動脈を迂回する新たな血液の通り道(バイパス)を作り、 血流の流れを改善させる手術です。バイパスとして使う血管は「グラフト」と呼び、「内胸動脈」「右胃大網動脈」「大伏在静脈」などが用いられます。これらの血管には適度な太さがあり、動脈硬化が起こりにくいため、 グラフトに適しています。また、グラフトとして使っても、他の血管によってその部位の役割が補われるので、 摘出しても問題ありません。
従来、バイパス手術は「人工心肺装置」を用い、一時的に心臓を止めた状態で行われていました。 しかし、現在では、約7割の手術が人工心肺装置を使わず、心臓の動きを止めないままで行われています。 この方法では、輸血の頻度が減ったり、全身への負担が小さくなるというメリットがあります。 冠動脈の状態や、他の病気の有無によっては、人工心肺装置を用いた手術が適している場合があります。


■カテーテル治療

冠動脈の狭くなった部分を内側から広げる

カテーテル治療は、体への負担が小さいことから急速に広まり、現在、バイパス手術の約10倍の頻度で行われています。 カテーテル治療にはいくつかの方法がありますが、主に「ステント療法」が行われます。 カテーテル(細い管)の先端につけたバルーン(風船)に、ステントという金属製の筒をかぶせて冠動脈の狭窄部に送り込みます。 そして、バルーンを膨らませてステントを広げ、血管壁に留置します。ステントが狭窄部を内側から広げることで、 血流が改善されます。ステントは体にとって異物であるため、それを覆うように血管の細胞が増殖して、 再び狭窄が起こることがあります。 そのため、近年は、ステントに細胞の増殖を防ぐ薬を塗った「薬剤溶出性ステント」が使われるようになり、 再狭窄が起こりにくくなっています。


■治療法の選択

メリットとデメリットを知り、最適な治療法を選ぶ

バイパス手術は、冠動脈に狭窄部が複数ある場合や、「糖尿病」などがある場合に、カテーテル治療は、狭窄部が冠動脈の 重要な部分を含まない場合などに適します。それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあります。 バイパス手術は体への負担が大きいですが、治療後に薬を飲む必要はありません。 一方、カテーテル治療は体への負担が小さいものの、治療後は、再狭窄を防ぐために抗血小板薬を長期間飲む必要があります。 再発率はカテーテル治療の方が比較的高く、再狭窄が起こると再び治療が必要になります。 治療法を選択する際には、再発のリスクなど、将来を考慮したうえで、担当医と相談しながら決めましょう。