早朝高血圧

一般に、日中は血圧が高く、睡眠中は血圧が下がります。 その後、夜間の休息状態から起床にかけて徐々に上昇して起床と同時にぐっと上がります。 これは1日の活動に備える生理的な変動ですが、朝方の血圧が生理的変動以上に上がり、 血圧が過度に高くなるのが『早朝高血圧』です。 早朝高血圧は、危険な高血圧です。 脳卒中や心筋梗塞は朝方に起こることが多く、早朝高血圧がそれらの発症の引き金になっている可能性が高いのです。 その発見には、家庭での朝の血圧測定が必要で発見が遅れれば脳や心臓などの血管が傷つく心配があります。



■早朝高血圧の2つのパターン

高血圧を治療中で、降圧薬で外来血圧がコントロールできている患者の約60%に早朝高血圧がみられると報告されています。 早朝高血圧には2つのパターンがあります。

●モーニングサージ型

睡眠中の血圧は正常ですが、目覚める頃から急上昇し、その後再び正常血圧に戻ります。 動脈硬化によって、血圧をうまく調節できなくなることが原因です。 起床に伴って、精神的・身体的なストレスがかかることも、血圧の調節に影響して、血圧を上げる原因になります。 動脈硬化が進んでいる高齢者にはこのタイプが多く、血圧上昇をきたしやすく、合併症のリスクも大きいといえます。 脳卒中や心筋梗塞は朝の時間帯に起こることが多く、このような変動が一因であると考えられています。

●夜間高血圧型

睡眠中に十分に血圧が下がらなかったり、夜間に血圧が上がったりして、朝も血圧が高いままのタイプです。 睡眠中も血管や心臓に負担がかかり続けるため、夜間高血圧型の人はそうでない人に比べて、 夜間の突然死の危険性が2.5倍以上になると言われています。 その原因の1つとして考えられるのは降圧薬の効果切れです。 最近の降圧薬は1日1回服用する薬剤が多いのですが、中には作用時間が夜間から早朝にかけて 不十分になるものもあるのです。
また、このタイプの早朝高血圧は次のような人に多いといわれています。

▼心不全や腎不全のある人
体内のナトリウムや水分がうまく排泄されず、血液循環量が増加するため、睡眠中も血圧が下がりません。

▼自律神経障害のある人
「自律神経」は、血圧を調節する仕組みの1つで、自律神経が「糖尿病」などによって障害されると、 血圧が上がることがあります。特に、立ち上がったときに収縮期血圧が20mmHg以上低下して、 「ふらつき」などが起こる「起立性低血圧」のある人は、横になると血圧が上昇しやすくなります。

▼睡眠時無呼吸症候群の人
睡眠中に呼吸が何度も止まる病気を「睡眠時無呼吸症候群」といいます。 呼吸が止まることで酸素不足になり、心臓や血管に負担がかかるため、血圧が上がります。 高血圧の人の約10%に、睡眠時無呼吸症候群があると考えられています。

夜間高血圧の場合、「心不全、腎不全などの臓器障害」や夜間や早朝の突然死が起こりやすくなります。 特に夜間に突然死が起こるリスクは、通常の高血圧に比べ約2.5倍高いといわれています。



■早朝高血圧の原因

本来、起きがけには、体内にある「闘争ホルモン」が働いて血管が狭くなり、血圧が上がります。 これは、寝た状態から起き上がるときに、全身に血液を一気に送る必要があるからで、すべての人に備わるメカニズムです。 ただし、人間の体内には血圧が上がりすぎないように調節する機能があり、これを司るのが「血管内皮細胞」です。 血圧が正常な人なら、血圧がある程度まで上がると、血管内皮細胞から血管を広げる物質が分泌されるので、 たとえ起きがけでも、血圧が上がりすぎることはありません。 ところが、早朝高血圧の人は、その物質を出す血管内皮細胞が弱っていて、血管を広げることができないため、 血圧が異常に上昇してしまうのです。これが朝の突然死の元凶ともいえます。


●早朝高血圧になりやすい人がいる

この血管内皮細胞が弱くなっている恐れがあるのは、
・喫煙
・アルコールの飲み過ぎ
・肥満
・高血糖
・高齢
・上下の血圧の差が大きい
・最大血圧が140mmHg以上
などの条件に当てはまる人です。 そのような人は、自分でも気づかないうちに早朝高血圧の状態になっている可能性も高いといえます。 また、血圧検査で「少し高め」と言われている人も、早朝高血圧になりやすい傾向があります。

●ストレスや深酒で朝の血圧は高くなる

モーニングサージ現象は休日の朝には減少し、 逆に月曜日の朝には特に血圧が上がりやすい」という研究結果が報告され、 「マンデー・モーニングサージ」と名付けられて、英文の論文で発表されています。 この「1週間の仕事が始まるストレスで血圧が上がる」現象は、精神的なストレスがかかると交感神経が 過度に緊張しやすい人は高血圧になりやすいということです。 また、人前で話をしたり、大事なことの前に緊張したりしてストレスを感じると高血圧になるリスクが高いことが知られています。 その他、深酒をして度が過ぎると翌朝は必ず血圧が高くなりますし、 冬の朝は寒さで血管が収縮しモーニングサージが起こりやすくなります。

●早朝高血圧は自分で発見することが肝

早朝高血圧は放っておくと恐い症状ですから、毎朝の血圧測定は欠かせません。 朝の血圧測定は、「排尿後で朝食前、降圧薬を服用している人は服薬前」が原則です。 測定回数は3回。 それを1週間続けて、平均値で上の血圧が135以上か、下が85以上なら早朝の血圧が高いといえます。 また、朝の血圧だけではなく就寝前の血圧も計る必要があります。 夜と朝の血圧の差は治療上重要な情報となり、差が15~20なら、早朝高血圧といえます。 特に、薬を服用している人は、起きた後の最大血圧が135mmHg未満におさまっているかも確認してください。
高血圧はもともと自覚症状がほとんどないまま、病状が進んでしまう病気です。 しかも、早朝高血圧は検査や診断でも見逃されやすいのが怖いところ。 まずは、早朝高血圧の疑いがあるかどうかを自己チェックすることが何より大事です。


■早朝高血圧への対処法

早朝高血圧だけで他の時間帯の血圧が正常ならば、食事療法や運動療法で解決できる場合もあります。
降圧薬を使う場合には、1つの方法は、降圧薬の朝1回投与を朝夕2回投与に切り替えること。 もう1つの方法は就寝前に「α遮断薬」という降圧薬を投与する方法。 α遮断薬は交感神経の緊張を解いて血圧を下げるので「モーニングサージ型」の早朝高血圧には特に有効です。