レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、1995年に提唱され、国際的に使われるようになった、比較的新しい病名です。 レビー小体型認知症は、脳の中にレビー小体という変異したたんぱく質の塊が現れ、それによって脳の神経細胞が次第に壊されることで起こる認知症です。 レビー小体の現れる範囲が徐々に広がっていくため、さまざまな症状が出てきます。 この認知症の患者数は、国内で50万人はいると考えられています。 特に60~80歳代で発症することが多い認知症ですが、早ければ30代で発症することもあります。 レビー小体型認知症では、認知機能障害に加え、「パーキンソン症状」や現実感のある「幻視」が現れるのが特徴です。 男性にやや多いともいわれますが、男女差はほとんどありません。 レビー小体型認知症の発症には、遺伝的な要因は少ないと考えられており、危険因子もわかっていません。 認知症の人のうちの10~30%が、症状などからレビー小体型認知症と診断されています。 神経細胞が変性するタイプの認知症では、「アルツハイマー病」に次いで多いといわれています。 原因はわかっていませんが、よい状態を長く保つためには、早期発見・早期治療が大切です。


■「レビー小体型認知症」とは?

3大認知症の一つ。大脳皮質に「レビー小体」ができ、神経細胞が障害されて起こる

「レビー小体型認知症」は、たんぱく質の一種である「レビー小体」が、 脳の大脳皮質などにできて神経細胞を障害することで発症するといわれています。 「レビー小体」とは、もともと脳の神経細胞の中にある「α-シヌクレイン」というたんぱく質が固まったもので、 これができると神経細胞が障害され、さまざまな症状が現れるようになります。 レビー小体は、もともとはパーキンソン病の人の脳に出現することが知られていました。 パーキンソン病は、レビー小体が脳幹部の神経細胞を障害することで起こります。 このレビー小体が大脳皮質などにも出現すると、認知機能が障害され、「レビー小体型認知症」を引き起こします。 「レビー小体型認知症」になると、手足の筋肉がこわばるなどの「パーキンソン症状」が現れることがあり、 幻視などの精神症状の前に、パーキンソン症状だけが出る場合もあります。

「レビー小体型認知症」は、1976年以降の一連の報告で発見された病気ですが、日本国内では専門家以外にはあまり知られておらず、 アルツハイマー病と間違えられているケースも少なくありませんでした。 しかし最近になって、日本にもたくさんの患者がいることが明らかになってきて、注目を集めています。 「レビー小体型認知症」は、50歳代以降の人に多く発症しますが、まれに若い人に発症するケースもあります。 男性に多く、性格は真面目で几帳面、特に趣味がなく、仕事熱心なタイプによく見られると言われています。


■レビー小体型認知症の症状

「幻視」がまず現れることが多く、症状が変動しやすい
認知機能の低下や幻視、パーキンソニズムなどから診断

レビー小体型認知症の症状は、診断の根拠としての強さから「必須症状」「中核症状」「示唆症状」「支持症状」などに分類されます。 まず、必須症状である「進行性の認知機能障害」は欠かせません。 これに加えて「認知機能の動揺」「幻視」「パーキンソニズム」という中核症状のうち、2つに当てはまれば 「ほぼ確かなレビー小体型認知症」、1つだけなら「レビー小体型認知症の可能性あり」と診断されます。 示唆症状には「レム睡眠行動障害」「抗精神病薬に対する感受性の亢進」 「機能画像での基底核のドーパミン取り込みの低下」があります。 レビー小体型認知症の可能性がある人に、これらの示唆症状が1つ以上あれば、ほぼ確かなレビー小体型認知症と診断されます。 これらに比べると診断の根拠としては弱いものの、支持症状として「繰り返す転倒」「失神」「自律神経機能異常」 「幻視以外のタイプの幻覚」「系統的な妄想」「うつ状態」などがあげられます。 また、「MMSE」などで認知機能の程度が調べられ、必要に応じてさらに精度の高い検査が行われます。 「画像検査」では、「MRI」「SPECT」「FDG-PET」のほか「MIBG心筋シンチグラフィー」が行われることもあります。

認知症の症状でいうと、もの忘れなどの記憶障害のイメージがありますが、レビー小体型認知症には、次のような特徴があります。


●認知機能の低下

認知機能障害のうち、中心となるのがもの忘れなどの「記憶障害」です。 脳には、ものを覚え込む「記銘」、覚えたものを保つ「保持」、覚えたものを思い出す「再生」という機能があります。 アルツハイマー病では記銘機能や保持機能が著しく衰え、経験したこと自体を忘れます。 レビー小体型認知症の場合は、進行すると保持機能も衰えますが、早期では、”覚えているけれど、なかなか出てこない”という再生障害が目立ちます。 そのほかに特徴的な障害として、形や大きさを正しく認識できなくなる「構成障害」「視覚認知障害」が現れます。 そのため、文字や図形を正しく認識できなくなり、文字が下手になったり図形を模写できなくなったりします。 空間における自分の位置を捉えられなくなる「視空間障害」が現れると、トイレの場所を忘れたわけではないのに、 どちらの方向にあるかがわからなくなります。 また、椅子に座るとき、自分と椅子の位置関係が捉えられず、座面の端に腰かけてしまったりします。 「注意障害」も現れます。認知機能があまり落ちていなくても、注意力が低下するので仕事や日常生活での失敗が増えます。 そのため、早い段階で日常生活に支障をきたすようになります。 また、「認知機能の動揺」も現れます。 1日の中で、あるいは日によって認知機能が変動して、ぼんやりしているときとしっかりしているときの差が生じます。 さらに、日時や自分が今いる場所がわからなくなる「見当識障害」、正しい判断ができなくなる「判断障害」などがあります。 アルツハイマー同様の症状ですが、レビー小体型認知症の場合、初期から現れるとは限らず、これらの症状はアルツハイマー病ほど強くありません。


●パーキンソニズム

パーキンソン病に特徴的な運動障害が現れます。 「筋肉がこわばる」「動作が遅くなる」「つまづきやすくなる」「小声になる」 「姿勢が前かがみになる」「急ぐと上半身が前に出てしまう」などの症状が現れることがあります。 実はパーキンソン病も、レビー小体が原因となって起こる病気なのです。 また、パーキンソン病でよく見られる、「起立性低血圧(立ちくらみ)、尿失禁、便秘」などの「自律神経症状」が起こる場合もあります。 パーキンソン病での典型的な症状である「安静時の手の震え」は、レビー小体型認知症ではあまり現れません。 認知機能障害が先に現れ、そのあとにパーキンソニズムが現れるのが一般的です。 レビー小体が主に大脳皮質に現れるとレビー小体型認知症となり、脳幹に現れるとパーキンソン病となります。 パーキンソン病では脳幹の黒質の神経細胞が障害され、ドパミンという神経伝達物質が減少することで、 脳から筋肉への運動の指令がうまく伝わらなくなり、体を動かしにくくなります。 レビー小体型認知症がある人の場合、進行に伴ってパーキンソン症状が出る人が7割ほどいます。


●精神症状、行動異常、幻視

意識がはっきりしているときに、実際にはいない人などが見える「幻視」がしばしば現れます。 例えば、「赤い服を着た女の子が座っている」「10人くらいの人がこちらを見ている」など、 現実感があり具体性を帯びているのがレビー小体型認知症の特徴です。 人と話しているうちに、自分にしか見えていないのだと気付くこともあります。 「抑うつ」状態になったり、”物が盗まれた”などと思い込む「被害妄想」、 ”配偶者が浮気している”などと思い込む「嫉妬妄想」などの「妄想」が現れることもあります。 「レム睡眠行動異常」が見られることもあります。 レム睡眠とは夢を見ているときのような浅い睡眠で、夢を見ているときに、大声で叫んだり、暴れたり、 体が勝手に動き家族に暴力を振るったりすることもあります。

◆幻視

この病気の特徴的な症状で、実際にはいない人物や小動物、虫などが見えます。 「部屋の中に人がいる」「ベランダから誰かが室内を覗いている」「布団に知らない人が寝ている」「庭の茂みに人がいる」 「壁に蜘蛛がたくさんいる」など、見えるものはさまざまで、多くは不安や恐怖を伴います。 起こりやすいのは夕方や薄暗い時で、繰り返し何度も現れます。

【幻視はどうして起こるのか】

レビー小体型認知症を発症して視覚認知が低下すると、時に明暗の対比や細かい模様などがはっきりとは見えなくなります。 そのため、脳がはっきり見ようとすることで、本来意識することのない陰影や模様が意識され過ぎてしまい、 それが幻視を生み出してしまうと考えられます。 そして、判断力が低下しているため、その幻視を信じてしまうのです。

◆レム睡眠行動異常症

レム睡眠とは夢を見ているときの睡眠状態です。脳は活動していますが、筋肉は緩んでいるので、通常は脳からの指令が筋肉に届くことはありません。 ところが、レビー小体型認知症があると、筋肉がうまく緩まないため、脳の指令が筋肉に届いてしまうのです。 そのため、夢に合わせて手足を動かしたり、大声で叫んだりします。

◆認知の変動

ぼんやりした状態とはっきりしている状態を繰り返します。 一日の中で変動することもあれば、数日の周期で変動することもあります。


●レビー小体型認知症のその他の症状

「抗精神薬」が過剰に効きやすくなり、少量でもパーキンソニズムや意識障害を起こすこともあります。 この薬は幻視などに対して使われることもありますが、その際は十分注意して使います。 その他、「被害妄想」「うつ状態」、便秘や起立性低血圧症などの「自律神経機能異常」などが現れることもあります。 また、症状の変動があり、「昨日は調子が悪かったが今日はよい」など、日によって変動します。 特に、注意力などの認知機能が変動することが多いようです。 また、5割ほどの人に、家族や友人を、他の人だと認識するようになる「人物誤認」が現れます。 また、うつ症状が現れることがあります。


アルツハイマー型認知症はもの忘れなどの記憶障害が中心ですが、レビー小体型認知症は多くの場合、 初期には幻視を中心に、行動異常などの症状が強く現れます。 記憶障害はありますが、アルツハイマー型認知症ほど強くありません。 また、症状が変動しやすく、良いときと悪いときで症状が大きく変わります。 良い状態のときには、周囲からは症状があまりわからない場合もあり、 それが発見を遅らせる原因になることがあります。


●パーキンソン病の人はレビー小体型認知症になりやすいか?

パーキンソン病もレビー小体型認知症も、脳の神経細胞にレビー小体ができることが特徴的な病気です。 そのため、全員ではありませんが、パーキンソン病患者の中には、レビー小体型認知症になる人もいます。 レビー小体は、溜まる部位によって現れる症状が異なり、脳幹部に溜まるとパーキンソン病が現れ、 大脳皮質などに溜まるとレビー小体型認知症の症状が現れます。 レビー小体型認知症の患者では、大脳皮質だけではなく、脳幹部にもレビー小体が溜まってきて、後からパーキンソン症状が現れてくる場合もあります。


■レビー小体型認知症の脳の変化

大脳皮質などに多数のレビー小体が現れる

レビー小体型認知症では、主に、記憶や感情と関係している「大脳辺縁系」の神経細胞が死滅します。 進行すると、記憶に関わる「海馬」が委縮してきます。 大脳皮質や偏桃体など、大脳の広い範囲に「レビー小体」が出現し、それが神経細胞の死滅に関わっているとされています。 レビー小体とは、「αシヌクレイン」というたんぱくを主な成分とする物質で、神経細胞内に形成されます。 レビー小体は、大脳から脳幹へと次第に広がっていきます。 一方、パーキンソン病でもレビー小体が見られ、その場合は、まず脳幹に出現します。 のちに大脳に広がり、認知機能が障害されることもあります。

これらは、症状の現れ方で区別されています。 すなわち、パーキンソニズムより先に認知機能障害が始まれば、レビー小体型認知症とされます。 逆に、パーキンソニズムから始まり、そのあとに認知機能障害が出現すれば、「認知症を伴うパーキンソン病」と診断されるのです。 ただし、脳の病変は、レビー小体型認知症も、認知症を伴うパーキンソン病も、パーキンソン病も共通しています。 そのため、これらをまとめて「レビー小体症」として考えることもあります。 レビー小体症型認知症の人の脳に「アミロイドβ」の沈着や「神経現繊維変化」が見られることがあり、 アルツハイマー病との関連があるともいわれています。


■他の病気と間違われやすい

レビー小体型認知症は発見されたのが比較的新しいこともあり、病気の解明がまだ十分とは言えず、正確な情報が人待ってはいません。 そのため、特徴的な症状がそろっていない場合は診断が難しく、アルツハイマー型認知症や鬱病と診断されていることもよくあります。 レビー小体型認知症は薬に対する過敏性を伴うため、鬱病の薬や、妄想などの精神症状を抑える薬(抗精神病薬)を服用すると、 症状が悪化してしまうことがあります。そのため、鬱病やアルツハイマー型認知症の薬物療法をしているのに症状の改善が見られない場合には、 レビー小体型認知症などほかの病気の可能性を考える必要があります。


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