前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は記憶障害が比較的軽いため、”認知症なら物忘れがあるはず” と思い込んでいると見逃すことがあります。


■前頭側頭型認知症とは?

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉の前方を中心にして委縮が起こる認知症です。 前頭葉が委縮すると”我が道を行く”ような言動が現れ、側頭葉が委縮すると「言葉の意味が分からなくなる」などの症状が現れます。 発症年齢はアルツハイマー型認知症に比べると若い傾向があります。

<

■前頭側頭型認知症の症状

前頭側頭型認知症は、下記に示したような症状が特徴です。 前頭葉には、社会に適応するために本能を適度に抑制する働きがあります。 この抑制が解放されることで様々な症状が起こります。 ①~③は「常同行動」といって、特定の事柄を同じように繰り返します。 ④⑤のように視界に入るものや、周囲の音や声などに反応しやすくなるのも特徴です。 診察中に突然立ち去ってしまったり、特定の食べ物があると、人の物であっても、食べてしまったりすることがあります。 わざとしているわけではなく、脳が特定の刺激に反応して行動しているため、行動を制止すると怒ってしまうことがあります。 交通違反についても、基本的に状況に自分を併せることができなくなって、信号無視などをしてしまいます。 ⑥⑦の症状は、前頭葉の、他者の気持ちを推測したり、共感する働きが低下することで起こります。 ⑧は、病状が進行してきたときなどに前頭葉の萎縮により起こることがあります。 患者さんがおとなしくなったと安心してそのままにしていると、体も弱ってしまいます。 ⑨の症状は、言葉の辞書の働きをしている側頭葉の働きが低下するために起こります。


●前頭側頭型認知症の症状チェック

下記の症状に複数当てはまる場合は、前頭側頭型認知症の可能性が高くなります。

  • ①同じ行動や同じ言葉を繰り返す
  • ②毎日同じ時刻に同様の行動をとる
  • ③同じ食べ物、特に甘いものに拘る
  • ④周囲の状況にかかわらず、突然立ち止まってしまう
  • ⑤万引きや交通違反などを繰り返す
  • ⑥無遠慮で身勝手とも思える行動をとる
  • ⑦周囲の出来事や自分の格好などに無関心
  • ⑧ぼんやりと何もしない・意欲の低下
  • ⑨言葉の意味が分からない・言葉が出にくい
  • ⑩物忘れは目立たない

●もっとも特徴的なのは、物忘れが軽いこと

アルツハイマー型認知症と違い、前頭側頭型認知症は物忘れの症状がそれほど強くありません。 そのため、認知症であるとわからず、周囲の人からは「人が変わってしまった」などと思われることがよくあります。 早期発見のためには「物忘れが目立たない認知症がある」ということを、知っておく必要があります。


■前頭側頭型認知症のケア10ヶ条

患者さんが日常生活を過ごすために重要なのが、家族や介護をする人がこの病気の特徴を知って「適切な過ごし方」をすることです。 接し方の工夫は、介護をする上での負担を軽減し、より良い介護も可能になってきます 介護の現場での多くの実例から導き出されたのが、下に示した前頭側頭型認知症のケア10ヶ条です。 できる範囲で実践してみるとよいでしょう。

①自然体で接する
介護をする人が緊張したり、怖がったりしてしまうことがあるが、できるだけ自然体で接する。 そうすることで患者さんの感情も安定しやすくなり、介護をする人の負担も減る。

②症状の特徴をケアに生かす
常同行動に対しては「ルーチン化療法」を実践するなど、症状の特徴を生かして対処する。 患者さんが心地よく取り組める作業を見つける。

③歩き回ること(徘徊)を放置しない
疲れていても歩き続けて、転倒したり、疲労骨折を起こしたりすることがあるため、休息が取れるようにする工夫が必要。

④しっかり行動を観察
患者さんに適したケアを見つけるためには、毎日どのように行動し、何に興味を示しているのかなど、 患者さんの行動パターンを知り、手掛かりを得ることが大切。

⑤患者さんの過去の歴史を振り返る
今までしてきた仕事や興味など、患者さんのこれまでの生き方の中に、ケアのヒントが見つかることがある。

⑥コミュニケーションの方法を工夫する
次第に言葉だけで気持ちを伝えることが難しくなることもある。 その場合は、ジェスチャーなど視覚で伝える方法を工夫する。

⑦環境を整える
患者さんは、周囲の人の行動や声、あるいはざわめきなどの刺激を受けると、食事などの様々な活動に集中しにくくなる。 静かで集中できる環境をつくるとよい。

⑧無理強いや強引な制止をしない
記憶力は保たれているので、嫌な記憶が残り、その後の関係性を難しくしてしまうことがある。

⑨得意なことを生かす
以前得意だったことや、仕事で行っていた作業などは、集中して行える場合が多い。

⑩食行動の変化を見逃さない
甘いものや濃い味を好むようになる。同じ料理や食品に拘るようになる。 過食になるなどの変化が現れることがある。生活習慣病などの原因にもなるので注意が必要。

●特にお勧めなのは「ルーチン化療法」

患者さんが何かに拘り同じことを繰り返す常同行動を活用して行う「ルーチン化療法」という療法があります。 一部の介護施設や医療機関で行われていますが、家庭でも行うことができます。 これは、生活していくうえで困る常同行動を、日常生活に支障を来さないものに置き換えていく方法です。 例えば、毎日散歩に行って同じ自動販売機の甘い飲み物を買って飲むために、健康管理に問題が生じている場合、 散歩に行くはずの時間をデイサービスに行く行動に変えるなどといった具合です。 置き換える行動は、これまでの患者さんの行動の中から、たとえば編み物や折り紙、パズルなど、患者さんそれぞれが好きそうな作業・活動を見つけます。


●介護サービスを利用する

病気の進行に対応した適切な介護には、専門的な知識や技術が必要となります。 家族だけで抱え込んでしまわず、より本人に合った介護サービスを活用することが大切です。 医師とケアマネージャーに相談したうえで、適していると思われるデイサービスなどを行う介護施設を紹介してもらいましょう。 患者さん自身が嫌だと続かないので、患者さんが気に入る施設であることが大切です。 まずは1週間などの短期間通ってみて、患者さんが嫌がらなければ、滞在を少しずつ伸ばしていくとよいでしょう。