認知症の薬物療法Q&A②「周辺症状の改善薬とは?」

社会の高齢化が進み、『認知症』は誰にとっても身近な病気になってきました。 根本的に治すことはできなくても、症状をうまくコントロールする方法を持つことは、患者さん本人ばかりでなく、介護する家族にも役立ちます。


■周辺症状の改善に役立つ薬とは?

認知症では、中核症状とされる認知機能障害に加え、多様な周辺症状が現れます。 家族の介護負担は周辺症状、特に問題行動によるところが大きいです。 治療で最も重要なのはこの周辺症状のコントロールで、その柱となるのが「抗精神薬」と漢方薬、そして、非薬物薬だと言われています。


●抗精神薬はどんな時に必要になる?

認知症に伴う問題行動に対しては、従来、抗精神薬有効とされ、「リスペリドン(商品名はリスパダールなど)」 「オランザピン(商品名はジプレキサなど)」などの薬が用いられています(健康保険では適応外)。 「妄想や幻覚、興奮などの強い症状によく効く薬で、速効性があります。ただしこれらの薬を使うと転倒や誤嚥性肺炎を 起こしやすくなります。最近では脳卒中が増えるという報告などもあり、FDA(米国食品医薬局)は原則的に使用を控えるよう 勧告しています。もともと統合失調症の薬で、認知症では原則として緊急避難的に少量を用います。 ただ、患者さんの症状が激しく、暴力的になっているようなときには、抗精神薬を使わないと鎮めるのが難しい場合があります。 患者さんや介護する家族が危険な時などには、こうした薬を使い慣れた医師に相談してみてください。


■問題行動に対して漢方薬に期待できる効果とは?

抗精神薬が使いにくい状況の中で、近年注目されているのが、認知症の周辺症状に対する漢方薬の効果です。 認知症の専門医の中でも検証が勧められ、有効性を評価する医師が増えています。 抗精神薬が効くといっても、副作用も多く、長期間使うのは難しく、服用するとぼんやりするため、どうしても患者さんの 日常生活機能が低下します。日常生活機能を落とさずに患者さんを穏やかにし、問題行動を減らす薬として、 漢方薬の有効性が注目されてきたのです。抑肝散という薬を使った研究の中には、日常生活活動度(ADL)が向上したという 報告もあります。

▼漢方薬を使うときに注意することは?
漢方薬にも副作用があります。抑肝散では低カリウム血症が起こることがあるので、継続して使うときには 血液検査でカリウムの血中濃度をチェックする必要があります。 ただ、最近の研究では、2~3ヶ月服用を続けると、薬の”持ち越し効果”で1ヶ月休薬すれば、低カリウム血症も回復します。 数ヶ月ごとに休薬期間を設けるという飲み方で低カリウム血症を避けられれば、長期間の服用しやすくなるものと期待されます。

■認知症に伴う不眠や不安、意欲低下、鬱傾向に対しては?

▼認知症の人に見られる不眠や不安、意欲低下などに対し、睡眠薬や抗不安薬、抗鬱薬などを使うこともあるのか?
不眠が強いときに「睡眠導入薬」と言われるような短時間作用型の睡眠薬を使ったり、明らかな鬱状態があるときにSSRIなどの 抗鬱薬を使ったりすることはあります。しかし、睡眠薬や抗不安薬、抗鬱薬といった薬は、 いずれも副作用で転倒しやすくなるので、認知症に伴う軽い症状にはなるべく使用を控えたいところです。

▼他にはどのような薬があるのか?
軽い不安や不眠、鬱傾向などには「半夏厚朴湯」などの漢方薬が処方されることがあります。 アルツハイマー型認知症の人の意欲低下なら、ドネペジルでの改善も期待できます。 また、脳血管性認知症で前頭葉の血流循環に障害があるような人の不安や鬱、意欲の低下などには、 脳循環代謝改善薬が有効なこともあります。こういう薬なら転倒が増える心配もあまりありません。 脳循環代謝薬は脳卒中の後遺症に使われる薬で、脳の血管を拡張させたり、脳に取り込まれた酸素や栄養分が 有効に使われるようにする作用があるとされています。

■薬を使っても、問題行動がコントロールできない時は?

処方された薬を使っていても、問題行動などが改善せず、介護する家族が対応に苦慮しているケースもあります。 認知症の周辺症状は、中核症状のように進行性ではなく、”反応性”の症状だと言われています。 周囲の対応によって、良くも悪くもなり得るという意味です。例えば、同じことを何度も言ってくるときに強く怒ると、 患者さんは落ち込んだり苛立ったりしますが、別のことに関心を向けさせると穏やかになれます。 介護する家族の理解や患者さんへの対応が大切で、話をよく聞いてあげたり、上手に対応したうえで薬を使うと、 治療効果はかなり高まります。ただし、頭ではわかっていても、それを続けるのはかなりのストレスになります。 患者さんの言うことをすべて受け入れようとすれば、介護は長続きしません。 時々は腹を立てながらでも、患者さんが穏やかに暮らせるような接し方を心がけてみてください。 介護する側の負担も考えて、続けられる方法を見つけることが大切です。 介護疲れで燃え尽きないためには、ショートステイやデイケアなども積極的に活用し、介護する家族が患者さんと 離れる時間を確保することも欠かせません。離れるからこそ、優しくもなれるのです。 2013年4月から、デイケアでも、周辺症状に効果がある認知リハビリテーションが利用できるようになりました 対応に困っているなら、一人で抱え込まず、最寄りの物忘れがいらや地域包括支援センターなどで相談してみるとよいでしょう。