生活スタイルで認知症を予防

認知症』とは、病名ではなく、何らかの原因で脳が障害され、記憶力や判断力などの「認知機能」 が低下して、「一人暮らしが困難な程度にまで、日常生活に支障が出る状態」をさします。 認知機能は、一般に加齢に伴って衰えるので、長生きをすれば、認知症を起こす確率は上がります。 認知症を起こさないための予防法というものは存在しません。しかし、近年、さまざまな研究により、 生活スタイルに気を付ける事で認知症の発生を遅らせ、健康的に過ごせる期間を伸ばすことができることがわかってきました。


認知症を起こす2大疾患

■原因となる2つの病気を起こさないようにする

認知症の主な病気には、「アルツハイマー病」「脳血管障害」があります。 アルツハイマー病が全体の約7割、脳血管障害が約2割を占め、この2つで認知症の原因の約9割を占めています。

アルツハイマー病
脳の中に溜まった「アミロイドβたんぱく」「タウたんぱく」という2種類のタンパク質が、 認知機能に重要な役割を果たす脳の「神経細胞」を破壊していく病気です。

脳血管障害
動脈硬化が進み、脳の血管が詰まったり破れたりして、脳の機能である認知機能が障害されます。

認知症を予防するためには、主にこの2つの病気を起こさないようにすることが大切です。 ここでは、アルツハイマー病を中心に予防法を解説します。 2つの病気の予防法は重複するところが多いので、両者を予防することにつながります。


●2つのたんぱく質

アミロイドβたんぱくタウたんぱくは、健康な脳でも毎日少しずつ作られています。 これらは加齢とともに溜まり始めますが、早い人では40歳代から、人によっては50歳代、70歳代、90歳代というように、 溜まり方の個人差がとても大きいという特徴があります。

▼アミロイドβたんぱく
アミロイドβたんぱくは、本来、脳の中で作られては分解され、消えてしまうたんぱく質です。 しかし、高齢になると分解機能が衰えるため、次第に脳の神経細胞の周りに溜まり始めます。 一般に、アミロイドβたんぱくは、認知症を発症する20~30年前から溜まり始め、 その範囲がだんだん広がっていくと考えれています。

▼タウたんぱく
本来、脳の神経細胞の中で栄養などを運ぶ管(微小管)を安定させるために必要なたんぱく質です。 しかし、アミロイドβたんぱくが異常に多く溜まると、それに反応して、神経細胞の内部に溜まっていきます。 それにより微小管が障害され、栄養などを運べなくなり、神経細胞が破壊されます。 一般に、アミロイドβたんぱくが溜まり始めて10年くらいすると、タウたんぱくが溜まり始めると考えれています。 アミロイドβたんぱくが少しずつ溜まってい間は、認知症の症状は現れません。 タウたんぱくが溜まり出すと、認知機能が徐々に障害され、物忘れを皮切りにして、 日常生活に支障を生じるようになり、認知症が発症します。

■アルツハイマー病の促進要因

生活習慣病や寝不足、ストレスなどに注意

最近の研究で、アミロイドβたんぱくとタウたんぱくが溜まりやすくなる原因が少しずつ明らかになってきました。 主に、アミロイドβたんぱくが溜まるのにかかわる要因が「生活習慣病」と「寝不足」、アミロイドβたんぱくとタウたんぱくの 双方が溜まるのにかかわる要因が「ストレス」、脳の神経細胞自体を弱らせる要因が「歯周病」や「視力・聴力の低下」です。

▼生活習慣病
「糖尿病」や「脂質異常症」などがあり、これrのコントロールが不十分だと、アミロイドβたんぱくが分解されにくく、 脳に溜まりやすくなることがわかっています。これらの持病がある人は、、きちんと治療を受けて血糖値や 血中脂質の値をコントロールしてください。

▼寝不足
アミロイドβたんぱくは、睡眠中に分解が促されます。そのため、寝不足になるとアミロイドβたんぱく の分解が滞って排出されにくくなることがさまざまな研究においてわかっています。

▼ストレス
ストレスがかかると、副腎皮質からコルチゾールというストレスに反応するホルモンが分泌されます。 これにより、アミロイドβたんぱくもタウたんぱくも溜まりやすくなります。

▼歯周病
歯周病は、高齢者が歯を失う最大の原因です。記憶に関する脳の神経細胞は、よく噛むことで刺激を受けています。 そのため、歯が抜けてよく噛めなくなると、認知症を発症しやすくなります。 歯が20本以上ある人に比べると、歯を全部失った人は5倍も認知症を発症しやすくなるという報告があります。 ただし、歯を失っても義歯を入れればリスクが下がります。 しっかりケアをし、歯周病を予防するほか、歯を失った場合は義歯を活用するなど、 いくつになってもしっかり噛めるようにしましょう。

▼視力・聴力の低下
目がハッキリ見えていたり、耳がきちんと聞こえていれば、視界や他者との会話などを通してさまざまな情報が脳に入り、 脳の神経細胞の活性化に役立ちます。そのため、視力と聴力を保つことが大切です。 例えば、白内障などで視力が衰えたら「手術を受ける」、聴力が衰えたら「補聴器を着ける」などの対策を取ることが、 認知症の予防に有効です。

■アルツハイマー病の抑制要因

運動や食物などで発症を遅らせることが可能

アミロイドβたんぱくやタウたんぱくを溜まりにくくする要因も、いくつかわかってきています。 アミロイドβたんぱくを溜まりにくくする要因は「運動」、アミロイドβたんぱくとタウたんぱくの双方を 溜まりにくくする要因は「食物」、脳の神経細胞自体を強化する要因は「社会的接触・コミュニケーション」です。

▼運動
科学的な研究で最も効果が髙いとされている予防法が運動です。特にウォーキングなどの有酸素運動は、 アミロイドβたんぱくを分解する効果があるとされています。特別な運動をしなくても、例えば、 「掃除をする」「雑巾がけをする」など、日常生活の中でこまめに体を動かすことが大切です。

▼食物
「野菜」「果物」の摂取が、認知症予防に有効であることがわかっています。 特に、野菜や果物に含まれている「ポリフェノール」には、アミロイドβたんぱくをやタウたんぱくを溜まりにくくする 作用があるものがいくつかあります。例えば、赤ワインに含まれるミリセチン、ナスの色素に含まれるデルフィニジンなどです。 また、青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種、DHA(ドコサヘキサエン酸)は、アミロイドβたんぱくをを溜まりにくくする作用と、 神経細胞を保護する作用があることがわかっています。

▼社会的接触・コミュニケーション
楽しく会話することが、脳によい刺激になり、脳の神経細胞が活性化されます。 家族をはじめ大勢の人と話したり、一緒に活動したりして、コミュニケーションを取るようにしましょう。

認知症は、アミロイドβたんぱくが溜まり始めてから発症するまでに、何十年間もかかります。 そのため、その間の生活スタイルで発症を遅らせることが十分可能といえます。 ここで紹介した心がけは、以前から健康に良いと言われていることばかりです。 これらを日頃から実践すれば、認知症を予防できるだけでなく、寿命が延びることも期待できます。