認知症の悪化を防ぐ

認知症』を発症しても、悪化を防ぎ、残った能力を使って穏やかに過ごすことが可能です。 認知症の治療には、薬、リハビリ、ケアの3つがあります。中でも、周囲の人の関わり方が症状に大きく影響します。


■認知症治療の3つの柱

薬、リハビリ、ケアにより進行を遅らせる

「認知症」の治療は、進行を遅らせる「薬物療法」、認知症の人ができることを活かして 脳を活性化するリハビリテーション、周囲の人の関わり(ケア)の3つに分けられます。 この3つを適切に行うことで、認知症の進行を遅らせたり、穏やかに生活する期間をより長く維持することが可能です。


●薬物療法

作用や剤形が異なる4種類の薬が使われる

現在、認知症の治療には4種類の薬が使われていて、2つのグループに大別できます。

◆神経伝達を活発にする薬

ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンは、いずれも脳の神経細胞の神経伝達物質を活発にする作用があり、 いわば”元気系”の薬といえます。内服薬と貼付薬があります。これらの薬は、患者さんの状態や介護の状況などに応じて選択することができます。

▼ドネペジル
1日1回、内服します。

▼ガランタミン
1日2回、朝夕内服します。

▼リバスチグミン
貼付薬です。薬の服用を嫌がる患者さんに使用したり、使い忘れがないか家族が容易に確認できる、などの利点があります。 皮膚のかゆみやかぶれが起こることがあるため、保湿などの対策を取ることが必要です。

3種類の薬に共通する副作用として、「吐き気や下痢」「怒りっぽくなる」「興奮しやすくなる」などが挙げられます。


◇神経細胞を保護する薬

メマンチンは、神経細胞の興奮を抑え、興奮による壊死から神経細胞を保護する内服薬で、いわば”穏やか系”の薬です。 怒りっぽくなったり、攻撃的になったりした患者さんに有効なことが多いのですが、量が多すぎると、 活動性が落ちてしまうこともあります。患者さんの状況に応じ、適切な量を使うことが大切です。

◆家族の協力

薬がどのように効いているのかは、患者さんを見ている家族や介護者がよくわかります 「台所仕事をするなど意欲が出てきた」「食欲がなくなった」「怒りっぽくなった」など、 気付いたことを、簡単なメモでよいので記録し、医師に伝えてください。 薬の選択や用量の調節などに役立てることができます。


■リハビリテーション

得手不得手を見極め、できることを生かす

一部の医療機関や介護施設では、専門職による本格的なリハビリテーションが行われていますが、 日常生活の中で家族にも行える方法があります。ポイントは「認知症の人が得意なことやできることを生かす」です。 脳は、筋肉とよく似ていて、使えば使うほど鍛えられ、逆に使わないと退化していきます。 認知症を発症しても、脳には多くの機能が残されています。それらの機能をしっかり使うことで、衰えにくくし、 失われた機能を補うことにも役立ちます。また、自信を甦らせ、元気を取り戻すことにも繋がります。

認知症では、だんだんと記憶の時間軸が失われていき、過去から未来へと続くべき記憶が繋がらなくなる傾向があります。 しかし、患者さんはその時その時を一生懸命生きています。今ある能力を発揮して、その時その時を楽しく過ごせるように 支えてあげることが大切です。

●3つの記憶

記憶には、大きく分けて「エピソード記憶」「意味記憶」「手続き記憶」の3種類があります。

▼エピソード記憶
朝ごはんを食べたかどうかなど、特に覚えておこうと心掛けていなくても、体験として覚えている日々の出来事の記憶などです。 その中で特に忘れやすいのが最近の出来事です。

▼意味記憶
健康な人の脳の中には、辞書のように物の名前や言葉の意味が蓄積されていますが、認知症を起こすと、 その記憶が失われていきます。例えば、「犬も歩けば」と言われて「棒に当たる」と答えることができなくなったりします。

▼手続き記憶
例えば、「編み物や縫物ができる」「自転車に乗ることができる」などのように、作業として体が覚えている記憶です。 認知症を発症すると、最初にエピソードが衰え、徐々に意味記憶が失われます。 比較的最後まで残るのが手続き記憶です。どの程度の記憶障害があるのかを見極めることで、 その人が得意なことと苦手なことがわかってきます。

●リハビリのポイント

家庭でできるリハビリテーションのポイントは「役割を決める」「褒める」「笑顔になってもらう」 「声掛けで安心感を」「失敗を防ぐ支援」などです。

▼役割を決める
役割があると、「人の役に立っている」「人に必要とされている」と実感できて、暮らしに張り合いが出てきます。

▼褒める
他人に褒められるのは、人にとって最大の”ご褒美”です。認知症の人は自信を失っていることが多いので、 自信を取り戻してもらうためにも、褒めることは大切です。

▼笑顔になってもらう
笑顔になると脳が刺激されて、やる気が高まるだけでなく、記憶機能にもよい影響が表れます。

▼声掛けで安心感を
認知症を起こすと、料理などの手順がわからなくなってきます。次に行う手順を示すことで、安心して作業を続けられ、失敗を防ぐことができます。

▼失敗を防ぐ支援
失敗は、心に大きなダメージを与えます。認知症の人は、それをきっかけに、自信を無くしたりイライラしたりすることもあります。 失敗しそうなときには、さりげなく支援をすることが大切です。

■ケア

心にゆとりを持って相手に接することが大切

リハビリテーションやケアは、患者さんの言葉や行為が病気のせいだと理解し、心にゆとりを持って、 患者さんに寄り添う気持ちを持って行うことが大切です。 例えば、認知症の人では、もの盗られ妄想から、財布を盗られたと騒ぐことがよくあります。 例えば「お金がたくさん入っていたのよ」と言われたら、「わぁ、お金持ちね。今度美味しいものを一緒に食べに行きましょうよ」 など。上手く話題を反らして対応できるぐらいの心のゆとりを持つと良いでしょう。
認知症の人を「褒める」「認める」ことで、本人が笑顔になって穏やかな気持ちになれば、症状も安定してきます。 それを見て家族も楽しくなり、患者さんに優しく接することができるという好循環を生み出します。 一方、周囲の人が「怒る」「否定する」と、患者さんも不機嫌になって症状が悪化します。 そして悪化するからまた怒る、という悪循環に陥ります。患者さんにはゆとりをもって接することを心掛け、 好循環を生み出せるようにしていきましょう。