認知症の悪化を食い止める対策

認知症でも、症状の悪化を防ぐことはできます。 そのためには、適切な治療を受けること、周囲の人は”本人視点のケア”を行うことが重要なポイントになります。


■周囲の人に知ってほしい

病気や症状だけではなく、患者さんの気持ちに目を向ける

健常な人は、「認知症になるとほとんど何もわからなくなる」と考えがちですが、実際には、感情や心身の力は残っています。 大切なのは、病気や症状だけでなく、「本人の気持ち」に目を向けて、患者さんの尊厳を守るように接することです。 これが本人視点のケアです。医療や介護の現場ではこうしたケアに変わりつつあります。
認知症には、中核症状周辺症状があります。周辺症状の多くは、中核症状に対する心理的な反応として起こります。 また、環境、人間関係、本人の性格などが影響するので、人によって現れ方が異なります。 現れた場合は、本人の気持ちになって考え、その理由に思い当ったら、環境や接し方を調整してください。 本人が安心できるようになれば、周辺症状は改善していきます。


■周囲の人が接する際の6つのポイント

少しずつ実践して、お互いによい関係を目指す

本人視点のケアの観点から、認知症の人と接する際のポイントを紹介します。

▼安心感を与える
認知症がある人は、自分が何をしていたかを忘れてしまうことが多く、不安を抱えながら過ごしています。 その気持ちを理解して、「さっきはこうでしたよ」と優しく伝えましょう。

▼頭ごなしに否定しない
解りやすい例が「幻覚」です。家族や周りの人には何も見えないので、頭ごなしに否定しがちです。 本人には見えているのに、頭ごなしに否定すると、関係がこじれてしまいます。 本人が訴えることに耳を傾けて、「何が見えるの?」と聞くなど、包み込むように接します。

▼失敗を責めない
誰でも失敗を繰り返すと自信を失います。失敗した場合は、責めるのではなく、温かくフォローするようにします。 逆に、うまくできたことがあれば、褒めて自信をつけてもらいましょう。

▼指導をしない
家族は「しっかりしてほしい」という思いから、指導や注意を繰り返しがちです。 しかし認知症の場合、指導や注意をされてもうまくできず、つらい感情の記憶だけが残るので控えましょう。

▼プライドを傷つけない
認知機能は低下していても、プライドは失われていません。子供に接するような対応の仕方は、プライドを傷つけます。敬意をもって接しましょう。

▼正面から話しかける
認知症になると、注意の及ぶ範囲が非常に狭くなるので、後ろから話しかけられると気付かないことがよくあります。 本人がわかるように、正面から話しかけます。また、話すときには、微笑んだり体をさするなどして、安心感を与えることも大切です。 言葉は1語ずつ区切って話すと本人が理解しやすくなります。

これらの接し方は、すべてできなければいけないというわけではありません。 周囲の人が自分のできる範囲で少しずつ行い、少しでも本人とよい関係を築けるようになれればよいのです。


■認知症患者への具体的な接し方の例

否定せず、本人の楽しみや気持ちに寄り添う

認知症のある人との接し方のポイントを理解したうえで、実際の場面に応じた具体的な対応を考えましょう。

●食事をしたことを忘れてしまう場合

食べたという記憶が抜け落ちているので、説明してもなかなか納得してもらえません。 「今作っているから待っていてね」「テレビを見て待っていて」などと声をかけ、食事から意識を反らします。 それでも食事をしたがる場合は、ふだんの1回の食事の量を少し減らし、要求があった時にその分を食べてもらうのも1つの方法です。 認知症では、食事が唯一の楽しみとなる人が多くいます。その気持ちを理解することも大切です。 糖尿病などで食事制限が必要な場合もあるので、状況に応じて対応しましょう。


●物取られ妄想

一生懸命ケアをしている相手から、「あなたが盗んだんでしょう」といわれると非常にショックです。 こうした物取られ妄想は、認知症で現れやすい症状の1つで、最も身近にいて熱心にケアをしてくれる人を疑うのが特徴です。 それを理解して、反論したり、否定するのではなく、「それは困りましたね」と言って一緒に探すようにするとよいでしょう。 この時、家族や周りの人が先に見つけてしまうと、「犯人だからわかるんだ」と言われることがあります。 先に発見したとしても、本人が見つけられるよう誘導し、見つけたら一緒に喜びましょう。


■認知症の治療法

認知症の重症度に応じて薬を使い、進行を遅らせる

アルツハイマー型認知症の薬には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類があります。 認知症が軽度の場合は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンのいずれかを使い、中等度以上になるとメマンチンを追加します。 薬は、アルツハイマー型認知症を根本的に治すことはできませんが、認知症の症状を改善し、進行を遅らせることができます。 飲み忘れを防ぐため、周囲の人は、薬を渡すだけでなく、口に入れてあげたり、飲み込むのを確認したりしましょう。
副作用として、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンは、食欲不振、吐き気、興奮など、メマンチンは、めまい、頭痛、眠気などが起こる場合があります。 薬の効果を、副作用と誤解することもあります。例えば、薬を飲み始めて興奮するようになった場合、副作用かと思われがちですが、 それは認知機能が改善したため、反応できるようになったという場合もあります。

【関連項目】:『認知症の薬物治療』


●薬を使わない治療法

自分の人生を振り返って語る回想法、音楽を聴いたり、歌ったり、演奏したりする音楽療法、植物を育てる園芸療法などがあります。 これらの治療は、脳の神経細胞に刺激を与えて認知機能の低下を防ぐと考えられています。