認知症のその他の原因

認知症』につながる疾患は数多くあり、なかには、早期に治療を受けることで認知症が治るものもあります。 「特発性正常水頭症」などは、治療すれば認知症が治る可能性があります。 物忘れなど、認知機能の低下を感じたときは受診することが大切です。


■認知症を来すもの

感染症などの疾患や、うつ病など紛らわしい疾患

認知症の症状が現れていても、「アルツハイマー病」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭葉変性症」 などの代表的な病気が原因ではない場合もあります。 原因となる病気の種類によっては治療が可能な場合があり、治療することで認知症が治ることもあるのです。 最近話題になることも多い「特発性正常圧水頭症」は、そのよい例です。 しかし、原因となる病気によって脳が障害され、神経細胞が死滅してしまえば、 いくら原因となる病気を見つけても認知症は治りません。 「物忘れ」など認知症の症状がある場合には、できるだけ早く受診し、早期の診断と早期の治療を受けることが 大切なのです。


■認知症につながるその他の疾患

●ビタミンB12欠乏症などの「代謝性疾患」

「ビタミンB12」が欠乏することで、「記憶障害」「妄想」「無気力」「集中力低下」「錯乱」 などの認知症の症状が現れます。ビタミンB12が欠乏しやすいのは、「胃がん」「胃潰瘍」 での切除手術を受けた人です。そのような人が認知症になった場合は、血液検査でビタミンB12が欠乏していないかどうかを 調べることが大切です。また、小腸の病気で栄養の吸収に障害がある場合にも起こることがあります。 これらの場合、ビタミンB12を補給する治療が行われます。


●甲状腺機能低下などの「内分泌疾患」

「甲状腺ホルモン」は、新陳代謝を高める働きをしています。 甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの分泌量が低下し、体の活動力が低下してしまいます。 それに伴って精神的な活動にも影響が及び、認知機能障害が現れてくるのです。 認知機能障害としては、集中力低下、刺激がないと眠ってしまう「傾眠」、記憶障害などの症状が現れます。 うつ病が起こってくることもあります。しかし、血液検査で甲状腺ホルモンの量を調べれば、 甲状腺機能低下症の有無はわかります。治療では、薬によって甲状腺ホルモンが補給されます。


●髄液が過剰にたまって脳を圧迫する「特発性正常圧水頭症」

脳の中心部にある「脳室」という空間は、「脳脊髄液」で満たされています。 特発性正常圧水頭症とは、脳髄液の流れや吸収が阻害されることで、脳脊髄液が脳室にたまり、 脳室が拡大して脳が圧迫される病気です。

代表的な症状は、「歩行障害」「認知機能障害」「尿失禁」です。 認知機能障害では、思考が緩慢になったり、新しいことが覚えられなったりします。 腰椎から脳脊髄液を少し抜いて、症状が改善することが確認されれば、脳脊髄液を排出する経路を作る 「髄液シャント手術」が行われます。 早期診断によって手術を受けることができる可能性があります。


●脳の損傷が広範囲に及ぶ「頭部外傷」

転倒や交通事故などで頭部を強打したことにより、脳が損傷を受けることがあります。 脳の損傷には、「脳挫傷」「びまん性軸索損傷」「くも膜下出血」などのタイプがあり、 これらが単独で発症したり、併発したりします。 頭部外傷では、直後から「意識障害」が起こったり、後遺症として認知機能障害や意欲低下、 「衝動性」などの精神症状が生じたりします。 認知機能障害が起きた場合には、社会復帰のための「リハビリテーション」が必要になります。


●発生部位に応じて認知機能が低下する「脳腫瘍」

脳腫瘍が発生すると、「麻痺」「知覚障害」「視野障害」「認知機能障害」など、 腫瘍のできている部位に対応する局所的な神経症状が現れます。 また、腫瘍が大きくなったりして「頭蓋内圧(頭蓋骨の内部の圧力)」が亢進すると、 「頭痛」「吐き気」などが起こります(頭蓋内圧亢進症)。 つまり、脳腫瘍によって引き起こされる認知症は、これらの症状を伴っているのが特徴です。
脳腫瘍は比較的頻度の低いがんですが、これらの症状がある場合、脳腫瘍を疑うことも大切です。 認知症の原因を調べると、0.8%程の頻度で脳腫瘍が原因となっているというデータがあります。 治療法には、手術、放射線療法、薬物療法があります。


●硬膜と脳の間に血液がたまる「慢性硬膜下血腫」

頭を強く打ったような場合、脳を取り巻いている「硬膜」の下に出血が起こり、 血腫が形成されることがあります。これが慢性硬膜下血腫です。 血腫が大きくなると、脳を圧迫して認知症を引き起こすことがあります。 通常、頭を強く打ってから症状が出るまでの期間は、3週間から3か月程度といわれています。 認知機能が低下するほか、片側の手足の麻痺などの局所的な神経症状や、 頭蓋内圧亢進症状などを伴うことがあります。 早期発見できれば、頭蓋内に小さな孔をあけ、カテーテルで血腫を吸引し、 生理食塩水で洗浄することで治療できます。


●クロイツフェルト-ヤコブ病や梅毒などの「感染症」

感染症が認知症の原因になっている場合もあります。次の3つの感染症が、認知症を引き起こす主なものです。

▼梅毒
梅毒の影響は全身に及びますが、脳に病変が及ぶタイプは「神経梅毒」と呼ばれます。 記憶障害、判断力の低下、現在の場所や時間が分からなくなる「見当識障害」、 計算力の低下などに、麻痺を伴います。多くの場合、「躁鬱」「妄想」なども現れます。 治療にはペニシリン系の「抗生物質」が使われます。

▼ヘルペス脳炎
主に「単純ヘルペスウィルスⅠ型」が脳に感染することで、急性の脳炎が起こります。 これがヘルペス脳炎で、脳炎によって後遺症が生じた場合や、慢性の脳炎の場合は認知症の症状が現れます。 具体的には記憶障害、見当識障害、性格や行動の異常、「失語」などが起こります。 「抗ウィルス薬」での治療が行われます。

▼クロイツフェルト-ヤコブ病
感染性のある「異常プリオンたんぱく」が、脳や脊髄に蓄積することで、進行性の神経障害が起こるもので、 「人獣共通感染症」の1つです。症状としては、初めに歩行障害や視覚障害、記憶障害などが起こるとされており、 症状は急速に進行します。根本的な治療法はなく、生活指導や介護が中心となります。