コレステロール

脂質の一種で生きるうえで必要不可欠

コレステロールとは、「中性脂肪」と同じく脂質の一種で、主に肝臓で作られています。 食品でコレステロールを豊富に含むのは、細胞をつくる素材である卵黄や動物の脂肪です。 コレステロールは、”悪者”と思われがちですが、本来は私たちの体にとって必要不可欠な、非常に大切なものです。 コレステロールは、肝臓から不要なものを運搬して体外へ排出する胆汁の原料です。 また、すべての細胞膜の材料として使われ、細胞の働きを保ったり、女性ホルモン・男性ホルモンを作る材料になったり、 副腎皮質ホルモンの材料になったりしていますが、皮膚、脳の中にもかなり含まれています。 コレステロールは、本来、身体にとって必要不可欠な存在ですが、LDLコレステロールが血液中に過剰になると、 動脈硬化が促進されてしまい、 体に悪影響を及ぼすため、私たちの体には、体内のコレステロールの量を一定にする仕組みが備わっています。


■コレステロールの役割

中性脂肪が体を動かすエネルギーになるのに対して、コレステロールは次のような役割を果たしています。 コレステロールは、体を構成する組織や、生命の維持に必要な物質の材料として利用されます。 私たちの体は約60兆個の細胞からできていますが、1個1個の細胞の表面は「細胞膜」という膜に包まれ、細胞の外側とは仕切られています。 コレステロールはこの細胞膜を作る材料の1つです。 細胞の中には、ミトコンドリアなどの「細胞小器官」と呼ばれる極めて小さな構造があります。 その細胞小器官を構成する膜の材料としてもコレステロールが使われます。 コレステロールは、「副腎皮質ホルモン」「性ホルモン」などの各種ホルモン、 丈夫な骨を作るのに必要な 「ビタミンD」などの材料としても使われます。 また、食べ物に含まれている脂肪を分解して吸収を助ける「胆汁酸」の材料にもなります。 コレステロールは、このように私たちが生きていく上で重要な役割をになっている必要不可欠な物質ですが、 多くなり過ぎると「動脈硬化」を促進して、さまざまな病気を引き起こす原因になります。


●体内のコレステロールを調節する仕組み

コレステロールは、肝臓などで合成されたり、小腸で吸収されたりして集められ、全身の細胞に運ばれます。 しかし、体内に必要以上のコレステロールがあると、返って体に悪影響が及びます。 そのため、私たちの体には、コレステロールの量を一定に調節する仕組みが備わっています。 例えば、食事からコレステロールを多く摂り過ぎた場合は、体内での合成にブレーキがかかります。 体内のコレステロールが過剰になった場合には、胆汁酸の合成が高まり、胆汁の成分として便と共に排泄されます。 逆に体内でコレステロールが不足してくると、コレステロールの合成が活発になります。 これらの仕組みが相互に作用することによって、体内のコレステロールの量が一定になるように保たれているのです。


■コレステロールの吸収、合成

●渾然一体となって小腸で吸収される

コレステロールは小腸で吸収されます。口から入った食べ物が胃を通過して十二指腸まで進むと、胆汁が分泌され、食べ物に混じります。 食べ物に含まれていた脂肪(中性脂肪とコレステロール)は、胆汁に含まれる胆汁酸の作用で変化し、小腸で吸収されやすい状態になります。 胆汁の主成分である胆汁酸の原料はコレステロールです。 小腸では、食事由来のコレステロールと胆汁酸由来のコレステロールが混じり合って渾然一体となり、コレステロールの吸収が進んでいきます。 以下それぞれの吸収過程を見てみましょう。

【吸収1】食事に含まれるコレステロールを吸収する
小腸の表面には、コレステロールを小腸の細胞内に輸送する「NPC1L1」という特殊なタンパク質があります。 食事に含まれるコレステロールは、胆汁の働きで吸収されやすい状態になったうえで、NPC1L1に結合することで、体内にコレステロールが吸収されます。

【吸収2】胆汁に含まれるコレステロールを再吸収する
肝臓では、コレステロールをもとに胆汁酸が作られています。 この胆汁酸を主成分とする胆汁は、食事を摂ると十二指腸に排出され、脂肪の分解や吸収を促します。 胆汁に含まれていたコレステロールの一部は、食事由来のコレステロールと同様にNPC1L1を介して再吸収されます。 このようにして小腸で吸収されたコレステロールは、中性脂肪などと共に、 「カイロミクロン」という「リポタンパク」の1種になります。 カイロミクロンは代謝されて「カイロミクロンレムナント」になり、肝臓に取り込まれます。

【合成】コレステロールは、肝臓で最も多く作られる
体内にあるほとんどの細胞がコレステロールを合成していますが、最も多く合成しているのは肝臓の細胞です。 まず、細胞の中にある「アセチル-CoA」という物質から「HMG-CoA」が作られ、 続いてHMG-CoAが、「HMG-CoA還元酵素」によって還元されて「メバロン酸」となります。 その後も代謝は続いていき、最終的にコレステロールができます。

■コレステロールの運搬

●コレステロールは”脂”なので、そのままでは血液に溶け込めない

コレステロールは血液によって運ばれますが、脂なのでそのままの状態では水が主成分である血液に溶け込めません。 そのため、血液中では、「リポタンパク」と呼ばれる小さな球状の粒子に含まれています。 リポタンパクは、コレステロール、中性脂肪、リン脂質などの脂質と、「アポタンパク」というタンパク質で構成されています。 アポタンパクには、いくつかの種類があり、それぞれ異なる働きをします。 リポタンパクは、粒子を構成する成分の割合やアポタンパクの種類の違いなどによって、 カイロミクロン、「VLDL」「LDL」「HDL」に大きく分けられます。 これらのリポタンパクは、大きさや比重が異なり、体内ではそれぞれ違った働きをしています。

【運搬1】LDLが全身にコレステロールを運ぶ
吸収・合成されたコレステロールは、中性脂肪などとともに肝臓でVLDLとなり、血液中に送り出されます。 血液中を運ばれていく間に、VLDLの中の中性脂肪が分解され、コレステロールを多く含んでいるLDLに変わっていきます。 そして、血液中のLDL、全身の細胞の表面にある「LDL受容体」を介して、細胞内に取り込まれます。 LDLは全身にコレステロールを運ぶ働きをしている一方で、動脈硬化を促進する原因になるものとして”悪玉”と呼ばれています。 ただし、血管壁に蓄積して動脈硬化を促進するのは、酸化などの変性を受けたLDLです。

【運搬2】HDLが余分なコレステロールを回収する
HDLは、主に肝臓で作られて血液中に送り出されます。HDLは、全身を巡って余分なコレステロールを回収します。 また、血管壁に溜まっているコレステロールを血管壁から引き抜くこともできます。 HDLによって回収されたコレステロールは、大きく分けて2つの経路で肝臓に戻されます。 1つは、HDLが直接肝臓に戻る経路です。もう1つは、「CETP(コレステロールエステル転送タンパク)」によって、 HDLからVLDLやLDLなどに転送され、最終的に肝臓のLDL受容体を介して肝臓に戻る経路です。 このようにHDLは、全身の余分なコレステロールを回収することから、”善玉”とも呼ばれています。 ”悪玉コレステロール””善玉コレステロール”といっても、コレステロールそのものに違いがあるわけではありません。 これらの差は、コレステロールを含んでいるリポタンパクの働きに違いがあるのです。

■HDLコレステロールとLDLコレステロール

コレステロールには「善玉」と「悪玉」がある

コレステロールや中性脂肪などの血中脂質は、特殊なたんぱく質などと結びついた「リポたんぱく」という形で存在しています。 リポたんぱくには、比重の低いコレステロール(LDL)比重の高いコレステロール(HDL)があり、 LDLは肝臓で作られたコレステロールを全身に運び、HDLは余分なコレステロールを回収して肝臓へ還流し、動脈硬化を防ぐ役割を果たします。 しかし、血液中にLDLが増えすぎると(3倍以上とされています)、細胞に入れなくなったLDLは、血液中に溢れ出し、血液がドロドロに変化、 HDLが血液中の余分なコレステロールを回収できなくなり、余剰コレステロールが血管壁の傷ついたところなどに付着して血管を細くしたり、 血管壁の中に入り込みやすくなったりします。 また、血管の壁にコレステロールが沈着した部分が何らかの原因で破れると、そこに血栓(血の塊)ができて血流を妨げることがあります。 この状態が長時間続くと、血管壁が劣化してもろくなり、いわゆる 「動脈硬化」を起こして、さらに動脈硬化が進行すると 「心筋梗塞」 「脳梗塞」へと繋がります。 そのため一般的に、HDLが【善玉コレステロール】、LDLは【悪玉コレステロール】と呼ばれています。 (しかし、最近の研究では、LDLそのものが悪いのではなく、酸化されたLDLが本当の悪玉であると言われています。) この2つのコレステロールのバランスがとれていれば問題はありません。


■コレステロールと中性脂肪の違い

コレステロールと中性脂肪は共に脂質ですが、私たちの体の中での働きは大きく異なります。
中性脂肪は、「ブドウ糖」と並ぶ、人間の活動のエネルギー源です。 皮下や腹腔内の「脂肪細胞」に蓄積されるのは中性脂肪で、人体に数kg~数十kgの単位で存在しています。 脂肪細胞の中性脂肪は、必要に応じて「遊離脂肪酸」に分解されて血液中に放出され、エネルギー源として利用されます。 コレステロールは、エネルギー源としてではなく、生命維持に必要な様々なものの材料として利用されます。 人体内の総量は数十~百数十g程度だといわれており、中性脂肪に比べると格段に少ない量です。
コレステロールは、人間の体内では「遊離コレステロール」「コレステロールエステル」という2つの形態をとります。 さまざまなものの材料として利用されるのは、遊離コレステロールです。 コレステロールエステルは、この遊離コレステロールに「脂肪酸」が結合したもので、 リポタンパクの中心部にあるコレステロールは、コレステロールエステルの形をとっています。


■コレステロールと病気

健康診断などで「コレステロール値が高め」と指摘を受けたことがある人も多いのではないでしょうか。 実際に、健康診断や人間ドックでの検査を受けた40~74歳の人では、 「肥満」 「高血圧」 「糖尿病」 「脂質異常症(コレステロール値や中性脂肪値が異常)」のうち、 脂質異常症の指摘を受けた人が最も多く見られました。 脂質の代謝に異常があっても、よほどでない限り、症状は現れません。 そのため、医療機関を受診せずに放っておく人も少なくないようです。 では、脂質、特にコレステロール値が異常な状態が続くと、私たちの体はいったいどうなるのでしょうか。

まず、体内では血管壁が厚く、硬くなる「動脈硬化」が進みます。 放置すると動脈硬化は徐々に進行し、 「狭心症」「心筋梗塞」 「脳梗塞」などを招きます。 すなわち、脂質の値、特にコレステロール値が異常な状態が続くと、命に関わる病気に繋がる危険性があるのです。 心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化が招く病気は、現在日本における死亡原因の約1/3を占めており、今後も増加していくと予想されています。 環境や体の変化などから、脂質に異常が現れやすい「中年男性」「更年期からの女性」「65歳からの高齢者」は、特に要注意です。

2005年に日本の「メタボリックシンドローム」の診断基準が発表され、 2008年4月からは 「特定健診・特定保健指導制度」が開始されました。 これらはいずれも動脈硬化が招く病気を予防し、より多くの人が元気で長生きできることを目的としています。 動脈硬化の最大の原因の1つであるコレステロールの値を管理することは、その意味でも重要なのです。