脂質異常症の管理目標

脂質異常症の診断基準」により脂質異常症と判断された場合は、 将来の動脈硬化性疾患を予防するために生活習慣の改善を行う必要があり、これが全ての治療の基本となります。 脂質異常は生活習慣の悪化に基づいて出現していることが多く、動脈硬化症の危険度が高くない脂質異常患者は、 生活習慣の改善を主体に治療することで薬物療法の必要性まで生じない場合が多いと考えられます。


■管理目標

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では、脂質異常と診断された患者に対する管理基準として、 動脈硬化の危険度に従ったカテゴリー別管理目標が設定されました(表1)。 まず対象者を、冠動脈病変を未だ発症していない場合(一次予防)と、冠動脈疾患の既往がある場合(二次予防) に分別しています。二次予防においては、LDL-Cの管理目標値も100mg/dl未満と低く設定され、 生活習慣の改善と同時に早急な薬物療法が必要と考えられています。


脂質異常症の管理目標値


一方、将来の冠動脈疾患の発症を予防することが管理目標となる一次予防では、LDL-C以外の冠危険因子を いくつ有するかにより患者カテゴリーを低リスク、中リスク、高リスクの三群に分類しています (カテゴリーⅠ、Ⅱ、Ⅲ)。現在までに確定されたLDL-C値以外の主要冠危険因子は、 加齢、高血圧、糖尿病(耐糖能異常を含む)、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDL-C血症です。 糖尿病が存在する場合は、他の危険因子より重みを付けカテゴリーⅢ(高リスク群)に分類されています。 また、脳梗塞や閉塞性動脈硬化症患者は、すでに冠動脈以外の血管に動脈硬化性病変を発症しているため カテゴリーⅢ(高リスク群)に分類されています。

一次予防では、原則として一定期間生活習慣の改善に努力し、その効果を評価した後に薬物療法の適応を検討すべきです。 薬物療法の導入に際しては、個々の患者の動脈硬化のリスクを十分に検討してから適応を決定する必要があり、 危険因子の少ない低リスク群では薬物療法の必要性はかなり低くなります。 管理目標値として、主要冠危険因子がない場合(低リスク群)はLDL-C値160mg/dl未満、 主要冠危険因子が1または2個の場合(中リスク群)ではLDL-C値140mg/dl未満、3個以上の場合(高リスク群) では120mg/dl未満とされました。この値はあくまでも到達努力目標値であり、ここに到達しなくてはならない という数字ではありません。

また、高TG血症と低HDL-C血症については、一次予防でも二次予防でも、それぞれ150mg/dl未満、 40mg/dl以上を目標にして管理することが勧められます。 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」は、65歳未満の成人に適応されることを前提として作成されましたが、 65歳以上75歳未満までの前期高齢者に対しても同様の指針が適応できると考えられます。 また、女性における冠動脈疾患の発症率は低いことより、女性の高LDL-C血症は男性以上に他の危険因子 の存在を考慮して管理することが必要となります。

●危険度の高い人はより厳格にコントロール

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2018年版」では、 脂質異常症の治療では、冠動脈疾患のリスクに応じて、4段階に分けられた目標値を目指して管理していきます。 すでに冠動脈疾患を発症している人の再発予防(二次予防)では、最も厳格な管理が必要です。 従来、LDLコレステロール100mg/dL未満が目標値とされてきましたが、国内外のデータから100mg/dLより少し低い程度では再発を防げないケースがあり、 さらに低く下げることが有効とわかってきました。 そこで新しいガイドラインでは、家族性高コレステロール血症や、急性冠症候群(不安定狭心症、急性心筋梗塞など)、 他の高リスク病態を伴う糖尿病のある場合には、70mg/dL未満という目標値が示されています。 最近では新しい薬も増えて、実際にその達成を目指せるようになってきました。