脂質異常症の食事療法『ジャパンダイエット』

【ポイント】
●脂質異常症の治療では、生活習慣の改善が欠かせない。
●食生活は日本の伝統的な食事を摂る「ジャパンダイエット」で改善する。
●肉より魚を中心にし、大豆・大豆製品を積極的に食べる。


■脂質異常症の治療

食事・運動・禁煙で生活習慣の改善を行う

血液中の「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」「中性脂肪」の3つのうち、いずれかが1つでも診断基準値に 当てはまっている状態を『脂質異常症』といいます。 LDLコレステロールと中性脂肪が多いと、血管の動脈硬化が促進されてしまいます。 また、血管壁にたまったコレステロールを回収する働きを持つHDLコレステロールが少なくても、動脈硬化が進みます。 動脈硬化が進行すると、「狭心症」や「心筋梗塞」などの「冠動脈疾患」や「脳梗塞」など、 命に関わる病気を発症しやすくなります。そのため、脂質異常症とわかったら、治療によって動脈硬化の進行を抑え、 それに伴う病気の発症を防ぐことが重要です。

脂質異常症の治療の基本は、生活習慣の改善です。血液中の脂質の値を改善できるような「食事」をこころがけ、 適度な運動も行っていきます。また、喫煙している人はすぐに「禁煙」します。 生活習慣を半年ほど続けても、血液中の脂質の値が改善しない場合は、薬を用いて値をコントロールします。 冠動脈疾患のリスクがかなり高い場合は、最初から薬物療法を始めることもあります。 ただし、薬物療法を開始しても、治療の基本はあくまで生活習慣の改善であることに変わりはありません。 しっかりと行っていきましょう。


●食事の改善

魚や食物繊維などを多く摂るジャパンダイエットがよい

食事を改善するためには、『ジャパンダイエット』が勧められます。 日本ではかつて、心筋梗塞による死亡率が欧米に比べて非常に低く、世界中から注目されました。 そして研究の結果、日本の伝統的な食事にこそ、その秘訣があると結論付けられました。 ただ、現在の日本では、食生活の欧米化が進み、心筋梗塞の発症が増加しているのが現状です。 かつて男女ともに日本で1位を占めた沖縄県の平均寿命が、平成22年のデータでは女性3位、男性30位へと下降したのも、 食生活の欧米化が沖縄県で特に進んだためだと言われています。 従って、冠動脈疾患などを予防するには、日本の伝統的な食事を見習う必要があります。 その具体的なポイントは次のようなことです。

▼肉より魚を中心にする
肉と魚はどちらも良質のタンパク質ですが、含まれている「あぶら」の構成に違いがあります。 肉の動物性脂肪には「飽和脂肪酸」という成分が多く含まれており、たくさん摂ると血液中のLDLコレステロール値が 増えてしまいます。バラ肉など脂身の多い肉や、鶏肉の皮、ベーコンやサラミなどは特に飽和脂肪酸が多いので、 摂り過ぎに注意してください。
一方、魚の脂肪には「DHA」や「EPA」などの「不飽和脂肪酸」が多く含まれています。 たくさん食べてもLDLコレステロールが増える心配は少なく、中性脂肪を減らしたり、血管壁の障害を抑制する働きを持つなど、 動脈硬化の進行を予防するためのさまざまな効果を持っています。特に、ブリやサンマ、イワシなどの青背の魚がお勧めです。

▼調理には植物油を使う
乳製品であるバターは、肉と同様に飽和脂肪酸の多い動物性脂肪です。 一方、植物油は魚と同様に不飽和脂肪酸が多く、LDLコレステロールは増えません。 そこで、調理で使用する油は、なるべくバターではなく、植物油を使いましょう。 また、植物油は種類によって成分がさまざまなので、1種類に偏らず、さまざまなものを使用するとよいでしょう。
注意が必要なのは、マーガリンやショートニングです。これらは植物油ですが、「トランス脂肪酸」という成分を 多く含んでいます。これは、LDLコレステロール値を増やしてHDLコレステロール値を減らし、 さらには心筋梗塞のリスクも高めます。市販のケーキやパイなどの洋菓子や、揚げ油に使用されることがあるので、 こうした食品にも注意してください。

▼食物繊維を多く摂る
日本食では、海藻類、キノコ類、野菜など、食物繊維を多く含む食品がよく使われます。 食べ物に含まれるコレステロールは主に小腸から吸収されますが、食物繊維はその吸収を抑えるため、 食物繊維を多く摂ることで血液中のコレステロールが減ります。 さらに、心筋梗塞などによる死亡率が低下するという報告もあります。

▼大豆・大豆製品を積極的に食べる
大豆には食物繊維が多く含まれているほか、食物繊維と同じようにコレステロールの吸収を抑える「植物ステロール」 という成分も多く含まれます。さらに、女性の場合、大豆を多く摂ることで心筋梗塞などを防ぐ効果があることがわかっています。 大豆の成分である「イソフラボン」が女性ホルモンと同様の働きをし、血管を保護するためだと考えられています。 更年期以降の女性は積極的に摂るとよいでしょう。

●注意が必要なこと

塩分の摂り過ぎに気を付け、人によっては卵を控える

ジャパンダイエットで注意したいのが、塩分量が多くなりやすいことです。特に高血圧がある人は、減塩を心がけます。 人によってコレステロールの吸収率が異なるので、コレステロールの多い食品である卵は、吸収率が高ければ摂り過ぎないように しますが、吸収率が少なければ無理に制限する必要はないでしょう。 また、牛乳も動物性脂肪が多く含まれますが、カルシウムなどの栄養素が豊富なので、適度に摂ることをお勧めします。

その他、食べ過ぎにも注意して、中性脂肪が増えないようにしましょう。 また、アルコール飲料や甘い菓子類も中性脂肪値を増やしてしまうので、摂り過ぎないようにします。 ただし、好きなものを我慢しすぎるとストレスがたまり、それによってHDLコレステロールが減るといわれています。 たまに飲酒するときは、おつまみの選択に注意したり、菓子類は回数や量を減らすなど心掛けるとよいでしょう。