薬物乱用頭痛(薬の使い過ぎによる頭痛)の治療

薬物乱用頭痛の治療法は、原因となっている頭痛薬の治療を、1~2週間中止すること(断薬)です。 使用を中止すると、一時的に頭痛が強くなり、不安を感じることもあります。 つらい場合は、ストレスを緩和させる抗鬱薬、抗不安薬、原因となった頭痛薬とは違う種類の頭痛薬などを使って、つらさを紛らわせながら断薬を継続します。 自分自身の努力で断薬に成功する人もいますが、難しいことが多いので、医療機関で治療を受けることが勧められます。 現在、頭痛専門医は、次のような流れで治療を行っています。 ①病気を理解し、原因となる薬をやめる、②片頭痛の人は予防薬を使用する、③鎮痛薬の使用回数を減らす。 専門的な治療により、約70%の人は症状が改善します。ただ、そのうち30%が、薬の中止後、半年から1年くらいで再発しているのが現状です。


■薬物乱用頭痛の治療

頭痛の原因となっている薬を中止して、別の薬を使う

治療では、医師から薬の使い過ぎによる頭痛であることが説明されます。そのことを患者さんが理解したら、その人に合った治療目標を立てていきます。 治療に対する意識付けができたら、原因となっている薬の使用を中止し、頭痛が起きた時のために別の種類の頭痛薬が処方されます。 片頭痛の治療薬であるトリプタンの使い過ぎの場合、トリプタンには5種類あるので、別の種類のものが処方されます。 市販の頭痛薬の使い過ぎの場合、市販薬では複数の成分が配合されていることがあるため、その薬とは別の単一成分の鎮痛薬が処方されます。 また、もともとの頭痛に合わせて予防的な薬も処方されます。片頭痛にはカルシウム拮抗薬や抗てんかん薬などの予防薬が、 中枢神経が関わる緊張型頭痛には抗うつ薬などが用いられます。
薬の使い過ぎによる頭痛は、これらの治療で徐々に症状が軽減していきます。 経過が順調であれば、予防薬や抗うつ薬の量を減らしていきます。 片頭痛のある人では、頭痛薬の使用が1ヵ月に10日未満になれば、元の片頭痛に戻ったと考えられます。 続いて、片頭痛の治療を行うことで、頭痛をコントロールしていきます。 緊張型頭痛のある人では、姿勢の改善や運動不足の解消といった日常生活の見直し、頭痛体操など、薬以外で対処できるようになれば、 元の緊張型頭痛に戻ったと考えられます。
薬の使い過ぎによる頭痛は、このような専門的な治療によって、約70%は症状が改善できるとされています。 ただし、このうち約30%は、1年以内で再発するという研究があります。 再発を防ぐには、少なくとも1年程度は通院し、医師の指示を守って処方された薬を使うことが大切です。


●頭痛ダイアリー

治療の際にお勧めなのは、毎日、「頭痛ダイアリー」に記録することです。 記入する内容は、「頭痛の起こった日時」「痛みの程度」「薬を使用した日時や薬の量」「頭痛の経過」などです。 頭痛の記録を見ると、自分の頭痛の特徴や頭痛のきっかけを知ることができ、頭痛薬の過剰な使用を防ぐのに役立ちます。 また、医師にとっては、患者さんの頭痛のタイプを知るための重要な情報となり、正しい診断や治療の判断材料になります。


●治療を希望するとき

薬物乱用頭痛が疑われるときや、慢性頭痛の治療を希望するときは、専門医のいる頭痛外来や頭痛センター、 あるいは脳神経外科や神経内科などを受診することが勧められます。 最近、頭痛と月経痛の関係が注目されており、月経痛がある女性の場合は、頭痛に詳しい産婦人科で 治療を受けられることもあります。また、漢方薬に詳しい医師に相談するのもよいでしょう。


●片頭痛、緊張型頭痛の治療

薬物乱用頭痛の治療とともに、もともとあった頭痛に対する治療に取り組みます。 自分の頭痛のタイプにあった適切な治療によって、頭痛の頻度を下げ、程度を軽減させて、生活の質を向上させることができます。 また、薬物乱用頭痛の再発を防ぐことができます。片頭痛には、トリプタン製剤が有効です。 ただし、月に10日以上の服薬が必要な場合には、薬物乱用頭痛が起こる危険性が高いので、片頭痛を起こしにくくする予防薬が使われます。 予防薬には、カルシウム拮抗薬、抗鬱薬、抗不安薬などがあります。 緊張型頭痛の治療では、鎮痛薬が使われます。 頭痛の頻度が高い場合などには、筋肉の緊張をほぐす筋弛緩薬や、抗不安薬などが使われることもあります。 また、慢性的な頭痛の予防に漢方薬を使用することもあります。


●治療の流れ

頭痛専門医が行う3つの流れで治療する

現在、頭痛専門医は、次のような流れで治療を行っています。

◆病気を理解し、原因となる薬をやめる

まず、患者さんに薬の使い過ぎで起こる頭痛であることを、よく理解してもらうことが重要です。 医師が詳しく説明し、患者さんが納得したうえで、原因となる薬の使用をやめてもらいます。 頭痛が起きた時は、別の薬に替えてもらいます。例えば、トリプタンは5種類あるので、トリプタンが原因の人には、別の種類のトリプタンや他の薬を処方します。 数種の成分が混合している市販薬が原因の場合は、その薬に含まれていない成分を含む薬を処方します。 市販薬を使っていた人は、受診の際、実物を持参するか、薬の名前を医師に伝えるとよいでしょう。

◆片頭痛の人は予防薬を使用する

もともと片頭痛のある人では、予防薬を継続的に使用して、薬の使い過ぎによる頭痛の頻度を減らします。 予防薬については試行錯誤されています。現在は、抗うつ薬の一種であるアミトリプチリンや、 抗てんかん薬のバルプロ酸、β遮断薬のプロプラノロールなどが効果的なことがわかっていますが、、患者さんにより選択が違ってきますので、医師と相談が必要です。 もともと緊張型頭痛があった場合は、リラックス法の実践に加え、患者さんの病状に合わせて、筋弛緩薬や、 作用の弱い抗うつ薬・抗不安薬などを使用します。

◆鎮痛薬の使用回数を減らす

経過がよければ、原因となる薬の中止後に替えた薬の使用を、少しずつ減らします。 そして、もともとの片頭痛や緊張型頭痛が、薬を使いすぎる前の状態に戻ってきたら、治ったといえます。 目安として、片頭痛のある人なら、鎮痛薬の使用を週2回、月8回以下にできれば、ひとまず安心と考えてかまいません。 緊張型頭痛の人の場合は、薬を使わず、リラックス法だけで痛みに対処できるようになれば大丈夫です。


■頭痛の再発

薬の中止後半年から約1年は再発に注意する

専門的な治療により、約70%の人は症状が改善します。ただ、そのうち30%が、薬の中止後、半年から1年くらいで再発しているのが現状です。 再発とは、頭痛の頻度が再び増えてしまったり、もともとの片頭痛が激しくなり、原因となる薬や市販薬をまた使い過ぎてしまうような状態を指します。 油断をするとすぐ再発することをよく覚えておき、少なくとも1年くらいは医師の指示通りに通院し、処方薬の使用指示を守ってください。

●薬を上手に使って頭痛を予防する

防ぐには、次の点に注意しましょう

▼鎮痛薬を飲み過ぎない
使用回数は少なければ少ないほどよいのですが、少なくとも、週2回、月8回までにします。

▼頭痛ダイアリーをつける
頭痛の起きた日付、時間帯、頭痛の強さ、使用した薬の種類、吐き気の有無、気候、飲酒の有無などを、毎日記録します。 自分の頭痛の傾向を把握できるのはもちろん、薬の飲みすぎもチェックできます。

▼喫煙・飲酒は控えめに
頭痛のきっかけになることがあるので、できるだけ避けましょう。

●予防や再発を防ぐポイント

薬の使用頻度を減らし、予防的に使うのを避ける

薬の使い過ぎによる頭痛の予防や再発の予防のためには、頭痛薬の使用を1週間に2日程度まで、1ヵ月に10日未満を守りましょう。 また、頭痛の起こる日数が多い人が市販の頭痛薬を使うときは、成分が複数含まれているものは避け、単一成分の頭痛薬を選ぶようにしてください。 さらに、頭痛が起きていないときに予防的に使うのは避けます。
薬の使い過ぎを確認するうえで効果的なのが、「頭痛ダイアリー」です。 薬の使い過ぎによる頭痛を治療しても改善しない場合は、頑固な片頭痛がある可能性があったり、抑うつや不安、 睡眠障害などによって頭痛が改善しないなどのケースもあります。そのため頭痛ダイアリーに記録することで、頭痛のきっかけを見極め、 生活習慣を見直すようにしましょう。