【質問】肩の「腱板断裂」の治療について教えてください
2年前に「腱板断裂」により左肩の内視鏡手術を受けました。
経過は順調ですが、右肩も手術を勧められています。
術後の痛みがつらかったことや、現在、右肩はそれほど痛みがなく、動きにも大きな支障がないので、できれば手術はしたくないのですが、
手術以外に治す方法はないのでしょうか。
●58歳・男性
●利き手は右手
【答】
腱板は上腕の骨頭を覆っている筋肉や腱の総称で、肩関節の安定性を保つ働きをしています。 この腱板の老化に伴う変性を基盤として、牽引・摩擦などの物理的ストレスが加わって生じるのが「腱板断裂」です。 外傷で発生するのは一部で、大部分が日常的な軽微なストレスの繰り返しにより生じます。 60歳以上では4人に1人程度に腱板完全断裂があるといわれていますが、痛みや運動制限などの症状を有しているのはその2~3割に過ぎません。 それは多くの場合、腱板断裂がゆっくりと進行し、断裂が棘上筋腱にとどまることが多く、他の筋肉で代償が可能であることなどが関係していると考えられます。 しかし、断裂した腱板は自然治癒する可能性が低く、断裂サイズは拡大する傾向にあります。 断裂の拡大やどの程度の自覚症状が生じるかは個人差や左右差があり、一様ではありません。 また、自然経過や保存療法により、断裂が残ったまま自覚症状が軽減したり消失したりすることもありますが、 利き手側や60歳以下の若い実労働年齢の方、作業労働、スポーツ活動、インピンジメント微候、外旋筋力低下などがある場合、自覚症状が残りやすいといわれています。
腱板断裂の保存療法としては、非ステロイド性消炎鎮痛剤などの内服・外用薬の投与、関節内注射、理学療法などがあります。 また、夜間痛の軽減に有効なプレガバリンやトラマドールなどの慢性疼痛治療薬も使えるようになりました。 ただし、保存療法は炎症の軽減や除痛、機能回復を図るものであり、断裂は残存するため、いったん症状の軽減が得られても再燃や断裂の拡大の可能性があります。 一方、手術療法は、内視鏡下または直視下に断裂した腱板を修復するので確実な治療方法です。 短所として麻酔や手術によるストレスが加わること、術後2~3ヵ月頃まで術後の疼痛を生じること、術後のリハビリテーション期間が長いことなどがあります。 ご質問者は、左肩の術後経過が良好とのことですから、年齢も若いので右肩も手術で腱板を修復しておくのが確実と思いますが、 今のところ症状が軽微なため、手術をしたくないのも理解できます。 そこで今後の対応については、注意深く経過観察し、疼痛・運動制限などの症状が進んだ場合や、3~6ヵ月ごとにMRIまたはエコー検査で断裂サイズを確認し、 短期間に拡大する場合に手術療法を選択されるというのが妥当な線と思われます。 担当医と十分に相談されることをお勧めします。
(この答えは、2017年4月現在のものです。医療は日々進歩しているため、後日変わることもあるのでご了承ください。)