女性が気になる癌の放射線治療
癌の中には、早期でも積極的に放射線治療を行うものがあります。 女性の癌を例に、いつ、どのように行うのか解説します。
■放射線治療単独でも根治を目指せる
放射線を照射して死滅されるのが、放射線治療です。 以前は手術ができない場合に行う治療とされていましたが、近年、放射線治療の制度は急速に向上し、癌の根治も目指せるようになってきました。 放射線治療のメリットは、治療そのものに痛みがないことです。手術のように体にメスを入れることがないので、体への負担が少ない治療と言えるでしょう。 手術ができない場合や、高齢で手術に抵抗がある場合などには、癌治療の重要な選択肢の1つとなっています。 あえて、手術ではなく放射線治療で癌を治すという人も増えてきています。
●早期の子宮頸癌での適用が増えている
なかでも、積極的に放射線治療が行われるようになってきたのが、早期の子宮頸癌です。 子宮頸癌は放射線治療が非常に効きやすい癌で、高い効果が期待できます。 放射線治療の主体は手術の困難な局所進行期の癌ですが、最近は早期の癌にも適用例が増えてきました。 日本では、子宮頸癌の治療として手術が多く行われてきましたが、欧米では一般の人でも「子宮頸癌は放射線で治す」と考えるほど、 放射線治療が普及しています。 子宮頸がんの放射線治療には、体の外から放射線を照射する方法と、からの中から放射する方法があり(下図参照)、これらを組み合わせて治療します。 外から照射する場合に要する時間は1時間15分程度です。中から照射する場合は、器具を体内に入れる必要があるため、1回1時間ほどかかります。 放射線が、がん以外の正常な組織や周りの臓器に当たると、副作用が現れます。 現れ方には個人差がありますが、放射線の治療期間中に起こる副作用としては、「吐き気」や「下痢」が挙げられます。 ただ、治療が終われば自然に治まるので、それほど心配はいりません。症状がつらい場合は、薬で対応することもできます。 注意が必要なのは、治療後に現れる副作用です。「直腸炎による血便」「膀胱炎による血尿」「小腸炎による腸閉塞」などがあります。 半年後から数年後に現れることがあり、治療しても慢性的に残ることが少なくありません。 そのため、治療が終わった後も、定期的に通院して副作用が現れていないかどうかを確認する必要があります。
◆子宮体癌でも効果が期待できる
子宮体癌の治療の第一選択は手術ですが、手術を行えない場合には、放射線治療を検討します。 一般に、子宮頸癌に比べて放射線が効きにくいと考えられていますが、子宮体癌でもある程度の効果が期待できます。
■組み合わせて治療の効果を高める
放射線治療は、より効果を高めるために、手術や抗癌剤治療など、他の治療法と組み合わせて行うこともあります。
●手術と組み合わせる
早期や、やや進行した子宮頸癌の手術後に、放射線治療が行われています。 手術で取り切れなかったり、周りの組織に広がっていたりした場合に、癌細胞を放射線で死滅させることで、再発のリスクを抑えるのが目的です。 近年では、副作用を軽減するために、精密なコンピューター操作による放射車線治療が行われるようになっています。 「強度変調放射線治療(IMRT)」といい、癌の複雑な形に合わせて、放射線の強さを調整しながら、体外の多方向から照射する方法です。 正常な組織に当たる放射線の量は最小限に抑えながら、癌全体に対して十分な量の放射線を照射することができます。
●抗癌剤治療と組み合わせる
放射線治療と抗癌剤治療との併用は、子宮頸癌の早期から進行した癌まで行われています。 併用の目的は2つあります。 1つは抗癌剤によって、放射線に対する癌の感受性を高め、放射線治療の効果を増殖することです。 もう1つは、画像検査ではわからないほどの小さな転移癌を死滅させることです。 全身に作用する抗癌剤を併用することで、再発・転位を抑える効果が期待できます。 併用の放射線治療でも、方法や治療スケジュールは、放射線単独の治療の場合と同じです。 体の外と中から放射線治療を行いながら、周に1回、主にシスプラチンという抗癌剤を投与します。 これを5~6週間繰り返します。
■症状を和らげるための放射線治療
癌の根治が難しい場合でも、患者さんの生活の質を保つことは、とても重要です。 そこで、癌による症状の緩和を目的として、放射線治療を行うこともあります。 進行した子宮頸癌や子宮体癌のほか、卵巣癌でも限定的に行われています。 特に効果的なのが、骨に癌が転移した場合の痛みの緩和です。 原因となっている転移癌に放射線を照射することで、痛みを抑えることができます。 そのほか、脳転移による神経症状や、癌組織が血管や神経を圧迫して起こる症状の緩和も期待できます。
■その他
◆体への負担が少ない「定位放射線治療」
子宮頸癌では、「癌が大きい」「子宮の入り口が狭い・小さい」「体内に器具を入れて行う治療に対して強い負担を感じている」などの理由で、 体の中から強い放射線を照射することが難しいケースがあります。そのような場合の治療法として期待されているのが「定位放射線治療」です。 定位放射線治療は、比較的小さな癌に対して、多くの方向から強くて細い放射線を正確かつ集中的に照射する治療法です。 そのため、周囲の正常な組織への影響を最小限に抑えながら、癌には必要な量の放射線を当てることができます。 また、体の外から照射するため、体内に器具を挿入する必要がなく、治療中の体への負担も軽減されます。 現在(2020年)、前述のような難しいケースを対象に、安全性と有効性を評価する臨床試験が行われています。