癌の痛みを上手に和らげよう

●体の痛みは、鎮痛薬や神経ブロックなどで和らげられる。
●中心となるのは、消炎鎮痛薬、オピオイド(医療用麻薬)などの鎮痛薬。
●オピオイドには2つのタイプがあり、痛みの強さに応じて使い分ける。

■癌による体の痛み

大きく2つの痛みに分けられ、どちらも和らげることが可能

癌に伴う苦痛を和らげる「緩和ケア」は、「身体的なつらさ」「精神的なつらさ」「社会的なつらさ」 といった様々なつらさを対象とします。このうち、身体的なつらさを引き起こす要因となる「体の痛み」いついては、 鎮痛薬の服用によって和らげることができます。癌による体の痛みは、その原因によって大きく次の2つに分けられます。

▼癌そのものによって起こる痛み
癌細胞の増殖により、臓器や骨、神経などの組織が障害されて痛みが現れます。

▼その他の痛み
手術後の傷の痛み、放射線療法・抗癌剤の副作用によって起こる手足のしびれや口内炎などがあります。 こうした癌に対する治療に伴って起こる痛みのほか、長時間ベッドで横になることによる床ずれ、胃や腰の筋肉痛など、 さまざまな痛みがあります。

●痛みが和らぐと免疫の働きも高まる

どのような痛みにしても、我慢しすぎると「ストレスがたまる」「イライラする」「不安が強くなる」「眠れない」 「食欲が低下する」など、さまざまな悪影響が現れます。結果、免疫の働きや抵抗力、体力が低下し、癌に対する治療の効果にも 悪い影響を与えてしまいます。痛みをうまく和らげることができると、「心が落ち着く」「安心する」「ぐっすり眠れる」 「食欲が増し、美味しく食事ができる」など、さまざまな良い結果が得られます。このことが、免疫の働きや抵抗力の向上に つながるだけでなく、癌に対する治療に前向きに臨む体力や気力を高めることにもなり、患者さんにとって大変良い結果に つながります。


■痛みを和らげる方法

鎮痛薬を用いたり、神経ブロックなどが行われる

体の痛みを和らげる方法には、次のようなものがあります。

▼鎮痛薬の服用
さまざまな原因の痛みに対応できます。痛みを緩和するための中心となる方法です。

▼神経ブロック
痛みの原因となる神経を、「局所麻酔薬」の使用や熱凝固によって麻痺させることで痛みを和らげます。 これにより、鎮痛薬の量を減らすこともできます。

▼放射線療法・手術
これらは癌に対してだけではなく、痛みの緩和を目的に行われることもあります 例えば、癌の骨転移による痛みは、放射線療法で和らげられます。また手術で癌をある程度切除し、 周囲の組織への圧迫を解消して痛みを取り除くこともあります。

●鎮痛薬による痛みの緩和

消炎鎮痛薬やオピオイド(医療用麻薬)などを痛みに応じて組み合わせる

痛みの緩和には、基本的に「消炎鎮痛薬(NSAIDs)」「解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン)」 などが用いられます。また、鎮痛補助薬として、「ステロイド薬」「抗鬱剤」「抗痙攣薬」 などを用いることもあります。これらを用いても十分に痛みが治まらない場合、「オピオイド(医療用麻薬)」 と呼ばれる鎮痛薬などを併用します。”麻薬”と言う言葉から”癖になってやめられない””寿命が縮む”などと心配し、 怖いと感じる人もいます。しかし、それは誤解です。医療用麻薬は、不法麻薬とことなり、適切に使用すればそのような心配は 全くありません。 オピオイドにはさまざまな種類がありますが、大きく分けると、作用の比較的弱い「弱オピオイド」と、 それよりも作用が強い「強オピオイド」に分けられます。弱オピオイドには医療用麻薬に指定されていない薬もあります。 基本的には、痛みの段階に合わせてこれらの薬が選択されます。
オピオイドを用いることで痛みを伝える神経の働きが抑えられ、強力な鎮痛作用が得られます。 ただし、効果が得られる量には個人差があり、適切な量にコントロールして用いる必要があります。 また、早期から使用し続けても、効果が得られなくなるようなことはありません。

◆目標を設定して治療していく

痛みを和らげる治療の目標は、3段階に分けられます。
最初の目標は「痛みがなく、夜眠れるようにすること」です。どのような患者さんに対しても、最低限この目標は早急に達成できるように調整していきます。 次の目標は「安静にしていれば痛くない状態にすること」です。 癌の治療を前向きに続けるためにも、できればこの目標までは達成することが望まれます。 体を動かすと痛みがある場合は、「歩いたり、体を動かしたりしても痛みがない状態にすること」を目指しますが、 この目標は達成できないこともあります。


■オピオイドの服用

効果が長く続くタイプとすぐに効くタイプがある

オピオイドには2つのタイプがあります。1つは、効果が長く持続するタイプ(除法性製剤)です。 もう1つは、すぐに効くが持続時間が短いタイプ(速放性製剤)です。 オピオイドを使用する場合は、この2つのタイプをうまく組み合わせて使用します。 痛みは、同じ程度のものがずっと続くわけではありません。多くの場合、一定の弱い痛みが続く間に、時折、 急に強い痛みの波がやってきます。そこでまずは、一定の痛みを抑えるために、効果が持続するタイプの薬を、 1日に1~3回程度で定期的に服用します。そして、時折現れる強い痛みに対しては、その都度、すぐに効くタイプの薬を服用して 対応します。このように、2つのタイプを組み合わせることで、ほとんどの痛みを抑えることができます。


●副作用はコントロールできる

オピオイドは、一般の不法麻薬のような心配はありませんが、軽い副作用が現れることはあります。 主な副作用には次のようなものがあり、それぞれ薬によって対処できます。

▼便秘
およそ8割の人に現れる症状です。下剤を用いることでコントロールできます。

▼吐き気
多くは薬を使い始めたころに現れます。吐き気を催す前に、吐き気止めを用いて予防します。 吐き気は、薬の服用開始後、数日から1週間で止まることがほとんどです。

▼眠気
人によって、使い始めの1週間くらいに現れることがあります。眠気が強い場合には、オピオイドが効きすぎている可能性が あります。薬の効果を見ながら使用量を減らすことで、やがて改善されます。 ただ、痛みがあったころの睡眠不足によって眠気が起こっていることもあります。 その場合は、しばらく様子を見ることもあります。

癌によって起こる体の痛みを我慢する必要は、全くありません。痛みがあれば周囲の医療者に伝え、適切な治療を受けましょう。

【関連項目】:『医療用麻薬』