癌検診で早期発見
~健康診断を活用する~
厚生労働省は、胃癌、肺癌、大腸癌、乳癌、子宮頸癌について、癌検診を定期的に受けることを推奨しています。 これらの癌は、罹患率や死亡率が高い一方、癌検診によって早期発見・治療に繋がり、集団の死亡率が下がる効果が科学的に証明されています。
日本人の死亡原因の第1位は「癌」で、年間約40万人の人が、癌で亡くなっています。
今のところ、癌を完全に予防することはできません。癌の場合、できるだけ早期に発見し、早期に治療を開始することです。
そのために行われるのが『癌検診』です。
しかし、癌検診を受けている人は、まだ多いとはいえません。
平成25年に実施された「国民生活基礎調査」によると、日本の癌検診受診率は、男性においては、胃癌、肺癌、大腸癌検診の受診率は4割程度であり、
女性においては、乳癌、子宮頸癌検診を含めた5つの癌検診の受診率は3~4割台となっています。
特に子宮頸癌、乳癌については、検診受診率が低い状況にあります。
多くの人は「忙しいから」「自分は癌にならないと思うから」「もし癌だとわかったら怖いから」などの理由から受けないようです。
現在の日本では、毎年約50万人が新たに癌にかかるといわれており、誰にでも癌にかかる可能性があります。
しかし、早い段階で発見して治療できれば、治せる可能性が高まります。
そのためにも、癌検診を受けることが大切なのです。
癌検診では、癌の可能性がある人をふるい分ける(スクリーニング)検査が行われます。
スクリーニング検査で異常が見つかった場合には、精密検査を受けます。
主な癌検診は、国の施策として行われており、多くの自治体が無料あるいは小額の自己負担で実施しています。
自治体の広報誌やホームページなどで情報を入手して、癌検診を受けるようにしましょう。
この他に、人間ドックでも自己負担で癌検診を受けることができます。
癌検診で早期に癌を発見できれば、早期に治療を始められ、治癒することも可能です。
これまで受けたことのない人も、癌検診の重要性を理解し、受けるようにしましょう。
■癌検診とは?
一般に、皆さんが定期的に受けている健康診断や人間ドックなどは、特にどの病気が対象というわけではなく、
体に異常がないかどうかを幅広く調べる検査です。また、40~74歳の人が受ける特定健康診査は、
生活習慣病などを中心に調べるものです。
一方、「癌検診」は、癌に特化した検査で、癌があるかどうかを調べるために行います。
癌検診には、健康保険は適用されません。しかし、ほとんどの市区町村が癌検診を実施しており、公的な補助により、
無料か少額の自己負担で済みます。また、国の制度で乳癌、子宮頸癌、大腸癌に関しては、節目の年齢に無料で癌検診が
受けられるクーポンが配布されています。最近は職場でも、一般的な健康診断のほかに、癌検診を行っているところも
増えてきています。市区町村の癌検診を利用せずに、各自で医療機関や人間ドックを利用する場合は、全額自己負担になります。
癌検診では、「胃癌」「肺癌」「大腸癌」「乳癌」「子宮癌(子宮頸癌)」の5つの検査を中心に行っています。
地域によっては、「喉頭癌」「前立腺癌」「肝癌」などの検査が行われていたり、医療機関や人間ドックでは、
その他の癌についても調べているところもあります。
◆癌検診の目的
癌検診の目的は、初期の癌を見つけ、適切な治療をすることです。これが、結果的に個人や社会全体の死亡リスクを下げることに つながり、大きなメリットとなります。癌は、1981年から日本人の死亡率原因の1位を占め、その割合は年々増加しています。 いくら生活習慣に気を付けても、癌になるリスクをゼロにすることはできません。現在では、日本人のおよそ2人に1人が癌になり、 3人に1人が癌で死亡していることになります。その点からも癌を早期に見つけることは、大変重要な課題となっています。 また、早く見つけるだけでは、癌の死亡リスクを下げることにはなりません。幸い、癌の治療成績は、医学の進歩により 向上してきています。早期に見つけ、早く適切な治療を受けることによって、治癒が可能なケースが増えてきています。
◆どこで受ける?
市区町村や職場などが実施している機会を利用したり、医療機関や人間ドックで受けたりする方法があります。 市区町村や職場で行われる癌検診の内容や費用は、一律ではありません。まず、自分が受けられる癌検診にはどのようなものがあるか を知る必要があります。住んでいる市区町村などの癌検診は、役所からのお知らせ、広報紙、ホームページなどで確認したり、 役所の健康や保険の担当部署(癌検診担当)に問い合わせてみましょう。 職場で癌検診を受ける機会がない場合は、自分で市区町村などに問い合わせましょう。 どこに問い合わせればよいかよくわからない場合は、かかりつけ医に相談するのも1つの方法です。 医療機関や人間ドックでもさまざまな癌検診のメニューが用意されています。 いくつかの選択肢の中から、自分に合ったものを選び、定期的に受けるようにしましょう。
◆癌検診の対象となる人
一般に”癌年齢”といわれる40歳以降になると、癌になる人が多くなってきます。40歳以上の人は、必ず癌検診を受けましょう。 なお、女性の子宮癌検診は、20歳以上の人が受けます。癌検診を受けるのは、特に思い当る症状がない人です。 癌を疑うような自覚症状がある場合は、癌検診の対象にはなりません。直接、医療機関を受診して検査を受けてください。 また、乳癌の家族歴があったり、喫煙歴があるなど、癌のリスクが高いと考えられる人は、必ず検診を受けることが勧められます。
◆注意したいこと
癌検診は万能ではありません。癌検診を受けて異常がなかったからといって、100%安心はできません。 たとえ胃癌、肺癌、大腸癌、乳癌、子宮癌の検査を受け、癌の有無を調べたとしても、癌のできた場所やタイプによっては 見つけにくいことがあります。また、他の臓器にも癌は発生します。癌検診で”異常なし”という結果でも、 全ての癌の可能性が否定されたわけではありません。 何らかの慢性疾患があり、定期的に医療機関を受診していると、それで安心してしまいがちですが、 その診療はその病気の治療のためです。癌を発見するための検査は行っていないことが多いので、 癌検診は別に受ける必要があります。
■5つの癌検診
癌検診では、有効性に科学的根拠があるとされる検査方法で、主に5つの癌について調べます。 癌検診で行われる検査は、癌の可能性があるかどうかを調べる「スクリーニング検査(ふるい分け)」です。 何か異常が見つかった場合は、精密検査を行うことになります。
●男女共通の癌検診
◆胃癌検診
2016年(平成28年)に癌検診実施のための指針が一部改正されました。 特に大きく変わったのが胃癌検診で、対象年齢が引き上げられ、受診間隔が延び、画像検査の種類が選択できるようになりました。 改正前は、40歳以上を対象に1年に1回行われていました。 しかし、現在の40歳代より若い世代では、胃癌の発症に関係している ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)の感染者が減っていることから、 胃癌の発症が減少しています。そのため、現在は、50歳以上を対象として2年に1回、問診と、 胃部エックス線検査または胃内視鏡検査が行われるようになりました。 改正後は、胃部エックス線検査か胃内視鏡検査を選択できるようになりましたが、胃癌検診で胃内視鏡検査が受けられるかどうかは、 受診を希望する医療機関や、住んでいる市区町村の保健センターなどに問い合わせてください。 また、胃部エックス線検査か胃内視鏡検査を選べる場合は、どちらか一方を継続して受けることで、前回の検査結果と比較しやすくなります。
胃部エックス線検査(上部消化管エックス線検査)では、 検査を受ける人は、胃を膨らませるための発泡剤と造影剤のバリウムを飲み、透視台と呼ばれる台に乗り、 台を上下に傾斜させたり、体を回転させたりして、さまざまな角度から撮影します。 エックス線検査をすることで、バリウムの部分は白く、発泡剤から発生した炭酸ガスは黒く映し出され、 そのコントラストにより、胃の内壁の病変を捉えます(二重造影法)。 検査中に台を傾けたり、体を回転させるのを不思議に思うかもしれませんが、これはバリウムを胃の内壁に満遍なく広げるためです。 検査後はバリウムの排出を促す下剤を飲みます。 検査の結果、癌の疑いがある場合は、後日、精密検査で、内視鏡検査や組織の一部を採取して調べる「生検」を受けます。 人間ドックなどでは、初めから内視鏡検査が行われることもあります。 この検査では、バリウムが胃の粘膜の隅々に行き渡ることで、小さな病変をとらえることが可能になります。 ただし、凹凸のある癌は発見されやすいのですが、平坦なタイプの癌には不向きとされています。
◆肺癌検診
40歳以上を対象として1年に1回、問診と胸部エックス線検査が行われます。 肺癌には、主に肺の奥の方にできる「末梢型」と、肺の入り口付近にできる「中心型」がありますが、 胸部エックス線検査は、末梢型の発見に適しています。 また、50歳以上で、肺癌を発症するリスクが高いとされる喫煙指数が600以上の人の場合は、中心型の発見に適している「喀痰細胞診」も行われます。 これは痰を採取し、癌細胞が混じっていないかどうかを調べる検査です。 人間ドックなどでは、胸部CT検査が行われることもあります。癌が疑われる場合は気管支鏡検査、生検などを受けます。
◆大腸癌検診
40歳以上を対象として1年に1回、問診と、「便潜血反応検査」が行われます。 便潜血反応検査は、大腸癌は大腸粘膜の表面にでき、便が通過すると擦れて出血するため、便に血が混じっていないがどうかを調べるために行います。 便潜血反応検査では、付属の紙のシートを便器に敷いて排便し、専用のキットのスティックで便の表面を満遍なくこすり、 先端の溝が少し埋まるくらいの便を採取します。便を取り過ぎた場合は、トイレットペーパーで軽く拭き取ります。 なお、月経中は、便の採取を避けてください。スティックを検査キットの容器に戻し、冷暗所で保管します。 便潜血反応検査は、2日分の便を提出し、どちらか一方でも陽性の場合は、「要精密検査」となり、 後日、エックス線検査や大腸内視鏡検査などを受けます。癌のほか、ポリープなどでも陽性になることがあります。
●女性だけの癌検診
◆乳癌検診
40歳以上の女性を対象として2年に1回、視触診と乳房エックス線検査(マンモグラフィー)が行われます。
- ▼視触診
- 医師が乳房や乳頭の形などを観察します。また、手で触れてしこりを探したり、 分泌物の有無を調べたり、わきのリンパ節の腫れを調べたりします。
- ▼マンモグラフィー
- 乳房のエックス線検査のことで、専用の装置が使われます。 乳房を2枚の圧迫版で、上下と左右から挟んで押し広げた状態で撮影します。 この検査は、視触診ではわからないような、しこりになる前の早期の癌を発見するために行われます。
なお、乳癌を見つける検査には、乳腺エコー(超音波)検査がありますが、現在の乳癌検診には含まれていません。 ただし、近親者に乳癌を発症した人がいる場合は、乳腺エコー検査を受けた方がよいかどうかを乳腺専門医に相談することが勧められます。
◆子宮癌検診
20歳以上の女性を対象として2年に1回、問診と視診が行われます。 子宮癌には、膣に近い部位にできる「子宮頸癌」と、その奥の体部にできる「子宮体癌」があります。 スクリーニングとしては、「子宮頚部細胞診」が行われます。 この検査では、医師が器具や綿棒で子宮頚部をこすって細胞を採取し、顕微鏡で調べる細胞診が行われ、 癌が疑われるときは、後日、精密検査で「コルポスコープ」と呼ばれる内視鏡で観察したり、組織を採取して調べたりします。
●健診後の注意
健診後に送られる検査結果で、「異常なし」だった場合は、次回の検診を受診します。 「要精密検査」という結果だった場合は、各自で医療機関を受診し、精密検査を受けます。 この時、検診結果を持参するようにします。 精密検査を受診し、「異常なし」あるいは「良性の病変」といわれた場合は、指定された医療機関を受診するようにします。 癌と判定されたときは、できるだけ早く治療を受けることになります。 「要精密検査」だったにもかかわらず、精密検査を受けないと、癌検診を受けた意味がなくなってしまうので、 「要精密検査」と言われた場合は、時間をおかずに必ず受けることが大切です。 癌検診で行われる検査は、有効性の確立された方法であるのと同時に、受ける人の体への負担がそれほど大きくなく、 受けやすいのもメリットです。癌検診は定期的に受けるようにしましょう。
●精密検査
CT検査や内視鏡検査、生検などがおこなわれる
癌検診で「要精密検査」と判定された場合、「癌の疑いがある」ことを意味します。 精密検査を行って、癌の有無を調べる必要があります。 放置しないで、できるだけ速く医療機関を受診してください。 癌の確定診断は、多くの場合「CT検査」や「内視鏡検査」「超音波検査」などの画像検査と、 組織そのものを調べる「生検」を組み合わせて行われます。
- ▼胃癌
- 内視鏡検査や生検が行われます。内視鏡検査では、内視鏡を胃の中に挿入し、 直接胃の粘膜を観察するため、わずかなただれや変色なども捉えられます。 先端から鉗子を出して、癌が疑われる粘膜の一部を採取することもできます。 生検では、採取した粘膜を顕微鏡で観察し、癌かどうかが確定診断されます。
- ▼肺癌
- CT検査や生検が行われます。CT検査は、体を薄く輪切りにしたような断面の画像を撮影する検査で、癌の大きさや形などがわかります。 生検は「気管支鏡」という内視鏡を使ったり、 局所麻酔のうえ特殊な針を皮膚から刺すなどして、肺の組織を採取します。
- ▼大腸癌
- 「直腸診」や内視鏡検査、生検が行われます。直腸診は、医師が肛門から直腸に指を挿入して調べる検査です。 内視鏡検査では、肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体の粘膜を観察するほか、組織の一部を採取します。 ほかに、バリウムを肛門から注入してエックス線撮影する「注造影検査」が行われることもあります。
- ▼乳癌
- 超音波検査や「穿刺吸引細胞診」が行われます。超音波検査では、皮膚に器具を当て超音波を発信して、 内部の様子を画像に表します。癌検診でははっきりしなかった癌を確定診断できます。 穿刺吸引細胞診では、細い針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で調べます。
- ▼子宮癌
- 「組織診」が行われます。子宮頚部や膣を調べる内視鏡(膣拡大鏡)で頚部の粘膜を観察し、組織を針などで採取して調べます。
■癌検診で知っておきたいこと
国が定めた5つの癌検診は、基本的に住んでいる市区町村で受けられます。 職場によっては定期健診と併せて受診できる場合があります。 癌検診を受けて、「要精密検査」と判定されても、「癌が見つかったら怖い」「自覚症状がないから」と、精密検査を受けない人も少なくありません。 しかし、それでは癌検診を受けた意味がありません。必ず精密検査を受けるようにしてください。 また、癌検診を始め、どんな検査でも完全というわけではありません。 癌検診で「異常なし」という結果であっても、気になる症状がある場合は医療機関を受診しましょう。
検診や検査は、たくさん受ければよいというものではありません。それぞれにメリットとデメリットがあります。 5つの癌検診以外の癌検診は、現在のところ、癌検診としての効果の科学的根拠が確立されていません。 ですから、5つ以外の癌検診を受けるかどうかは、癌を早期に発見して治療を受けるメリットが、 検査や精密検査、治療に伴って起こる出血などの合併症の可能性や、被爆などのデメリットを上回るかどうか、 自分の年齢や体力癌の性質などを考慮したうえで、慎重に判断することが大切です。
また、先進国では、癌検診の対象年齢に上限を設けている国がほとんどです。 これは、高齢になればなるほど、心臓病や脳卒中、肺炎など、癌以外の病気が原因で亡くなる割合が高くなることなどが関係しています。 ですから、70歳代後半~80歳代になったら、癌検診を受けること自体や、治療による体への負担などを考慮して、 癌検診を”卒業”するという考え方を検討してみてもよいと思います。