ピロリ菌

中高年の8割が感染しているといわれるピロリ菌は、 胃炎・胃潰瘍・胃癌を招く細菌として今大問題になっており、除菌が急務とされています。 ピロリ菌への感染は気づきにくいのですが、50代以上で食前に胃もたれや腹部の膨満感があれば感染している疑いが大です。


■「ピロリ菌」とは?

ピロリ菌は強酸性の胃の中でも生息できる

胃炎や胃潰瘍などの胃の病気は、以前は強い胃酸やストレスが主原因と考えられていました。 なぜなら、胃の中には強酸性の胃液が分泌されているため、細菌は生息できないと考えられていたからです。 ところが、1982年に、「ピロリ菌」(ヘリコバクター・ピロリ菌)という生命力の強い細菌が、 胃の中で生息していることが明らかになりました。しかもピロリ菌こそが、さまざまな胃の病気の主原因であることがわかってきたのです。 ピロリ菌の発見は、その当時、医学会に大きな衝撃を与えました。 さらに、ピロリ菌が胃癌の重大原因であるとWHO(世界保健機関)が発表したことから、ピロリ菌は一躍、世界中の注目を集めるようになりました。

では、ピロリ菌は、どうやって胃の中で生息しているのでしょうか。胃は厚さ5~7mmの胃壁でできています。 その内側は粘膜という組織で覆われ、粘膜からは、粘液と消化液である胃液が分泌されています。 胃液は強い酸性。そのままでは粘膜も胃壁も溶かしてしまいます。 そこで、重要な役割を果たすのが胃の粘膜を覆う「粘液」。 粘液は、アルカリ性の成分を含んでいるため、胃液を中和し、粘膜や胃壁を守っているのです。 ピロリ菌は、粘膜の表面に付着して粘液の中に隠れ、胃液を避けて生息しています。 しかも、ピロリ菌そのものにも、胃液から身を守る能力があります。 ピロリ菌は、ウレアーゼという成分を出して、胃の内部にある尿素をアルカリ性のアンモニアに変え、身の回りの胃液を中和しているのです。


●ピロリ菌が招く胃の病気

中高年の8割が感染しているといわれるピロリ菌は、胃炎・胃潰瘍・ 胃癌を招く細菌として今問題になっており、除菌が急務とされています。 胃癌になる危険は約5倍にも高まるといわれています。 ピロリ菌への感染は気づきにくいのですが、40代以上で食前に胃もたれや腹部の膨満感があれば感染している疑いが大です。

上記のようなピロリ菌特有の性質が胃を傷つけ、 さまざま胃の病気を招くことがわかってきました。 ピロリ菌に感染すれば、胃の粘膜を保護する粘液の分泌が減ります。 粘液の分泌が減れば、胃の粘膜は胃液に直接さらされるようになり、傷つきやすくなります。 一方で、胃の粘膜は、ピロリ菌が作り出すアンモニアによってただれてしまいます。 さらに、胃の中で胃液を中和するアンモニアが増えれば、胃液の働きが低下するため、胃は胃液の分泌を増やします。 それによって、胃の粘膜はますます傷つくという悪循環に陥るのです。

そればかりか、ピロリ菌は胃の粘膜を傷つける毒素を分泌することもわかってきました。 ピロリ菌が胃の中に生息していれば、ピロリ菌を排除しようとして、 免疫力の担い手である血液中の白血球が、胃の粘膜に集まってきます。 すると、炎症が起こって、正常な組織まで傷つける活性酸素が発生するため、胃の粘膜の傷はさらに深まるのです。 ピロリ菌への感染によって胃の粘膜が傷つけば、炎症が起こって胃炎になります。 胃炎が慢性的に続いて、粘膜がしだいに萎縮し、薄くなっていく病気が「萎縮性胃炎」。 粘膜が薄くなれば、傷ついた部分を修復する粘膜の働きも衰えるため、胃壁まで傷つきやすくなります。 その状態で、強すぎるストレスや暴飲暴食などが加われば、胃液の分泌が活発になって、胃の粘膜の障害が進みます。 そして、ついには、粘膜の組織がえぐられたような状態になり、胃壁の組織の一部まで欠けます。 これが「胃潰瘍」です。

ピロリ菌が「胃癌」の原因になるという考え方も有力になってきました。 ピロリ菌に感染して萎縮性胃炎や胃潰瘍になれば、傷ついた胃の粘膜を正常な状態に戻そうとして細胞分裂が活発になり、遺伝子に異常が起こりやすくなります。 それが癌細胞の発生を招くというわけです。 一方、北海道大学の畠山昌則教授らは、ピロリ菌が作り出す特殊なたんぱく質が癌を引き起こすことも、ネズミを使った実験で確かめました。 ピロリ菌に感染しても、必ずしも胃の病気になるとは限りません。 ただし、萎縮性胃炎などの慢性胃炎の約8割は、ピロリ菌が原因という報告もあります。 名古屋大学の浜島信之教授らの研究によって、日本人の9割以上は、ピロリ菌に感染すると、萎縮性胃炎になりやすい体質であることが突き止められました。 さらに、約42,000人を対象に行った国の調査によって、ピロリ菌に感染した人は、 胃癌になる危険度が、ピロリ菌に感染していない人の約5倍も高いことがわかりました。

このように、ピロリ菌は、さまざま胃の病気と深いかかわりがあります。 さらに、研究によって、ピロリ菌に感染すれば、 心筋梗塞緑内障になりやすいとも考えられるようになりました。 特に日本は、先進国の中でもピロリ菌への感染率が、突出して高いことで知られています。 50代以上の日本人の約8割が、ピロリ菌に感染しているという報告もあります。 そのため、私たち日本人、とりわけ中高年の人にとって、ピロリ菌の除去は急務といえるでしょう。


●ピロリ菌への感染経緯

衛生環境が悪いとピロリ菌がはびこる

前述したように、ピロリ菌が胃の中に生息していれば、さまざまな胃の病気を引き起こすことがわかってきました。 特に日本では、50代以上の人の8割が、ピロリ菌に感染していると考えられています。 では、何故日本人の中でも、とりわけ中高年は、ピロリ菌の感染率が高いのでしょうか。 それには、乳幼児期の衛生環境が深く関わっています。ピロリ菌の一部は、胃から便と共に体外に出て行きます。 そして、主に汚染された飲み水や食べ物などを通じて、口から胃の中に入ってくると考えられています。 これを裏付けるように、汚染されやすい井戸水や湧き水から、ピロリ菌が検出されることが少なくありません。 ハエやゴキブリなどの害虫も、ピロリ菌の運び役として疑われています。

ピロリ菌に感染するのは乳幼児期で、成人になってから感染することはほとんどありません。 なぜなら、乳幼児は、胃液の分泌量が少ないためにピロリ菌が生き残りやすく、ピロリ菌を退ける免疫力も弱いからです。 日本は、戦前から戦後の混乱期まで、衛生状態がよくありませんでした。 その時期に乳幼児期を過ごした人は、ピロリ菌の感染率が高いというわけです。 実際に、発展途上国ではピロリ菌の感染率が高く、先進国では低くなっています。 日本でも、若い世代では、ピロリ菌の感染率が低くなっています。

ピロリ菌が厄介なのは、感染しても気づきにくいこと。 初期にはほとんど自覚症状がなく、胃の粘膜に炎症が広がってから、ようやく自覚症状が現れだすのです。 食前で胃に内容物がなくても、胃もたれや腹部の膨満感があるのが特徴。 ピロリ菌の作り出すアンモニアによって、口臭や臭いゲップが発生することもあります。 参考までに、ピロリ菌の有無を調べるための簡単な自己診断表を下に示します。

ピロリ菌への感染の自己診断表
チェック項目 チェック欄
昔から井戸水や湧き水をよく飲んでいた  
生の野菜や魚をよく洗わないで食べていた  
家の中にハエやゴキブリがよく出る  
食前でも胸焼けや胃もたれがする  
食前でも腹部の膨満感がある  
臭いゲップがよく出る  
腐臭のような口臭がある  
家族がピロリ菌に感染したことがある  

◆該当するチェック項目の数で判断します。
0~2個・・・・・ピロリ菌への感染の危険性は小さい
3~5個・・・・・ピロリ菌への感染の危険あり
6個以上・・・・・ピロリ菌への感染の危険大

自己診断の結果、ピロリ菌の感染が疑われる人は、早めに病院で診察を受けましょう。 尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験などの簡単な方法で、ピロリ菌への感染はすぐにわかります。 今では、薬を服用することによってピロリ菌の9割近くが除菌できます。 また、ピロリ菌への抗菌効果が大きい食品を積極的のとることも一つの方法です。 乳児がいる家庭では、ピロリ菌への感染を防ぐように心がけてください。 具体的には、食べ物をよく洗ってから食べたり、井戸水や湧き水を沸騰させてから飲んだり、ハエやゴキブリをこまめに駆除したりするようにしましょう。


●ピロリ菌の除去法

ピロリ菌の除去法としては、現在、薬を使う方法が主流で、成功率は約9割にも達しています。 とはいえ、薬を使う方法に全く問題がないわけではありません。 抗生物質を使うため、下痢や食欲不振などの副作用が現れることがあります。
最近では、抗生物質の効かないピロリ菌も増えだし、成功率が低下しているという報告もあります。 そこで、注目されるようになったのが、食品によるピロリ菌減らしです。 最近の研究では、身近な食品の中に、ピロリ菌への抗菌効果が大きい、いわば特効食といえるものが、いくつも見つかっています。 こうした食品を常食すれば、副作用の心配もなく、ピロリ菌を大幅に減らすことが期待できるのです。 例えば、 緑茶・ココア・モズク・ マヌカハニーなどがピロリ菌減らしに役立ちます。 中でも、梅から手作りできる 梅肉エキスは、 ピロリ菌への抗菌効果が大きいことがわかり、注目されています。 また、LG21乳酸菌カテキンマスティックなどもピロリ菌駆除に有効とされています。

【関連項目】:『ピロリ菌の駆除』  

<<ピロリ菌の除菌治療の健康保険適用>>

かつてはピロリ菌の除菌治療は、 「胃潰瘍」 「十二指腸潰瘍」 「早期胃癌の治療後」など症状が進んだ状態でなければ保険適用されず、大きな自己負担額が生じました。 しかし今では月、将来的な胃癌予防の効果が認められたことから、ピロリ菌による慢性胃炎の方にも保険の適用範囲が広げられました。 つまり、今まで重症でなければ保険を使ってピロリ菌の除菌治療を受けられなかったものが、軽度の症状でも可能になり、 胃癌の早期予防に大きな効果を見込めることになったのです。