胃潰瘍

胃潰瘍の7~8割は「ピロリ菌」、2~3割は痛み止めに使う薬「NSAIDS」の影響によって起こります。 薬が原因で起こる胃潰瘍が増えているので、注意が必要です。重症化すると、命に関わる場合もあるため、適切な治療が重要です。


■胃潰瘍とは?

胃液の酸で胃壁が傷つき、えぐれた状態になる病気

胃潰瘍とは?

胃で分泌される「胃液」は、食べ物を消化したり、食べ物と一緒に入ってきた細菌を殺菌したりする働きをしています。 そのため胃液は強い酸性ですがそれで胃が溶けてしまうことは通常ありません。 胃壁の表面を覆う粘膜が、胃液に対する防御機能を持っているからです。 しかし、その防御機能が低下すると、胃液に含まれる胃酸などによって組織がただれた状態になります。 これが「胃潰瘍」で、胃の粘膜に炎症や腫れなどが生じたり、粘膜から出血することがあります。 重症化すると、潰瘍が深くまで達したり、食べたものの通りが悪くなったりします。


●胃潰瘍の症状

自覚症状には、胃のむかつき胃の痛みなどがあり、時には激しい胃の痛みが起こることもあります。 重症の場合、潰瘍のできた場所によっては、患部から出血することで、吐血下血などが起こります。 下血では、黒い便や赤い便が出るようになります。 また、患部からの出血が続いた場合、貧血が起きてきます。 貧血になると、それによって動悸息切れが起こりやすくなります。 ピロリ菌による胃潰瘍では、胃壁が深く掘られてしまい、潰瘍が胃壁を貫通する穿孔が起こる場合もあり、激しい痛みを伴ったり、 治療しないままでいると、腹膜炎を発症し、命に関わる危険が生じることもあります。 胃潰瘍は、軽症から始まって次第に重症化する病気ではなく、一般的に起こったときが最も重症です。 そのため、最初から重い症状が現れることがあります。 かつては、胃潰瘍はストレスによって起こると言われていましたが、ストレスだけで胃潰瘍が起こることは少ないのです。 重要な原因は「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)」の感染と、 痛み止めとして使われる「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」の内服です。 ただし、胃潰瘍が起こっても胃の痛みが現れないこともあります。 特に、NSAIDsによる胃潰瘍では、NSAIDsの鎮痛作用で痛みを感じにくいことがあります。



■胃潰瘍の原因①

胃潰瘍の7~8割は、ピロリ菌の感染が原因

胃潰瘍の症状

胃潰瘍を引き起こす最も大きな原因が ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染です。 胃潰瘍の7~8割は、この原因によると考えられています。 70歳以上の人たちはかつて感染しやすかったとされていますが、現在は上下水道などが整備され、衛生環境がよくなっているため、 若い世代のピロリ菌感染者数は減少しています。 ただ、ピロリ菌に感染したすべての人が胃潰瘍になるわけではありません。 感染している人が強いストレスを受けたときに、胃潰瘍を起こしやすくなるのです。 ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜が障害されて炎症が起こります。 こうなると、胃の粘膜の防御機能が弱くなるため、胃潰瘍が起きやすくなるのです。

●ピロリ菌を取り除くには

ピロリ菌は、薬で除菌することができます。特に、胃潰瘍になったことがある人や、いつも胃の具合が悪い人は、 ピロリ菌の検査を受け、感染していたら除菌治療を受けることが勧められます。 除菌治療では、3種類の薬を1週間続けて服用します。このうち2種類は抗菌薬です。 1種類が「アモキシシリン」で、もう1種類は「クラリストマイシン」か「メトリニダゾール」です。 これに、胃酸を抑える「プロトンポンプ阻害薬」を併用します。 1回の治療で除菌できないことが1~2割あります。その場合は、抗菌薬の種類を変え、再度治療を行います。

【関連項目】:『ピロリ菌の駆除』


■胃潰瘍の原因②

痛み止めのNSAIDsで胃潰瘍のリスクが約10倍に

胃潰瘍の2~3割は、関節炎や 関節リウマチなどの治療薬や鎮痛薬、抗炎症薬、 解熱薬などとしてよく使われるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が原因で起きています。 この薬は、消炎・鎮痛・解熱作用があるため、非常によく使われています。 市販されている風邪薬にも含まれており、多くの人がこの薬を服用したことがあると思われます。 特に「関節炎」や「リウマチ」などの治療によく使われ、長期間連用することもあります。 また、脳梗塞や心筋梗塞などの再発予防のために使われることがある低用量アスピリンもNSAIDsの一種で、 これを長期間服用していると、胃潰瘍が起こりやすくなることがあります。

NSIDsには、炎症を起こすプロスタグランジンの産生を抑えて炎症を鎮め、痛みを緩和したり、熱を下げたりする作用があります。 プロスタグランジンの産生が抑えられると、胃の粘膜を保護する粘液が減少するため、胃酸によって粘膜が損傷を受けやすくなります。 そのため、胃粘膜保護薬が一緒に処方されることがありますが、それでも胃潰瘍が起こるケースが多くあります。 現在、ピロリ菌に感染している人は減少傾向にあるため、ピロリ菌による胃潰瘍は減りつつあります。 ところが、NSAIDsによる胃潰瘍は、少しずつ増える傾向にあります。 NSAIDsで胃潰瘍ができやすくなるのは、胃が本来持っている胃の粘膜を守る働きを、薬が抑えてしまうからです。 胃の防御機能が低下することで、胃壁が傷ついてしまうのです。 NSAIDsを使い続けている人を対象とした調査では、15.2%の人に胃潰瘍がありました。 これに対し、NSAIDsを使っていない人では、胃潰瘍がある人の割合は1.6%に過ぎません。 ここから、NSAIDsを使い続けることで、胃潰瘍になるリスクが約10倍になると考えられます。

NSAIDsによる胃潰瘍は、医師からの処方薬の使用で起こる場合がほとんどです。 ただし、NSAIDsを含む市販の鎮痛薬や風邪薬もあり、服用する際には「用法・用量を守る」「複数の鎮痛薬を一緒に服用しない」 「空腹時に服用しない」などを心がけることが大切です。


■胃潰瘍の治療

出血は内視鏡治療で止め、胃酸を抑える薬を服用する

胃潰瘍が疑われる場合、内科や消化器内科などを受診しましょう。

▼潰瘍からの出血がない場合
薬物療法が基本です(下図参照)。 出血がない場合や、止血が成功したあとは、薬物療法が行われます。 まず使われるのは胃酸の分泌を抑える薬で、プロトンポンプ阻害薬と「H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)」があります。 これらが胃潰瘍治療の基本となる薬です。これに加え、胃の防御機能を高める「プロスタグランジン製剤」や「胃粘膜阻害薬」が使われることもあります。 薬を服用すると、症状は数日か1週間で治まりますが、潰瘍そのものはすぐには完治しません。 8週間ほど継続して服用することが大切です。 薬物療法により症状が治まっても、一般に胃潰瘍が治まるまでには2ヵ月程度かかるため、自己判断で薬の服用を中止せず、医師の指示に従うことが大切です。
胃潰瘍の治療

▼潰瘍から出血がある場合
出血を止めるために、内視鏡治療が行われ、患部を焼灼するなどして、止血します。 ほとんどの場合止血できますが、どうしても難しければ、手術が行われることもあります。 止血した後は、胃酸の分泌を抑える薬を服用します(下図参照)。 内視鏡治療では、一般に入院が必要で、出血が止まるまでの数日間は絶食します。 また、穿孔が起きた場合には緊急手術が必要です。
胃潰瘍の治療

●NSAIDsを使用している場合

過去に胃潰瘍が起こったことがある、70歳以上である、ピロリ菌に感染している、 関節リウマチなど自己免疫疾患の治療でステロイド薬を服用しているなどの場合に、 NSAIDsを使用していると胃潰瘍が起こりやすくなります。 そのような場合は、胃潰瘍を予防する目的で、胃酸の分泌を抑える薬であるPPI(プロトポンプ阻害薬)を服用することが勧められます。 また、すでにNSAIDsによる胃潰瘍が起こっているのに、他の病気の治療のためNSAIDsの服用を中止できない場合は、 胃酸の分泌を抑える薬を併用して、両方の病気の治療を行うのが基本となります。


●ピロリ菌感染がある場合の再発予防

ピロリ菌感染による胃潰瘍の場合は、治療によって一時的に胃潰瘍が治っても、除菌しないと再発の恐れがあるため、 ピロリ菌の除菌治療を受けることが必要です(上図参照)。