肝機能障害

さまざまな機能を果たす肝臓は、”化学工場”と呼ばれています。 しかし、肝臓には痛みを感じる神経がないため、多くの場合、病気がかなり進行しないと症状が現れないので”沈黙の臓器”ともいわれています。 多少のダメージを受けても症状が現れないので、肝臓の病気を早期に発見するためには、定期的に健康診断を受けて、 肝機能検査で自分の肝臓の状態を把握することが大切です。
肝機能障害・肝臓病には、 「B型慢性ウィルス肝炎」 「C型慢性ウィルス肝炎」などの慢性ウィルス性肝炎、 「脂肪肝」 「肝硬変」 「肝臓癌」 「薬剤性肝障害」 「アルコール性肝障害」などがあります。


■肝臓

肝臓は傷ついても正常な部位が補うため症状が現れにくく、沈黙の臓器といわれる

人間ドックを受けた際、異常が最も多く見つかるのはどの項目だと思いますか。 日本人間ドック協会の調査によると、生活習慣病に関する検査項目で最も多く異常が見つかったのは、肝機能障害(32.7%)でした。 肝臓は、横隔膜のすぐ下、胃の隣にあり、体の中で最も大きな臓器です。 右上腹部のほとんどを占めていて、1kgほどの重さ(体重の50分の1)があります。 肝臓には、酸素を心臓から運んでくる肝動脈と、二酸化炭素や老廃物を送り出す肝静脈という血管があります。 さらに、腸で吸収した栄養素を肝臓に運ぶ門脈という太い血管があります。 また、肝臓では胆汁という消化液が作られます。胆汁は胆嚢で一時的に溜められ、胆管を通って十二指腸に送られます。 そして、肝臓は「再生能力」「予備能力」という他の臓器にはない特殊な力を持っています。 肝臓の再生能力とは、肝細胞が炎症などによって壊れても、全体の4分の1が残っていれば数ヶ月で再生する力のこと。 予備能力とは、肝細胞が傷ついても他の正常な部分が働きを補う能力のことです。 肝臓は、障害がかなり進まないと症状が現れにくいため、沈黙の臓器とも呼ばれます。

体の中の”化学工場”と呼ばれる肝臓の主な働きは、4つに分けられます。


●肝臓の働き

肝臓は、人間の体にとって重要かつ複雑な働きを持っています。

▼有害物質の解毒・代謝
肝臓の働きとしてもっともよく知られているのが、アルコールの解毒です。 他にも、たんぱく質を分解する際にできるアンモニアを解毒したり、薬を分解するなどの働きもしています。 また、体内にある老廃物や、体外から入ってきた有害物質を無害な物質や水に溶けやすい形に解毒・分解して排出します。

▼栄養素の加工・合成・貯蔵
食べ物から取り入れた栄養素は、そのままでは体内に吸収することができないため、肝臓で別の形に変えられて貯蔵されます。 例えば、炭水化物に含まれていて体のエネルギー源となる ブドウ糖は、グリコーゲンに変えられて肝臓で貯蔵されます。 栄養が不足したときなどに、それが再びブドウ糖に変換されて血液中に戻され、エネルギー源として利用されます。 他にも、アミノ酸からタンパク質を作ったり、脂質を化学反応によって体に必要な物質に分解し合成して コレステロールなどを作ったり、止血に必要な物質なども作っています。

▼胆汁の合成・分泌(消化を助ける)
食べ物の消化に必要な胆汁を1日に700~1000ml作ります。胆汁は肝臓から分泌される消化液です。 この胆汁に含まれる胆汁酸は、脂肪を溶けやすい状態にして十二指腸に分泌し、食べ物が消化・吸収されるのを助けます。

▼体温の調節
必要に応じて、肝臓内に大量の血液を循環させ、血液量を調節することによって体温を維持します。

◆肝臓の異変は現れにくい

肝臓の病気を発症すると、肝臓に炎症が起こり、前述のような肝臓のさまざまな働きが低下します。 しかし、肝臓には痛みを感じる神経がないため、多くの場合、病気がかなり進行しないと症状が現れません。 肝臓の病気を早期に発見するためには、定期的に健康診断を受けて、肝機能検査で自分の肝臓の状態を把握することが大切です。


肝臓には、上記の4つの働き以外にも、古くなった血液中の赤血球や不要になったホルモンを分解するなど、200以上の働きがあるといわれています。 そのため、肝臓には再生能力と予備能力が備わっており、少しくらい傷ついても私たちの体を維持するために、頑張って働いているのです。 とはいえ、肝臓の再生能力や予備能力が追いつかないくらい肝機能が悪化すると、自覚症状が現れるようになります。 ホルモンバランスが崩れ、細い血管が広がって掌が赤くなったり、男性の胸が膨らんだりします。 肝臓病が起こる三大原因は、次のようなものです。

①ウィルスによるもの
肝臓病の中でも最も多いのが、ウィルス性肝炎。肝臓癌の原因の97%はB型・C型のウィルス性肝炎です。 日本のC型肝炎の患者数は約200万人。病気を自覚しないで治療を受けずに肝炎が進行している患者さんが少なくありません。 C型肝炎では約8割が急性肝炎を発症し、そのうちの約7割は慢性肝炎に進みます。 適切な治療を受けないと半数が肝硬変になり、そのうちの6割が肝臓癌を発症します。

②不規則な食生活や運動不足
過食や無理なダイエット、運動不足などによって肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まると、 肝臓の肥満ともいえる「脂肪肝」になります。 脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が30%以上溜まった状態のことです。 以前、脂肪肝はお酒を飲む人に起こりやすい病気といわれていましたが、 飲酒とは関係のない「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」という病気があることがわかってきました。 そして、NASHと呼ばれる非アルコール性脂肪性肝炎に進み、約10年で肝硬変になるリスクが高いといわれています。 さらには、心筋梗塞脳卒中などの危険も高まることがわかっています。

③過度の飲酒
過食による脂肪肝と同じように、 アルコールを摂り過ぎると肝臓に中性脂肪が溜まりやすくなります。 お酒を飲むときは、つまみも一緒に食べるので、さらに中性脂肪が溜まりやすい状態といえるでしょう。 過度の飲酒が肝臓にはよくないといわれてから、アルコール性の肝硬変はかなり減っていますが、 アルコール性の脂肪肝はそれほど減っていません。

肝機能を調べるうえで欠かせないのが、血液検査です。なかでも注目してほしいのが、「ALT、AST」の数値。 ALTもASTも肝細胞に含まれる酵素で、肝臓に異常が起こるとこれらの酵素が血液中に多く流れ出るようになります。 肝硬変になるとASTがALTより高くなり、数値の差が大きいほど肝硬変は進行していると考えられます。 肝炎ウィルスの有無に関係なく、ALTが高いと肝臓癌の危険度が高まります。 ウィルス性肝炎ではなくても脂肪肝炎が肝硬変や「肝臓癌」へ移行することがあるので、肝機能の検査値は非常に重要です。 肝機能値の改善は、肝臓の炎症を抑えて肝細胞が強化されていることを意味するからです。


■肝臓の病気

●肝臓病の原因

このように肝臓はとても重要な臓器ですが、その肝臓に病気を引き起こす主な原因の一つが、肝炎ウィルスです。 肝炎ウィルスには、A型、B型、C型、D型、E型などがあり、感染すると「ウィルス性肝炎」を起こすことがあります。 アルコール肥満なども肝臓に病気を引き起こす原因になります。 また、そのもの、あるいは分解されて生じた物質が原因で、薬剤性肝障害を起こすこともあります。

◆肝臓病の進行

肝細胞に中性脂肪がたまる「脂肪肝」や、 ウィルス性肝炎の一部は、肝臓に慢性的に炎症が起こる「慢性肝炎」になることがあります。 慢性肝炎が続くと、幹細胞が線維化して肝臓が硬くなる「肝硬変」へと進み、 「肝臓癌」へと進行する場合があります。 ただし、ウィルス性肝炎が原因で起きた慢性肝炎は、肝硬変を経ずに肝臓癌になることもあります。


■肝機能検査

まずは血液検査で、肝臓に異常がないかを確認する

健康診断で受けられる肝機能検査には、AST、ALT、γ-GTPの3項目があり、血液検査で調べます。 いずれも肝臓の細胞の中にある酵素で、肝臓の細胞が壊れると、これらの酵素が血液中に流れ出るため、数値が高くなります。 検査の結果、1つでも基準範囲より高い値があると、「肝機能異常」と診断されます。 肝機能異常があると診断されるのは、成人男性全体で、3人に1人程度の割合だと推定されています。 健康診断で肝機能異常があると診断されても、二次検査を受けない人が多くいます。 その背景として、異変を感じるような自覚症状がないことや、”お酒を飲み過ぎただけなので心配ない”という誤った思い込みがあるようです。
自覚症状が現れない肝臓の状態を知るのに、有効で簡単な検査が血液検査です。

●血液検査

肝臓や胆管に異変が起こると、肝臓中の物質が血液中に漏れ出します。 この血液中に漏れ出した物質の種類と量を測定することで、肝機能の程度や肝臓の異常を調べることができるのです。 肝臓について血液検査で調べる項目は、大きく2つに分けられます。

▼ウィルス性肝炎・脂肪肝・慢性肝炎を調べる項目
ALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP、ウィルス検査などがあります。
ALTとASTは、肝細胞の中にある酵素で、肝細胞が壊れると血液中に漏れ出てくるために値が上昇します。 特にALTは肝細胞にしか存在しない物質なので、肝臓の状態を調べる重要な目安です。 ALTやASTが基準範囲より高い場合は、肝臓の病気があることが疑われます。 その場合、ウィルス検査を受けて肝炎ウィルスの有無を調べます。 これで異常がない場合は、脂肪肝やアルコール性肝障害による慢性肝炎などが疑われます。 他の検査値に異常がないのにγ-GTPの値が基準値より高い場合は、アルコールなどが原因と考えられます。

▼肝硬変を調べる項目
血小板、血液凝固能、アルブミン、総ビリルビンなどがあります。
肝臓の線維化が進むと、血小板が壊されたりするため、血小板の数値が低くなります。 血液凝固能とは、血液を固める能力のことです。肝臓は、血液を固める物質も作っているので、肝硬変があると血液が固まりにくくなります。 アルブミンは、血液中に最も多く含まれるたんぱく質で、栄養状態の目安になります。肝臓で作られており、肝臓の働きが低下すると値が低下します。 ただし、値はすぐには低下せずに1ヵ月ほどかけて徐々に下がってくるため、この値が低い場合はすでに肝硬変になっていることが疑われます。 ビリルビンは、赤血球が壊れてできる黄色い色素です。総ビリルビン値は、肝臓の働きが低下すると上がり、黄疸があると非常に高くなります。 慢性肝炎や初期の肝硬変ではあまり上がらず、肝硬変が進むと高くなっていきます。 ところが、ALTやASTは、肝硬変に至ると、逆に下がることがあります。 良くなったと考える患者さんも少なくありませんが、実際は肝硬変が進行している可能性があるので注意が必要です。

自治体の特定検診や会社の健康診断で行われる血液検査で調べられるのは、ALT、AST、γ-GTPの3つです。 これらの項目に1つでも異常があれば、医療機関で詳しい検査を受けるようにしましょう。


●詳しく調べるための検査

血液検査で肝臓病の疑いがあった場合は、超音波検査、肝生検、肝臓の硬さを調べる検査などが行われます。 超音波検査は、おなかに超音波を発信する装置を当てて肝臓の状態を調べます。 肝生検は、超音波で位置を確認しながら、おなかの表面から肝臓に細い針を刺して組織の一部を採り、顕微鏡で調べます。 針を刺すので、痛みがあったり、まれに出血を起こすなどのリスクがあり、患者さんの安全を守るために入院して行われます。 これらの検査では脂肪肝の程度などがわかり、肝臓癌などの早期発見にも役立ちます。
肝臓の硬さを調べるのがMRエラストグラフィー超音波エラストグラフィーなどの新しい画像検査です。 MRエラストグラフィーはMRI(磁気共鳴画像)で撮影して硬さを色別に写し出します。 超音波エラストグラフィーは超音波を当てて硬さを調べます。患者さんの体への負担も少なく、入院せずに肝臓の状態を調べることができます。


肝臓は、”沈黙の臓器”といわれ、病気があっても気づきにくいのが特徴です。 最近では、体への負担も少なく肝臓の状態を詳しく調べられる前述のようなエラストグラフィー検査も登場しています。 健康診断や人間ドックなどの血液検査で異常が見つかった場合には、医療機関でさらに詳しい検査を受けることが大切です。


代表的な肝機能の基準値
ALT(GPT) 35以下 肝細胞に含まれる酵素。肝臓に炎症が起こると、血液中にALTのあふれ出る量が増える。肝炎など肝臓病で最も重視される数値
AST(GOT) 40以下 肝細胞に含まれる酵素。心臓の筋肉に多く含まれているため、ASTの数値が高い場合は肝臓の病気のほか、 心筋梗塞などの心臓病も疑われる
γ-GTP 50以下 胆管で作られ、解毒作用に関わる酵素。単独で高い人はアルコールの飲み過ぎが原因と考えられるが、 ALTやASTも高ければ脂肪肝も疑われる
ALP
(アルカリホスファターゼ)
2.8~8.4 胆管で作られる酵素。ALT、AST、γ-GTPも同時に上昇している場合は要注意
総ビリルビン 0.2~1.2 ビリルビンとは、ヘモグロビン(血液の赤い色素成分)が分解されてできる黄色い物質。 肝細胞の破壊が進むと血液中に出てきて、黄疸を引き起こす
血小板数 15万以上 ウィルス性肝炎の場合、血小板の数値が下がると病気が進行しているサインとなる


●健康診断の結果を見過ごさないで

健康診断などで肝機能異常があると診断されて下図に挙げる項目に当てはまる場合は、二次検査を必ず受けることをお勧めします。

当てはまる場合は必ず二次検査を

特に当てはまる項目がない場合でも、健康診断などでAST、ALT、γ-GTPの3つの値がいずれも2年続けて高かった人は、 肝臓の病気がある可能性が高いと考えられます。その場合も必ず二次検査を受けて、肝臓の状態を詳しく調べることが大切です。


●肝臓の病気を診断するための二次検査

二次検査では、次のような検査が行われます。

▼肝炎ウィルス検査
C型肝炎ウィルスやB型肝炎ウィルスに感染していないかどうかを、採血して調べます。

▼肝線維化マーカー検査
肝臓の硬さを調べます。肝炎ウィルスの感染や脂肪肝などで慢性の炎症が続くと、肝臓の細胞と毛細血管の壁の間に線維ができて肝臓が硬くなっていきます。 線維化の進行に伴って、血液中にこの線維の成分が増えるので、それを調べることで、肝臓がどの程度硬くなっているかがわかります。

▼腫瘍マーカー検査
肝臓癌の可能性を、採血して調べます。

▼超音波検査
体の外側から肝臓に超音波を当て、肝臓の断面の画像から、肝臓の状態を調べる検査です。 脂肪肝がないかどうかを調べます。

◆より精密な検査を行うことも

二次検査で、肝臓が硬くなっていたり、脂肪肝があることが分かった場合は、「肝硬変」を発症しているかどうかを調べる必要があります。 そのために行われるのが、前述した超音波エラストグラフィーやMRIエラストグラフィーなどの画像検査です。 これらの検査で肝臓の状態を詳しく確認して、診断と治療が行われます。