飲酒
体内に入ったアルコールは、およそ20%が胃で吸収され、残りの大部分が十二指腸や小腸で吸収されます。 その後、血管を通して全身を循環しながら、肝臓で次第に分解されていきます。 分解は、お酒の主成分であるエタノール→アセトアルデヒド→酢酸→二酸化炭素+水という過程で進みます。 ここで大切なことは、人によってアルコールを分解する酵素を持っていない人、少し持っている人、 たくさん持っている人がいるということです。 アルコールを分解する酵素をまったく持っていない人が日本人の約10%だそうです。 お酒をのんで湿疹がでたり、頭痛がひどくあらわれる人は、あまり無理をしないようにして下さい。 また、アルコールを分解する酵素が多い人も、1日に肝臓で分解できるアルコール量には限界がありますので、くれぐれもお気をつけ下さい。 多量の飲酒は「アルコール依存症」などいろいろな病気を引き起こします。
■アルコールの分解能力
アルコールの分解能力には個人差が。飲み過ぎれば酩酊、泥酔、昏睡に
お酒を飲むと血液中のアルコール濃度が上昇し、アルコールが脳に作用することで、脳の活動に影響が現れます。 それが”酔う”という現象です。血液中のアルコール濃度が少し上昇した程度では「ほろ酔い」ですが、濃度が高くなるにつれて、 「酩酊」「泥酔」と進み、さらに高くなれば「昏睡」、そして命に関わることさえあります。 血液中のアルコールは肝臓で分解され、アセトアルデヒドという物質になります。 これがさらに酢酸に分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。 ”お酒に強い”人はアセトアルデヒドの分解が速く進みますが、”弱い”人は分解に時間がかかり、 このアセトアルデヒドの作用で顔が赤くなったり、頭痛や吐き気が起こったりするのです。 アルコールの分解能力には個人差があり、体調によっても変化します。 自分の限度を知って、飲酒するときも、ほろ酔い程度に留めましょう。
◆「一気飲み」も危険
お酒は多量に飲むのも危険ですが、”一気飲み”のように短時間で飲むのも危険です。 2時間程度で、ビールなら500mL缶を2.5本(女性は2本)、日本酒なら2.5合(女性は2合)のペースを超えて飲むと、 急性アルコール中毒などの危険性が高くなります。
■アルコールについて
お酒に対する体質は、検査しなくても飲めば分かるのではと思われる方が多いのではないでしょうか?
それは、大きな間違いです。
・若い方は、飲酒の経験も、アルコールの知識もなく『お酒とは、飲んだら誰もが酔ってしまう』と思い込んでいる方は多いと思います。
・その結果『なかなか酔わないなぁ~』とピッチをあげ、急性胃炎のため吐血したり、
最悪急性アルコール中毒のため『死』に至る事の例も数多く報告されています。
●アルコール代謝のメカニズム
アルコールは
1.胃で20%吸収
2.小腸で80%吸収
アルコールは血管で体内に運ばれ、脳へと
3.大脳から奥へ酔いが進みます。
4.体はアルコールを薬とみて分解しはじめます。
5.アルコールは肝臓の酵素が分解します。
6.アルコール→アセトアルデヒド→二酸化炭素・酢酸へ
この酵素の働きの強弱でお酒の強さが決まります。
7.血中にアルコールが多いと気持ちがよくなります。
8.アセトアルデヒドが増えると気持ちが悪くなります。
●1時間あたりのADH1Bタイプ別のアルコール消失速度
・低活性タイプは1時間当たりのアルコール消失速度:7.14g
・高活性タイプは1時間当たりアルコール消失速度:8.09g
例えば:ビール(中ビン3本 500ml × 3 = 1,500mL)純アルコールgは60g
低活性タイプのアルコール消失時間は 60g ÷ 7.14 = 8.4時間
高活性タイプのアルコール消失時間は 60g ÷ 8.09 = 7.41時間
低活性タイプは高活性タイプに比べて約1時間の差が生じます。
●ADH1B・ALDH2とは
- ▼ADH1B(1Bアルコール脱水素酵素)
-
アルコールをアセトアルデヒドに変える酵素です。
ADH1Bの遺伝体質(タイプ)によってアルコールの分解能力が異なっており、 体質(タイプ)によって『お酒が飲める体質か、飲めない体質かどうか』を判定します。 酵素活性の判定は『低活性型』『活性型』『高活性型』の3タイプになります。 - ▼ALDH2(2型アルデヒド脱水酵素)
-
アセトアルデヒドを酢酸に変える酵素です。
ALDH2の遺伝体質(タイプ)によってアセトアルデヒドの分解能力が異なっており、 体質(タイプ)によって『お酒が強いか、弱いか、飲めないか、そして飲酒により、健康への影響が高いか』を判定します。 酵素活性の判定は『活性型』『低活性型』『非活性型』の3タイプになります。
※アセトアルデヒドは毒性が強く、これが蓄積(分解能力が弱い)とされると、顔が赤くなったり、動悸が早くなったり、気持ちが悪くなったりします。
●お酒に含まれる純アルコール量の計算方法
アルコール飲料に含まれるアルコールの量(グラム)= アルコール飲料の量(mL)× アルコール濃度(度数/100)× アルコール比重(0.8)
例1) ビール中ビン(またはロング缶)(500mL)1本
500(mL)× 0.05(5%) × 0.8 = 20グラム
ビール中ビン1本は2ドリンク
例2) 日本酒2合
180(mL)× 2 × 0.15(15%)× 0.8 = 43グラム
日本酒2合は、4.3ドリンク
■アルコール依存症は重大な病気。サインを見逃さない
多量の飲酒はさまざまな病気の原因となりますが、最も重大なのが「アルコール依存症」です。 依存症に至ると、毎日飲酒せずにはいられなくなり、飲む量を自分でコントロールできなくなります。 その結果、健康や日常生活に支障が現れても、飲酒をやめられなくなります。 これは、アルコールに関する脳の”ブレーキ”が壊れた状態といえます。 アルコール依存症は鬱病を合併していることが多く、 このような場合、飲酒が自死の引き金になることがあります。 アルコール依存症の患者さんは、全国で100万人以上いるとされていますが、治療を受けている人は5%ほどしかいません。 アルコール依存症のサインに気付き(下参照)、早目に医療機関を受診しましょう。 治療の基本はかつては完全に飲酒を断つ「断酒」でしたが、近年、飲酒量を減らすことでもある程度有効だとわかってきました。 今年(2019年)登場した「ナルメフェン」という薬には、お酒を飲みたい気持ちを抑える作用があり、 飲酒の1~2時間前に服用すると、飲酒量を減らす効果があります。
◆アルコール依存症のサイン
- ▼お酒に強くなり、飲む量が増えている
- ▼「ほろ酔い」では飲んだ気がしない
- ▼お酒を飲んで記憶を失うことがある
- ▼お酒を飲むことを優先した生活をしている
◆肝臓の病気、癌、認知症にも関係
多量の飲酒は、他にもいろいろな病気の原因となります。まず、アルコールを分解する肝臓にダメージを与え、肝硬変などを引き起こします。 口腔癌、喉の癌(咽頭癌、喉頭癌)、食道癌、肝臓癌、 大腸癌、 乳癌などの癌にも関係しています。 また、アルコールで問題を抱えている人は認知症を発症しやすいことが報告されています。 病気以外にも、暴力的になる、事故を起こしやすくなることなどで、仕事や日常生活に支障を来す場合があります。
■飲酒の適量
適度な飲酒量は、男性で1日20g、女性はこれより少なめに
「お酒はほどほどに」とよくいわれますが、節度ある適度な飲酒量とは、男性で1日に純アルコール量で20g程度、女性や高齢者はそれより少なめとされています。 もちろん飲酒による病気がある人には、飲酒は勧められません。また、他の病気がある人も、医師の指示に従ってください。 男性で1日20g程度が適度な飲酒量とされるのは、大規模な疫学研究で、1日20g程度の飲酒量の人の死亡リスクが最も低かったためです。 男性の場合は1日40g、女性の場合は1日20gを超えると、生活習慣病のリスクが高くなることもわかっています。
◆”休肝日”を設けて「楽しく飲む」
飲酒しない”休肝日”は、肝臓を休ませること、飲酒量の総量を減らすことに役立ちます。 最初は週に1日設けるようにします。また、ストレスの解消や眠りに就くことを目的とした飲酒はやめましょう。
【飲酒ゼロがよい?】
従来、”適度な飲酒は健康によい”とされていました。適度にお酒を飲む人のほうが、全く飲まない人よりも死亡率が低いという調査結果があったためです。
しかし、最近になって、195の国と地域の飲酒に関する研究を総合的に解析したところ、病気やけがなどのリスクが最も低くなるのは
「飲酒ゼロ」のケースであるという結果が出されました。
この結果を受けて、”適度な飲酒”が直ちに否定されるわけではありませんが、わずかな飲酒でもリスクになる可能性があることは、
知っておいたほうがよいでしょう。
■お酒と薬との飲み合わせは?
心臓の働きを活発にする強心薬は、アルコールによって、薬の分解が抑えられるため、 薬が体の中にある時間が長くなって思わぬ中毒症状を起こす場合があります。 また、血圧の薬は、血管を広げる働きがあるためアルコールといっしょに飲むと、血圧を下げる作用が強くなって、立ちくらみ、めまい等を起こすことがあります。 薬局店頭で販売している、ガスター10のような、胃液の分泌を抑える胃薬は、アルコールといっしょに飲むと、 アルコールを分解する酵素の働きを阻害して血液中のアルコール濃度が高くなり、頭痛がひどくなったり、 神経過敏などの症状があらわれることがありますので気を付けて下さい。 お酒を飲み過ぎて胸やけをするときは、三共胃腸薬や太田胃散のような胃薬のほうがいいようです。
■嫌酒薬について
お酒を飲んではいけない人や、お酒をやめたいが、なかなかやめられないと言われる方のために、「嫌酒薬」というものがあります。 医師の処方箋による薬で、シアナマイドやノックビンというのがありますが、 これらの薬は、肝臓でのアルコールを分解する酵素(アセトアルデヒド脱水素酵素)を阻害して、お酒の副作用である頭痛や、 吐き気のような症状を利用してお酒を嫌いにさせる薬です。この薬が効いているうちにお酒を飲むと、激しい苦痛に襲われます。 人によっては、肝臓機能障害が現れることがありますので、医師の管理のもとに服薬されることをおすすめします。