鬱病(うつ病)

●鬱病(うつ病)は患者さんによって状態が大きく異なり、それぞれに合った治療が必要。
●軽症の場合にはカウンセリングを中心に必要に応じて薬物療法などを行う。
●最近では、適度な運動も有効であることがわかっている。

■鬱病(うつ病)とは?

症状の重さや年齢などにより、効果的な治療法が異なる

鬱病(うつ病)』は強い憂鬱感や眠れないといった症状が続く病気ですが、 人によって病気の状態はかなり異なります。 そこで、治療に当たっては、「症状の重さ」「年齢」「もともとの性格」などを考慮する必要があります。 それらによって、効果的な治療法が異なるからです。 薬を飲んで安静にしていればよい、といった画一的な治療では、必ずしもうまくいくとは限りません。 日本うつ病学会では、2012年に『治療ガイドライン』をまとめました。 このガイドラインでは、鬱病を「軽症」と「中等症・重症」の2つに分け、それぞれの治療法について解説しています。 大切なのは、患者さんごとの鬱病のタイプを診察で見極め、それに合わせた治療が行われることです。


■代表的な症状は2つある

鬱病には、代表な症状が2つあります。1つは「抑鬱気分」で強い憂鬱感が1日中続くようになります。 「興味や喜びの消失」です。何事にも興味が持てず、喜びを感じることもなくまります。 さらに、「食欲がない」「眠れない」「イライラする」「自分を責める」「集中できない」「死にたいと思う」という症状が現れることもあります。 これら9種類の症状のうち、5種類以上があり、それが2週間以上続いて仕事や家事などに支障を来す場合に、鬱病と診断されます。 鬱病の発症には、さまざまな 「ストレス」が関係しています。 脳の「気分や意欲を司る部位」の機能低下が起こっていることもあります。 それらの影響により、「ものの見方」が否定的で悲観的になっていきます。 鬱病はこれらの要素が絡み合うことで起きているのです。


■鬱病の治療法

薬物療法と精神療法があり、重症度によって大別される

鬱病の治療は、「薬物療法」「精神療法」の2本柱で行われます。 薬物療法では、主に「抗うつ薬」が使われます。抗うつ薬は脳に作用し、気分や意欲を調整します。 精神療法は患者さんと医師が話し合うことで、患者さんの心に働きかける治療法です。 「カウンセリング」と呼ばれることもあります。近年注目されている「認知行動療法」も精神療法に含まれます。 鬱病の治療法は、重症度によって次のように大別されます。

▼軽症の場合
近年、鬱病の患者数は増えていますが、特に増えているのは、軽症の鬱病といわれています。 前述の9種類の症状のうち、当てはまる症状が5~6種類の場合に、軽症の鬱病と診断されます。 軽症の鬱病の場合、治療はカウンセリングが中心です。 ただし、薬物療法が有効でないわけではなく、必要な場合には薬物療法も行われます。 また、認知行動療法が行われることもあります。

▼中等症・重症の場合
軽症の場合よりも現れる症状が多く、重いのが中等症・重症の鬱病です。 軽症の鬱病に対する治療に比べ、薬物療法がより積極的に行われます。 薬物療法と並行して、カウンセリングや認知行動療法が行われることもあります。

●軽症の鬱病と薬物療法

軽症の鬱病に対する薬物療法は、慎重に行う必要があります。なぜなら軽症の場合にはカウンセリングがよく効くため、 薬物療法の効果がデータとして現れにくく、確実には示されていないからです。 また、軽症の鬱病の場合、必要以上に抗うつ薬が使用されると無用な副作用を招いてしまう恐れもあります そのため、軽症の鬱病の場合、抗うつ薬のような気分を上げる薬の使用には慎重になる必要があります。 ただし、必要があれば薬物療法が行われます。「過去に抗うつ薬が効いた」「鬱病の期間が長い」 「睡眠や食欲の障害が重い」「イライラが強い」「過去に重度化したことがある」などの場合には、軽症でも薬物療法が行われます。 抗うつ薬にはいろいろな種類がありますが、治療ガイドラインでは、 「SSRI」「SNRI」「NaSSA」といった比較的新しいタイプの薬を使うことが推奨されています。 また抗うつ薬は基本的に1種類だけを使用します。


■カウンセリングとは?

症状の辛さについて話したり、鬱病をよく理解する

カウンセリングは次の2つに分類されます

▼支持的精神療法
医師が患者さんの話をよく聞き、患者さんの辛さや苦しみを理解して共感する治療法です。

▼心理教育
鬱病は患者さんに誤解されていることが多い病気です。 正しい知識を持ってもらうため、鬱病という病気やその治療法について、わかりやすく説明します。 また治療薬に関する新しい情報などがあれば、それも提供します。

カウンセリングでは、医師と患者さんのコミュニケーションが大切です。 医師は専門家ですから、患者さんが特に気を遣う必要はありません。 我慢せずに悩みを相談するとよいでしょう。


■認知行動療法とは?

偏ったものの見方に気付き、少しずつ修正していく

認知行動療法は精神療法の一種です。誰でもものの見方には癖があり、そのために現実を歪めて捉えてしまうことがあります。 それが鬱病の発症と結びついていることがあるのです。認知行動療法はものの見方における歪みを、トレーニングによって修正していく治療法です。 例えば、会社勤めをしているある患者さんが仕事の報告書を上司に提出したところ、細かなミスを指摘されたとします。 鬱病がある人は、このことに対し”私はだめな人間だ””社会人失格だ”などと極端な考え方をして、落ち込んでしまったりします。 このような偏ったものの見方や捉え方を修正し、”誰にでも起こりうること”などと考え直すことで鬱病を改善していこうというのが認知行動療法です。


■日常生活で気を付けること

可能な時には、適度な運動を行うとよい

従来は、鬱病がある人には休養が必要であると考えられ、治療のために運動を勧めることはありませんでした。 ところが最近、軽症の鬱病の場合は適度な運動を行った方が改善が見込める、という研究結果も報告されています。 無理をする必要はありませんが、可能な時には適度な運動を行うことも勧められます。 また、飲酒に頼らないことも大切です。 飲酒によって鬱病の辛さから一時的に逃れられたとしても、酔いから覚めると、さらに憂鬱な気分になってしまいます。 そのため、酔いが覚めないように飲み続け、鬱病を悪化させてしまうことがあります。