働き盛りの鬱(うつ)
職場でも家庭でもストレスの多い、『働き盛りの世代の鬱病(うつ病)』が増加しています。 最初に身体症状が現れ、鬱病(うつ病)だと気づかないこともあるため、注意が必要です。
■働き盛りの鬱病(うつ病)
職場でも家庭でもストレスの多い30~50最大で増加
日本では、企業において”心の病”を持つ人が増えており、社会経済生産性本部の調査によると、 「社員の心の病が増加傾向にある」と答えた企業が、2002年に48.9%だったのが、2006年には、61.5%にも上っています。 30~50歳代の働き盛りの人の自殺者数は特に多く、鬱病(うつ病)やうつ状態がその背景にあると指摘されています。 また、最近は、鬱病あるいはうつ状態による自殺が、労災認定されることも増えています。
働き盛りの世代に鬱病が増えているのは、人員削減や効率化などによって仕事の量が増えたり、 昇進によって責任が重くなったり、さらには、日本の職場環境が終身雇用制や年功序列制から成果主義へと 急激に変化していることなどの昨今の苛酷な労働環境を背景となっていると考えられています。 また、それに加えて、人間関係の悩みや悩みがあっても相談する相手がいない、時間がないなどといったことも 関係していると考えられます。働き盛りの世代は家庭でも、子供の教育や親の介護など一家の大黒柱としての責任を 果たさなければならないことが多い世代です。つまり、働き盛りの世代は多くのストレスにさらされやすく、 それが鬱病(うつ病)の増加につながっているといえます。 働き盛りの鬱病(うつ病)のサインに早く気づいて、病気の進行を未然に防ぐことが大切です。
■働き盛りの鬱病(うつ病)のサイン
気分が沈み、仕事の能率が落ちる。身体症状が先に現れることも多い。
働き盛りの世代の人が鬱病(うつ病)を発症すると、「仕事の能率が落ち、イライラしたり怒りっぽくなったりする」
「気分が沈み、死ぬことを繰り返し考えるようになる」などの精神症状や、
「不眠」「食欲低下」「体重減少」などの身体症状が現れたり、
これらの症状を和らげようとして、飲酒量が増えることもあります。
鬱病(うつ病)では年齢が高くなるほど、精神症状よりも身体症状が先に現れやすくなります。
そのため、最初に精神科や心療内科以外の医療機関を受診して異常が見つからないと、
単なる不調や疲労と診断されがちです。
身体症状が現れているのに、検査などで異常がない場合は、鬱病(うつ病)も疑われます。
- ▼仕事の能率が落ちる
- 仕事の能率が落ちることで、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。 集中力や判断力が低下する。気分が沈むなどの精神症状も現れてくる。
- ▼飲酒量が増える
- 精神症状や身体症状などを和らげようとして、飲酒量が増えることがある。 さらには、危機管理ができなくなり、酔って喧嘩に巻き込まれることも。
- ▼不眠や食欲低下などの身体症状が現れる
- 気分が沈むなどの精神症状よりも先に、不眠やさまざまな身体症状が現れることも多い。 ただの体調不良だと考えて、精神科などを受診せず、なかなか原因がわからないこともある。
- ▼「死にたい」と何度も口にする
- 実際に30~50歳代の自殺者数は特に多い。「生きているのがつらい」「死にたい」などと何度も口にする場合は要注意。
■職場復帰に向けて
まずは休養をとって、治療をきちんと行う
治療に当たっては、”急がば回れ”という気持ちがとても大切です。鬱病(うつ病)を発症する人は責任感が強く、
まじめな人が多いため、仕事を休むことを拒否する人も少なくありません。
しかし、治療で最も大切なのは、自分の病気と向き合って、まずは休養をとり、きちんと治療することです。
そして、症状がよくなっても、あせって職場復帰しようとせず、調子がよい状態を長く保てるように自己管理します。
その際、再発を防ぐために、働き方やライフスタイルの見直しが必要です。
その後は、治療中に低下した体力や筋力、集中力や判断力を取り戻すため、散歩や読書などを通して
リハビリテーションを行います。自治体や企業、医療機関などでは「職場復帰支援プログラム」を行っているところもあり、
実際の業務を短時間行うなどして徐々に慣らしていく場合もあります。
職場に戻る段階になったら、復帰後の部屋や仕事内容などについて、職場の人、特に上司と話し合うことが必要です。
直接話しづらい場合は、担当医や産業医から話してもらう方法もあります。
- ▼休養をとり、抗うつ薬できちんと治療
- 通常、抗うつ薬の治療で、ふだんの調子が戻ってきたと感じられるようになるには、少なくとも3ヶ月は必要。
- ▼調子のよい状態を保つよう自己管理。自分のライフスタイルの見直し。
- 治療の効果が現れてきても、焦って復職せず、自分の状態を把握し、調子のよい状態を保つようにする。 鬱病(うつ病)の原因となった働き方やライフスタイルを見直すことも大切。
- ▼体力や筋力、判断力などを取り戻すリハビリテーション
- 治療中に低下した体力や筋力、集中力や判断力を、散歩や読書などを通して取り戻す。 職場復帰支援プログラムを利用する方法もある。
- ▼復帰後の職場環境についての話し合い。
- 職場復帰の際は、どのような部署に、どのような形で復帰するのかを、職場の人、特に上司とよく話し合う。
- ▼復帰
- 回復してきたら、規則正しい日常生活を送ることも大切。昼と夜のリズムを取り戻すために、 昼間に太陽の光を浴びて散歩するのもよい。
■職場復帰後の注意
周りの協力を得ながら、焦らずに徐々に回復する
一般に、鬱病(うつ病)は早期に発見し、適切な治療を行えば、治りやすい病気です。 しかし、再発しやすい病気でもあり、治った人の約半数が再発するといわれています。 復帰直後からフルパワーで働こうとせず、徐々に仕事の時間や量を増やしていくことが大切です。 また、職場の人たちも、再発を防ぐためにも、いきなり責任の重い仕事を与えたりせず、本人を焦らせない配慮が必要です。 家族も、叱咤激励せず、静かに見守ることが大切です。行動には気を配り、「よく眠っていない」「愚痴が増えた」など、 再発のサインが見られたら、すぐに受診を勧めてください。鬱病(うつ病)の治療では、家族も、患者や担当医と共に、 治療に取り組むことが重要です。
- ▼本人
- 「休んだ分の遅れを取り戻さなければ」と考え、復帰直後からフルパワーで頑張ろうとする人も多いが、 最初は無理をせず、徐々に仕事の量や時間を増やしていくことが大切。
- ▼家庭
- 「頑張れ」と励ましたり、遊びや旅行に無理に誘ったりするのは逆効果。 再発のサインがないか見守りながら、自然体で接するようにする。 重要な決定は先延ばしにさせることも大切。
- ▼職場
- 元気な様子を見て、いきなり責任の重い仕事を与えると、本人も頑張って働こうとするが、 再発を招くきっかけにもなる可能性がある。職場の人たちも本人を焦らせない配慮が必要。