産後鬱病(うつ病)

『産後鬱病(うつ病)』は、産後の生活環境の変化や心身の疲労、ストレスに加え、 女性ホルモンの分泌量の変化が影響して発症する鬱病(うつ病)です。 一人で何もかも抱え込んでしまうような人は注意が必要です。


■「産後鬱病(うつ病)」とは?

出産した女性の10~15%が発症

産後鬱病(うつ病)(産褥期鬱病(うつ病))』は、産後数週から数ヶ月で現れる鬱病(うつ病)で、 国内外の研究によると、出産した女性の10~15%が発症するといわれており、 出産前後のホルモン分泌の激変や、心身の疲労、ストレスなどが原因とされています。

多くの場合、出産は女性にとって大きな喜びです。しかし産後は、出産前と生活環境が大きく変わります。 育児や家事に追われ、思うようにゆっくり睡眠をとったり、食事を摂ったりすることが難しい日々が続きます。 また、「エストロゲン」などの女性ホルモンの分泌量は、産後に急激に変化します。 生活環境の変化が大きなストレスになると、女性ホルモンの分泌量の変化も影響して、心身が過労状態に陥り、 「不眠・食欲低下」などの身体症状、「倦怠感・気分が落ち込む」などの精神症状など、 通常の鬱病(うつ病)と同じ症状の他、「いらいら感」や、子育てに対する過剰な不安を抱くようになります。

こうした不安感などの精神症状や身体症状が高じてくると、やがて育児や家事が手に付かなくなってしまい、 育児に対して過度の心配や恐怖を抱いたり、子供に愛情がわかないと自分を責めたりすることもあります。 場合によっては、幼児虐待や育児放棄にもつながりかねない病気ですが、あまり広く知られておらず、 単なる育児疲れとして片付けられたり、「母親としての自覚がない」と言われたり、 自分自身でも「自分の頑張りが足りない」と思い込んだりして、治療を受けるのが遅れがちです。

出産後の女性に起こる、「憂鬱」「無気力」「不安感」「集中力の低下」などの症状は、 「マタニティーブルー」と呼ばれ、産後鬱病(うつ病)とは区別されています。 「マタニティーブルー」は、出産後の女性ホルモンの変化によって、 自律神経のバランスが乱れるために起こります。マタニティーブルーは出産した女性の10~30%が経験するもので、 長くても、2週間ほどで自然に治まります。
しかし、出産や授乳に伴うホルモンバランスの乱れに加え、産後の疲労や子育てに対する責任感もあり、 マタニティーブルーをきっかけに産後鬱病(うつ病)になってしまうことがあります。


■産後鬱病(うつ病)に注意すべき人

産後鬱病(うつ病)が起こりやすいのは、夫など周囲の人から十分なサポートが得られない場合です。 ”育児も家事も全部一人でやらなければならない”というような状況にある人は、注意が必要です。 また、「まじめで几帳面な人」ほど、育児や家事が自分の思うとおりに進まないと、 ”私は育児も家事も下手なんだ”と自分を責めてしまいがちです。こういう「悲観的な考え方」も、 産後の鬱病(うつ病)を招きやすいといえます。さらに、予定外の妊娠などで子育てに対する心の準備ができていない人も、 産後鬱病(うつ病)に要注意です。

●産後鬱病(うつ病)のサイン

産後鬱病(うつ病)が重くなると、子育てを怠るなど養育の質の低下につながりかねません。 そのため、産後鬱病(うつ病)のサインを見逃さないことが、とても重要になります。

▼子育てに対して過剰な不安を感じる
まじめで几帳面、悲観的な考え方をする人は、おむつ替えや夜泣き、子供栄養状態など、 子育てについて過剰に不安を感じ、自分を責めてしまいやすい。

▼育児や家事が手につかない
イライラ感や育児への過剰な不安などの精神症状や、身体症状が高じて、育児や家事が手に付かなくなってくる。

▼不安や食欲低下・倦怠感などの身体症状が現れる
育児のため、思うようにゆっくり睡眠をとったり、食べたりすることが難しくなることが引き金となって、 不眠や身体症状が起きることもある。

●産後鬱病(うつ病)の自己チェック

  • 気分がひどく落ち込む
  • 今まで関心があったものに対して、興味がわかない
  • いつも疲れているような気がする
  • あまり眠れない
  • 何かに対して不安な気持ちになることがよくある
  • いらいらする
  • 将来に対する希望が持てない
  • 集中力や記憶力が弱くなったと感じる
  • 自分を責める
  • 食欲がなくなる
  • 子供や夫に愛情を感じられない

「A」または「B」に該当し、なおかつ1~9の項目のいずれかに当てはまる場合は、 精神科医や心療内科医に相談を。(ただし、この表はあくまで目安です)


■産後鬱病(うつ病)の対処法と治療

産後鬱病(うつ病)の対処法で大切なのは、十分に休養をとって心身を休ませることです。 しかし、それでは、子育てがあるのに休まなくてはいけない、というジレンマを抱えてしまうことになるかもしれません。 その場合は、カウンセリングなどを受けることも大切になります。 また、心置きなく休養するためには、周囲の人や家族、特に夫の理解と強力が欠かせません。 夫が育児や家事を分担したり、親に育児を助けてもらったり、知人に育児の悩みを聞いてもらうなどして、 一人で何もかも抱え込まないことです。夫が家事や育児を分担することで、症状が改善した例はたくさんあります。

産後鬱病(うつ病)の治療の基本は、「抗欝薬」による薬物療法です。早く治療を始めれば、回復も早くなります。 ただし、抗欝薬は母乳から赤ちゃんに悪い影響を与える可能性があるので、 赤ちゃんに母乳を与えている場合で、薬物療法が必要なときは母乳を中止し、粉ミルクに替えて薬を継続します。

●自助グループに参加する

赤ちゃんのいる母親は家にこもりがちで、情報が入手しにくく、一人で悩みがちですが、 「インターネット」なら家にいても情報を入手・交換することができます。 インターネットを活用して、産後鬱病(うつ病)を経験した母親たちが、情報を交換したり、助け合ったりする 自助グループが各地に生まれており、ネットや交流会を通じて仲間と話し合うことで、 育児中の孤独な思いも軽減できます。仲間を求めている母親が意外に多いことも実感できます。 また、地域の保健所や子育て支援センターなどを積極的に利用して、継続して育児相談を受けることも ストレス軽減につながります。

●主な自助グループ・ホームページなど
「ママグループ支援研究会」 : TEL 0120-202-784(水曜10~16時)
「産後うつと戦う」
◆「のんびりママの会」:TEL 042-589-1260