高齢者の鬱病(うつ病)
『高齢者の鬱病(うつ病)』は、一般に若い人に比べ、重症化しやすいという特徴があります。 重症化すると、落ち着きがなくなり、食事もできなくなります。 妄想を抱くようになることもあります。さらに問題なのは、自殺する危険性が高くなることです。 高齢者の自殺の多くは、背景に鬱病(うつ病)があると、考えられています。 また、高齢になると環境の変化に加えて体の病気も増え、鬱病になるきっかけが増えてきます。 早期発見のために、高齢者特有の症状を知っておきましょう。
■高齢者の鬱病の特徴
他の世代より多く見られる。見逃されることも多い。
高齢者の鬱病(うつ病)は、他の世代に比べて多く、日本では高齢者の約8人に1人が、治療が必要な程度の鬱病(うつ病)であるといわれています。 また、高齢者の鬱病(うつ病)で注意が必要なのは、自殺の危険性が高いということです。
高齢になると、退職、家族や友人の病気・死、子供の自立など、大きな環境の変化によって落ち込むことがあります。 そのうえ、加齢によって脳の機能が衰えたり、体の病気が増えてきます。そのため、鬱病を発症するきっかけが増えます。 特に、高齢者に鬱病(うつ病)が多い原因として挙げられるのは、配偶者や友人など身近な人の死に直面する機会が増えることです。 身近な人との死別が大きなショックとなって心の張りが失われたり、孤独な生活となることで、鬱病(うつ病)を発症することは少なくありません。 また、年をとると、一般的に体の不調を訴えることが多くなります。高血圧や糖尿病、心臓病などの病気や、 膝や腰の痛みなど、慢性的な病気を抱える人も急増します。こうした身体機能の衰えに対する不安も、 鬱病(うつ病)を招きやすいといえます。 さらに、高齢者の場合、すでに仕事を辞めている人が多く、若いころに比べると、収入も減ってきます。 こういった経済面での先行きの不安も、鬱病(うつ病)の発症につながることがあります。
高齢者の場合、若い人の鬱病とは異なる特徴があります。 具体的には、心の不調により頭痛や胃痛、息苦しさ、痺れ、めまいなどの身体の不調の訴えが目立ちます。 高齢者の鬱病(うつ病)は、老化現象として放置されることが多いのが現状です。 鬱病(うつ病)のサインを見逃さず、早い段階で適切に対処することが大切です。
●高齢者の鬱病の診断
鬱病の診断基準は年齢にかかわらず同じです。
下記の項目のうち、上2つの症状のどちらか1つを含む5つ以上の症状が、ほとんど一日中、2週間以上続き、仕事や家庭などで何らかの問題が生じている場合に、
鬱病と診断されます。診断項目のうち、2・3・4・8の4つが高齢者に現れやすい症状です。
- 憂鬱・気分の落ち込み
- 興味や喜びの喪失
- 食欲の異常(特に体重減少)
- 睡眠の異常
- ソワソワする、または体が重く感じる
- 疲れやすい
- 自分を責める
- 思考力・集中力の低下
- 死にたいと思う
ただし、診断基準には、高齢者がよく訴える前述の「体の不調」は含まれていません。 診断する際には、こういった高齢者に特有の症状が現れていないかどうかも併せて考える必要があります。 高齢者に特有の症状には、頭痛などの体の不調のほかにも、妄想や不安・緊張などがあります。 妄想とは、現実ではないことを現実だと思い込むことです。 例えば、治る病気なのに”不治の病にかかってしまった”と激しく落ち込む心気妄想、 ”周りに人に迷惑をかけているから詫びなければ”と激しく思う罪業妄想、 実際にはお金があるのに”お金がなくて生きていけない”と思い込む貧困妄想などがあります。 不安や緊張は、強まると”死んだほうがまし”という思いに至ることもあります。死をほのめかす発言には注意が必要です。
◆検査
高齢者は他の年代に比べて病気になりやすいため、まずは他の病気の有無を調べます。 憂鬱な気分を引き起こしたり、鬱病を併発しやすい病気には、癌や認知症、 脳卒中、 パーキンソン病、 糖尿病、 アルコール依存症や甲状腺の病気などがあります。
- ▼CT(コンピュータ断層撮影)検査・MRI(磁気共鳴画像)検査
- 脳の断面図が得られる画像検査です。脳卒中や脳の萎縮の有無などを調べるのに役立ちます。
- ▼脳血流シンチグラフィー
- 脳の血流状態を画像で見ることのできる検査です。認知症の診断に役立ちます。
- ▼認知機能のチェック
- 認知症の有無を調べるテストです。医師が「今日は何年、何月、何日、何曜日ですか?」「あなたは何歳ですか?」などの質問をして、 患者さんに答えてもらいます。患者さんに図を見せて、真似をして描いてもらう検査もあります。 これらの検査は、仮性認知症の診断にも使われます。
- ▼神経の検査
- 歩行の状態を見たり、膝や肘の腱反射検査などが行われます。パーキンソン病や脳卒中など体に麻痺が現れる病気の有無を調べます。
●高齢者の鬱病の治療
高齢者の鬱病の治療は、基本的には他の年代と変わりはありません。患者さん本人と家族に病気の正しい知識を教える心理教育と、 患者さんの訴えに耳を傾けて悩みなどを共感する支持的精神療法が基本です(⇒軽症鬱)。 これらに加えて、他の治療も組み合わせることもあります。 薬物療法は、高齢者に多い食欲不振や睡眠障害、そして不安・緊張などの改善に効果的です。 ただし、高齢者では若い人に比べて薬が効きにくいうえ、副作用が出やすいというデメリットがあります。 修正型電気痙攣療法(ECT)が行われることもあります。これは脳に弱い電流を流して症状を改善する治療法です。 薬を使えない人や効果が出ない人、薬の副作用が強く出てしまう人などに行われています。 食欲が減退して極端に体重が減り自分では食事が摂れない場合や、不安や緊張が強く、死をほのめかしたりする場合は、入院治療が行われることがあります。
【関連項目】:『「高齢者の鬱病(うつ病)」の治療』
◆周りの人ができること
高齢者が鬱病の症状に苦しんでいても、本人も周囲の人も「歳のせいだ」と考え、受診が遅れがちです。 鬱病であっても認知症や他の病気であっても、早い段階での対処が大切です。 家族や周囲の人は鬱病のサイン(⇒「高齢者の鬱病(うつ病)」のサイン)を見逃さないようにしましょう。
<<周りが気を付けたいサイン>>
□習慣だったことができなくなった。
□無口になり、ボーっとしている。
□趣味や好きなことへの興味がなくなった。
□体に不調があるが、検査しても異常が見つからない。
□自殺をほのめかす。