高血糖症(糖尿病)

高血糖症(糖尿病)』は、血液に含まれるブドウ糖(血糖)の量が慢性的に多い状態です。 ブドウ糖は、 炭水化物を摂ることによって体内に取り込まれ、形を変えて肝臓や筋肉、脂肪組織などに蓄えられます。 身体を動かすときには、ブドウ糖が血液によって全身に運ばれ、筋肉などでエネルギー源として使われます。 肝臓や筋肉、脂肪組織がブドウ糖を蓄えておくためには、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが欠かせません。 インスリンの分泌量が減少したり、そのインスリンの働きが低下したりすると、肝臓や筋肉、脂肪組織はブドウ糖をうまく取り込めなくなります。 その結果、ブドウ糖が血液中に過剰に増えて、高血糖が起こります。

血液中のブドウ糖が多いと、全身の血管に負担がかかり、障害されていきます。 その結果、 「糖尿病網膜症」 「糖尿病腎症」 「糖尿病神経障害」が起こったり、血管が硬く厚くなる 「動脈硬化」が進行して 「脳梗塞」「心筋梗塞」などを引き起こしやすくなったりします。 日本では、戦後、糖尿病の患者数が増加を続けており、特に近年、急増しています。 この増加には、日本人には高血糖症(糖尿病)になりやすい体質を持つ人が多いことや、生活習慣の変化が関わっていると考えられます。 自分が高血糖症(糖尿病)になりやすいかどうか知っておきましょう。


■増加する高血糖症(糖尿病)患者数

糖尿病の可能性がある人が約2000万人に上る

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、2006年には820万人だった「糖尿病が強く疑われる者」が2017年にはは約1,000万人と推計され、 これに「糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備軍)」の約1,000万人を加えると、糖尿病の可能性がある人は2017年の時点で約2000万人に上ります。 国民全体に占める割合でいうと、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は12.1%で、男女別にみると男性16.3%、女性9.3%で、 「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12.1%で、男女別にみると男性 12.2%、女性12.1%です。 また、性・年齢階級別にみると、40歳代男性では治療を受けている割合が他の年代よりも低くなっています。 「糖尿病が強く疑われる者」のうち、現在治療を受けている者の割合は76.6%で、 男女別にみると男性で78.7%、女性で74.1%で、男女とも有意に増加しています。 このうち、過食や肥満などの生活習慣が原因の「2型糖尿病」が、その9割以上を占めています。


■高血糖症(糖尿病)とは?

食物から取り入れたブドウ糖は、 血液によって全身に運ばれ、エネルギーとして利用されます。 『高血糖症(糖尿病)』は、 血液中のブドウ糖である「血糖」の濃度を示す血糖値が高い状態が続く病気です。 血液中に含まれるブドウ糖(血糖)は、私たちの体のエネルギー源として生命の維持・活動に欠かせないものですが、 血糖がエネルギー源として働くためには、インスリンというホルモンによって調節されています。 インスリンは、膵臓の内分泌線であるランゲルハンス島にある「β細胞」から分泌される血糖降下ホルモンです。 インスリンは、食事などによって血液中のブドウ糖が増えると直ちに膵臓から分泌されます。 その働きによって、ブドウ糖が肝臓や筋肉、脂肪組織に取り込まれ、血糖値は正常に保たれます。 しかし、インスリンの分泌量が減ったり、インスリンの働きが低下したりすると、血液中のブドウ糖が肝臓や筋肉、脂肪組織に十分に取り込まれなくなり (ブドウ糖がエネルギーとして十分に利用されなくなり)、 その結果、ブドウ糖が血液中に多く残って血糖値が異常に高い状態が続きます。これが高血糖症(糖尿病)です。 そして高血糖状態が続くことによって体中の血管が傷つけられ、さまざまな合併症が起こります。

血液中に残った余分なブドウ糖は、腎臓から尿へ排泄されます(尿糖)。 高血糖の状態が長く続くと、やがて多飲、多尿、全身倦怠感など糖尿病に特徴的な病状が現れます。 たんぱく質や脂質などの代謝異常も起こってきます。 そして、血糖が正しくコントロールされずに進行すると、ときには失明や生命の危険にさらされるような重大な病気をもたらします。 さらに、高血糖の状態が続くと、その糖が膵臓のβ細胞のインスリン分泌能力を低下させ、インスリン抵抗性を高めてしまいます。 この状態は「糖毒性」と呼ばれ、さらなる高血糖を招くという悪循環に陥りやすく、糖尿病を進行させる要因ともなります。 糖尿病とわかったら、できる限り速やかに高血糖状態を解除する治療を行う必要があります。

糖尿病の多くは、「1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)」2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)」の2種類に分類されますが、 それ以外にも、膵外分泌疾患、内分泌疾患、肝疾患、薬剤、感染症、妊娠などでも「糖尿病」になります。


●1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)

ウィルスや細菌などの外的を攻撃するための免疫の働きが、 自分自身の膵臓の細胞を破壊してしまい、インスリンが分泌されなくなることで起こる糖尿病を1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)といいます。 1型糖尿病は若年者や子供に多く、膵臓のβ細胞が破壊されインスリンの絶対的欠乏状態によって引き起こされる糖尿病です。 この病型では体外からインスリンを投与しなければなりません。

【関連項目】:『1型糖尿病』


●2型糖尿病

「2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)」はインスリンの分泌量が低下したり、 分泌のタイミングが遅れたり、作用が弱くなったりして起こります。 成人とくに中高年に発症する糖尿病の大部分がこの型で、β細胞はあっても、ブドウ糖に対する インスリン分泌反応の障害やインスリン効果の低下(インスリン抵抗性)によって徐々に高血糖となります。 これは遺伝的な体質に、過食、運動不足、その結果としての肥満、加齢などの後天的な因子が加わって発症すると考えられています。 とくに肥満ではインスリンの作用が十分発揮できない状態となっています。

我が国の糖尿病の患者のほとんどは2型で、糖尿病になりやすい遺伝的体質や加齢に加えて、 肥満、食べ過ぎ、飲みすぎ、運動不足ストレスなどの生活習慣の関与が大きく、代表的な「生活習慣病」の1つとされています。 特に、肥満は糖尿病の原因になりやすいので要注意です。 症状としては、口渇、多飲、多尿、倦怠感、体重減少などがあり、 高齢者では糖尿病性の網膜症腎症神経障害などの合併症状が自覚症状の中心となることが多いようです。

2型糖尿病の治療方法には 食事療法運動療法薬物療法がありますが、 軽度な糖尿病では、食事療法と運動療法や生活療法が治療の基本となり、食生活や運動などの生活習慣を正しくすることで、 重症化を防ぐことができますが、ときには インスリン療法(インスリン注射)を行ったほうがよい場合あります。 重症化するとさまざまな合併症を引き起こすので軽度でも注意が必要です。


●その他のタイプ

▼妊娠が原因の糖尿病
最近注目されているのが、妊娠中に起こる妊娠糖尿病です。 妊婦の7~9%に発症するといわれていますが、詳しい原因はわかっていません。 妊娠糖尿病を発症すると、妊婦の妊娠高血圧症候群羊水量の異常などが起こりやすくなったり、 出産後に血糖値が正常に戻っても、中高年になって糖尿病を発症しやすくなったりします。 また、胎児の側にも、流産、巨大児(出生体重が4000g以上)、心臓の肥大などが起こるリスクがあります。 特に、肥満のある人、家族に糖尿病のある人がいる人、高い年齢での妊娠、以前に巨大児の出産経験のある人は注意が必要です。

妊娠が原因の糖尿病


■高血糖症(糖尿病)の原因

日本人の糖尿病の9割以上は、中高年に多く起こる「2型糖尿病」で、食べ過ぎや運動不足など生活習慣の乱れが原因で起こります。 例えば、もともと糖尿病を発症しやすい体質の人に、生活習慣の乱れがあると、 「肥満」「メタボリックシンドローム」に繋がります。 すると、インスリンの働きが低下してしまいます(インスリン抵抗性)。 膵臓は、インスリンの働きを補うために分泌量を増やしますが、やがて膵臓が疲弊し、インスリンの分泌量も減ってしまい、糖尿病が起こるのです。 2型糖尿病の発症には環境因子と遺伝因子という2つの要因が関わっています。

●糖尿病(糖尿病)の危険因子①【環境因子】

よくない食生活や運動不足が肥満やインスリンの作用低下を招く

高血糖症(糖尿病)の環境因子には、食生活や運動などの生活様式の変化や、それに伴って起こる肥満などがあります。

内臓脂肪型肥満
肥満は、インスリンの作用を低下させるため、高血糖症(糖尿病)の大きなリスクの1つです。 肥満かどうかは「BMI(体格指数)」で判定されます。 50歳代の男性の肥満度は、戦後、上昇を続けており、それに比例するように高血糖症(糖尿病)の患者数が増えています。

BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)
(25以上で肥満と判定されます)

肥満の中でも、特に内臓の周りに脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満は、糖尿病のリスクを高めることがわかっています。 内臓脂肪型肥満は、男性に多く見られ、お腹が前に突き出るような体型になります。 目安となるのは腹囲です。おへその位置で量った腹囲が、男性では85cm以上、女性では90cm以上ならば、注意が必要です。

高血圧脂質異常症
高血糖症(糖尿病)は、高血圧や脂質異常症と深い関わりがあります。 内臓脂肪が溜まると、糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症の発症にも繋がります。 それらが重なった状態はメタボリックシンドローム(メタボ)とも呼ばれます。

喫煙
喫煙も糖尿病の発症に影響します。日本人を対象にした研究から、喫煙により2型糖尿病のリスクが約38%高くなること、 また、喫煙本数が多くなるほどリスクが高くなることが報告されています。

食生活
食の欧米化などが進み、かつては20g程度だった日本人の1日の脂肪摂取量は、戦後約3倍に増えました。 特に動物性脂肪の摂りすぎや、食べ過ぎなどによる内臓脂肪の蓄積は、インスリンの分泌や作用を障害するといわれています。 また、食べ過ぎのほかにも、「1日の食事回数が1~2回」「夜遅くに食事を摂る」などの食生活や「飲酒」も肥満につながります。

運動不足
自動車の保有台数の増加は、運動不足の1つの現れといえるでしょう。 食べ過ぎても、その分体を動かせばエネルギーが消費されます。 しかし、運動不足で消費量が少ないと、肥満を招きます。 ただし、運動をするからといって、多く食べてもよいというわけではありません。

▼性別・年齢
糖尿病は、女性よりも男性に多く、また加齢に伴い発症しやすくなることがわかっています。

●高血糖症(糖尿病)の危険因子②【遺伝因子】

日本人にはインスリンの分泌が障害されやすい体質の人が多い

糖尿病の遺伝的要因とは、親から受け継いでいる、糖尿病を発症しやすい体質のことです。 特に問題となるのは、膵臓のインスリン分泌が不足する体質です。 このような体質の人が、肥満になった場合、インスリンの働きが低下するため、より糖尿病を発症しやすくなります。 日本人は、欧米人に比べて、インスリンの分泌が障害されやすい体質の人が多いことがわかってきました。 こうした遺伝子があるため、欧米人はBMIが30以上で高血糖症(糖尿病)を発症する人が多いのに比べ、 日本人はBMIが25程度の”小太り"でも高血糖症(糖尿病)になることがあります。 両親や兄弟姉妹に糖尿病のある人がいる場合は、現時点で肥満がなくても注意が必要です。 糖尿病を発症しやすい体質がある可能性を考えて、肥満にならないような生活習慣を心がけましょう。

◆高血糖症(糖尿病)と遺伝との関係

高血糖症(糖尿病)の起こりやすさを規定する遺伝子多型は、これまでに10種類ほど見つかっています。 1つの遺伝子多型によって高血糖症(糖尿病)になる確率は、その遺伝子型がない人の1.2~1.4倍程度とそれほど高くありません。 しかし、いくつかの遺伝子多型が複合的に働き、そこに肥満などが加わることで糖尿病を発症することがあるのです。 家族に高血糖症(糖尿病)の患者さんがいる人は、遺伝子を持っている可能性が高いと考えられます。 また、多くの場合、家族は生活習慣も似てきます。遺伝子を変えることはできませんが、生活習慣は変えられます。 生活習慣を改善すれば、多くの人は高血糖症(糖尿病)の発症を防ぐことができます。


■糖尿病の症状

糖尿病になっても、症状はほとんどありません。 進行して初めて、自覚症状が現れてきます。 糖尿病が進行してくると「多尿、口渇、多飲」「過食」「体重減」「だるい、疲れやすい」などの症状が出てきます。 症状がないまま進行するだけに、「血液検査」を受けて早期に発見することが重要です。

▼多尿、口渇、多飲
血液中に大量のぶどう糖があると(高血糖)、血液の浸透圧が高いために、血液を薄めようとして細胞の水分が血液のなかに出て、細胞の水分が失われます。 それに加えて、尿糖が出るために腎臓の尿細管のなかの浸透圧が上昇し、多量の水分が尿中に排泄されてしまいます。 1回の尿量も排尿回数も増えます(多尿・頻尿)。 普通の人の尿量は1日1~1.5リットルですが、糖尿病ではその1.5~2倍以上、ときには5リットルにも10リットルにもなることがあります。 このようにして体は脱水状態となり、のどがやたらに渇き、水を飲みたくなります。 実際、糖尿病患者の訴えのなかでもっとも多いのがのどの渇きです。 また多尿・頻尿は、しばしば夜間にトイレに行く回数が増えて気づかれます。

▼多食
糖尿病の人のなかには食欲が異常に旺盛になる人がみられます。特に甘いものを好むようになります。 インスリンの不足から、体のなかの栄養素が壊れ(異化)、空腹感が起きてたくさん食べるようになると考えられています。

▼体重が減る
かなりの速度で体重が減るようになると、重病の糖尿病といえます。 著しいインスリン不足のためにブドウ糖が十分利用されず、代わりに脂肪やたんぱく質が分解されてエネルギー源として使われて減り、 また大量のブドウ糖が尿に出てしまい、脱水も起きて、体重がどんどん減ります。

▼だるい、疲れやすい
全身や下肢のだるさ、こむら返りが起こる、疲れやすいなどと訴える人がかなりみられます。

▼傷が治りにくい
たんぱく質の合成が不十分で、しかも壊れていくために、体の修復能力が低下するため、傷が治りにくくなります。

▼感染しやすい
感染に対して抵抗力が弱くなるため、おできができやすく、また化膿しやすくなります。 カビにも感染しやすくなります。歯肉の炎症なども起こしやすく、歯槽膿漏にかかりやすくなります。 外陰部は、尿糖のためもあって細菌が繁殖しやすく、炎症を起こすと赤くただれたり、強いかゆみを起こすことがあります。

▼その他
『高血糖と合併症から起きる危険な自覚症状』
『糖尿病のサインの肩こり』
『糖尿病のサインのこむら返り』

■高血糖症(糖尿病)の検査・診断

糖尿病は、発症しても通常は自覚症状がありません。 しかし、そのままにしていると、全身に起こる重大な合併症になってしまいます。 そのため、早期発見が非常に重要となるのです。
早期発見のために必要なのが血液検査です。検査では、「空腹時血糖値」、空腹かどうかを問わない「随時血糖値」、 過去1~2ヵ月間の血糖値の平均的な状態を反映する「ヘモグロビンA1c検査」の値を調べます。 ヘモグロビンA1c検査では、血液中の赤血球にブドウ糖がどれだけ付着したかを調べます。 また、空腹時にブドウ糖液を飲み、血糖値の変化を調べる「経口ブドウ糖負荷試験」が行われる場合もあります。 空腹時血糖値検査は、10時間以上絶食してから、翌朝に血糖値を測る方法で、健康診断などで一般的に行われる方法です。 ブドウ糖負荷試験は、10時間以上の絶食後、75gのブドウ糖液を飲み、30分後、1時間後、2時間後に採血し、血糖値の変化を調べます。

【関連項目】:『糖尿病の検査・診断』


■糖尿病の合併症

糖尿病では、血液中のブドウ糖が過剰に増えた高血糖の状態が続きます。 高血糖が続くと、血管の内側の内皮細胞に多量のブドウ糖が入ってきます。 すると活性酸素という物質が発生して血管を傷つけます。 また、細胞の中でブドウ糖(血糖)がたんぱく質と結合し、 たんぱく質が変性してしまい、血管などの機能が保てなくなります。 このような結果、全身の血管が傷つけられて、さまざまな合併症が起こってきます。

●目、腎臓、高血糖によるダメージを受けやすい

糖尿病の合併症は、全身のさまざまな部位に及びます。 本来、血液中のブドウ糖は、全身の細胞に取り込まれてエネルギー源になります。 しかし、糖尿病があると、うまく取り込まれなくなり、血液中のブドウ糖が過剰になります。 この過剰に増えたブドウ糖が全身の血管を傷つけるために、さまざまな合併症が起こるのです。 合併症の中でも、「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」が、三大合併症と呼ばれます。 目、腎臓、神経は、いずれも細い血管が集中しているため、高血糖によるダメージを受けやすいのです。

▼糖尿病網膜症
眼球の奥にある網膜には、細い血管が網目のように走っています。そのため、血糖値の高い状態が続くと、網膜の血管が障害されて出血したり、 場合によっては網膜が剥がれる「網膜剥離」が引き起こされます。 特に、網膜の中央にある「黄斑」と呼ばれる部分に網膜剥離が及ぶと、視力低下が起こり、失明に繋がることもあります。 また、網膜の血管から漏れ出した血液成分が黄斑に溜まると、「黄斑浮腫」が起こり、さまざまな視力障害が起こり、さまざまな視力障害が現れます。

▼糖尿病腎症
腎臓は、血液中の老廃物や、余分な水分や塩分などを濾過して尿中に排出します。 この濾過の働きを担っているのが、細い血管が糸玉のように集まった糸球体です。 その糸球体が高血糖によって少しずつ壊されていくのが、糖尿病腎症です。 糖尿病腎症が進行すると、腎臓の代わりに機器を使って血液を濾過する透析療法が必要になることもあります。

▼糖尿病神経障害
糖尿病神経障害の現れ方はさまざまです。末梢神経が障害されると、足の痺れや痛み、感覚の麻痺などが起こります。 内臓の働きなどを調整する自律神経が障害されると、 胃のもたれ便秘排尿障害、勃起障害などが現れます。 糖尿病神経障害が起こると、足の感覚が鈍るため、足に小さな傷や火傷ができても気付きにくくなります。 また、高血糖によって免疫の働きが低下するため、感染症も起こりやすくなります。 動脈硬化も進むので、足の血行も悪化します。 これらが重なることで、小さな傷がどんどん悪化していき、壊疽に至ると、足を切断しなくてはならなくなることもあります。

●三大合併症を予防するには?

ヘモグロビンA1cの値を7%未満にすることを目標に血糖値を下げます。 高血圧や脂質異常症、喫煙などもリスクになるので、それらの治療と禁煙も行いましょう。 また、合併症が起こった場合にも、早期発見が重要です。 特に糖尿病網膜症や糖尿病腎症の早期には、自覚症状がほとんどありません。 ぜひ定期的に検査などを受けるようにしてください(下図参照)。

三大合併症の早期発見・対策のために

【関連項目】:『糖尿病の合併症』


●動脈硬化も進行する

三大合併症ほどには知られていませんが、糖尿病の合併症として、動脈硬化にも注意が必要です。 動脈硬化は脳梗塞心筋梗塞に繋がります。 糖尿病があると、脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクが高くなると考えられています。 糖尿病のある人の動脈硬化対策としては、早期の段階から、血糖値を十分に低くしておくこと、そしてその状態を長期間保つことが、やはり重要です。 また、高血圧や脂質異常症は動脈硬化を進める要因なので、血糖値のコントロールと併せて、その治療も行うようにしましょう。 禁煙も必ず行ってください。


●認知症や癌との関係

糖尿病があると、認知症を発症しやすいことがわかっています。 脳血管性認知症は、 糖尿病で起こりやすくなる小さな脳梗塞が関連していると考えられていますが、 アルツハイマー型認知症 などとの関連についてはまだ解明されていません。 糖尿病とについては、関係があることを示唆する研究報告はありますが、詳しいことはまだわかっていません。 ただし、膵臓癌については、 癌が原因で膵臓からのインスリン分泌が急に低下し、糖尿病に影響を与えることがわかっています。 糖尿病の状態が急に悪化した場合や、糖尿病を突然発症したという場合には、膵臓の詳しい検査を受けることが勧められます。


■糖尿病の治療

治療では、糖尿病の原因や状態によって働きの異なる薬を使う

2型糖尿病では、まず食事や運動などの生活習慣の改善を行います。 生活習慣の改善を2~3ヵ月続けても、血糖値が十分に下がらない場合は、併せて薬物療法を行います。 糖尿病の薬には、飲み薬と注射薬があります。


●飲み薬

働きによって大きく3種類に分類され、主に2型糖尿病の治療に使われます。 1つ目は、インスリンの分泌をよくする薬で、スルホニル尿素薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬があります。 スルホニル尿素薬とグリニド薬は、膵臓の細胞に作用します。 DPP-4阻害薬は、インスリンの分泌を促す作用を持つ、小腸から分泌されるホルモンが分解されるのを抑えます。 2つめは、インスリンの働きをよくする薬です。 肝臓からブドウ糖が放出されるのを抑えるビグアナイド薬と、筋肉や脂肪組織に作用して、インスリンの働きをよくするチアゾリジン薬があります。 3つ目は、ブドウ糖の吸収・排泄を調節する薬で、α-グルコシダーゼ阻害薬とSGLT2阻害薬があります。 α-グルコシダーゼ阻害薬は、小腸に作用して炭水化物がブドウ糖に分解される速度を遅らせます。 SGLT阻害薬は、腎臓に作用し、血液中に増えたブドウ糖の尿中への排泄を促します。


●注射薬

作用の異なる2種類の薬があります。 インスリン製剤は、膵臓から分泌されるインスリンと同じ働きの物質を薬にしたもので、皮下に注射してインスリンの不足を補います。 インスリンの分泌がない1型糖尿病では必須の薬で、必要に応じて2型糖尿病の治療にも用いられます。 また、妊娠糖尿病に対しても、安全性などの点からインスリン製剤が用いられます。 ただし、低血糖には十分に注意する必要があります。 GLP-1受容体作動薬は、膵臓の細胞に作用してインスリンの分泌を促し、主に2型糖尿病の治療に使われます。

【関連項目】:『糖尿病の治療』


■血糖値をどこまで下げるか?

糖尿病の治療の基本は、血糖値を下げることです。どこまで下げるかの目標値は、年齢や病状などによって異なります。

●ヘモグロビンA1cと血糖値の日内変動に注目する

糖尿病を治療する目的は、全身のさまざまな合併症を防ぐことです。そのために注目したいのが、次の2つの値です。

▼ヘモグロビンA1c
過去1~2ヵ月間の血糖値の平均的な状態を反映した値です。合併症を防ぐためには、ヘモグロビンA1cの値を7%未満に保つことを目指します。 しかし、患者さんによっては、無理をすると血糖値が下がり過ぎる低血糖が心配されるなど、 この目標を達成するのが難しい人もいます。その場合は、8%未満を目標にすることもあります。 反対に、食事や運動によって7%未満まで下げられる人や、糖尿病の薬を使っていても低血糖が起こる心配のない人は、6%未満を目標にします。

▼血糖値
血糖値は、一日の中で変動していますが、糖尿病があると、血糖値が全体的に高くなり、また一日の中で変動していますが、 糖尿病があると、血糖値が全体的に高くなり、また一日の中での変動も大きくなります。 糖尿病の治療では、早期の段階から確実に血糖値を下げて、良好な状態を維持することが大切です。 しかし、血糖値は”ただ下げればよい”というわけではなく、一人一人の患者さんに合った安全な血糖値の目標を設定することが大切です。 そのために、一日に何回か決められたタイミングで、患者さんが自分で血糖値を測定し、一日の血糖値の変動を調べることがあります(血糖自己測定)。 場合によっては、より詳しく調べるために、専用の機器を用いて持続的に測定することもあります。

●血糖値が下がり過ぎる「低血糖」に注意する

低血糖とは、薬の効き方や体調などによって、血糖値が下がり過ぎた状態です。 通常は血糖値が70mg/dL未満の状態をいいます。

◆低血糖が起こりやすい薬

低血糖は、基本的に糖尿病の薬が効き過ぎることによって起こります。 糖尿病の薬は、「インスリン製剤」「インスリンの分泌を増やす薬」「インスリンの働きをよくする薬」「糖の排泄を促す薬」に大きく分けられます。 このうち、最も低血糖が起こりやすいのは注射薬のインスリン製剤です。 血糖値を強力に下げる働きがある反面、低血糖が起こりやすいのです。 インスリンを分泌を増やす薬の一つであるスルホニル尿素薬は、血糖値が高くない時に服用すると、低血糖が起こりやすい薬です。 また、同じタイプに分類されるグリニド薬も、スルホニル尿素薬ほどではないものの、低血糖のリスクがあります。 この他の薬で治療する場合は、低血糖は起こりにくいと考えられています。 しかし、飲み薬による治療では血糖値のコントロールが難しい場合や、血糖値が著しく高くなっている場合は、インスリン製剤による治療が欠かせません。 また、スルホニル尿素薬が最も効果を示す患者さんもいるなど、低血糖が起こる可能性のある薬が必要になる場合も、決して少なくないのです。 低血糖を防ぐため、まず自分が使っている薬が、低血糖が起こりやすいものかどうかを、担当医に確認しましょう。


●低血糖が起こりやすいとき

最も低血糖が起こりやすいのは、インスリン製剤やスルホニル尿素薬などを使っていて、食事を抜いたり、食事の量が著しく少なかったときです。 また、スポーツや仕事などで激しく動かしたときや、体調が悪い日にも、起こりやすくなります。 低血糖を起こさないためには、食事を一日3回規則的に、一定の量をしっかり摂ることが大切です。 体を激しく動かす場合は、その前後におにぎりやクッキーなど、血糖値を上げやすい食品を摂ります。 また、体調が悪くて食事が摂れない場合の対応や、薬の使い方について、事前に担当医に確認しておきましょう。 ただし、それでも低血糖が起こる場合はあります。低血糖に備えて、市販のブドウ糖を常に携帯しておき、低血糖が起こったらすぐに口に入れます。 それでも改善しない場合や症状が重い場合は、受診してください。


●高齢者では、寝たきりや認知症に繋がることも

高齢者の場合、低血糖が起こっても、冷や汗や動悸などの症状が現れにくく、気付きにくいため、重症化してしまうことがあります。 また、転倒して骨折し、そこから寝たきりに繋がる場合があります。 重症の低血糖が起こると、 認知症心筋梗塞脳梗塞の発症に繋がることもあります。 糖尿病を発症してからの期間が長い高齢の患者さんは、重症の低血糖が起こる可能性が高いので、普段から十分に気を付けるようにしましょう。