高齢者の糖尿病対策『老化に伴う合併症』

高齢者の糖尿病では、老化に伴うさまざまな障害が起こってきます。 ここでは、特に認知機能の低下とサルコペニアの対策について解説します。


■認知機能の低下

物忘れなどが起こり、糖尿病の治療が難しくなる

高齢者の糖尿病は、認知機能の低下認知症発症のリスクに影響すると考えられています。 さらに、認知機能の低下や認知症があると糖尿病の治療が難しくなり、悪化しやすくなります。

●ちょっとしたサインを見逃さない

認知症には、軽度認知障害(MCI)という予備軍の段階があります。 その段階で適切な対策をとれば、認知症への進行を防いだり、遅くできる可能性があります。 そのためには、薬が残っている、料理をしなくなった、外出をしなくなった、といった日常生活の中でのちょっとしたサインを 周囲の人が見逃さないことが大切です。サインに気付いたら、まず、担当医に相談して、物忘れ外来、老年科、神経内科、精神科 などの認知症に詳しい医療機関を受診し、検査を受けてみましょう。


●日常生活での工夫

▼運動不足の場合
運動不足は、認知機能の低下を進行させる原因にもなります。自治体などで開かれている運動教室に参加したり、家族が患者さんを散歩に誘ったりして、 体を動かす機会を増やすようにします。認知機能の低下が進んでいる場合は、介護サービスのデイケアやデイサービスを利用することが勧められます。

▼薬の管理が難しい場合
担当医に相談して、薬をできるだけ単純化してもらいます。飲み薬は、1日1回のタイプに変えることができる場合もあります。 他の病気もあり、薬の種類が多い場合は、種類を減らせないか検討します。 薬を朝・昼・晩、寝る前ごとに仕分けて入れておける、お薬ボックスやお薬カレンダーの活用もお勧めです。 また、重症の低血糖は認知症のリスクを高める可能性があります。低血糖を起こしやすい薬を使っている場合は、担当医に相談してください。

▼食事療法が難しい場合
一人暮らしの場合などは、調理済みの総菜を購入したり、食事の宅配サービスを利用する方法もあります。 介護サービスを利用して、食事を作ってもらう方法もあります。 さらに、社会参加も認知機能の維持によいとされています。 友人と会話をしたり、町内会などの集まりや糖尿病の患者会などに積極的に参加してください。

■サルコペニア

糖尿病があるとインスリンの効きが低下し、発症しやすくなる

サルコペニアとは、筋肉量が減ることに加えて筋力が低下し、身体機能が低下した状態です。 糖尿病があると、筋肉でインスリンの効きが低下し、筋肉のもとになるたんぱく質を作る作用が低下するため、サルコペニアの進行が速まると考えられています。 青信号で横断歩道を渡り切れない、雑巾を絞り切れない、何もないところで躓く、歩いていて人に追い越される、太腿が痩せた といった場合は、サルコペニアが疑われます。医療機関では、歩行速度や握力、筋肉量を測定して診断します。


サルコペニア


●日常生活での工夫

▼食事の工夫
高齢者の場合、低栄養や体重減少を防ぐために、エネルギー不足を避けます。 筋肉をつけるために、たんぱく質を多く含む肉、魚、乳製品、 大豆製品、卵などを積極的に摂りましょう。 とはいえ、長年の食事の傾向を急に変えるのは難しいものです。 あまり厳しく考え過ぎず、好みや従来の食事パターンも考慮して、楽しんで食事を摂ることも大切です。

▼転倒リスクを減らす
サルコペニアがあると身体機能が低下するため、転倒しやすくなります。転倒は、骨折や寝たきりに繋がります。 転倒や骨折を防ぐには、簡単にできるレジスタンス運動(下図参照)を行い、筋肉量を増やします。 低血糖を起こすと、ふらつきの原因となり、転倒する危険があります。 また、ヘモグロビンA1cが8.0以上だと転倒・骨折しやすくなるという報告もあるので、適切な血糖コントロールが必要です。 薬の種類の数が多いと、低血糖や転倒を起こしやすいといわれているため、担当医と相談して薬を見直してもらいます。 住宅内での環境整備も大切です。階段や床を滑りにくくする、絨毯のほころびを直すといった転倒を防ぐ工夫を行いましょう。

レジスタンス運動