高齢者の糖尿病対策『加齢の影響と血糖目標』

高齢になると身体機能が低下してきます。それに伴い高齢者糖尿病は、 食後高血糖や薬の副作用、老年症候群など、新たに注意すべきことが増えてきます。 また、高齢者の糖尿病では、重症の低血糖や高浸透圧高血糖状態が起こりやすいので注意が必要です。 重症の低血糖は意識障害が起こり、転倒・骨折、寝たきりなどに繋がります。 したがって、高齢者の糖尿病では、加齢の影響を考慮した 血糖コントロール目標が必要になります。


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■糖尿病とは?

インスリンの分泌や働きが低下し、血液中にブドウ糖が増える

『糖尿病』は、血液中のブドウ糖の濃度を表す血糖値が慢性的に高くなる病気です。 ブドウ糖は、炭水化物を摂ることで体内に取り込まれ、形を変えて肝臓、筋肉、脂肪組織に蓄えられます。 そして血液によって全身に運ばれ、エネルギー源として使われます。 ブドウ糖を蓄えておくには、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの作用が欠かせません。 インスリンの作用が低下してブドウ糖を十分に蓄えられなくなると、血液中に過剰にブドウ糖が増えて、血糖値が高くなってしまいます。

●なぜインスリンの作用は低下する?

インスリンの作用が低下する主な原因の1つが、インスリンの分泌量の不足です。 もう1つは、インスリンが十分に効かない(インスリン抵抗性)ことで、肥満(特に内臓脂肪型肥満)運動不足脂肪が多い食事などによって起こりやすくなります。


●糖尿病が高齢者に多い理由

糖尿病が高齢者に多い主な理由は、膵臓のインスリンを分泌する力が低すぎるためです。 また、加齢に伴い内臓脂肪が増えるとインスリンの効きが悪くなったりします。 筋肉量の減少身体活動量の低下も、インスリン抵抗性の原因になります。 糖尿病には1型と2型があり、加齢や肥満が関係するのは、90%以上を占める2型糖尿病です。


●合併症に注意

糖尿病を放置していると、全身の血管が障害されて、さまざまな合併症が起こってきます。 動脈硬化などのように加齢に伴って増えてくる合併症があるので、より注意が必要です。

▼糖尿病網膜症
目の奥の細い血管がもろくなり、出血したり、詰まったりします。視力低下が起こり、失明することもあります。

▼糖尿病腎症
尿にたんぱくが出てきて、進行すると腎臓の老廃物を排泄する働きが失われていきます。 加齢による腎臓の働きの低下に伴い、さらに進行しやすくなります。 透析療法を導入する原因の1位です。

▼糖尿病神経障害
足の末梢神経が障害されて、足先や足裏にしびれや痛みを感じます。 転倒や骨折につながるだけでなく、進行すると壊疽を起こして、足を切断することもあります。

▼動脈硬化
太い血管が障害され、脳梗塞心筋梗塞を起こす危険性が高まります。 加齢とともに進行するので、高血圧、脂質異常症がある場合は、糖尿病と併せて、その治療も行います。 また、喫煙も動脈硬化を進める大きな原因です。喫煙している人は必ず禁煙しましょう。

■高齢者の糖尿病の注意点

食後高血糖や老年症候群など、注意すべきことが増えてくる

高齢者では、他にも注意が必要です。

▼食後高血糖
食後は、誰でも血糖値がある程度高くなります。糖尿病のある人では、食事を摂って1時間半~2時間後の血糖値が高くなりやすく、 この状態を繰り返すと、動脈硬化が進むといわれています。 高齢者は、食後高血糖が起こりやすくなっているので、「食事をゆっくりする」「食物繊維を多く摂る」「薬を使う」などの対策によって 食後の血糖値を下げることが大切です。

▼薬の副作用
薬の成分を分解する動きや、薬を排泄する働きが、加齢とともに低下します。 すると、体内に薬が長くとどまるため、効きすぎてしまい、低血糖などの副作用が現れやすくなります。

▼老年症候群
加齢に伴い、心身に様々な症状が出てくるのが老年症候群です。75歳以上の後期高齢者に多く起こり、生活の質を低下させて、要介護や死亡の原因にも繋がります。 主なものに、認知機能の低下やADLの低下があります。ADLとは、日常生活を行う能力のことです。 これらが低下すると買い物、食事の準備、薬や金銭の管理などができなくなります。 さらに低下すると入浴、トイレ、着替え、移動なども困難になります。 筋肉量が低下すると買い物、食事の準備、薬や金銭の管理などができなくなります。 さらに低下すると入浴、トイレ、着替え、移動なども困難になります。 筋肉量が低下するサルコペニア、転倒や骨折、うつ症状、低栄養、尿失禁なども老年症候群です。 老年症候群の原因には、高血糖や低血糖、運動不足、低栄養、社会的サポートの不足などがあります。 糖尿病のある高齢者は、糖尿病がない人の約2倍、老年症候群になりやすいとされています。
さらに、糖尿病は、老年症候群の原因になるだけでなく、老年症候群があることで糖尿病の治療が難しくなり、 進行しやすくなるという悪循環に陥ることもあります。

そのほか、高齢者の糖尿病では、重症の低血糖や高浸透圧高血糖状態が起こりやすいので注意が必要です。 重症の低血糖は意識障害が起こり、転倒・骨折、寝たきりなどに繋がります。

高齢者の糖尿病


■高齢者の糖尿病の治療方針

合併症の予防に加え、生活の質の維持・向上を目指す

高齢者の糖尿病の治療は、合併症の予防に加えて、老年症候群の予防や生活の質の維持・向上が重要な目的です。 そうした治療方針に応じて、高齢者独自の血糖コントロール目標が定められました。 一般に、合併症を防ぐための血糖コントロールの目標は、ヘモグロビンA1c(HbA1c)で、7.0%未満です。 高齢者は重症の低血糖を起こしやすく、重症の低血糖は認知機能やADLを低下させます。 そのため高齢者は、低血糖を起こさないよう、”より安全を重視した”血糖コントロールが大切になります。 また、高齢の糖尿病の患者さんで認知機能やADLが低下している場合は、患者さん自身や家族の負担を軽減するためにも、生活の質を保つことを重視して、 ”緩やかな”血糖の維持を目指します。

●高齢者の血糖コントロール

高齢者は、認知機能やADLの状態と、重症の低血糖が心配される薬の使用の有無で、目標値が異なります。 低血糖が心配される薬を使っていない場合で、認知機能やADLが介護が必要なほど低下している場合は8.0%未満と緩めます。 副作用で重症の低血糖が心配される薬は、インスリン製剤、スルホニル尿素薬、グリニド薬です。 これらの薬を使っている場合は年齢も考慮して、認知機能とADLの状態に応じて、やはり7.5~8.5%未満と緩めます。 なお、重症の低血糖が心配される薬を使う場合は、安全性を考慮して、「これより低い値は目指さない」という下限値が決められています。 これらの血糖コントロール目標はあくまでも目安です。実際は患者さんの糖尿病以外の病気、心理状態、希望なども考慮し、 その人に合った目標値を決めます。、


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