糖尿病予備軍(境界型糖尿病)
「糖尿病」のある人と健康な人の間の血糖値である「境界型」。 血糖値が少し高めの「境界型糖尿病」は「糖尿病予備軍」ともいわれ、糖尿病発症の危険性が高い状態です。 ”まだ糖尿病ではない”と安心するのではなく、糖尿病を予防するための対策をとらなければなりません。 糖尿病予備軍なのかどうかを知るには、血糖値を調べる検査を受ける必要があります。 検査の結果、もし、「境界型」と判定されたら、生活習慣の見直しを行う必要があります。 血糖値が少し高い程度でも、 肥満や 脂質異常症、 高血圧などが重なっていると、血管の障害が進行し、 動脈硬化が早く進むことがわかっています。
■「糖尿病予備軍(境界型糖尿病)」とは?
約10年後にはおよそ半数の人が糖尿病を発症する
現在、日本では、中高年の約12%が糖尿病を発症していると推定されています。 さらに、糖尿病ではないものの、発症の危険性が高い「糖尿病予備軍」の人は、約21%にも及ぶといわれています。 糖尿病にはいくつかの種類がありますが、このうち生活習慣が大きく関係する「2型糖尿病」は 40歳代始めに発症する人が最も多く、中高年に注意が必要な病気と思われています。 しかし、糖尿病予備軍の状態は、糖尿病を発症する5~10年前から始まると考えられていますから、実際には、比較的若い30歳代から注意が必要なのです。
糖尿病になる前には「境界型」といわれる段階があり、この段階を一般に「糖尿病予備軍」と呼んでいます。 糖尿病予備軍(境界型)といわれる人のうち、どのくらいの人が糖尿病を発症するかというと、 ”約10年後にはおよそ半数の人が糖尿病を発症する”という研究データがあります。 血糖値が正常な人が10年後に糖尿病を発症する確率は約16%ですから、その3倍以上の確率で糖尿病を発症しているわけです。 また、これまでは正常型とみなされていた人たちの中にも、糖尿病予備軍がいることがわかってきました。 「ブドウ糖負荷試験」で1時間後の血糖値が180mg/dL以上へ上昇した人は、たとえその後の値が正常でも、10年間で約31%が糖尿病になることが明らかになりました。
■糖尿病予備軍の判定
2つの検査から判定される
糖尿病は、初期には自覚症状がほとんどありません。 さらに程度の軽い糖尿病予備軍の段階では、自分で異常に気づくことはまずないといってよいでしょう。 糖尿病予備軍を発見するには、自覚症状がなくても検査を受けることが重要です。
糖尿病や糖尿病予備軍の判定には、「空腹時血糖値検査」と「ブドウ糖負荷試験」の2つの検査が行われます。 どちらも、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度(血糖値)を調べます。 空腹時血糖値検査は、検査前日から10時間以上絶食し、空腹時の血糖値を調べる検査です。 ブドウ糖負荷試験では、検査前日から10時間以上絶食し、75gのブドウ糖を溶かした液体を飲み、食後と同様の状態にしてから血糖値の変化を調べます。 空腹時血糖値が110mg/dL未満、かつブドウ糖負荷2時間後の血糖値が140mg/dL未満であれば「正常型」で、 空腹時血糖値が126mg/dL以上、あるいはブドウ糖負荷2時間後の血糖値が200mg/dL以上であれば「糖尿病型」とされます。 そして、そのどちらにも当てはまらないのが「境界型」、いわゆる「糖尿病予備軍」です (糖尿病の検査・診断)。 ただし、通常の検査で調べるのは空腹時血糖値なので、食後だけ血糖値が高い人は見逃される可能性があります (隠れ糖尿病)。
境界型の診断基準は、上記のように空腹時血糖値が110mg/dL以上ですが、しかし、それ未満であっても 100mg/dL~109mg/dLの人は100mg/dL未満の人より、糖尿病に移行する確率が高いことがわかっています。 そのため、糖尿病学会では100~109mg/dLを「正常高値」とし、糖尿病への移行を防ぐための生活習慣の改善が大切だとして、注意を促しています。 また、”メタボ健診”とも呼ばれる「特定健康診査」では、この値が採用されています。
■糖尿病に進行しやすい人
遺伝的体質、よくない生活習慣、内臓脂肪型肥満が発症を促す
糖尿病予備軍の中でも、糖尿病に進行しやすい要素がいくつかあります。
- ▼遺伝的体質
- まず、家族に糖尿病の患者がいるなど、糖尿病になりやすい遺伝的体質を持っていることが挙げられます。 よく「糖尿病は生活習慣病」といわれますが、その発症には生まれつきの体質も深く関わっていると考えられ、 実際には、生活習慣だけの問題ではなく、糖尿病になりやすい遺伝子を持つ人が、 過食や運動不足といった生活を送ることで、非常に発症しやすくなるということです。 日本人にはこの遺伝子を持っている人が多く、糖尿病予備軍の人は、そういった人たちであると考えられます。 つまり、糖尿病予備軍の人の糖尿病予防とは、”糖尿病になりやすい遺伝子を持った人たち”の糖尿病予防ともいえます。 また、糖尿病の発症のしやすさには、人種間で差もあります。 欧米人の糖尿病の患者には高度の肥満の人が多いのですが、アジア人はそれほど太っていなくても、糖尿病になる傾向があります。
- ▼よくない生活習慣
- 食べ過ぎや運動不足などのよくない生活習慣は、糖尿病発症の危険性を高めます。
- ▼内臓脂肪型肥満
- 太っている人、特に腹部の内臓の周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」の人は要注意です。 内臓脂肪が多いと、「インスリン抵抗性」といって、ブドウ糖をエネルギーに変える「インスリン」というホルモンの効きが悪くなり、 糖がエネルギーとして使われず、血液中に溜まってしまうのです。 糖尿病予備軍から抜け出すためには、まず、お腹に溜まった内臓脂肪を減らすことが不可欠です。 また、内臓脂肪型肥満は、「メタボリックシンドローム」と深く関係しています。
■メタボリックシンドローム
糖尿病予備軍の人は当てはまることが多いので要注意
「メタボリックシンドローム」とは、 内臓脂肪型肥満で、かつ、 脂質異常、 高血圧、 血糖3つのうち2つ以上当てはまる状態です。 高血糖の基準値は、空腹時血糖値が110mg/dL以上で、糖尿病予備軍の判定基準と同じです。 つまり、糖尿病予備軍で内臓脂肪型肥満のある人は、メタボリックシンドロームである可能性がかなり高いと考えられます。 メタボリックシンドロームが危険なのは、それぞれの異常の程度は軽くても、いくつか併せ持つことで、 「心筋梗塞」や 「脳梗塞」といった病気の原因になる 「動脈硬化」を進行させたり、 生活習慣病の発生につながったりしやすい状態である点です。 特に内臓脂肪が多いと、インスリン抵抗性が生じやすく、血糖値が上がりやすくなって、糖尿病に進行する可能性が高くなります。
■糖尿病発症予防のための健診制度
血糖値は特に基準が厳しい
メタボリックシンドロームの人やなりやすい人を発見し、生活習慣病などの発症を予防するための 「特定健康診査・特定保健指導」が2008年4月から始まりました。 40~74歳の公的医療保険加入者が対象で内臓脂肪型肥満の有無を腹囲で判定し、血中脂質、血圧、血糖値などからメタボリックシンドロームの有無を調べます。 血糖に関しては、空腹時血糖値が100mg/dL以上または、過去1~2ヶ月間の血糖の状態がわかる「HbA1c」が 5.6%以上の場合に特定保健指導の対象となります。 さらに、食事や運動、喫煙などの生活習慣病の発症リスクが高いと考えられる場合は、その程度に合わせて 特定保健指導が行われます。 必要に応じて、ブドウ糖負荷試験などの詳しい検査も行います。 特定健康診査に限らず、企業や地域でも健康診断など、糖尿病や糖尿病予備軍を発見する機会はたくさんあります。 こうした検査をきちんと受けて、血糖値に気を配っておくことが大切です。