高血圧症

高齢社会の到来と共に増加の一途をたどり問題視されているのが高血圧症です。 一般に、血圧は「加齢」とともに高くなります。 老化などで血管が弾力を失い、沈着物によって血管壁が細くなると、血流が悪化して血管にかかる圧力が高まり、血圧が上昇してきます。 そこへ、「遺伝的要因」や「肥満」、 さらに「 塩分の摂りすぎストレス運動不足喫煙過度の飲酒」などの「生活習慣」が加わると、高血圧症になります。

私たちの体内では、ポンプの役割を担う心臓が収縮するたびに、「動脈」と呼ばれる血管を通して新鮮な血液が全身へと送り出されています。 そうして血液を送り出した後、今度は心臓が拡張し、静脈を介して全身から血液が心臓へと集まるのです。 血圧というのはこのようにして心臓から送り出された血液が血管壁に与える圧力のことを指します。 そして、高血圧症とは、この圧力が正常範囲よりも高い状態のことをいいます。
高血圧症になっても、通常すぐには自覚症状がない場合が多いですが、 長期間血圧が高い状態が続くと、血管に負担がかかり、各組織でトラブルを引き起こします。 心臓は過重労働に対応するために心筋を増やして心肥大になり、血管、特に動脈の壁は厚くなってきます。 同時に動脈の内壁に血液成分やコレステロールが多く入り込んで、 いわゆる動脈硬化が進行します。 この動脈硬化は全身に起こって血液の流れを悪くしますが、 特に多くの血液を必要とする心臓と脳、それに腎臓に深刻な病気を引き起こします。


■血圧とは?

血圧とは心臓から出た血液が血管に及ぼす力
心臓から送り出される血液量と末梢血管の抵抗が血圧を決める

心臓は、収縮と拡張を繰り返して血液を全身に送っています。 血液は、身体の隅々まで張り巡らされた血管を通って酸素や栄養素を運搬し、不要になった老廃物と炭酸ガスを運び去ります。 血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈を通るときに血管の内壁を押す圧力のことで、 主に水銀圧計で測定し、単位はmmHgで現わされます。 血圧は、主に「心臓が1回の収縮で送り出す血液の量(心拍出量)の増加」と 「末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)」によって決定されます。 心拍出量が多くなるほど血管壁にかかる圧力が強くなります。 また、末梢血管抵抗が増加すると、心臓は体の隅々まで血液を行き渡らせようとして、より強い圧力で血液を送り出します。 こうした要因によって、血圧が上がっていきます。

血圧は上の血圧と下の血圧で表示されます。 一般に血圧が高い、低いというときの「血圧」は、末梢動脈の血圧です。 心臓(心室)の収縮によって血液が全身に送り出されたとき、血管壁にかかる圧力は最も強くなり、血管が広げられます。 このときの血圧が「収縮期血圧(最高血圧)」です。血液が勢いよく出ていくので血液は最も高くなります。 このとき、大動脈は拡張し、心臓から出た血液の45%が大動脈内に残ります。 一方、心臓(心室)が拡張すると、指先の「末梢血管」などの全身を巡ってきた血液は再び心臓まで戻ります。 このとき、血管にかかる圧力は最も弱くなります。このときの血圧が「拡張期血圧(最低血圧)」です。 年齢を重ねて血管が硬くなると、大動脈の収縮と拡張が弱まるため、収取期血圧は上がりやすく、拡張期血圧は下がりやすくなります。 心臓から血液が出ることはありませんが、大動脈が収縮して大動脈内の血液を緩やかに全身に送り出します。 そのため、血圧は最も低くなります。

血圧は上の血圧が135mmHg以上、あるいは下の血圧が85mmHg以上のどちらか一方が当てはまると高血圧と診断されます。 ただし、この値は医療機関で測った「診察室血圧」の場合です。 家庭で測った血圧のことを「家庭血圧」といいますが、一般に家庭血圧は低めに出ます。 そのため、診察室血圧から5mmHgを引いて、上の血圧が130mmHg以上、もしくは下の血圧が80mmHg以上のどちらかに該当すれば、高血圧となります。 血圧は、日々変動するだけに、こまめに測定することが肝心です。 最大血圧・最小血圧と、血圧の値が2つあるので、どちらか一方が高くても、片方が正常値だと、まだ大丈夫と安心しがちですが、決してそうではありません。 どちらか一方が正常な値より高い場合でも、合併症の危険が大きくなると考えられています。 下の血圧が低いからと油断せずに、上の血圧の変化を見逃さないことが大切です。

▼心拍出量
心臓から送り出される血液の量です。心拍出量が多くなるほど、血管の壁にかかる圧力(血圧)が高まります。
▼末梢血管抵抗
全身に張り巡らされた細い血管(末梢血管)での血液の"流れにくさ"を「末梢血管抵抗」と呼びます。 末梢血管抵抗が増加すれば、血液は流れにくくなります。 心臓は、血液を隅々にまで行き渡らせるために、より強い力をかけて血液を送り出します。 このことにより、血圧が高くなります。

血圧は、主にこの2つの要素によって決まりますが、これらは常に一定というわけではありません。 何らかの原因によって心拍出量や末梢血管抵抗が増加すれば、その分血圧も高くなります。

血圧 = 心拍出量 × 末梢血管抵抗


■血圧上昇の原因

血圧はなぜ正常範囲を超えて高くなるのでしょうか。その直接的な原因は2つあります。 1つは、前記のように「心拍出量(心臓から送り出される血液の量)の増加」と「抹消血管の抵抗」です。 このいずれにも加齢が深く関わっています。人間は誰でも年とともに、血管が老化して弾力が失われてきます。 この血管の老化を「動脈硬化」といいます。 動脈硬化によって血管が硬くなると、血液が流れにくくなって抹消血管の抵抗が増大します。 すると、今度はその抵抗に負けないように、血液を送り出す心臓の力も強くなります。 その結果、血管が血液によって強く圧迫されるようになり、血圧が上昇するというわけです。 注意したいのは、そうして動脈硬化が進むと、今度はそれが高血圧症の悪化につながることです。 つまり、高血圧症と動脈硬化は互いに悪循環を招く関係にあるわけです。

また、血圧はその時々の状態によっても変化します。例えば、ストレスを受けると血圧がよく上がるといわれますが、 それは意志とは関係なく働く「自律神経」と呼ばれる神経によるものです。 ストレスを受けると、自律神経のうち「交感神経」(心身を活発にする神経)が強く働いて全身が緊張状態に入り、 副腎から「カテコールアミン」と総称されるホルモンが分泌されます。 すると、心臓の収縮力が強まると同時に、抹消血管も収縮し、血液が流れにくくなる結果、血圧が上昇するのです。 さらに、交感神経が強力に働くと、腎臓でも「レニン」と呼ばれるたんぱく質分解酵素が大量に分泌され、 「アンジオテンシンⅡ」というホルモンの産生が促されます。 このホルモンには、抹消血管を収縮させる作用と、腎臓に働きかけてナトリウムの排出を抑え血液中に溜め込む作用があります。 こうして血液中のナトリウム濃度が上がると、その濃度を低く抑えるために血管の外から水分が血管内に引き込まれて血液量が増える結果、血圧が上昇するのです。 このように高血圧症は、さまざまな要因が複雑に絡み合って引き起こされるわけです。


■高血圧の種類

高血圧症の約3割が遺伝因子で、残り7割が環境因子が関与しており 「本態性高血圧」「二次性高血圧」に分けられます。 二次性高血圧は、原因のはっきりした高血圧で、いくつかの病気の総称です。

●本態性高血圧

本態性高血圧とは、原因をはっきり特定できない高血圧のことで、高血圧症の大部分はこの本態性高血圧です。 一般に"高血圧"という場合、多くはこの本態性高血圧のことを指します。 日本の場合、高血圧症患者の90%を占めるといわれています。 高血圧を来す原因となる病気もないのに、中年以降は血圧が上昇してくるものです。 本態性高血圧は生活習慣の影響が強いので、「生活習慣病」の1つとして位置づけられています。 また、遺伝的な要因も強く、両親または片親が高血圧というケースがほとんどです。 とくに食塩をたくさん摂る地域で発症率が高いことが知られています。 本態性高血圧は、原因を特定できないため、根本的な治療は難しいのですが、血圧をコントロールすることは可能です。

●二次性高血圧症

二次性高血圧は、何らかの病気など、特定の原因によって生じる高血圧のことです。 高血圧全体のおよそ5%で、頻度は少なくなります。 二次性高血圧には、バセドウ病 などの甲状腺機能亢進症 や原発性アルドステロン症などの副腎の病気によって引き起こされる「内分泌性高血圧」、 大動脈狭窄症や大動脈炎症候群などによって起こる「心血管性狭窄症」、 ホルモンの異常で起こる腎臓の動脈が細くなる「腎血管性高血圧」髄膜炎脳腫瘍など脳や中枢神経の病気によって起こる「神経性高血圧」、 さらには妊娠中に起こる「妊娠高血圧症候群」などがありますが、圧倒的に多いのは、腎臓病が原因で起こる 「腎性高血圧(腎実質性高血圧)」です。 腎性高血圧には、短期間で血圧が急に高くなり、特に最小血圧が目立って上昇するという特徴があります。 腎性高血圧を招く腎臓病には、「腎炎(糸球体腎炎)・ 腎盂腎炎・腎結核・腎結石・ 糖尿病性腎症」などがありますが、 最も多いのは腎炎です。 二次性高血圧は、その原因に適切に対処することで、高血圧の解消が期待できます。

【関連項目】:『二次性高血圧』


■高血圧の環境要因と遺伝的体質

高血圧の大半を占める本態性高血圧の発症には、環境要因と、高血圧になりやすいもともとの遺伝的体質があります。 環境要因としては塩分の摂りすぎ・アルコール・喫煙・過食による肥満・ストレス・食生活の乱れ・運動不足などがあります。 また、同じように食塩を摂っていても、高血圧になる人とならない人がいます。 これは、高血圧になりやすい遺伝的な体質が関係するためだと考えられ、 両親またはどちらか一方が高血圧の場合、その子供も高血圧になる傾向があります。

【関連項目】:『食塩感受性と食塩非感受性』


●生活習慣

▼塩分の摂り過ぎ
塩分の摂り過ぎに注意することが肝要です。 食事から摂った塩分は、ナトリウムとして血液中に入り、余分なナトリウムは尿とともに排泄されます。 しかし、”塩分の摂り過ぎ”などで血液中のナトリウム濃度が高まると、濃度を一定に保つために血管内に水分が引き込まれます。 同時に喉が渇いて水分を多く摂るようになります。その結果、血液量が増加し、血圧が上がります。 また、ナトリウムには交感神経を興奮させて血圧を上げる作用もあります。 日本高血圧学会が定めた「高血圧治療ガイドライン」によると、1日の塩分摂取量は高血圧患者が6g未満になっています。 血圧が正常な人でも1日10g未満が目標です。ところが、日本人の平均的な塩分摂取量は1日11~12gと多いのです。 食塩による血圧上昇の程度(食塩感受性)には個人差があるとはいえ、塩分摂取は控えめにした方がいいでしょう。
【関連項目】:『塩分の摂りすぎ』 / 『減塩で血圧を下げる』

▼肥満
肥満を防ぎ適性体重を維持することも大切です。特に内臓脂肪型肥満は要注意です。 糖尿病など生活習慣病の対策として、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予防が指摘されています。 肥満は高血圧の要因になるだけでなく、生活習慣病の引き金にもなるので、体重管理に取り組む必要があります。
【関連項目】:『肥満と高血圧』

▼その他
飲酒、喫煙、運動不足、過度なストレスに加えて、冬場は寒さ対策にも気をつけましょう。 居間と廊下やトイレ、お風呂場との温度差を極力なくすとか、熱いお湯や長湯を避けるなどの注意が必要です。
【関連項目】:『高血圧とアルコール』 / 『高血圧とタバコ』 / 『ストレス』 / 『食生活の乱れ』 / 【運動不足』

●遺伝的体質

同じように食塩を摂っていても、高血圧になる人とならない人がいます。 これは、高血圧になりやすい遺伝的な体質が関係するためだと考えられ、 両親またはどちらか一方が高血圧の場合、その子供も高血圧になる傾向があります。 現在、高血圧に関する直接関係する遺伝子が、いくつか見つかっていますが、1つ1つの遺伝子の影響は、あまり大きくないとされています。 そのため、大部分の高血圧は、遺伝的な体質に環境要因が加わることで、発症すると考えられています。 例えば、世界32ヶ国の52集団で、高血圧の危険因子と血圧の関係を調べた研究では、 食塩の平均摂取量の少ない地域に住む人々は、加齢に伴う血圧の上がり方が非常に緩やかであることがわかっています。

【関連項目】:『食塩感受性と食塩非感受性』


●加齢・性別・動脈硬化

また、年齢や性別も高血圧に関係しています。高齢になるほど高血圧の人は増えてきますし、男性は女性に比べて、高血圧になりやすいことがわかっています。 厚生労働省の調査でも30~40歳代の高血圧の患者さんの割合は、男性が女性を大きく上回っています。 この年代の女性の血圧が比較的低いのは、女性ホルモンなどの影響だと考えられています。 しかし、閉経後は、男性と同じように高くなってくるので、油断はできません。

血管壁が弾力を失い、厚くもろくなるのが「動脈硬化」です。 動脈硬化が進むと、血管の内腔が狭くなります。すると、血液が流れにくくなって、末梢血管抵抗が高まり、血圧ががってしまいます。 動脈硬化は「血管の老化現象」とも言われ、年齢が上がるにつれ進行します。 一般に、血圧は加齢とともに徐々に高くなっていきますが、これは動脈硬化の進行と密接な関係があります。 また、高齢になると、動脈硬化が進み、太い血管の弾力性が低下しがちです。 その影響で、高齢者の高血圧では、収縮期血圧は高く、拡張期血圧は低くなり、収縮期血圧と拡張期血圧の差である 「脈圧」が大きくなる傾向があります。 男性の方が女性よりも10年早く高血圧を発症するというデータがあります。


●自律神経とホルモン

自律神経は「交感神経」「副交感神経」から成り、体のさまざまな臓器の働きを司っています。 何らかの理由で、交感神経が興奮すると、心臓の働きが活発になって心拍出量が増え、血管が収縮して、末梢神経抵抗も増加するため、血圧が上がります。 また、交感神経の興奮によって血圧を上げるいくつかのホルモン(昇圧ホルモン)の分泌が促進されます。 代表的なのは腎臓から分泌される「レニン」によって産生が促される「アンジオテンシンⅡ」というホルモンです。 アンジオテンシンⅡには、血管を収縮させる作用があります。体内に「ナトリウム」を溜め込んで、 体内の水分量を増やす作用もあるため、血液量が多くなって心拍出量も増え、血圧を上昇させるのです。


●生活習慣の改善が重要

”遺伝的な体質があれば必ず高血圧を発症する”というわけではありません。 環境要因に注意することで、予防は十分に可能です。 加齢や性別は、避けようがありませんが、食塩の摂りすぎや肥満などの環境要因については、 生活習慣を改善することによって、取り除くことができます。


■高血圧の影響

高血圧症になっても、通常すぐには自覚症状がない場合が多いのですが、 血圧が高くなると、心臓と血管に負荷がかかるため、血液を送り出す心臓は正常時より大きなエネルギーが必要になり疲れやすくなります。、 また、動脈内側は血流の刺激が強まり傷つきやすくなります。 そして、長期間高血圧状態が続くと、心臓は過重労働に対応するために心筋を増やして心肥大になり、血管、特に動脈の壁は厚くなってきます。 同時に動脈の内壁に血液成分やコレステロールが多く入り込んで、 いわゆる「動脈硬化」が進行します。 この動脈硬化は全身に起こって血液の流れを悪くしますが、特に多くの血液を必要とする心臓と脳、それに腎臓に深刻な病気を引き起こします。

高血圧が長く続いて心臓の筋肉に酸素や栄養素を送っている冠動脈に動脈硬化が生じると、血管内に血の固まり(血栓)ができ、詰まりやすくなります。 心筋への血液供給が一時的に不足すると「狭心症」になり、 完全に途絶えると「心筋梗塞」を引き起こします。 一方、脳の細動脈が動脈硬化で弱くなって血流の圧力に耐え切れなくなると、血管が破裂して 「脳出血」になります。 また、脳の太い血管に動脈硬化が起こって血の固まり(血栓)ができ、その先の細胞が壊死すると 「脳梗塞」になります。 さらに、高血圧は腎臓へも悪影響を与えます。腎臓は血液の中から不要な老廃物や有害物質を濾過し、尿にして体外へ排出する働きをしていますが、 動脈硬化が進み血液の流れが悪くなると、「腎硬化症」になり腎臓の働きが低下してきます。 日本や海外の調査でも、血圧が高くなるほど、これらの発症リスクが上がることがわかっています。 高血圧は他にも「心不全」「大動脈瘤」「慢性腎臓病」(CKD)などの原因になったり、 最近では「認知症」のリスクを高めることもわかってきています。

◆高血圧症の合併症

「高血圧症の合併症」には、脳梗塞・脳出血・認知症・狭心症・心筋梗塞・大動脈瘤・大動脈解離・ 糖尿病・腎硬化症・ 腎不全・むくみ・頻尿・閉塞性動脈硬化症など命に関わる病気があります。 また、高血圧症が進行すると、こうした恐ろしい合併症とは別に、頭痛やむくみ、めまい、耳鳴り、肩こり、腰痛などのうっとうしい、 さまざまな不快症状が起こったり、老化が早まったりします。

【関連項目】:『高血圧症の合併症』


■高血圧の症状・サイン

高血圧の自覚症状としては頭重、 頭痛めまい感肩こり、ふらふら感、息ぎれ、動悸、疲れやすい感じなどが現れることもありますが、 特徴的な病状ではなく、無症状のことが多く、大半は健康診断などの血圧測定で指摘されて気付きます。 しかし、高血圧が長く続いて脳、心臓、腎臓などに障害が起こると、それに伴う症状が出現します。 何らかの症状が生じるようになったら、臓器障害が加わったものと考えてよいでしょう。 肩こりは午後に起これば心配ありませんが、朝から起こる場合は高血圧のサインで、脳梗塞が心配されます。

【関連項目】:『高血圧と腎臓病』 / 『高血圧のサインの肩こり』


■高血圧/白衣高血圧/仮面高血圧/正常血圧

診察室血圧と家庭血圧のどちらか一方だけが高血圧の場合もあります。 家庭で測ると正常なのに、医療機関で測ると高血圧になる場合を白衣高血圧といいます。 医療機関で測ると緊張して、一時的に高血圧になると考えられます。 普段の血圧は正常なので、脳卒中や心筋梗塞のリスクは低く、薬による治療は必要ありません。 一方、医療機関で測ると正常ですが、家庭で測ると高血圧になる場合を仮面高血圧といいます。 診察室での正常血圧の人の10~15%は、仮面高血圧といわれています。 長時間高血圧にさらされると、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まるので、治療が必要です。 仮面高血圧には、早朝高血圧・昼間高血圧・夜間高血圧があります。 白衣高血圧や仮面高血圧は、家庭血圧を測らなければ発見が困難です。 これらを見逃さないためにも、近年では家庭血圧の測定がより重要視されています。

▼白衣高血圧
診察室血圧は基準値を超えているのに、家庭血圧は基準値を超えていないタイプです。 医師や看護師の前では、緊張によるストレスのため一時的に血圧が上がってしまうのです。

▼仮面高血圧
早朝高血圧と昼間高血圧(職場高血圧)、夜間高血圧があります。 本来、血圧は目覚めとともに上昇し日中は比較的高めで、夜は下がってきて睡眠中は最も低くなります。 早朝高血圧は交感神経が活発になることで起こり、昼間高血圧は仕事や家庭の ストレス喫煙などが関係すると考えられます。 特に、早朝高血圧と夜間高血圧は、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いので要注意です。
早朝高血圧
早朝高血圧は、危険な高血圧です。 脳卒中心筋梗塞は朝方に起こることが多く、 早朝高血圧がそれらの発症の引き金になっている可能性が高いのです。 その発見には、家庭での朝の血圧測定が必要で発見が遅れれば脳や心臓などの血管が傷つく心配があります。

▼昼間高血圧(職場高血圧)
夜間や早朝の血圧は正常なのに、仕事をしている間に血圧が高くなる「昼間高血圧(職場高血圧)」は、 仕事による精神的なストレスに疲れなどが重なることで、血圧が上がります。

▼夜間高血圧
夜間(睡眠中)に血圧が高くなるタイプです。

【関連項目】:『高血圧のタイプ』


■血管収縮タイプと血液量過剰タイプ

血管の収縮や血液量から大きく2つに分けられる

高血圧は血管の状態によって血管収縮タイプ」と「血液量過剰タイプに分けられます。 ストレスや塩分過多など、タイプによって高血圧の要因は異なります。 血液検査などを受けて自分のタイプを知ることが大切です。

▼血管収縮タイプ
血管が収縮することで血圧が高くなるタイプです。例えば、ホースから水がちょろちょろと出ているときでも、 ホースをギューっと握り締めると、ホース内にかかる圧力が高まり、水の勢いも強くなります。 血管収縮タイプではこのようなことが血管で起こり、血圧が高くなっています。

▼血液量過剰タイプ
血管内を流れる血液の量が増えることで血圧が高くなるタイプです。 ホースをつないだ蛇口を大きく開くと、流れる水が増えて、ホースにかかる圧力が高まります。 血流量過剰タイプではこのようなことが血管で起こり、血圧が高くなっています。

どちらのタイプでも、血圧が高くなることは同じです。血圧が高い状態が長く続くと、血管壁が厚く、硬くなる 「動脈硬化」が生じます。そして、動脈硬化は、血圧をさらに高めてしまいます。 この2つは悪循環の関係にあるのです。


◆血圧を調節する仕組み

人間の体には、血液中の塩分濃度を一定に保つ仕組みがあります。 塩分を摂取すると、塩分濃度の上昇を防ぐために水分の吸収が高まり、血液量が増えて一時的に血圧が上がります。 しかし、普通はすぐに腎臓が働き、余分な塩分と水分を尿として排泄するため、血液量は元の状態に戻り、血圧は下がります。 また、脱水などで体内の水分が少なくなり、血液量が減少して血圧が過剰に下がりそうなときには、血管がギューっと収縮することで、血圧を上昇させます。 このような血圧の調節機能に異常が生じ、血液量が増えた状態や、血管が収縮した状態が続いたりすると、血圧が高いままになってしまいます。


●高血圧の要因

血管収縮タイプはストレス、血液量過剰タイプは加齢や塩分など

血管収縮タイプにも、血液量過剰タイプにも、それぞれ起こりやすい要因があります。

◆血管収縮タイプの場合

「神経質な性格」「ストレス」が要因となります。 これには、体を守るための「交感神経」の働きが関係しています。 神経質な人は、ふだんから気になることが多く、脳はそれをストレスと受け止めます。 すると、意志とは関係なく交感神経が活発になり、「ノルアドレナリン」というホルモンが分泌されます。 ノルアドレナリンには血管を収縮させる作用がるため、血圧が高くなります。 交感神経が腎臓に作用すると、腎臓から「レニン」という酵素が分泌されます。 レニンには血管を収縮させる「アンジオテンシン」というホルモンを作る働きがあり、これも血圧を上昇させます。


◆血液量過剰タイプの場合

「塩分」「高齢」「体質」などが要因となります。塩分は体内の血液量を増やしてしまい、血圧を上昇させます。 高齢になると、多くの人で腎臓の働きが低下します。また、高血圧がある家族がいる場合は、 もともと腎臓の働きが低下しやすいなど、高血圧に繋がる体質がある可能性が高くなります。 血液量は、体内の余分な塩分と水分を腎臓からどれだけうまく尿として排泄できるかで決まります。 そのため、塩分の摂取量や腎臓の働きが関係してくるのです。


●自分のタイプを知るには

血液検査を受けてホルモンや酵素の状態を調べる

高血圧のタイプは、血液検査である程度わかります。 重要なのは、血液中のノルアドレナリン、レニン、「ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)」の値です。 ノルアドレナリンとレニンの値が高い場合は、血管収縮タイプが考えられます。 ANPとは、心臓から分泌されるホルモンの一種で、心臓を流れる血液量が増えると盛んに分泌され、腎臓からの尿の排泄を促す働きがあります。 全身の血液量が増え、血管だけでなく心臓もパンパンになると、ANPの分泌量が増えるのです。 つまり、ANPの値の上昇は、血液量が増えて、血液量過剰タイプになっていることを示しているといえます。

1日の中でいつ血圧が高くなるのかもタイプを知るうえで参考になります。 血管は通常、日中は上昇して就寝中に下がりますが、就寝中も高い場合は、血液量過剰タイプと考えられます。 一方、朝の血圧が極端に高くなっている場合は、血管収縮タイプで交感神経の活性が非常に高いことが考えられます。 自分のタイプがわかったら、それぞれのタイプに合った治療を始めます。 血管収縮タイプでは、「ストレス対策」がまず必要です。 血流量過剰タイプでは、「減塩に取り組む」 ことが特に大切です。


■要注意高血圧

60歳以上で脈圧が大きい
最大血圧の値から最小血圧の値を引き算して求められる値を 「脈圧」といい、 脈圧の大きい状態は、動脈硬化が細い血管にも太い血管にも及んでいることを示しています。 脈圧が大きい状態が続くと、心臓の負担が増して、心肥大や心不全を起こすことにつながります。 また、心臓に血液を送り込む冠状動脈の血液も減ってしまい、心筋梗塞を引き起こす危険も高まります。 特に、60歳以上の人は最大血圧が高いほど動脈硬化が重く、最大血圧が140ミリ以上で、脈圧が65以上ある場合は、心筋梗塞の発症が近いといわれています。

50歳未満で最小血圧が高い
50歳未満で最小血圧が高い人は、動脈硬化が進行していると考えられ、 細い血管が詰まり、脳梗塞が多発し、死亡率も高くなっているので要注意です。 最小血圧が110ミリ、120ミリと、基準値より大幅に高くなっている場合は「微小脳梗塞」、 最小血圧が130ミリ以上あり、激しい頭痛や視力障害、貧血なども起こった場合は、「悪性高血圧」の可能性があるので、特に注意が必要です。

30歳未満で最小血圧が高い
30歳未満で最小血圧が高い人は、まずは二次性高血圧、特に腎臓病を疑う必要があります。 血圧上昇のほかに、だるさや微熱、喉の不快感、むくみ、尿量の減少、血尿などの症状が出たら要注意です。 30歳未満の人で高血圧と診断され、なおかつ、今挙げたような症状が一つでも見られたら、 ただちに内科を受診し、専門医の検査を受けてください。 二次性高血圧は、原因となっている病気を治さない限り、降圧薬を飲んでも血圧は下がりません。

左右の腕の最高血圧の差が20ミリ以上
左右の腕で別々に血圧を測り、最高血圧の差が20ミリ以上あれば要注意です。 この状態は、血圧の低い側の動脈のどこかで動脈硬化が著しく進むなどして、血管の内腔(内側の空間)がかなり狭くなっている可能性があります。 高齢者では、血管のどこかで動脈硬化の一種である粥状硬化が進んでいる恐れがあり、 粥状硬化は、 突然死も招く 大動脈瘤の重大な原因になります。 また、若い女性では、大動脈炎症症候群(脈なし病とも呼ばれる)の恐れがあり、症状が進むと、心不全や脳出血で死亡する可能性もあります。

就寝前と起床後の最高血圧が140ミリ以上
昼間は正常でも、就寝前と起床後の最高血圧が140ミリ以上あれば危険で、脳卒中や心筋梗塞の発症率が高まります。 特に要注意なのが、寝ている間中血圧の高い夜間持続型の早朝高血圧です。 夜間持続型の早朝高血圧では1日の1/3近くもの間、血圧の高い状態が続くことになるので、 血管や心臓を傷める危険がより大きくなり、動脈硬化も著しく進行してしまいます。 実際に、脳卒中や心筋梗塞を起こす確率は、正常血圧の人を1とした場合、夜間持続型の早朝高血圧の人は約4倍に高まると報告されています。

更年期女性の高血圧
更年期には「基礎代謝量」が減る上に、運動不足や過食が加わって太りやすくなり、それに伴って血圧も上がりやすくなります。

正常高値血圧
血圧が少し高めの「正常高値血圧」は、高血圧ではないものの、状態によっては、命に関わる病気を引き起こす危険性があります。

高血圧のサインの肩こり
肩こりは午後に起これば心配ありませんが、朝から起こる場合は高血圧のサインで、脳梗塞が心配されます。

■高血圧症の診断と検査

①診断
収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、あるいは拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上のどちらか一方が当てはまると高血圧と診断されます。 ただし、この値は医療機関で測った診察室血圧の場合です。

②家庭血圧を測る
家庭で測った血圧のことを家庭血圧といいますが、一般に家庭血圧は低めに出るとされています。 そのため、診察室血圧から5mmHgを引いて、収縮期血圧(上の血圧)が125mmHg以上、 もしくは拡張期血圧(下の血圧)が80mmHg以上のどちらかに該当すれば高血圧となります。

③医療機関で行われる高血圧の検査
医療機関で行われる高血圧の検査には、基本検査では「血圧測定」「尿検査」「血液検査」「眼底検査」など、 精密検査では「心電図検査」「胸部エックス線撮影」「超音波検査」などがあります。

【関連項目】:『高血圧治療ガイドライン2019改訂のポイント』 / 『高血圧の診断基準値・管理目標値』


高血圧症の診断 診察室血圧 家庭血圧
  上の血圧 下の血圧 上の血圧 下の血圧
正常血圧 120未満 80未満 115未満 75未満
正常高値血圧 120~129 80~84 115~124 75~79
高値血圧 130~139 85~89 125~134 80~84
Ⅰ度高血圧 140~159 90~99 135~144 85~89
Ⅱ度高血圧 160~179 100~109 145~159 90~99
Ⅲ度高血圧 180以上 110以上 160以上 100以上
(孤立性)収縮期高血圧 140以上 90未満 135以上 85未満


■高血圧の治療と改善

高血圧と診断された場合は、診察室血圧で上が120mmHg未満/下が80mmHg未満を目指して治療に取り組みます。 糖尿病や、 たんぱく尿を伴う「慢性腎臓病」(CKD)がある場合は、 脳卒中心筋梗塞の発症リスクが高まるので、より厳格な目標値が設定されています。 一方、75歳以上の人は、血圧を下げ過ぎると臓器に障害が出る場合があるので、上の血圧が150mmHg未満/下の血圧が90mmHg未満を目標にします。 家庭血圧は、それぞれ5mmHgを引いた値が治療の目標になります。

【関連項目】:『高血圧の治療と改善』

●薬を飲む本当の意味

血圧を下げるのは通過点。脳・心臓・腎臓を守るために飲む。

高血圧は簡単に診断でき、今では効果の高い薬がたくさん出ています。しかし、患者数は減っていないというのが現状です。 この現状の大きな理由の1つとして、患者さん一人一人が高血圧の薬についてよく知らないのではないか、ということが指摘されています。 保健士や栄養士で構成される団体が行ったアンケートで、なぜ薬を中断したのかを聞いたところ、「血圧が下がったので、もう必要ないと思った」 「症状がなかったから」などの回答がありました。この回答からも、高血圧の薬を飲む意味について正確な認識が浸透していないことがうかがえます。

【関連項目】:『高血圧症の薬物療法』