■全肺呼吸
指先の血流も改善する
息を吸って酸素を取り込むと肺胞が膨らみ、肺胞の壁に圧力がかかるほど、プロスタグランジンⅠ2はたくさん産生されます。
しかし、私たちはふだん、肺胞すべてを使っているわけではありません。
肺の下の方は重力の影響で血液がたまり、それが肺胞を圧迫して開きにくくしています。
また、うつむき加減でいたり、姿勢が悪かったりすると、上の方の肺が圧迫されて肺胞が開きにくくなります。
したがって平均すると、肺胞は7~8割しか使われていません。
しかし無意識の呼吸では肺胞が十分膨らまず、プロスタグランジンⅠ2の産生効率は、極めて悪いのです。
そこで、勧められるのが「全肺呼吸」です。
この呼吸法は、平たく言うと、腹式呼吸と胸式呼吸を交互に行うというものです。
全肺呼吸をしていると、肺胞が十分に使われ、軽症の高血圧なら薬なしで血圧が正常域になります。
また、薬を飲んでいる人でも、血圧が下がって薬を減らすことができます。
例を挙げてみましょう。
患者さんの一人、Aさん(50歳代・男性)は、最大血圧が145ミリ前後、最小血圧が90ミリ前後と高めだったので、
全肺呼吸をやってもらい、朝起きたときと夜寝る前に血圧を測ってノートにつけてもらいました。
半年ほど続けたところ、Aさんの血圧は最大血圧が130ミリ、最小血圧が80ミリと、基準値内で安定するようになりました。
薬が必要な人には、全肺呼吸をやってもらいながら、夕食後に一番軽い降圧剤を飲んでもらいます。
すると、翌日の朝の血圧は正常値となり、一日よい状態で血圧をコントロールできます。
患者さんの中には、診察室に入ると緊張するのか、脈拍が速くなる人がいます。
でも、この呼吸を5~6回すると、1分間に90くらいあった脈拍が、すぐに60~70に戻ります。
また、指先の動脈の酸素量が92~93%と少ない人でも、95%以上の正常値に上がります。
このように、全肺呼吸で血圧や血流が改善する例は、枚挙にいとまがありません。
全肺呼吸は、深い腹式呼吸と胸式呼吸を交互に行う呼吸です。
腹式呼吸を1回したら胸式呼吸をするというように、交互に5回ずつ繰り返します。
こうして使われていなかった下の方の肺胞を腹式呼吸で、上の方の肺胞を胸式呼吸でくまなく使うと、
全部の肺胞を膨らませることができます。
どちらの呼吸も、ポイントは2つ。息をできるだけたくさん吸うことと、口をすぼめてゆっくり吐き出すことです。
息をたくさん吸えば、肺胞が目いっぱい膨らんで、プロスタグランジンⅠ2をたくさん作れます。
口をすぼめてゆっくり吐くと、肺胞に圧がかかり、プロスタグランジンⅠ2が放出されやすくなります。
また、息をゆっくり吐けば、副交感神経が優位になり、自律神経のバランスも整って血圧が下がります。
この時息を吐くコツは、15cm前にあるろうそくの火を吹き消さないように、細くゆっくり息を吹きかけるようにすることです。
血圧が高めの人は、1日に何度もこの呼吸をするといいでしょう。
いつしてもいいですが、特に効果があるのは、朝起きてすぐにすることです。
血圧は、早朝の血圧に最も注意が必要です。朝は、夜の間を支配する副交感神経と日中を支配する交感神経が切り替わるときで、
血圧が急に上がります。脳梗塞、脳出血、心筋梗塞などの重大な病気は、この早朝血圧が高くなる朝5時から10時の間に
起こりやすいのです。ですから、この早朝血圧を低くすることが大事なのです。
- ▼腹式呼吸
- ①背筋を伸ばし、へその下あたりに両手の手のひらを軽く当てる。
- ②1,2,3と鼻から息を吸って止め、また1,2,3と、お腹いっぱい吸い込んで、息を止める。
- ③口をすぼめ、お腹をへこませながら、息を全部出しきるつもりで細くゆっくり吐く。
- ▼胸式呼吸
- ①背筋を伸ばして胸を張り、両手を軽く広げて手のひらを前に向ける。
- ②腕を後ろに引きながら胸を広げるようにして、1,2,3と鼻から息を吸って止め、
また、1,2,3と息を吸って止め、もう一度1,2,3と胸いっぱい吸い込んで、息を止める。
- ③胸を元の位置に戻しながら、息を全部出しきるつもりで、口をすぼめてゆっくり吐く。
この呼吸と並行して、日常生活でも、禁煙したり、塩分の摂り過ぎに気をつけたり、
できるだけよい姿勢を保ったりすることを心掛けてください。