高血圧症対策

高血圧対策の基本は生活習慣の改善です。 具体的には、「減塩、肥満の解消、適度な運動、節酒、禁煙、快眠、活性酸素対策」などを実行することです。 2019年に改訂された「高血圧治療ガイドライン2019」では、日本人の高血圧患者の特徴として、 「食塩摂取量が多い」「肥満とメタボリックシンドロームが増加している」の2点が強調されています。 その原因として日本高血圧学会は、「不適切な生活習慣がある」ことを指摘。 とりわけ食塩の摂取量を減らすために、自らの普段の食生活を厳しく見直してみることから始めることを奨励しています。 降圧目標の達成に向けた治療においては、新しいガイドラインでは、高血圧の基準値、つまり高血圧の治療を開始する血圧の基準値は、 従来の、診察室血圧で140/90㎜Hg、家庭血圧で135/85㎜Hgに据え置かれました。 一方で、成人の降圧目標値を10㎜Hg引き下げています。


■高血圧症対策に「生活習慣の改善」

脂質や塩分を控えた食事と、毎日の運動を習慣付ける。
お酒は適量にとどめ、禁煙する。睡眠は十分にとることが大切。

高血圧症は、まずは生活習慣を改善した上で、必要に応じて降圧剤での治療を行ないます。 ただし、血圧が高いからといって、短期間で血圧を下げるために生活習慣を急に変えても、 多くの場合、習慣として身に付かず、いったんは血圧が下がってもしばらくするとまた上がってしまいます。 血圧は、少しづつ確実に下げることが大切です。 身近なところから少しづつ改善を続けるだけでも、血圧を下げる効果があることがわかっています。 まずは、「収縮期血圧を2mmHg下げる」ことを目標にして、少しづつ確実に血圧を下げていきましょう。 血圧が高めの人が、収縮期血圧の平均値を2mmHg下げるだけで、 心筋梗塞の死亡リスクが約7%、 脳卒中の死亡リスクが約10%低下することがわかっています。


●減塩

生活習慣の改善の第一歩となるのは、「減塩」です。 健康の維持・増進を図るうえで摂取することが望ましいエネルギーや栄養素の量の基準をまとめた「日本人の食事摂取基準」は、 来年の改訂に向け、現在、厚生労働省において内容の検討作業が進行中です。 そこでは、1日当たりの食塩摂取目標量が、現在よりさらに厳しく引き下げられる見込みとされ、具体的には、18歳以上の男性なら1日7.5g未満、 同女性は6.5g未満となりそうです。 5年前の2015(平成27)年版では、1日摂取目標量が男性8.0グラム未満、女性7.0グラム未満でしたから、男女ともに今より0.5グラム引き下げられることになります。 厳しいと思われるかもしれませんが、日本高血圧学会は男女とも1日6g未満にすることを、 またWHO(世界保健機関)はさらに厳しく1日5g未満に抑えることを推奨しています。 これらに比べれば、新しい目標量はまだ余裕のある数字ともいえそうです。 なお、熱中症シーズンになると、「水分と塩分をこまめに摂りましょう」といった呼びかけが繰り返されます。 しかし、高血圧の方は炎天下で作業や運動をしてよほど大量の汗をかいた場合以外は、減塩を守ることを日本高血圧学会は奨励しています。

塩分を摂りすぎると、体内でナトリウムが急激に増えます。 すると体は、ナトリウムの濃度を一定に保とうとして、たくさんの水分を溜め込むようになります。 塩辛いものを食べた後にのどが渇くのは、まさにこのためです。 体内に水が溜まりすぎると、尿となって体外へどんどん排泄されます。 このときに大量の水分が心臓から血管を通して腎臓へ行くため、血管を流れる血液量が多くなり、血圧が上昇します。 また、ナトリウムが多くなると、血管壁の細胞にナトリウムが蓄積され、 細胞は水分を吸収して膨れ上がります。すると、血管壁が厚くなって血管の内部の幅は狭くなり、血圧がさらに上がってしまうのです。 高血圧症のある人の1日の「食塩摂取量」の指標は「6g未満」ですが、 軽症高血圧症の場合は1日6~8g程度、中等高血圧症では1日6g以下、重症高血圧症では5g以下を目標にします。 日本人は1日平均11~14gの塩分を摂っているといわれているので、意識して減らす必要があります。 しかし、いきなり目標量にするのは難しいので、最初のうちは「1日8~10g」を目標にしましょう。 習慣化した「味」を変えるのは難しいのですが、レモン、コショウなどの香辛料をうまく使ったり、 減塩調味料や減塩食品を使用するなどして工夫しましょう。

<酸味、香り、旨みを活用する>
ポン酢やニンニク、ダシなどを使って食欲を出したり、味に深みを加えます。

<減塩調味料を使う>
味噌や醤油などは、減塩タイプのものを使います。

<濃い目の味付けは一品に集中させる>
他の料理を薄味にして、減塩します。

<料理の表面のみに味付けをする>
煮物の中まで味をしみ込ませると、塩分量が多くなります。

【関連項目】:『減塩で血圧を下げる』 『藻塩』 / 『減塩調味料』

◆カリウムの摂取

「カリウム」を十分に取ることも大切です。 カリウムには、体内のナトリウムの排出を促し血圧の上昇を防ぐ働きがあります。、 カリウムは、緑黄色野菜や果物、海藻類、芋類などに多く含まれています。 さまざまな食材を偏りなく摂りましょう。ただし、腎障害のある人はカリウムが排出されにくいため、摂取量には注意が必要です。


●肥満の解消

高血圧症を改善して重大な病気を防ぐためには、血圧のコントロールが不可欠ですが、血圧をコントロールするには、減塩と共に 「肥満の解消」が非常に重要であることが明らかになっています。 あるデータによると、体重を1kg減らすだけでも収縮期血圧と拡張期血圧ををおよそ1.7mmHg下げることができるという報告や、 10kgの減量で収縮期血圧が平均約12mmHg下がり、なかには、約20mmHgの低下が見られた人もいたという報告があります。 お腹に脂肪がたまると、抹消の血管が圧迫されて血圧が高くなります。 ですから、BMIが25以上の太っている人は、減量することが高血圧改善の第一歩となります。 そのため食事では、油ものや肉類などの脂質を控えて過剰なエネルギーを摂取しないようにし、 常に”腹八分目”を心掛けます。 コレステロール値が高い場合はコレステロールを多く含む食品の制限、 糖尿病を合併している場合はカロリー制限も必要となります。

【関連項目】:『体重管理で血圧を下げる』


●適度な運動

血圧を下げるためには、毎日の運動も効果的です。 「適度な運動」は、末梢血管を広げ、血液の循環を改善させます。 すると、高い圧力をかけなくても、全身に血液が行き渡るようになり、血圧が下がってきます。 ただし、運動を始めてから、「胸の圧迫感、動悸、呼吸困難」や「ふらつき、脚の痛み」などの症状が現れた場合は、 すぐに運動をやめ、医療機関を受診してください。 適度な運動では、少しきつめで汗ばむ程度の「有酸素運動」、 例えば「ウォーキング」などが効果的とされています。 「運動により負荷をかける→休む→負荷をかける→休む」というサイクルを繰り返すことによって、 血圧を大きく変動させずに心臓や血管の反応をよくすることができます。 ただし、高血圧症の人は、激しい運動や、息を止めて一気に力を出す腕立て伏せやウェイトトレーニングなどの運動は禁物です。 筋肉が緊張することによって血管が圧迫されるため、血圧が急激に高くなり、血管が破れたり詰まったりする危険度が高まるからです。 中等高血圧症以上の場合、運動や仕事が制限されることもあるので、主治医とよく相談してください。


●その他の生活習慣の改善

▼節酒
アルコールは適度であればリラックス効果がありますが、たくさん飲むと血管を障害して、 血圧は上がりやすくなります。ですから高血圧症の人は、日本酒なら1日1合、ビールなら男性で1日に約600ml、 女性で約300ml以内にとどめます。

▼禁煙
「たばこ」には、血圧を上げる作用があります。禁煙をすると一時的に体重が増えることがありますが、 高血圧症のリスクを考えた場合、すぐにでも禁煙をする方が重要です。
【関連項目】:『禁煙』

▼睡眠
最近、高血圧症に関係する生活習慣として注目されているのが「睡眠」です。 睡眠時間が7~8時間の人の高血圧発症率を1とした場合、5時間以下の人の発症率は、約2倍になります。 睡眠時間が短いと、高血圧症だけでなく、 「動脈硬化肥満糖尿病」を招きやすいといわれています。 また、「睡眠時無呼吸症候群」のある人は、 高血圧症を合併しやすいといわれています。 睡眠時無呼吸症候群のある人は、きちんと治療を受け改善する必要があります。
【関連項目】:『安眠快眠』

▼活性酸素対策
高血圧症では、血液が血管壁にかける圧力が高くなり過ぎているため、血管壁は圧力に負けないように厚くなり、 血管は狭くなって、さらに血圧が上昇します。 血管が大きなダメージを受ける前に血圧を改善し、正常な血圧に近付けなければなりません。 高血圧症によって血管が傷つきやすくなっているときは、「活性酸素」にも注意しましょう。 活性酸素は病原菌から体を守るために必要ですが、 過剰になると、体の細胞まで傷つけてしまうといわれています。 活性酸素の発生も血圧の上昇も、ストレスが原因になることがあるので、 ストレスを溜めないことも血管の健康を維持する秘訣です。
【関連項目】: 『活性酸素対策』 / 『活性水素水』 / 『ストレス解消』

●冬の高血圧症対策

気温の低い冬は、平均的に血圧が上昇します。 また、屋外と室内の温度差が大きいため、血圧が急激に上がったり下がったりするようになるのです。 高血圧症の人や高齢者にとって、冬は魔の季節とも言えるでしょう。 そこで、冬の血圧上昇を防ぐ一番の秘訣は、「体が感じる温度差を小さくすること」です。 具体的には、次の点に注意してください。

  • 屋外へ出るときは、マフラー、手袋などでしっかり防寒する。
  • 室内でもトイレなど暖房の効いていないところへ行くときは、油断せずに一枚はおる。
  • 風呂に入る前には、シャワーで温水をしばらく流して浴室を暖める。

また、風呂に入るときは肩まで浸からずに胸まで浸かるようにしたり、 洗顔をするときにぬるま湯で行ったりすることも大切です。 さらに、冬の朝は、慌てて行動しないように心がけるべきです。 朝起きてバタバタと駆け出したりすると、血圧が一気に上昇してしまうからです。 このような点に注意して寒い冬を乗り切り、減量・減塩・節酒・運動を心がけてください。


■その他

食塩感受性と食塩非感受性
高血圧の改善には、減塩が大切なことは確かですが、減塩すれば誰でも血圧が下がるというのは誤りです。 人間の体質には、血圧が食塩に敏感に反応する「食塩感受性」と、 反応しにくい「食塩非感受性」という2つのタイプがあります。 食塩感受性のある人は、腎臓の働きに異常が生じ、塩分をうまく排泄できなくなっているため、 ナトリウムが体内に蓄積され、血圧が上昇するのですが、食塩非感受性の人は腎臓の働きがよく、 体内の余分なナトリウムは速やかに排泄されるため、食塩を摂っても血圧がほとんど上昇しないのです。 したがって、食塩非感受性の人が減塩食を厳しく行っても、高血圧を改善することはできません。 また、塩分の摂取と排出のバランスが取れているので、高血圧治療薬の利尿薬を服用しても、あまり血圧が下がりません。

▼血圧は季節によっても変動する
血圧は寒さに敏感に反応します。冬は手足などの末梢血管が収縮して、血行が悪くなります。 すると心臓が、より強い力で血液を送り出そうとして、血圧が上がります。 例えば、冬の寒い脱衣所で裸になったり、洋式トイレの冷たい便座に座ったりすると、血圧は急上昇します。 そのため、冬は脳卒中などを発症する人が少なくありません。 寒さによる血圧の急上昇を防ぐためには、暖かい服装と、家の中での温度差を減らすように暖房を心がけましょう。 反対に、暖かい季節は末梢血管が弛緩して拡張するので、血圧は下がる傾向にあります。