不眠症

日本では今、不眠症に悩む人が急増しています。 ある製薬会社が行った調査によると、国民の5人に1人は不眠症に悩んでいるとのこと。 不眠は今や、国民病といっても過言ではないでしょう。 これまで行われてきた研究によると、健康を維持するための理想的な睡眠時間は7時間ともいわれます。 睡眠時間が7時間よりも多くても少なくても、死亡率が高くなるという調査結果が出ています。 もちろん、理想的な睡眠時間は人によって違いますが、7時間睡眠が健康を保つ上で重要な目安になることは間違いないでしょう。 一方、日本人の睡眠時間は、40年前に比べると約1時間も減っているそうです。

心配事などで一時的に眠れないのは誰にでもあることで、多くの場合は数日~数週間でよくなります。 しかし、不眠(不眠症状)が慢性化して日常生活に支障が出る場合は治療が必要となります。 不眠は、長期欠勤や生産性の低下、事故の発生率が高くなるなどの問題に繋がることもあります。 不眠は慢性化すると、 「鬱病」などの精神疾患や、 「糖尿病」「高血圧」などの生活習慣病のリスクを高めます。 不眠症状がある場合は、治療が必要かどうかを確認してください。 不眠症の症状や原因はさまざまなので、それぞれの症状や原因に合った対処が必要です。


■不眠症の定義

夜眠れないことで昼も調子が悪くて苦しむ状態

「不眠症」とは、「夜眠れないために、昼間も調子が悪くて苦しむ状態」のことをいいます。 治療が必要な不眠であるかどうかを確かめるには、不眠症状の有無と日中の生活に支障があるかどうかをチェックします。 不眠の問題というと、夜の睡眠だけに目が行きがちですが、日中の生活に支障があるかどうかが、治療が必要かどうかを判断する最大のポイントです。 もし不眠症状があっても、日中の生活に支障がないようであれば、あまり心配することはありません。 これらの症状が長く続いているかどうかも重要です。 不眠症と診断される症状は次のようなものです。

▼下記のような不眠症状が週3日以上ある。
・床についてもなかなか眠れない。入眠するまでに30分~1時間以上かかり、それを苦痛に感じる。(入眠障害)
・夜中に何回も目が覚める。(中途覚醒)
・朝早く目が覚めて、それ以降眠れない。(早朝覚醒)
・十分寝ているのに熟睡感がない。(熟眠障害)

▼眠れないため、何となく心身が不調である。
眠れないため、気持ちや身体の面で調子が悪く、日常生活に支障があるような状態である。
【日常生活への支障】
眠気、疲労感・倦怠感、注意力・記憶力の低下、能率の低下、運転事故、抑うつ、イライラ感、 活動性・積極性の減退、頭痛、胃腸障害、睡眠の心配・悩み

上記のような状態が週に3日以上、かつ3か月以上続く場合は「不眠症」と考えられ、治療が必要です。 ただし、悩み事などによる一過性の不眠は、通常問題ありません。 不眠症が続くと、「高血圧」や「糖尿病」「鬱病」を発症しやすくなったり、その悪化に繋がるという報告もあります。 不眠が続く場合は、精神科などの医療機関を受診してきちんと治療を受けることが大切です。


■不眠の原因

●原因となる病気の有無

医療機関では、まず不眠の背景に、何らかの病気がないかどうかを調べます。 眠気に関わる病気(睡眠障害)は約70種類ありますが、その多くは不眠症状を伴います。 慢性的な不眠の原因の約40%は、 「睡眠時無呼吸症候群」「むずむず脚症候群」などの病気、痛みやかゆみ、薬の副作用などです。 さらに、 「不安障害」「鬱病」などの精神疾患が原因で起こる不眠が約40%あります。 これらの明確な原因となる病気などがなく、自然に不眠症状が起こるものが「原発性不眠症」で、 これが一般に「不眠症」と呼ばれるものです。不眠全体の約20%を占めます。 不眠症状がある場合、それが不眠症なのか、他の睡眠障害によるものなのか、正確に診断する必要があります。 睡眠障害の種類に応じて、適切な治療が必要になるからです。


●不眠の原因①

不眠の主な原因としては、夜型生活、 過剰なストレス運動不足が挙げられます。 まず、夜型生活ですが、昼夜逆転の生活を続けていると、生活リズムが狂ってしまい、熟睡できなくなります。 次に、ストレスと不眠には深い関係があり、ストレスを溜め込みがちな人は不眠になりやすいといえます。 そして運動不足になると、体温の変化に悪影響を及ぼすため、就寝・覚醒のリズムが乱れて、深い睡眠が得られなくなります。


●不眠の原因②

睡眠をコントロールする6つの要素が乱れて起こる

「睡眠」とは、脳と体が休息している状態です。 私たちが、夜になると自然に眠くなるのは、主に次の要素が睡眠をコントロールしているためです。

▼睡眠環境要因
眠りを妨げる外的要因として、騒音、光、室温などがあります。 心室の環境の見直しが必要です。

▼生理学的要因
私たちの体には”昼間活動して夜眠る”というリズムがあり、体温や血圧、ホルモンによって、ほぼ1日周期に調節されています。 これが「体内時計」です。 体内時計のリズムがずれると、寝付きが悪くなったり早朝に目が覚めることがあります。 生活リズムの乱れや海外旅行による時差ぼけも眠りを妨げます。 また、脳と体が睡眠を強く欲したり睡眠が不足していたり体が疲れていると、脳と体が休息を必要として睡眠の欲求が強くなります。

▼心理的要因
睡眠時にどれくらい脳と体がリラックスしているかです。緊張などでリラックスできていないと、睡眠の質が悪くなります。 ストレスや心配事などがあると寝付きが悪くなります。 自分なりの入眠儀式を見付けるなど、リラックスすることが大切です。

▼精神医学的要因
精神障害や鬱病などは不眠を伴うことがあります。

▼薬理学的要因
服用している薬(高血圧の薬、ステロイド薬、インターフェロンなど)やアルコールも眠りを妨げる要因になります。

▼身体的要因
体の痛みやかゆみ、頻尿なども不眠を妨げます。

これらのほかに、 脳出血や、 脳梗塞などの脳の病気、 さらに加齢も原因になることがあり、眠りが浅くなったり、寝ている途中で目が覚めたりしやすくなります。 健康ならば日中に散歩などで体を動かし、夜に眠れるような工夫をしたいものです。 安定した睡眠をとるためには、これらの6つの要素が整っていることが大切です。 これらの乱れが「不眠症」の原因になります。 不眠症には主に「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つタイプがあり、それぞれ対処法が違います。 なお、熟睡感がない熟眠障害は、他のタイプに伴って起こることが多く、その対処をすることで改善が期待できます。


■不眠のタイプ

不眠のタイプには、4つのタイプがあります。 不眠を解消するには、まず自分の不眠のタイプを知ることが必要です。

▼入眠障害(入眠困難)
不眠の中で最も多いタイプで、床についても30分以上寝付けないタイプです。 中には、明け方になるまで入眠できない人もいます。

▼中途覚醒
寝付きはいいのですが、夜中に3回以上、目が覚めてしまうタイプです。 夜間頻尿や 自分のイビキで目が覚める場合も、このタイプに該当します。

▼早朝覚醒
朝、異常に早く目が覚めて、そのまま眠れずに朝を迎えてしまうタイプです。 特に中高年や鬱の人に多いといわれます。
【関連項目】:『早朝覚醒・熟眠障害などの不眠症状の対処法』 / 『海馬の衰えが原因の不眠症の改善』

▼熟眠障害
熟睡感が得られず、目覚めが悪いタイプです。睡眠時間は十分なのに、昼間に眠くなるという人もいます。
【関連項目】:『早朝覚醒・熟眠障害などの不眠症状の対処法』 / 『睡眠時無呼吸症候群による隠れ不眠の改善』

入眠困難に悩む人の数は、年代による差はあまりありませんが、中途覚醒と早朝覚醒は高齢になるにつれて多くなっていきます。 人によっては、複数のタイプが重複して起こっている場合もあります。 不眠の解消には、自分の不眠のタイプをまず知ることが肝心で、タイプ別に適した対策を講じるようにしましょう。


■不眠症のタイプ別対処法

「不眠症のタイプ」には、「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」4つのタイプがあります。 それぞれのタイプの特徴・原因・対処法を説明いたします。

●入眠障害の原因と対処法

▼緊張が原因の入眠障害
夜まで仕事をしたりして、緊張感が夜遅くまで持続すると、眠りに入る準備が十分にできていないため、寝付けなくなります。 また、夕食後にコーヒーなどのカフェインを含む飲み物を飲んだり、就寝前に喫煙したりすると、神経が興奮して不眠の原因となります。
対処法は、就寝前の1時間半くらいの間、 40℃程度のぬるめのお湯に入浴するなどするとよいでしょう。

▼精神的なストレスや心配事が原因の入眠障害
仕事や私生活での心配事や悩み事による精神的なストレスが原因の不眠症です。 うまく眠れないとそれが気になって不安になり、ますます寝付けなくなります。
対処法は、無理に眠ろうとせず、眠くなってから床につくようにし、 床についても眠れないときは、一度床を離れて好きな音楽を聴いたり、読書をしたりして、 リラックスする時間を確保するようにして、ストレスを解消し気分転換するとよいでしょう。

▼生活リズム(体内時計)の遅れによる入眠障害
夜型の生活が続くと、体内時計が遅れ、夜遅くまで眠れず、朝もなかなか起きられなくなります。 いわゆる「宵っ張りの朝寝坊」になり、社会生活に大きな支障を来します。
対処法は、朝起きたらすぐにカーテンを開けて、部屋に太陽の光を取り入れ、 体内時計のリズムを早めるることです。 曇りや雨の日でも体内時計のスイッチを入れるには十分な明るさがあります。 また、生活のリズムの遅れを防ぐために、休日も普段と同じ時刻に起床するようにします。 少し長く眠りたい場合でも、1~2時間程度にとどめましょう。

●中途覚醒の原因と対処法

▼原因
「中途覚醒」は、一度眠りに入ってから起床するまでの間に、何回も目が覚めてしまうタイプの不眠です。 目が覚めてからしばらく眠れず、睡眠が途切れるため、熟睡感が得られません。 このタイプの不眠は中高年に多く 原因は主に「若いころよりも運動量が減り、そのため必要な睡眠時間も減少する」 および「加齢により眠りが浅くなる」ことです。 また、眠ると手足の筋肉が勝手に動いてしまう 「周期性四肢運動障害」、 睡眠中にたびたび呼吸が停止する 「睡眠時無呼吸症候群」、 眠ろうと横になると脚に異常感覚が起きる 「むずむず脚症候群」、 夜十分に睡眠をとっていても、昼間に耐えられないほどの眠気に襲われる 「ナルコレプシー」など、 加齢に伴って増える病気が、眠りの妨げになることもあります。

▼対処法
対処法は、少し遅めに寝て少し早めに起きることで(うとうとする時間も含めて6~7時間をめどに)、 床にいる時間と自分が必要な睡眠時間が、できるだけ同じ長さになるように、「遅寝早起き」の生活に変えます。 ウォーキングなど毎日続けられる適度な運動を習慣づけ、 昼間と夜の生活にメリハリをつけることも大切です。 病気の場合は、その治療を受けて、睡眠を妨げる要因に対処することが必要です。

●早朝覚醒の原因と対処法

▼原因
「早朝覚醒」は、起きる予定の時刻や、いつもの起床時刻より2時間以上早く起きてしまい、その後は再び眠ることができないタイプの不眠です。 このタイプの不眠の主な原因は「体内時計の周期が加齢によって短くなり、若いころよりも早く睡眠の準備が始まる」ことです。 周期が短くなると、体内時計が進んでしまい、そのため、夜早くから眠ってしまい、早朝に目覚めてしまうことになります。 早朝に目覚めて光を浴びると、さらに体内時計が進んでしまい、ますます早くから眠ってしまうという悪循環に陥ることになります。 また、「軽症の鬱病」があると、早朝覚醒が起こりやすくなります。 鬱病による早朝覚醒は、目が覚めても気分が優れず、床からなかなか出られないのが特徴です。 起きているときも物事を楽しめなくなったり食欲が落ちたりします。鬱病では、不眠が最初の兆候になることがあります。

▼対処法
対処法としては、体内時計が進んでいることが早朝覚醒の原因の場合は、体内時計を少し遅らせるように努力します。 具体的には、早朝に体内のスイッチが入らないよう、朝起きてすぐに太陽の光を浴びないようにします。 目覚めてからしばらく、サングラスをかけて、目に光が入らないようにするのも1つの方法です。 夜は、リラックスしてできる楽しみを見つけ、就寝時間を少し遅くしてください。 鬱病が疑われる場合は、できるだけ早く精神科や心療内科などを受診し、治療を受けてください。

■どう治療する?

不眠症の治療法には、睡眠薬による「薬物療法」と、不眠を招きやすい生活習慣を変える「非薬物療法」があります。


●非薬物療法

▼睡眠衛生指導
睡眠に関する適切な知識を得て、これまでの生活習慣を見直し、眠りを妨げている要因を減らして、眠りやすい環境を整えていきます。

▼認知行動療法
睡眠についての誤った考え方や行動パターンを修正して、睡眠習慣を改善する治療法です。

そのほか、”夜型”で睡眠不足の人は「朝の光を浴びる」など、光を利用して体内時計の調整を図ることがあります。


●薬物療法

通常の就寝時刻に眠れるように睡眠薬を服用する

生活を改善しても、不眠が解消されない場合には、睡眠薬による治療があります。 日本では、作用や持続時間などが異なる、さまざまな種類の睡眠薬が使われています。 不眠のタイプや程度、不安感の有無などから、患者さんに適した種類を選び、服用量を調節します。 主に使われているのが脳の活動を抑える鎮静作用により眠りやすくする「ベンゾジアゼピン系受容体作動薬」と、 「非ベンゾジアゼピン系」に大きく分けられます。 ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、日本では50年ほど前から使われてきた薬で、種類が多く、作用の持続時間が短いものから長いものまであり、 選択の幅が広いのが特徴です。不安を和らげる「抗不安作用」や、筋肉の緊張を緩める「筋弛緩作用」を併せ持ち、 不安や緊張の強い人の不眠に適しますが、反面、副作用で「ふらつき・転倒」が起こりやすく、薬を止めにくいという問題点があります。 非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、筋弛緩作用や抗不安作用は少なく、身体的な依存が生じにくいため、 ベンゾジアゼピン系の睡眠薬よりもやめやすいと考えられています。作用の持続時間は短めです。 また、近年、「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」などの新しいタイプの睡眠薬も使われるようになっています。 脳内で睡眠の調整に関わっているホルモン系に働きかけるような作用を持つ薬で、副作用も少なく、より自然な眠りを促す効果が期待されています。 そのほか、鬱病がある場合は、「抗鬱薬」で不眠が改善することもあります。 睡眠薬の副作用としては、ふらつき・転倒の他、翌日に「眠気の持越し」「服薬後の記憶が抜け落ちる」「作業能率の低下」などが起こることがあります。 近年、睡眠薬を長期にわたって服用している人が増え、使う睡眠薬の量や併用も増加傾向にあります。 しかし、特に高齢者では副作用が問題になりやすいため、安全な使い方が求められています。

【関連項目】:『睡眠薬の使い方のガイドライン』