脳出血

脳出血の原因は、高血圧だけではありません。 加齢に伴い増えやすい「アミロイド」という物質が原因になることもあります。


■脳出血のタイプ①高血圧による動脈硬化が原因に

日本で脳出血を発症する人は、1年間に約20万人と推測されており、2018年には、脳出血によって約3万3千人が亡くなっています。 脳出血の原因として、よく知られているのが 高血圧です。 高血圧によって脳の細い血管の動脈硬化が進むと、血管が破れやすくなります。 こうした高血圧性の脳出血は、脳の中のほうで起こりやすいのが特徴です。 ただし現在は、降圧薬の進歩や減塩に対する意識の高まりなどによって、高血圧性の脳出血は以前より大きく減っています。

高血圧性の脳出血

<<高血圧性の脳出血を防ぐには>>

高血圧がある場合、降圧薬の服用や減塩などの生活習慣の改善を行い、医療機関で測る血圧(診察室血圧)を130mmHg未満/80mmHg未満、 75歳以上の場合は140mmHg未満/90mmHg未満に保つことが望ましいです。 家庭で測る血圧(家庭血圧)は、診察室血圧より5mmHgずつ下げることが勧められます。


■脳出血のタイプ②高齢で起こりやすいアミロイド性

脳出血は、高血圧がなくても起こることが少なくありません。 アルツハイマー病の原因とみられている アミロイドという異常なたんぱくが脳の血管の壁に溜まり、脳出血が起こることがあるのです。 アミロイドは、加齢に伴い脳の血管の壁に溜まりやすくなります。アミロイドが溜まると、血管がもろくなって破れやすくなります。 このアミロイド性の脳出血は、高血圧の脳出血と異なり、脳の表面に近い血管に起こることが多いのが特徴です。 現在は、アミロイド性の脳出血の割合が増えていると考えられています。 脳出血を発症した患者さんで、高血圧がなく、高齢で、CT検査やMRI検査で脳の表面側に出血があるなどの条件が揃うと、 このアミロイド性の脳出血の可能性が高くなります。

アミロイド性の脳出血
脳出血の2つのタイプ

◆生活習慣病や肥満に注意

アミロイド性の脳出血の予防には、 高血圧糖尿病脂質異常症などの生活習慣病や 肥満の予防と管理が大切です。 脳の血管にアミロイドが溜まるのを遅らせることが期待でき、アルツハイマー病の予防にも繋がります。 そのためにも、食生活の見直しや適度な運動などの対策を行いましょう。


■出血量が少なく、血種が小さい場合は薬で治療

脳出血と診断された場合は、直ちに治療を開始します。 治療の目的の1つは、出血の広がりを抑えることです。一般に、出血の量が少なく、脳の中の血種(血液が固まったもの)の直径が3cm以下の場合は、 薬による治療が選択されます。ただし、血種が大きい場合でも、心臓や肺の病気、重度の糖尿病などがあって、 全身状態がよくないために手術が難しいと判断されると、薬による治療が行われます。 出血の広がりを抑えるためには、カルシウム拮抗薬などを点滴で投与して、できるだけ早く血圧を下げ、その状態を7日間維持することが望ましいとされています。 血圧がある程度安定したら、 カルシウム拮抗薬ACE阻害薬ARB などの飲み薬に切り替えます。 小さい血種は、徐々に吸収されて縮小し、やがてなくなります。 治療のもう1つの目的は、脳のむくみを防ぐことです。出血した場所の周囲は、むくみやすく、むくみが起こるとその周りの脳の組織が圧迫され、 更にダメージを受けてしまいます。脳のむくみを防ぐために用いられるのが、利尿作用のあるグリセリン製剤です。 点滴で投与し、体内の水分を減らすことによってむくみを防ぎます。

<<抗血小板薬と抗凝固薬のリスク>

抗血小板薬とワルファリンなどの抗凝固薬は、血液を固まりにくくする薬で、 脳梗塞心筋梗塞心房細動という 不整脈がある場合の治療に使われますが、 副作用として脳出血が起こる場合があります。使用に当たっては、薬の効果と副作用について医師とよく相談することが必要です。


■血種が大きい場合は、手術で血種を取り除く

血種が大きい場合や意識がボーっとしている場合は手術が行われます。 ボーっとしているのは、血種による脳への圧力が高く、意識障害が起こっているのだと考えられます。 血種を取り除く手術には「開頭血腫除去術」と「内視鏡下血種吸引術」があります。

▼開頭血種除去術
全身麻酔を行い、頭蓋骨の一部を取り外して血種を取り除きます。開頭血種除去術は、血種が比較的大きい場合に行われます。 開頭血種除去術の長所は、医師が手術用の顕微鏡で血種を確認しながら行うため、出血が続いている場合でも止血しながら行いやすいことです。 短所は、出血が脳の中心部に起こった場合は行えないことです。 また、頭蓋骨を大きく切開するため、全身状態がよくなかったり、高齢の場合は行えないことがあります。

▼内視鏡下血種吸引術
この手術は、全身麻酔ではなく、局所麻酔で行われる場合もあります。 頭蓋骨に小さな孔を開けて、内視鏡と細い管を差し込み、血種を吸引します。 内視鏡下血種吸引術は、血種がそれほど大きくなければ行うことができます。 内視鏡下血種吸引術の長所は、頭蓋骨を切開する範囲が狭いこと、脳の中心部で出血した場合にも行えることです。 短所は、目で確認できる範囲が狭いため、特殊な手術器具が必要で、その操作に高度な技術が必要なことです。

◆一刻も早く救急車を

血種が大きかった場合も、その多くは手術によって、脳のダメージの進行を抑えることができます。 しかし、「脳ヘルニア」が起こっていると、難しい場合があります。 脳ヘルニアとは、圧迫された脳の一部が、脳の反対側(左右)や頭蓋骨の外に押し出された状態のことです。 脳ヘルニアがあると、意識障害が起こり呼吸が低下して、命を落とす危険性が高くなります。 早期の脳ヘルニアは、手術で治せることもありますが、強い刺激を与えてもほとんど体が動かない昏睡状態の場合は、手術を行ったとしても死亡率は高くなります。 脳ヘルニアが進行する前に治療を受けるためには、脳出血に気付いたら直ちに救急車を呼ぶことが大切です。


【脳出血に合併する水頭症】
脳出血に合併して「水頭症」が起こることがあります。 脳の中心部には脳室という空間があり、そこでは、脳の表面を流れて脳を保護する働きを持つ「脳脊髄液」という液体が作られています。 脳出血でできた血種が脳室に入り込むと、脳脊髄液の流れが妨げられて脳室に溜まるため、脳室が拡大して脳への圧力が上がります。 これが水頭症で、そのままにしていると命に関わります。 そのため、水頭症が起こった場合は、血種の大きさにかかわらず頭蓋骨に小さな孔を開け、 脳室に細いチューブを留置して体外に脳脊髄液を排出させる「脳室ドレナージ」という手術が早期に行われます。