脳卒中のリハビリテーション
「脳卒中」の治療は多くの場合、発症直後だけでなく、その後も続けて行ないます。 発症直後の急性期の治療を終えた後は、脳卒中によって失われた機能を取り戻す「リハビリテーション」と、 「再発予防」のための薬物療法や生活習慣の改善を行ないます。
■脳卒中のリハビリテーション
脳卒中で寝たきりにならないために失われた機能を取り戻す
「脳卒中」は、発症後まもなく亡くなる人もいれば、後遺症をほとんど残さずに日常生活に戻れる人もいます。 しかし患者の多くは、残念ながら何らかの後遺症を抱えているのが現状です。 実際、お年寄りの寝たきりの原因の4割は、脳卒中といわれています。 脳卒中が起きた後に、機能を回復させたり、後遺症を減らしたり、寝たきりにならないためには、 早期治療と共に、早期から適切なリハビリテーションを行い、失われた機能を最大限まで取り戻すことが重要です。
●脳を回復させるリハビリテーションの効果
脳卒中のリハビリテーションには、脳に刺激を与えて機能を回復させる効果があると考えられています。 例えば、手を動かすことに関わる脳の部位が障害を受けると、手が動かせなくなります。 しかし、早期からリハビリテーションを開始し、他動的にでも手を動かし続けていると、 多くの場合、やがて少しづつ機能が回復してきます。これは、脳の障害を受けた部位の周辺部分が、 手を動かすという刺激を受けて活性化し、新たな神経のネットワークが作られることなどによって、 失われた機能が補われるためだと考えられています。
■リハビリテーションの目的
リハビリテーションは、最大限の回復を目指して行われます。
元通りに回復しない場合でも、患者の生活の質の更なる向上を目指します。
リハビリテーションには、「脳の機能を回復する」ほかにも「残された機能を強化する」働きが期待できます。
例えば利き手に麻痺が残っても、訓練によって反対側の手を自由に動かせるようになれば、
生活の中でさまざまな動作が可能になり、生活の質を向上させることができます。
また、例えば「布団から立ち上がって歩き、和式トイレを使用する」ことは困難でも、
「ベッドから立ち上がって、手すりにつかまって体を支えながら移動し、洋式トイレを使用する」
ことは実行しやすいと言えます。このように、自宅を改修したり、職場で配置換えをしてもらうなど、
患者が生活しやすいように「環境を整える」こともリハビリテーションの重要な役割の一つです。
患者ひとりひとりの状態を見極め、患者に合わせたリハビリテーションをバランスよく行っていくことが大切です。
■リハビリテーションの流れ
リハビリテーションは、次の3つの時期に分けられて行なわれます。
- ▼急性期
- 発症直後から1~2週間ごろまでを指します。 入院した医療機関などで、発症後すぐに治療と並行してリハビリテーションを行い、 体の機能が失われるのを最小限に抑えます。
- ・ベッド上で手足を動かす
- ・ベッドから起き上がる
- ・座る、車椅子に乗り移る
- など。
- ▼回復期
- 発症後3~6ヶ月ごろまでを指します。 リハビリテーションの専門病棟や専門の医療機関に移り、運動能力など生活のために必要な機能の回復を目指します。 運動能力の大幅な回復が見込めるのがこの時期です。
- ・専門病院や病棟で集中的にリハビリテーションに取り組む
- ・理学療法、作業療法、言語聴覚療法
- など。
- ▼維持期
- 自宅などに戻り、取り戻した機能を回復しながら、社会復帰を目指します。
- ・自宅、施設などへ
- ・機能が落ちないよう、自分でリハビリテーションを続ける
- など。
リハビリテーションによる回復の場合、運動能力が回復するのは、主に発症後すぐの急性期から、 6ヶ月までの回復期の間です。一方、知的能力は、発症後6ヶ月以降の維持期に入り、 ふだんの生活に戻ってからも回復が見込めます。なるべく活動的に過ごして、脳に刺激を与えると良いでしょう。
■脳卒中の急性期のリハビリテーション
できるだけ早い時期から体を動かし始める
脳卒中の発症直後、機能は一時的に最低レベルまで落ち込みます。この時期は一般に全身状態が不安定なので、 以前は「安全が第一」とされていましたが、現在では、安全性に注意しながら、 「可能な限り早くからリハビリテーションを始める」ことが最も重要とされています。 患者を寝かせたまま動かさないでいると、筋肉や骨が衰えたり、関節が固まって動かしにくくなる 「廃用症候群」が起こり、その後のリハビリテーションが難しくなります。 急性期のリハビリテーションをできるだけ早く始めるのは、廃用症候群を防ぎ、 機能が失われるのを最小限にとどめるためです。
健康な人でも、体を動かさずにいると、3週間後には筋力が半分ほどに低下してしまいます。 脳卒中を起こした人の場合は、麻痺した側だけでなく、麻痺のない側にも筋力低下などが起こるので、 少しでも早くからリハビリテーションを行い、後遺症を最小限にとどめるようにします。 最近では、発症して手術を受けた場合でも、その当日か翌日にはリハビリテーションを始めることが多くなっています。 リハビリテーションは、意識レベル、血圧、脈拍、呼吸、心電図などをモニターしながら慎重に行い、 患者が自分で体を動かせなかったり、意識が回復していない場合には、 医療スタッフや家族が姿勢を変えたり、手足の関節を動かしたりします。
脳卒中で壊死した脳細胞の周辺には、死んではいないものの機能が停止している”仮死状態”の脳細胞があります。 急性期のリハビリテーションには、こうした脳細胞に刺激を与え、機能を回復させる効果もあると考えられています。 また、急性期リハビリテーションをすぐに始めた方が、しばらくしてから始めた場合よりも早く退院でき、 亡くなる人の割合も減ることがわかっています。
【詳細】:『急性期のリハビリテーション』
【廃用症候群】
「廃用症候群」の主な症状には、「筋肉の萎縮、骨が弱くなる、関節が固まり動かしにくくなる、 床ずれ、知的能力の低下、心配機能の低下」などがあります。 体も頭も積極的に使って、刺激を与えることが重要になります。 麻痺がある場合には、ベッドに寝たままの姿勢で手足が固まってしまうと、 その後のリハビリテーションが難しくなります。
■脳卒中の回復期・維持期のリハビリテーション
回復期に取り戻した機能を自宅に戻ってからも維持する
- ▼回復期
- 回復期は、機能が大幅に回復する時期です。機能の回復には、この時期に行うリハビリテーションの密度と 強度が大きく関係することがわかっています。 回復期のリハビリテーションは、回復期のリハビリテーション病棟を持つ医療機関などで行なわれます。 多くの医療スタッフが加わり、集中的に「高密度・高強度」のリハビリテーションを行なっていきます。 運動能力は、発症からしばらくの間には大幅に回復しますが、発症から6ヶ月が過ぎると、 回復が難しくなります。そこで、6ヶ月までの間に集中してリハビリテーションを行い、 機能をできる限り回復させるのです。
- ▼維持期
- 回復期リハビリテーションを終えて退院したら、取り戻した機能が失われないようにする必要があります。 そのために行なうのが維持期のリハビリテーションで、 維持期のリハビリテーションは、患者自身が自宅で行うほか、通院したり、訪問介護サービスなどを利用し、 体を動かす習慣を継続するようにします。 知的能力は運動能力と異なり、発症後2年くらいは回復し続けることが知られています。 人と話したり、新聞を読んだり、ラジオを聴いたりすることが、知的能力の回復に役立ちます。
【詳細】: 『回復期のリハビリテーション』
■電気刺激装置を使ったリハビリ
以前から行われてきた、電気刺激を利用するリハビリに加えて「アイビス」と呼ばれる 新しいタイプの電気刺激装置が注目されています。 アイビスは、筋肉への弱くなった電気信号を拾い、筋肉を動かすことができる強さにまで増幅して筋肉に伝えます。 アイビスによって動かしたい筋肉を繰り返し動かすことで、 脳から動かしたい筋肉への電気信号が増幅され、動かしやすくなることがあります。 アイビスには、使用が適する場合と適さない場合があり、適する場合でも効果には個人差があります。 一般に、麻痺が比較的軽い人や脳卒中の発症から間もない人などは、効果が期待できるといえます。
【詳細】:『アイビス』