脳卒中の前触れ
「脳卒中」は突然起こりますが、実は、本格的な発作が起こる前に、小さな軽い発作が起こることがあります。 こうした「前触れ」を見逃さず、本格的な発作を防ぐこと、そして前触れそのものを起こさないよう、 生活習慣を見直して予防に努めることが大切です。
■脳卒中の前触れ【小さい軽い発作を見逃さない】
強い頭痛や運動障害、感覚障害などが現れる
日本人の死因の第3位が脳卒中です。脳卒中には血管が破れる脳出血と血管が詰まる脳梗塞があります。 その発症数をみると、脳出血は減少する一方、脳梗塞が増加しています。 また、血圧が高い人ほど脳梗塞の発症リスクは高まることがわかっています。 発症するリスクがぐんと増えるのが、最大血圧140mmHg以上、最小血圧90mmHg以上の場合です。 発作に至るまでには、血管の中で動脈硬化の形成など少しずつ病変が進みます。 そして早朝高血圧による急激な血圧の上昇が、最後の引き金を引いてしまうのです。 脳出血も脳梗塞も手当てが遅れると、重い後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ります。
脳卒中の症状の多くは突然起こりますが、本格的な発作を起こす前に、小さな軽い発作(前触れ)
が起きることがあります。前触れ症状は脳卒中の種類ごとに異なり、小さな発作があった場合、
それに気付いて早めに治療を受けることで、本格的な発作の予防につながります。
脳卒中の主な前触れ症状は以下のようなものです。
- ▼運動障害
- 体の左右どちらかが動かせない・力が入らない
- 歩くとなぜか片側へふれる
- フラフラして真っ直ぐ立てない
- ▼意識障害
- 意識がもうろうとする
- ▼感覚障害
- 体の左右どちらかが痺れる
- 痛み・温度などをはっきり感じられない
- 口の片側から食べ物やよだれがこぼれる
- ▼視覚・視野障害
- 重篤なめまいが起こる
- 物が二重に見える(複視)
- 片方の目が数分間見えない(一過性黒内障)
- 視野が半分欠ける
- ▼言語障害
- ろれつが回らず発音が不明瞭
- 言葉が出ない
- 人の話が理解できない(失語症)
- ▼頭痛、嘔吐、めまい
- 突然、強い頭痛が起こる
●脳梗塞の場合
脳卒中の中で最も前触れ症状が現れやすいのが「脳梗塞」で、脳梗塞の一時的に起こる小さな発作は 「TIA(一過性脳虚血発作)」と呼ばれ、脳梗塞と同様の症状が現れます。 TIAは、脳の血管に「血栓」が詰まって起こり、詰まった個所より先に血液が流れなくなるために、 脳が障害されます。ただしこの時点では、脳梗塞とTIAの区別はできません。 24時間以内に血栓が自然に溶けて、血流が回復すればTIAとみなされますが、実際には、 数分~数十分で回復することがほとんどで、1時間以上症状が続く場合は、 すでに脳梗塞が起きていることも考えられます。
TIAでは、「めまい、視野障害、右半身または左半身の麻痺や痺れ、言語障害、動きがぎこちなくなる」 といった脳梗塞の症状が現れますが、血流が回復すれば治まります。 TIAでは、血栓が血管に詰まるものの、自然に溶けて血流が再開しますが、再開したとはいえ、 動脈硬化など血管が詰まりやすい状態であることは変わらないため、TIAが現れた人の約1割が、 3ヶ月以内(多くは1週間以内)に本格的な脳梗塞を起こしています。 3ヶ月以上脳梗塞が起こらなくても、治療を受けずに放っておくと、 約30%の人が、数年以内に本格的な脳梗塞の発作を起こすといわれています。
●くも膜下出血の場合
「くも膜下出血」を起こした人の約3割に、「警告発作」と呼ばれる前触れがあったことがわかっています。
警告発作の症状の多くは風邪や慢性頭痛とは異なる「突然の強い頭痛」で、
動脈瘤から少量の出血が起こることで現れます。
本格的な発症のときよりも痛みが比較的軽く、短時間で治まります。
また、目の動きを司る「動眼神経」を動脈瘤が圧迫した場合に、物が二重に見える「複視」が現れることもあります。
これらの症状は、動脈瘤が大きくなって周囲の組織を刺激したときにも、起こることがあります。
くも膜下出血の”警告発作”を放っておくと、わずか数日のうちに本格的な発作を起こすこともあるので、
見逃さないようにすることが大切です。
●脳出血の場合
ほとんどの場合、前触れとなるような発作は特にありません。ただし、血圧が急激に上がったり下がったりしたあとに、 脳出血が起こりやすいことが知られています。仕事が忙しいときや、非常に強いストレスを感じている時は要注意です。
■脳卒中の予防
前触れは脳卒中そのもの、危険因子を知り、予防する
脳卒中の前触れを見逃さないためには、自分が現在脳卒中を起こしやすい状態にあるのかどうかを、 把握しておくことが重要です。次にあげる脳卒中の危険因子を持っている人は、脳卒中を起こしやすい状態にあるといえます。 気になる症状が現れたら、放置せず、迅速に適切な対処をしましょう。
●脳卒中の危険因子
- ▼生活習慣病や肥満
- 高血圧、高脂血症、糖尿病や肥満などが関係します。中でも高血圧は、脳卒中の種類に関係なくその危険性を高めます。
- ▼家族歴
- 特に、くも膜下出血で関係します。
- ▼不整脈(心房細動など)
- 心臓に血栓ができやすく、心房細動のある人の1/3は、将来的に「脳塞栓」を起こすといわれています。
- ▼喫煙
- 動脈硬化を進行させ、脳卒中を引き起こしやすくなります。
- ▼過度の飲酒
- ふだんの血圧が上がるために、脳の血管が傷み、脳卒中が起こりやすくなります。
脳卒中を防ぐためには、これらのうち、今ある危険因子を減らしていくことが大切です。
●”前触れ”は脳卒中そのもの
脳梗塞の前触れとして起こるTIAは、それ自体が軽い脳梗塞です。 運良く血流が回復すれば”一過性”で済みますが、運悪く血流が回復しなければ、本格的な脳梗塞になるのです。 前触れがあれば、本格的な発作を防ぐために対処することができるので、”運が良い”といえます。 しかし、前触れも本格的な発作も、起こらないほうが良いのはいうまでもありません。 ふだんから、きちんと予防や治療に努めましょう。
●”前触れ”を感じたら
脳卒中の前触れを感じたら、ためらわずに救急車を呼びます。 ”間違っているかもしれない”と、様子を見ていてはいけません。 前触れ発作であれば、時間が経つとともに治まってきますが、放っておかず、すぐに受診することが大切です。
●その他
くも膜下出血は、動脈瘤が破裂して起こります。したがって、破裂していない動脈瘤は、
くも膜下出血の”前触れ”と考えることができます。
検査技術の進歩により、近年、脳ドックで「未破裂脳動脈瘤」が発見されるケースが増えています。
これを見つけて治療すれば、動脈瘤の破裂、つまりくも膜下出血を未然に防ぐことができます。
未破裂脳動脈瘤に対しては、くも膜下出血の発症後と同様、「血管内治療」や「開頭クリッピング術」などの手術が行われます。
ただし、未破裂脳動脈瘤は必ずしも破裂するとは限りません。
専門医の意見をよく聞き、納得した上で、手術を受けるかどうかを決めると良いでしょう。