薬の名称 | 特徴 | メリット | デメリット |
t-PA | 2005年10月に脳梗塞に対する使用が認められた薬。血栓を溶かす力が極めて強い、 標準的な使用法では、1回の使用量の1/10をまず静脈注射で、残りは点滴で投与する。 | 血栓を溶かす効果が非常に高い、また、投与方法が簡単で、時間もかからない。 | 発症後3時間を過ぎると受けられない。血管がひどく傷んでいる場合などには、 出血を招く危険性がある。 |
ウロキナーゼ | 従来から使われている薬。カテーテルを脳の梗塞部の手前まで送り込み、直接投与する。 血栓を溶かす力はそれほど強くない。 | 発症後3時間を過ぎても、しばらくは使うことができる。 | 脳のカテーテル治療を行なえる医師や医療機関が限定される。薬の投与に時間がかかる。 |
脳卒中の治療
『脳卒中の治療』は、ここ数年の間に新しい治療法が登場し、大きく様変わりしつつあります。 特に「脳梗塞」は、発症後3時間以内であれば、血流を回復させる治療によって、 後遺症の程度を大幅に軽減することも可能になってきています。 発症後すぐに医療機関を受診することが大切です。
■最善の治療を受けるために
「急性期」なのか「慢性期」なのかで治療が異なる
脳卒中の治療は、発症から3時間以内に開始することが目標になります。 そうすれば、脳の損傷が少なくてすみ、治療による効果も高くなります。 もちろん、”3時間を越えたら治療法はない”ということはなく、そのときの状態に応じて、最善の治療が行なわれます。
脳卒中の治療の過程は、発症後約1~2週間の「急性期」と、その後の「慢性期」に分けられ、 発症してからどれくらい時間が経ったかによって治療法が異なり、後遺症の重さも変わって来ます。 急性期では、発症後いかに早く診断して治療を開始するかが重大なポイントで、 特に脳梗塞の場合、「超急性期」と呼ばれる、発症後から3~6時間は迅速な対応が必要です。 慢性期の治療は再発予防とリハビリテーションが中心になります。
●脳梗塞の最新治療
発症後3時間以内の治療で脳細胞を救う
脳梗塞の治療では、超急性期は「血栓溶解療法」、超急性期以降は「脳保護療法」が行なわれます。
◆超急性期の治療(血栓溶解療法)
「脳梗塞」の多くは「血栓」が脳の血管に詰まって発症し、 脳の血管が詰まると脳細胞が酸血状態になって、徐々に壊死していきます。 その周辺には細胞としての機能が止まっているものの、まだ壊死はしていない「ペナンプラ」ができます。 ペナンプラは、放置しておくと約3~6時間で壊死するため、薬で早急に血栓を溶かして血流を再開させる「血栓溶解療法」を行ないます。
血栓を溶かす際には「ウロキナーゼ」と「t-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)」の2種類があり、 発症後3時間以内であれば、静脈にt-PAを点滴し、3時間以上たっている場合はカテーテルを血栓の近くまで送り込み、 梗塞部の手前で「ウロキナーゼ」を投与します(静脈内注入)。 ウロキナーゼは、従来から使われている薬ですが、血栓を溶かす力はそれほど強くありません。 効果はt-PAの方が効果が高いのですが、t-PAの使用は発症後3時間以内に限られているので、 3時間を越えると、ウロキナーゼを使用します。
t-PAは2005年10月に脳梗塞への保険適用が認められた、比較的新しい薬です。 血栓を溶かす力が非常に強く、注射と点滴で投与されます。 t-PAの治療効果は高く、発症後3時間以内の使用で、後遺症の程度を大幅に軽減することが可能です。 しかし血管の損傷がひどい人などにt-PAを用いると、血管が血流の圧力に耐え切れず、 破れて出血する危険性があります。そのため、t-PAの使用に際しては、 「発症後3時間以内」などの基準を細かく定め、安全に使うことのできる患者にのみ用いられています。
◆超急性期以降の治療(脳保護療法)
脳梗塞が起こると、梗塞部位より先の脳細胞は徐々に壊死していきます。さらにその周辺の脳細胞は、 死んではいないものの機能が停止した”仮死状態”になっています(ペナンプラ)。脳梗塞を起こすと、脳内に 「フリーラジカル」という有害な活性酸素が発生し、”仮死状態”の脳細胞を壊死させてしまいます。 そこでフリーラジカルの働きを抑える「脳保護療法」や「抗血栓療法」「抗脳浮腫療法」を行ないます。 脳保護療法は、「エダラボン」という薬を使ってフリーラジカルの働きを抑え、 ”仮死状態”の脳細胞を守る治療法です。なお、エダラボンは発症後24時間以内の使用が勧められています。
治療名 | 薬の名称 | 発症後いつ使用するか | 方法 |
血栓溶解療法 | t-PA | 3時間以内 | 梗塞を起こした血栓を溶かす。t-PAは点滴で、ウロキナーゼはカテーテルを血栓の近くまで入れて、 カテーテルを通して投与する。 |
ウロキナーゼ | 6時間以内 | ||
脳保護療法 | エダラボン | 24時間以内 | 梗塞部周辺のフリーラジカルの働きを抑える。点滴で投与する。「急性腎不全」を招くことがあるため、 腎機能の低い人には使わない。 |
抗血栓療法 | オザグレル | 48時間以内に使用開始するのが望ましい | 抗血小板療法では、血栓の元となる「血小板」が集まるのを防ぐ。 抗凝固療法では、血栓を作る「フィブリン」ができるのを防ぐ。 点滴から飲み薬(アスピリンとワルファリン)に替えて、慢性期も治療を続ける。 |
アスピリン | |||
抗凝固療法 | アルガトロバン | ||
ヘバリン | |||
ワルファリン | |||
抗脳浮腫療法 | グリセロール | 48時間以内に使用開始するのが望ましい | 余分な水分を取り除き、梗塞部周辺は点滴で投与する。 |
●くも膜下出血の最新治療
「くも膜下出血」は、「脳動脈瘤」が破裂して起こります。 いったん出血が止まっても、放置しておくと、最初の1ヶ月間で2~3割程度が再破裂し、 大出血を起こす危険性があります。そのため、再出血を防ぐ治療が必要になります。 「安静、血圧管理、止血薬の使用」などの内科的治療だけでなく、多くの場合は、外科的治療が必要になります。 基本的な治療法は、「開頭クリッピング術」が従来から行なわれていますが、 最近は「血管内治療」が広まりつつあります。
- ▼開頭クリッピング術
- 頭蓋骨の一部を切り開き、動脈瘤の根元を金属製の小さなクリップで挟み、血流を遮断することで、 動脈瘤の破裂を防ぐ。血流の途絶えた動脈瘤は、やがてかさぶたのようになる。
- ▼血管内治療
- 脚の付け根の動脈などから、カテーテルを脳の動脈瘤まで送り込み、先端からプラチナ製の「コイル」を出して、 動脈瘤内に詰め込む。やがてコイルに血小板などが付着して血栓ができる。 その血栓が動脈瘤を防ぐことで、再出血を予防する。
身体的な負担は血管内治療のほうが軽く、お年寄りでも受けられます。また、確実に再出血を防ぐ効果が認められているのは、 開頭クリッピング術です。血管内治療はまだ新しく、長期的な予防効果は明らかではありません。
病状が落ち着いたら「血管れん縮」を防ぎます。血管れん縮とは、「くも膜下腔」に出血した血液から血管を収縮させる 物質が出て、脳の血管が細くなり、血流が低下することです。血管れん縮は脳梗塞を招く危険性があるため、 開頭クリッピング術に際して、くも膜下腔に出血した血液を取り出す「脳槽洗浄法」や、薬物療法などを行ないます。
●脳出血の治療
「脳出血」の場合、出血が拡大して、脳細胞の障害が広がらないよう防ぐことが重要で、
治療には、薬物療法と外科的治療(手術)があります。
薬物療法は、出血が止まっている場合に行なわれます。
まずは降圧薬で血圧を下げたり、抗浮腫薬の「グリセロール」を使って脳のむくみを防ぎます。
これらの内科的治療の効果がない場合は、外科的治療が必要になります。
外科的治療(手術)には、2種類の方法があります。1つは「開頭血腫除去術」といい、
頭蓋骨の一部を切り開き、脳の中にたまった血腫を取り除く方法です。
手術中に止血できるため、出血している状態でも行なえます。
もう1つは「低位脳血腫吸引術」といい、出血が止まっている場合に行なわれます。
専用の器具をつけたままCTを行い、CTで血腫の位置を確認しながら、
頭蓋骨に開けた孔から吸引管を入れて血腫を吸い出します。
年齢、重症度、血腫の場所や大きさなどによって手術方法が決められます。
最近は薬物療法が主流ですが、出血の部位や状態によっては手術が行なわれます。