くも膜下出血
発症すると約3割の人が命を落としてしまう
『くも膜下出血』は、 脳の表面を覆う軟膜とくも膜の間にあるくも膜腔という隙間に出血が起こる病気で、死亡率の高い大変危険な病気です。 発症すると、突然頭を強く殴られたような、激しい頭痛に襲われます。 発症した人の約3割が命を落とし、約4割が要介護状態になると報告されています。 命に関わるだけでなく、一命を取り留めても介護が必要になる可能性の高い病気です。 くも膜下出血は、発症する前にサインが現れることがあります。サインに早く気付いて、危険な病気の発症を防ぎましょう。
■原因は脳の血管にできた瘤
くも膜下出血が起こると、多くの場合、金槌で頭を殴られたような突然の激しい頭痛に襲われます。
これが、この病気の最大の特徴です。また、ほとんどの場合、吐き気や嘔吐も起こります。
くも膜下出血の原因として最も多いのが、脳の血管の一部が瘤状に膨らむ脳動脈瘤という瘤が破れるために起こります。
ただし、脳動脈瘤は、あると必ず破れるというわけではありません。
脳動脈瘤が破裂しないでとどまっている状態を未破裂脳動脈瘤といい、脳ドックなどを受けて発見されるケースが増えています。
未破裂脳動脈瘤は、100人に1人程度にあるといわれていますが、通常は無症状で、実際に破裂するのはそのうちの0.2~0.3%程度と考えられています。
未破裂脳動脈瘤の多くは、脳の太い血管が枝分かれする部分にできます。瘤の壁は薄く、血液の流れに耐えられなくなると、破裂します。
すると、くも膜下腔に出血が広がります。これがくも膜下出血です。
未破裂脳動脈瘤は、状態によって破裂するする危険性が異なります。
日本脳神経外科学会の研究では、未破裂脳動脈瘤が大きいほど、破裂しやすいことがわかっています。
直径3~4mmの小さな脳動脈瘤が破裂する危険度を1とすると、7~9mmは約3.4倍、10~24mmは約9倍、25mm以上では約76倍も危険度が高くなります。
そのほか、瘤の形がいびつなもの、瘤のサイズが大きく根元が狭いものも破裂しやすいことがわかっています。
未破裂脳動脈瘤が破裂しやすくなる危険因子には、次のようなものが挙げられます。
- ▼高血圧
- 動脈硬化を進めるほか、血管に圧力がかかるため、破裂しやすくなります。
- ▼喫煙
- タバコは血管を収縮させる作用があるため、血圧が上がります。
- ▼家族歴
- 親や兄弟がくも膜下出血を発症したことがある人は、発症リスクが高いことがわかっています。
また、理由はまだわかっていませんが、男性よりも女性に比較的多いことがわかっています。 発症年齢は、女性は特に60歳代以降に多く、男性は40~60歳代に多い傾向があります。 ただし、くも膜下出血は、中高年だけの病気ではなく、20~30歳代の若い人にも起こります。
■目に現れる未破裂脳動脈瘤のサイン・前触れ
未破裂脳動脈瘤があることによって症状が現れ、自分で気付ける場合があります。 症状は、くも膜下出血を発症する数か月前から数日前に現れます。 くも膜下出血の発症を防ぐ手掛かりの1つが”前触れ”の症状です。 くも膜下出血が起こる人の1/3くらいに、発症前に目の症状や頭痛などが現れるとされています。
- ▼目の症状
- 内頚動脈と後交通動脈の分岐部は、脳動脈瘤のできやすい場所です(下図参照)。 この近くには、眼球を動かす動眼神経が通っているため、未破裂脳動脈瘤にって圧迫されると、 「物が二重に見える」「片方の瞼が下がる」「瞳孔が開く」といった症状が、 くも膜下出血を発症する数か月前から数日前に一時的、あるいは継続的に現れます。 特に、目や瞼の異常が現れた場合は、脳の異変が疑われます。 症状に気付いたらすぐに脳神経内科や脳神経外科などの専門医を受診することが勧められます。 目の症状が起こるのは、未破裂脳動脈瘤が目などを動かす神経を圧迫するためです。 未破裂脳動脈瘤の有無は、MRA検査(下写真参照)で確認します。
- ▼頭痛
- 「”金槌で殴られる”ほどではないものの、突然、経験したことのないような強い頭痛」が起こり、数日間続きます。 「吐き気や嘔吐」「意識がボーっとする」などの症状を伴うこともあります。 くも膜下出血の前触れとして、こうした症状が現れた場合は、すでに脳動脈瘤が破れて出血が起こっています。 出血が少ないため、症状が軽く済んでいますが、そのままにしていると大きな出血に繋がります。 特に、家族歴のある人で、経験したことのないような強い頭痛を感じた場合は、迷わず脳神経内科や脳神経外科などの専門医を受診してください。 普段から頭痛に悩まされている人も、 いつもの頭痛と違うと感じたら専門医を受診しましょう。
◆前触れの症状がなくても予防は重要
くも膜下出血を発症する人の多くには前触れの症状が現れません。 しかし、禁煙などの生活習慣の改善や 高血圧の治療を行うことが予防に繋がります。 気になる場合は、脳ドックを受ける方法もあります。
【血管を画像化するMRA】
MRA検査では、患者さんが装置の上に横になっているだけで、脳の血管を画像化することができ、未破裂脳動脈瘤の発見だけでなく、
その大きさや形なども調べることができます。
未破裂脳動脈瘤が見つかった場合は、大きさなどから、経過観察なのか手術を行うのかなど、今後の対応について専門医と相談します。
未破裂脳動脈瘤が小さい場合は、破裂するリスクが少ないので、経過観察を選択する人が多いようです。
■未破裂脳動脈瘤を治療してくも膜下出血を防ぐ
前述の症状が未破裂脳動脈瘤によって起こっている場合は、くも膜下出血の発症を防ぐために、未破裂脳動脈瘤の破裂を抑える治療が勧められます。 症状がない場合でも、脳動脈瘤の大きさが5~7mm以上あれば、治療が検討されます。 それよりも小さくても、瘤の形がいびつだったり、瘤のサイズが大きく根元が狭い場合、破裂しやすい場所にある場合も治療が検討されます。 また、破裂した場合の脳動脈瘤は、血液の流れができて一旦塞がります。 しかし、処置をしないでいると、再び破裂して大出血が起こり、命を落とす確率が高くなります。 破裂を防ぐための主な治療法には、開頭クリッピング術とコイル塞栓術があります。
- ▼開頭クリッピング術
- 開頭クリッピング術は、最も多く行われている治療法で、脳の比較的浅いところで発症した場合により適しています。 開頭して脳動脈瘤の根元をクリップで挟み、脳動脈瘤への血液を遮断して破裂を防ぎます。 クリップはそのまま永久に脳内に残りますが、運動などによって外れる心配はありません。 手術時間は3~4時間ほどです。長所は、手術用の顕微鏡で直接患部をみながら行えるので、処置がしやすく、手術後に大きな後遺症が出にくいことです。 短所は、脳を直接押さえつけながら行う必要があることです。
- ▼コイル塞栓術
- コイル塞栓術は、「血管内治療」と呼ばれる方法の一つです。脳の深いところで起こった場合に適しています。 血管にカテーテルを通し、脳動脈瘤に金属製のコイルを詰めて破裂を抑える治療法です。 最近は、入り口が広い脳動脈瘤に対しては、コイル塞栓術を行った後に、瘤の根元にステント(金属でできた網目状の筒)を留置して、 コイルが外れるのを防ぐ治療も行われています。 治療時間は2~3時間ほどです。長所は、脳を直接触ることなく治療ができることです。 短所は出血したり、血管が詰まるなどのトラブルが起こると対処しにくく、大きな後遺症が残る危険性があることです。
どちらの治療法を選択するかは、脳動脈瘤の場所、患者さんの年齢や全身状態、治療法の長所や短所などを検討して慎重に決められます。 くも膜下出血で出血量が多い場合は、脳の血管が細くなる攣縮が起こることがあります。 命に関わる大変危険な状態であるため、開頭クリッピング術やコイル塞栓術の後に、攣縮を防ぐための薬を点滴で投与します。