動脈硬化症
『動脈硬化』は、文字通り、血管(動脈)が硬くなったり、 血管壁にコレステロールなどが溜まって血管の内腔が狭くなった状態のことです。 動脈硬化の種類にはアテローム性粥状動脈硬化、細動脈硬化、中膜硬化などのタイプがありますが、通常はアテローム性動脈硬化を指すことが多いようです。 アテローム動脈硬化症は、 「脂質異常症」(従来の高脂血症)や 「糖尿病」、 「高血圧」、 「喫煙」などの危険因子により生じると考えられ、 進行すると、動脈の血流が遮断されて、酸素や栄養が重要組織に到達できなくなる結果、血管が詰まって 「心筋梗塞」や 「脳梗塞」を起こすことがあります。
■「動脈硬化」とは?
虚血性心疾患や脳梗塞の原因
全身に酸素と栄養を運搬する重要な役目を持っている動脈が変質して、弾力性を失ったり、内腔が狭くなったりした状態を「動脈硬化」といいます。 この状態になると、動脈の中を血液が流れにくくなってしまいます。 動脈が弾力性を失うと、動脈血の流れによって一部に強い圧力がかかるようになります。 すると、動脈の血管壁の弱い部分に負荷がかかり、膨らんできます。これを動脈瘤といいます。 動脈瘤は、破裂して大出血を起こすことがあります。 動脈瘤の破裂が、脳で起こるとくも膜下出血や 脳出血になり、命に関わる場合があります。 胸部大動脈や腹部大動脈で起こってもそれぞれ非常に危険です。 内腔が狭くなると、健康な血管にとっては問題にならないような血栓が詰まり、閉塞を起こしてしまうこともあります。 閉塞が10分以上続くと、詰まった動脈の先にある組織は血液に届かずに壊死状態に陥ります(梗塞)。 脳で起これば脳梗塞、 心臓ん肝動脈で起これば心筋梗塞となり、 これも適切な治療ができなければ命に関わります。 また、腎動脈で起これば腎梗塞から腎不全を引き起こし、足の大動脈で起これば壊疽を起こす場合もあります。
●コレステロールと動脈硬化
動脈硬化は、主に、血液中のコレステロールなどが血管壁の内部に溜まり、血管が厚くなって、血管の内腔が狭くなることをいいます。 血液には、体に必要な「脂質」が含まれています。 主な脂質には、中性脂肪や次の2種類のコレステロールがあります。
- ▼LDLコレステロール
- 肝臓で作られたコレステロールを体中の細胞へ運ぶ「LDL」に含まれています。 増えすぎると動脈硬化を促進するため、”悪玉”とも呼ばれます。
- ▼HDLコレステロール
- 体中で使われなかったり、血管壁に沈着したコレステロールを肝臓へと戻す「HDL」に含まれています。 動脈硬化を防ぐように働くため、”善玉”とも呼ばれます。
動脈硬化は、血液中の「LDLコレステロールが多すぎる」「HDLコレステロールが少なすぎる」「中性脂肪が多すぎる」などの場合に促進されます。
血管は20歳を過ぎると徐々に老化が進み、血管壁の筋繊維が減って内膜は厚くなり、内壁にコレステロールが溜まってきます。 LDL(悪玉コレステロール)が過剰にあると、余分なLDLが酸化され、 それがきっかけとなってコレステロールを中心とする脂質が血管の壁に過剰に沈着して、粥状のかたまり(プラーク)が生じます。 これが「アテローム(粥状)硬化」といわれる状態です。 アテローム硬化が進行すると、動脈の内側がしだいに盛り上がってきて、血管の内腔が狭くなります。 そして、この脂質の固まりが剥がれて血管を詰まらせると、心臓の血管(冠動脈)が詰まって 心筋梗塞が起きたり、 脳の血管が詰まって脳梗塞が起こります。
このように、以前は、動脈硬化は血管壁に脂質が付着する疾患と考えられていました。 そのような状態が起きていることは間違いないのですが、 現在では、「炎症性サイトカイン」がきっかけで発症するという考え方が浮上してきました。 炎症を引き起こすサイトカインなどの免疫応答の結果起きるという説です。 この説は、酸化したLDLが粥状のプラークを作りますが、その過程で免疫細胞のサイトカインがつくられ、 炎症反応としてCRPが作られます。 さらに、サイトカインによってプラークが破れて血栓ができ、それが心筋梗塞の直接の原因になるというものです。
■動脈硬化の危険因子
危険因子が重なるとますます進んでいく
肥満・ 高血圧・ 高血糖・ 脂質異常は動脈硬化の危険因子で、これらを多く持っていると、1つもない場合に比べて、 心臓病による死亡率が高くなります。仮に1つの危険因子の程度は軽くても、動脈硬化性疾患の危険因子が多くなればなるほど、発症率も高くなります。 心筋梗塞などで死亡する割合は、危険因子である肥満・高血圧・高血糖・脂質異常が全くない人に比べて、 1~2個ある人では約3.5倍、3~4個だと約8倍にもなることがわかっています。 肥満・高血圧・糖代謝異常・脂質異常症は、互いに影響しあうため、動脈硬化の予防では、色々な危険因子を総合的に見ながら管理していく必要があります。 特に、肥満があると、高血圧・高血糖・脂質異常症などを伴いやすくなります。
●高血圧
血管壁の内側は「内皮」という薄い膜に覆われています。血管壁に高い圧力がかかり続けると、 内皮が傷つけられて、血液中の「LDL」が血管壁に侵入しやすくなったり、血液が固まりやすくなります。 その結果、動脈硬化が進行していきます。 動脈硬化が進んで血管の内腔が狭くなると、血管壁にかかる圧力がさらに上がり、ますます動脈硬化が進行するという悪循環に陥ります。
【関連項目】:『高血圧症』
●高血糖(糖代謝異常)
糖代謝異常とは、「糖尿病」とその予備軍のことです。食べ物に含まれる炭水化物は、体内で分解されて 「ブドウ糖」になります。 ブドウ糖をエネルギー源として利用するためには、「インスリン」というホルモンの働きが必要ですが、 糖代謝異常がある場合、インスリンの働きが悪く、ブドウ糖をうまく利用できません。 そのため、血液中にブドウ糖が溢れ、ブドウ糖によって内皮が傷つけられて、動脈硬化が進むのです。 また、肥満や運動不足などによってインスリンの働きが悪くなると、「中性脂肪」を分解する酵素の働きが低下して、 中性脂肪を多く含む「VLDL」が血液中で増加します。すると、血液中には通常よりも小さなLDLが増えてきます。 これは、通常のLDLよりも血管壁に入り込みやすく、動脈硬化を強く促進します。 糖尿病があると、動脈硬化が進みやすく、糖尿病のない人に比べて、心筋梗塞などの心臓病を起こすリスクが2~4倍も高いことが知られています。
●脂質異常症
動脈硬化の進行に直接関わっているのが、血液中の脂質です。 脂質は「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」「中性脂肪」の3つに大きく分けられ、 LDLコレステロールや中性脂肪が高い値を示す場合や、HDLコレステロールが低い値を示す場合は、 「脂質異常症」と診断されます。
●内臓脂肪蓄積
脂質、血圧、血糖の全ての異常に関わるのが、内臓脂肪です。 内臓脂肪が蓄積すると、脂肪細胞から分泌されるさまざまな物質のバランスが乱れ、血液中の脂質や血糖、血圧に悪影響を及ぼすことがわかっています。 つまり、動脈硬化性疾患の危険因子を複数引き起こしやすく、また進行も早まります。
●喫煙
喫煙は、内皮の働きを弱めて血液を固まりやすくしたり、 LDLを血管壁に入り込みやすくさせることが知られています。 それ以外にも、喫煙は血管にさまざまな悪影響を及ぼすと考えられています。 喫煙者が心筋梗塞などの心臓病を起こすリスクは、非喫煙者の約2倍であることがわかっています。 しかし、喫煙していても、禁煙すればリスクを下げることができます。
●年齢
動脈硬化は、ある日突然起こるのではなく、30年ほどの長い期間をかけてゆっくりと進行していきます。 そのため、「男性で45歳以上、女性で55歳以上」という年齢が、動脈硬化の危険因子の1つに挙げられています。 女性の方が年齢の設定が高いのは、女性の場合、女性ホルモンによって血管が守られており、動脈硬化が進みにくいためです。 35~65歳の女性における心筋梗塞の発症率は、同年代の男性の1/5~1/6という報告もあります。 しかし、閉経や婦人科の病気で女性ホルモンのバランスが崩れると、動脈硬化のリスクは高くなります。 また、閉経前でも、糖尿病がある場合は、同年代の男性とリスクが変わらないといわれています。
●家族に心臓病になった人がいる
LDLが多い「家族性高コレステロール血症」など、
遺伝的な体質として動脈硬化を起こしやすい場合もあると考えられています。
ただし、同じ家庭内で生活していると、食事や運動などの生活習慣が似てくるので、
そういったことが影響している可能性もあります。
年齢や体質を変えることはできませんが、それ以外の危険因子は、生活習慣を改めることによって減らすことができます。
■診断
動脈硬化になっているかどうかを確認するのは、なかなか難しいことです。 以下のような診察や検査を行い、リスク要因がどれだけあるか、合併症の兆候があるかどうかで診断を下します。
- ①問診
- 現在の症状や、喫煙状況、食生活、運動習慣、日常生活でかかるストレスなどを聞き取ります。 家族の病歴も重要なリスク要因です。
- ②血圧測定
- 高血圧は、動脈硬化の重要なリスク要因です。
- ③血液検査
- 血液中のコレステロール、中性脂肪、尿酸、糖などの量を測定します。
- ④心電図検査
- 心筋梗塞や不整脈など、 動脈硬化から派生する病気がある場合は、波形に異常がみられることがあります。 狭心症は心電図には異常が出ないことが多いので、 運動して心臓に負荷をかけながら心電図をとります。
- ⑤X線撮影
- 胸部や腹部のX線撮影で心臓や腹部の大動脈を撮影し、動脈硬化の影響があるかどうか調べます。
- ⑥尿検査
- 尿から糖が出ていれば、糖尿病になっている可能性があります。 たんぱくが検出されれば、腎臓に障害が起こっていることが考えられます。
- ⑦超音波検査
- 心臓や大動脈の形状や、心臓から出ている血流の速さ、血管の動き、血栓や粥腫がある場合はその状態を見ることができます。