足の動脈硬化
『閉塞性動脈硬化症(ASO)』

動脈硬化で手脚の血管の内腔が狭くなり、 手脚の痛みなどが現れる病気閉塞性動脈硬化症ASO)」が、中高年を中心に多く見られます。 一定の距離を歩くと、脚の痛みで歩けなくなる「間歇性歩行」という症状が特徴で、放置していると脚の切断が必要になることもあります。 閉塞性動脈硬化症の治療には、まず、生活習慣の改善と併せて、禁煙や運動などの生活習慣や薬物療法を行い、 悪化したら、手術やカテーテル治療で脚の血流を改善します。


■閉塞性動脈硬化症(ASO)とは?

動脈硬化で手脚の血管の内腔が狭くなり、手脚の痛みなどが現れる病気

「動脈硬化」とは、血管の壁にコレステロールなどが沈着し、 内腔が狭くなったり詰まったりして、血流が悪くなった状態のことです。 動脈硬化が原因で起こる病気として、 「脳梗塞」 「狭心症」「心筋梗塞」がよく知られていますが、 動脈硬化は脳や心臓に限らず、全身の血管に起こります。

「閉塞性動脈硬化症(ASO)」は、動脈硬化によって「手脚の血管」の血流が悪くなり、 「手脚の痛み」などを引き起こす病気で、”手脚の狭心症”ともいえる病気です。 アメリカでは65歳以上の人の約15%に閉塞性動脈硬化症があるともいわれ、日本でも最近、中高年を中心に多く見られるようになっています。 閉塞性動脈硬化症は、太腿や脛などの血管のほか、下腹部で大動脈から左右の脚に分かれる「腸骨動脈」という血管にも起こります。 人によっては、これらの複数の部位で同時に発症することもあります。 閉塞性動脈硬化症では、手脚の感覚が鈍くなって、怪我をしても気付かないケースもあり、 もともと血行が悪くなっているところに細菌が入って感染症を起こすと治りが悪く、 最悪の場合は病変部が腐ってしまい(壊疽)、切断しなければならないこともあります。


■閉塞性動脈硬化症(ASO)の症状

一定の距離を歩くと、脚の痛みで歩けなくなる「間歇性歩行」が特徴

脚に動脈硬化が起きても、初めのうちはほとんど症状がありません。 動脈硬化が進むと、一定の距離を歩いたときに脚の筋肉、主にふくらはぎが締め付けられるように痛んで歩けなくなります。 しかし、数分間立ち止まって休むと痛みが治まって、また、歩けるようになります。 このように断続的にしか歩けない症状を「間歇性歩行」といい、閉塞性動脈硬化症の特徴的な症状の1つです。

●悪化すると脚の切断が必要になることも

動脈硬化がさらに進むと、歩かずにじっとしていても、足が痛むようになります。 痛みがつらくて、夜眠れないこともあるほどです。放置していると、足に治り難い「潰瘍」ができることがあり、 さらに悪化すると、「壊死」を起こして、足を切断しなければならなくなることもあります。 閉塞性動脈硬化症の全ての患者が、脚を切断することになるわけではありませんが、 安静時の痛みや潰瘍があるような重症の人が治療せずにいると、半年間で約40%の人が脚を切断する必要が出てきます。 しかし、間歇性歩行だけがある初期の段階で治療を行えば、切断が必要になる可能性は約5年で5%程度と低くなります。 脚の切断を回避するためにも、間歇性歩行の段階で病気を発見し、適切な治療を行うことが大切なのです。 閉塞性動脈硬化症は、医療機関で脚の脈拍を調べたり、上腕と足首の血圧を測ってその比を調べたりすることで、多くは診断がつきます。

●脳梗塞・心筋梗塞との合併


閉塞性動脈硬化症は手脚の抹消動脈障害ですが、動脈硬化は全身性の疾患であり、閉塞性動脈硬化症患者は 手脚以外の部分や臓器でも動脈硬化が進んでいる可能性が高く、脳血管障害や心筋梗塞など、 命に関わる深刻な合併症を発症することも少なくありません。 同年代の閉塞性動脈硬化症の人と閉塞性動脈硬化症ではない人を比較すると、閉塞性動脈硬化症の患者の余命は短くなっています。 また、年齢が高くなるほど、その傾向が顕著になります。
閉塞性動脈硬化症が考えられる症状がある場合は、早く血管外科を受診することが大切です。 近くに血管外科がない場合は、心臓血管外科や循環器内科で相談してください。


■閉塞性動脈硬化症(ASO)チェック

1つでも気になる症状があれば、検査を受けることをおすすめします。

  • 歩いているとき、ふくらはぎに痛みを感じる。
  • 歩くのをやめると、痛みが治まることが多い。
  • 坂道を登るときに痛みを感じることが多い。
  • 座っているときや横になっているとき、足に痺れやしくしくした痛みを感じることがある。
  • 手足が冷たく感じることがある。
  • 手足の感覚が鈍くなったような気がする。
  • 足の指や爪の色が他と違っている。
  • 気付かないうちに足に怪我をしていることがある。
  • 手足の怪我の治りが遅い気がする。
  • 片側の足だけ細くなったり、体毛が抜けたりする。

●シグナルを見逃していませんか?


例えば、足が痛くなって歩けないようなことはありませんか?
閉塞性動脈硬化症は早期発見・早期治療が大切。 危険因子を持っている方は、ぜひ医師のチェックを受けてください。 さらに、次のような症状がある方は、より閉塞性動脈硬化症の可能性が高くなります。

  • 足の変色(白または紫)
  • 足の爪や指先の変色
  • 足が冷たい
  • 歩行時に足が痛い
  • 安静時に疼痛・痺れがある

■閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療 ①間歇性歩行までの場合

生活習慣の改善と併せて、禁煙や運動などの生活習慣や薬物療法を行う

禁煙
たばこは血管の壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。禁煙は、閉塞性動脈硬化症を治療する上で大変重要です。

ウォーキングなどの適度な運動
歩くことが刺激となり、狭くなった血管の血流を補う細い血管が発達します。 「脚が痛くなるまで歩き、痛くなったら休んでまた歩く」ということを、約30分間繰り返します。 これを1日2回程度、継続して行っていると、多くの人は歩ける距離が徐々に延びてきます。 ただし、心臓病や高血圧などの病気がある人は、医師と相談しながら行います。

▼薬物療法
血液を固まりにくくする「抗血小板薬」や、血管を広げて血流を改善する「血管拡張薬」などを服用します。 高脂血症(脂質異常症)の治療薬で、動脈硬化の進行を抑える効果のある 「スタチン」も有効です。

▼糖尿病、高血圧、高脂血症(脂質異常症)のコントロール
どの病気も閉塞性動脈硬化症の危険因子です。生活習慣の改善や薬物療法などで適切にコントロールすることが大切です。

感染予防のために、脚を清潔に保つことも大事です。 また、閉塞性動脈硬化症があると脚の傷が治りにくいので、家の中でも靴下を履いて脚を保護しましょう。


■閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療 ②重症の場合

手術やカテーテル治療で脚の血流を改善する

「安静時にも脚が痛む」「潰瘍や壊死がある」「生活改善や薬物療法ではよくならない」などの場合は、 「バイパス手術」や「カテーテル治療」で、脚の血流を改善します。 間歇性歩行の段階でも、生活に支障があればこれらの治療が検討されます。

▼バイパス手術
脚の静脈や人工血管を使って、詰まった血管の代わりになる、血液の新たな通り道(バイパス)を作る手術です。 詰まっている部分が長い場合に行います。通常、手術時間は約3~4時間で、7~10日程度の入院が必要です。

▼カテーテル治療
詰まっている部分が短い場合に行います。カテーテルという細い管を、脚の付け根の血管から挿入して患部まで送り、 カテーテルについている「バルーン(風船)」を膨らませて血管を広げます。 それだけでは再び詰まることがあるので、多くの場合、そこに「ステント」という金属製の網状の筒を留置し、血管が塞がらないようにします。 カテーテル治療は皮膚を大きく切開せずに行うため、バイパス手術に比べて患者の体への負担が軽くて済みます。 治療に要する時間は約1~2時間で、入院期間も3~5日程度でです。 治療後はステントに血栓(血の塊)が付着しやすくなるため、抗血小板薬を服用して血栓を予防します。


■その他

▼間歇性歩行は脊椎の病気でも起こる
「脊柱管狭窄症」など、脊椎の病気でも間歇性歩行が起こる場合があります。 脊柱管狭窄症の場合、前屈みになって休むと症状が治まりやすいのが特徴です。 また、閉塞性動脈硬化症と異なり、歩ける距離が日によって変化します。

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