コレステロールが関係する病気『閉塞性動脈硬化症』

脚や腕の血管に「動脈硬化」が起こり、血管の内腔が狭窄したり、閉塞するのが『閉塞性動脈硬化症』です。 実際には腕の血管に起こることは稀で、ほとんどが足の血管に起こります。重症になると、脚に血液が十分に送られなくなり 脚に「潰瘍」ができたり壊死したりします。足の血管で動脈硬化が起こりやすい部位は、主に3ヵ所です。 上半身では、鎖骨の下にある「鎖骨下動脈」が、比較的起こりやすい部位です。 閉塞性動脈硬化症は命に関わる病気で、進行の程度によっては5年後の生存率が大きく低下します。


症状

一定の距離を歩くと脚が痛み、やがて安静時にも痛むようになる

脚の血管に動脈硬化が起こっても、初期の段階では周囲の血管が発達して「側副血行路」という迂回路ができ、 血流が確保されるので、なかなか症状が現れません。 また、よく起こる部位の1つである「下腿動脈」は3本の血管から成るので、 1~2本が詰まっても無症状であることが少なくありません。 ただし、「足の先が冷たく感じる、痺れる、白っぽくなる」といった症状が現れることもあります。

●一定の距離を歩くと痛む

動脈硬化が進み、内腔の狭窄が強まると「間欠性跛行」という特徴的な症状が起こります。 間欠性跛行とは、一定の距離を歩くと脚(特にふくらはぎ)が痛んで歩けなくなり、数分休むと再び歩けるようになるという 状態を繰り返すものです。脚の筋肉は運動時に多量の血液を必要としますが、動脈硬化があると、 脚に十分な量の血液が届かなくなるのが原因です。 動脈硬化が進むと、安静時にも痛むようになってきます。放置していると、脚の傷などをきっかけに、 脚に治りにくい潰瘍ができます。さらに進むと、壊死に至り、脚の切断が必要になるここもあります。


閉塞性動脈硬化症とコレステロールとの関係

危険因子の1つで、他にも喫煙や糖尿病がある

日本では、閉塞性動脈硬化症の患者さんが「脂質異常症」を合併している割合は20~30%程度とされています。 それに対して欧米、特にアメリカでは合併率が髙く、60~70%にもなるとされます。 欧米ではもともと脂質異常症の頻度が高いことや、日本と欧米の食生活の違いなどが関係しているのではないかと考えられています。 また、日本では、欧米に比べると脂質異常症の頻度が低いため、閉塞性動脈硬化症と脂質異常症の直接的な因果関係を 検討した研究があまりないのが現状です。 しかし、動脈硬化が関係している以上、脂質異常症が閉塞性動脈硬化症の危険因子であることは確かです。

閉塞性動脈硬化症の危険因子

閉塞性動脈硬化症の代表的な危険因子には、次のようなものがあります。

▼男性
女性に比べて、男性に多く見られます。

▼加齢
60歳以上になると、患者さんの数が急に増えてきます。

▼糖尿病
糖尿病があると、下腿動脈に発症しやすくなります。特に「糖尿病腎症」で「透析療法」を受けている場合は、 潰瘍や壊死を起こしやすいので注意が必要です。

▼喫煙
喫煙者は、非喫煙者に比べて発症頻度が高いことがわかっています。

▼高血圧
高血圧も、発症頻度を高める要因の1つです。

▼脂質異常症
アメリカの研究で、「総コレステロール値」が高いと間欠性跛行の頻度が高くなることが確認されています。

閉塞性動脈硬化症の予防には、こうした危険因子を減らすことが大切です。

閉塞性動脈硬化症の合併症

脚の血管に動脈硬化があるということは、その他の部位の血管にも動脈硬化が起こっている可能性が高いといえます。 実際、重症の閉塞性動脈硬化症では、「冠動脈疾患」を合併する割合が60~70%と高く、 「頸動脈狭窄症」の合併率も30%程度あります。逆に、冠動脈疾患や「脳梗塞」の患者さんが 閉塞性動脈硬化症を合併する割合は、10~20%程度です。 この結果からは、閉塞性動脈硬化症がある場合、全身の血管の動脈硬化が相当進行した状態にあると推測できます。 脚の動脈硬化は、全身の動脈硬化の状態を見る”窓”でもあるのです。


■閉塞性動脈硬化症の診断と治療

運動で血行をよくしたり、薬で血液を固まりにくくしたりする

閉塞性動脈硬化症の診断

まず、「問診」で症状などを聞きます。「触診」で左右の足の脈や体温差をチェックします。 閉塞性動脈硬化症がある脚には血液が十分に届かなくなるため、脚の筋肉が痩せてきたり、 体毛や爪が伸びにくくなります。そのため、触診時に筋肉の痩せ具合、体毛や爪の伸び具合の左右差などについても確認します。 その上で、次のような検査を行って詳しく調べます。 最近は、上腕と足首の収縮血圧を測って比較する「上腕・足関節血圧比(ABPIまたはABI)」の測定がよく行われます。 脚の血液の流れが悪いとこの値が低くなり、一般に、0.9以下だと脚に動脈硬化が起こっていると考えられます。 最終的な診断と病変の位置確認には「超音波検査」「CTA(コンピュータ断層撮影)検査」「MRI(磁気共鳴画像血管撮影)検査」 なども用いられます。

閉塞性動脈硬化症の治療

高齢者に多い病気であるため、特に間欠性跛行の治療は、患者さんのライフスタイルや生活環境、希望などに合わせて 治療目標を設定したうえで行います。治療は、「運動療法」「薬物療法」が中心です。 これら以外に、生活習慣の改善と、外傷や感染の予防を目的とした足のケアも行います。 運動療法では、「脚が痛むまで歩き、痛くなったら休む」ということを繰り返して、側副血行路の発達を促します。 薬物療法では、「抗血小板薬」などが使われます。脚の虚血状態の改善と、冠動脈疾患や脳梗塞など、 他の動脈性疾患の発症を抑えることが目的です。海外では、閉塞性動脈硬化症の治療を目的として、 LDLコレステロール値を下げる作用のある「スタチン」という薬が使われますが、 日本では脂質異常症の患者さん以外には健康保険が適用されません。

間欠性跛行が改善しない場合や重症の閉塞性動脈硬化症では、「カテーテル治療」「バイパス手術」 が必要になります。カテーテル治療には、脚の付け根の血管から「カテーテル」という細い管を挿入し、 「風船(バルーン)」を膨らませて血管の内腔を広げ、「ステント」という筒で内腔を確保する方法などがあります。 バイパス手術では、人工血管や他の部位を移植して、新たな血液の通り道を作ります。

重症例に対して、血管を増殖させる因子や遺伝子を注射し、側副血行路を発達させるという新しい治療法も検討されています。