コレステロールが関係する病気『頸動脈狭窄症』

頸動脈は、首の左右にある血管で、頭部に血液を送っています。その頸動脈に「動脈硬化」が起こり、 頸動脈の内腔が狭くなって血液の流れが悪くなるのが『頸動脈狭窄症』です。 左右の頸動脈は、顎の下辺りで「総頸動脈」から「内頚動脈」と「外頸動脈」に分岐します。 内頚動脈は脳や目などに、外頸動脈は顔面や頭皮などに血液を供給しています。 頸動脈狭窄症が最も起こりやすいのは、この分岐部です。

頸動脈狭窄症では、まず頸動脈の壁が厚くなり(肥厚)、そこでコレステロールなどが蓄積して、 「プラーク(アテロームによる隆起)」が形成されます。そして一般的に「超音波検査」で見た頸動脈の内腔の広さが 本来の状態の25%以下になると、頸動脈狭窄症と診断されます。頸動脈の状態は、超音波検査で体に負担を与えることなく 調べることができます。そして、超音波検査で頸動脈の状態を調べることは、 全身の動脈硬化の進行度を推定するうえで役に立ちます。 超音波検査で見た頸動脈の狭窄度と、冠動脈疾患の発症率が関連しているという、海外での調査結果もあります。

頸動脈狭窄症の進行には、年齢と性別が関係しています。日本における調査で、外頸動脈の内腔の広さが本来の状態の50%未満に なっていた人の割合を調べたところ、50歳代男性では約2.1%、女性では0%でした。60歳代になると、男性で約7.6%、 女性で約2.3%に上がり、70歳代では、男性はさらに上って約18.1%、女性で約16%でした。 年齢が高くなるほど、また女性よりも男性の方が、頸動脈の狭窄が起こりやすいことがわかります。


■頸動脈狭窄症の症状

めまいなどのほか、血栓が脳に流れると脳梗塞の症状が現れる

脳に血液を送っているのは、頸動脈だけではありません。後頭部側を走る「椎骨動脈」も、脳に血液を送っています。 脳への血流は、左右の頸動脈(主に内頚動脈)、そして左右の椎骨動脈が合流した「脳底動脈」の、 3本の血管によって賄われています。そのうちの1本が狭窄した程度では、症状が現れることはあまりありませんが、 2本に狭窄が起こると症状が出やすくなります。つまり、何らかの症状が現れていれば頸動脈の狭窄が進んでいるということであり、 脳梗塞を発症する危険性が高いといえます。

●めまいなどが現れる

頸動脈狭窄症では、脳に流れていく血流が減少するために「めまい」が起こります。 また、狭窄のあるところで血流に乱れが生じるため、聴診器を通して雑音が聞こえることもあります。 頸動脈が2本とも狭窄している場合は、首を曲げると血管が圧迫されるために、患者さん自身にも雑音が聞こえることもあります。 そして、プラークが破れて血栓ができ、脳の血管に流れて詰まると、「TIA(一過性脳虚血発作)」や 脳梗塞の症状が現れます。


■頸動脈狭窄症とコレステロールとの関係

動脈硬化を促進して脳梗塞の発症率を高める

▼コレステロール値の異常は有力な危険因子
頸動脈狭窄症は、「糖尿病」「高血圧」「高コレステロール血症」のある人、 喫煙者、高齢者などに起こりやすいことがわかっています。 コレステロール値の異常は、頸動脈狭窄症を引き起こす有力な危険因子の1つです。 頸動脈の壁にできたプラークが破れると脳梗塞の原因となりますが、その破れやすさには、プラークを覆う被膜の厚さと、 プラークの大きさが関係しています。被膜が薄いほど、またプラークが大きいほど、プラークは破れやすくなります。 その双方に関係するのがコレステロールです。コレステロール値が異常になるほど、被膜は厚くなり、プラークは大きくなるのです。
海外の研究では、頸動脈狭窄がない場合と比べると、破れにくいプラークによる頸動脈狭窄症で約4倍、 破れやすいプラークによる頸動脈狭窄症では約13倍、脳梗塞を主とする脳卒中が発症しやすいということがわかっていまs。 プラークを覆う被膜を破れにくくするためにも、コレステロール値を適切に管理すすることが大事です。

頸動脈狭窄症の診断と治療

手術でプラークを取り除いたり、ステントで狭窄部を広げたりする

▼診断
聴診器で頸動脈の雑音を確認する方法もありますが、狭窄が軽い場合は雑音が聞こえないこともあるため、 超音波検査が非常に有用です。頸動脈狭窄症の確定診断は、一般に超音波検査で行われます。 超音波検査では、0.1mm刻みの精細な画像が得られるため、頸動脈の壁がわずかに厚くなった状態も観察することができます。 画像上の明暗の混じり具合から、プラークの性状や破れやすさを推測することも可能です。 また、血流の速度や方向なども調べることができます。

▼治療
自覚症状がなく、血流にも問題がない軽い程度の狭窄に対しては、生活習慣の改善と並行して「薬物療法」を行います。 LDLコレステロール値の高い患者さんには、LDLコレステロール値を低下させる作用のある「スタチン」という薬が有効です。 スタチンにはプラークを小さくする他、プラークを覆う被膜を厚くし、安定化させる効果もあるとされています。 その一方で、「中性脂肪」は、コレステロール以上にプラークを覆う被膜を不安定にすることがわかってきています。 そのため、コレステロール値はもちろんのこと、中性脂肪値も含めて適切にコントロールすることが重要です。

▼手術やカテーテル治療を行うことも
薬物療法では十分な効果が得られない、あるいは狭窄が進んでいて脳梗塞を発症する危険性が高いような場合には、 「頸動脈剥離術」という手術や、カテーテル治療の1つである「ステント留置術」という手術が検討されます。 頸動脈内剥離術は、首の側面の皮膚を切開し、さらに頸動脈の壁を切開したうえで、プラークを取り除く手術です。 患者さんの体に与える負担が大きいので、高齢者や心臓の悪い患者さんなどは受けることができない場合もあります。 ステント留置術では、「ステント」と呼ばれる金属製の網目状の筒を使い、狭窄部を広げます。 脚の付け根の血管から「カテーテル」という細い管を挿入し、頸動脈の狭窄部まで送り込んでステントを留置します。 頸動脈内剥離術に比べると、患者さんへの負担は少なくて済みます。
2008年4月からは、頸動脈狭窄症のステント留置術にも健康保険が適用されるようになりました。 症状がある場合は50%以上、ない場合は80%以上の狭窄があり、頸動脈内剥離術が困難な患者さんが治療対象です。 ただし、頸動脈狭窄症のステント留置術を実施できる医療機関は、現在はまだ限られています。