喫煙と効果的禁煙方法
『喫煙』は、 肺癌、 COPDなどの肺の病気をはじめ、 癌、 心筋梗塞、 脳卒中など、多くの病気の原因になることが確かめられています。 しかし、『禁煙』をした人は「食べ物が美味しくなった」「息切れしなくなった」など、さまざまな喜びを感じています。 禁煙したくてもなかなかできないという人のために、成功率の高い禁煙法を紹介します。
■喫煙の影響
本人だけでなく、周囲の人の健康にも影響を及ぼす
●様々な病気の原因になる
タバコやその煙には、ニコチン、タール、ベンツピレン、ニトロソアミン、 一酸化炭素等、人体に悪影響を及ぼす多数の有害物質が含まれています。 肺癌や 食道癌などは喫煙者の方が非喫煙者に比べて数倍高くなっています。 また、癌に限らず生活習慣病の進行も促進します。 喫煙が肺癌などの原因となることはすでに多くの人が承知していることですが、タバコを吸うと、ニコチンの作用によって血管が収縮して血流が悪くなり、 心臓に大きな負担がかかるため、心拍数が高くなって血圧が上昇、 高血圧の原因にもなります。 さらに、高血圧に中性脂肪や悪玉コレステロールの増加が加わると、 血管内に血栓ができて血流が滞り、動脈硬化が進行して血管が詰まったり破れたりして、 心筋梗塞や 脳梗塞などを引き起こすこともあります。 タバコはは中枢神経や自律神経に害を及ぼすとともに依存性があり、少しの量でも中毒を起こします。 『タバコは生活習慣病の主要な原因の一つ』ですから、一日も早く禁煙するのが望ましいでしょう。
2007年に日本で感染症以外の原因によって亡くなった83万4000人について、死亡の原因となった危険因子別に推計したところ、 最も多かったのが喫煙で、約12万9000人がタバコを吸っていました。 喫煙は、生まれつきの体質や加齢など変えられないものとは異なり、自分で無くすことのできる危険因子です。 禁煙することで、病気を予防する最大の効果が得られるのです。
●「受動喫煙」も病気の原因に
喫煙者のタバコの煙を吸い込む受動喫煙の問題もあります。 脳卒中、 狭心症、心筋梗塞、 肺癌のほか、原因不明の乳幼児突然死症候群にも、受動喫煙が影響すると考えられています。 日本では、受動喫煙が原因で年間に約1万5000人が亡くなっていると推計されています。 一方、海外の調査では、法律で屋内などを禁煙にした地域で心筋梗塞による死亡や入院が10~20%程度減ったとの報告があります。 職場だけでなく飲食店なども禁煙にすると、心筋梗塞などのリスクが低くなることも報告されています。 分煙にした場合でも、受動喫煙を完全に防ぐことは難しく、敷地内を完全禁煙にしてこそ万全の対策ができるのです。
●禁煙できない理由
喫煙者の多くは、禁煙をしたくてもなかなかできないという状態にあります。 それは趣味や嗜好の問題でも、意思が弱いわけでもなく、脳が変化してニコチン依存症という病気になるためです。 タバコに含まれるニコチンが、脳の特定の神経細胞の受容体に結び付くと、快感をもたらすドパミンという物質が過剰に放出されます。 そのため、ニコチンが少しでも切れると喫煙せずにはいられなくなるのです。 また、同じ量のニコチンでは次第に満足できなくなり、喫煙量が増えていきます。これがニコチン依存症です。 ニコチンは、麻薬以上に依存性が強いといわれています。 ニコチンが切れるとイライラする、集中力がなくなる、気分が沈む、眠くなるといった離脱症状が現れます。 「朝起きてから1~2本しか吸わないので、依存症ではない」と思っている人もいますが、朝起きて習慣的に喫煙してしまうのは、それだけでニコチン依存症です。 「タバコがストレス解消になる」という人もいますが、そのストレスはニコチンが切れたことによる離脱症状である可能性が高く、その場合の原因は喫煙です。
■禁煙のための治療
禁煙補助薬を使ったり、禁煙指導が行われる
禁煙したくてもできないという人は、ニコチン依存症という病気であるため、禁煙治療を受けることをお勧めします。 禁煙治療は、多くの医療機関で行われています。診療科はさまざまで、禁煙外来を設けている医療機関もあります。 禁煙補助薬(経口剤)と禁煙指導による治療が行われ、一般に3ヵ月に5回通院して禁煙を目指します。 通常は健康保険が適用されます。
●禁煙補助薬
禁煙補助薬は、主に2種類あります。
- ▼禁煙パッチ(ニコチンパッチ)
- 貼り薬で、1日1回、腕・お腹・腰などの皮膚に貼ります。 治療を始めたらすぐに禁煙しますが、皮膚から少量のニコチンを吸収するので、離脱症状を和らげることができます。 大・中・小のサイズがあり、大から使い始めて中から小へと替えていき、最終的に貼らなくても済む状態にします。 副作用として、皮膚のかぶれが現れることがあるため、貼る場所を変えて対処します。 また、少量のニコチンを吸収するので、 心筋梗塞や 脳卒中を起こしたばかりの人などは、再発の危険性があるため、使用できません。
- ▼バレニクリン
- 飲み薬で、毎日服用します。少量から開始して、慎重に量を増やしていきます。治療開始から1週間は、喫煙しても構いません。 バレニクリンは、ニコチンが脳の特定の神経細胞の受容体と結びつくのを妨げて快感を得られないようにするので、 やがてタバコを吸いたいと思わなくなります。 副作用には、吐き気、胃の痛み、不眠、頭痛、便秘、怖い夢を見る、めまいなどがあります。 眠くなるといった症状も現れますので、使用中は車の運転を控えてください。
効果はニコチンパッチもバレニクリンもほぼ同じです。 薬を選ぶ場合は、患者さんの使い勝手や副作用などを考慮し、医師とよく相談して決めます。
●禁煙指導
禁煙指導も重要です。受診のたびに医師や看護師に相談して、禁煙を促してもらったり、励ましてもらいます。 医療機関から患者さんに電話したり、メールでやり取りをすることもあります。 初診の際に禁煙宣言を書いて、禁煙の決意を固めることもよく行われます。 最近は、スマートフォンで患者さんと医師がメッセージを交換する試みも行われています。 福岡大学で行われた、禁煙補助薬の効果を調べる研究では、3ヵ月間の治療を終了した時点で70~80%が禁煙を続けており、 終了後3ヵ月が経った時点でも60~70%が禁煙を継続していました。
■再び吸わないためには
家族や周囲の人の協力や宴会に参加しないことが大切
医療機関での禁煙治療で一旦禁煙に成功しても、時間が経つにつ入れて再び喫煙する人が増えていきます。 それには心理的依存が関係しています。 ニコチンによる依存には、身体的依存と心理的依存があります。 身体的依存は、禁煙補助薬で数週間~数ヵ月で消えるのに対し、心理的依存は薬では対処できないため、なかなか消えません。 「仕事がつらいときや落ち込んだ時に喫煙で解消できた」といったプラスのイメージがあると、同じような状況に陥ったときに喫煙したくなります。 また、「禁煙は苦しい」というマイナスイメージや「タバコは本当は健康に悪くない」という誤った思い込みがあると、禁煙の意欲を保てなくなります。 再喫煙を防ぐためには、家族など周囲の人の協力が必要です。禁煙に成功したら本人を褒めて、喜びを伝えましょう。 また、宴会で回りがタバコを吸っていると、つい1本もらってしまったりしがちです。 禁煙していることを周囲の人に宣言して、誘いを断るようにしましょう。 「たった1本」と思わないことも大事です。その1本がきっかけで、喫煙習慣が戻ってしまうケースが非常に多いのです。 喫煙は、生活習慣病の一種ともいえます。克服するためには、医師や薬、自分の努力、周囲の助け、環境の改善など多方面からの対策を続けることが大切です。
■喫煙と関係する病気
- ▼COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 喫煙歴があって、咳や痰が多かったり、息切れしやすい場合は、「COPD」が疑われます。 COPDは、呼吸機能が低下するだけでなく、 肺癌や心筋梗塞、骨粗鬆症など、 全身の病気と並存することが多いので、全身状態にも注意が必要です。
- ▼肺癌
- 「肺癌」は、現在日本で最も死亡者数の多い癌です。 最近では、早期のうちに治療を始めれば、治すことが可能になってきています。 ただし、早期の段階では自覚症状がほとんどないため、定期的に検査を受けることが大切です。
◆肺癌と喫煙
肺癌については、現在様々な研究が進められ、その大きな要因として喫煙が挙げられています。 一般に「重喫煙者(1日の本数×喫煙年数=喫煙指数が600以上の人)」は、肺癌の「高危険群」といわれています。 わが国における男性の喫煙率は約55%と先進国ではトップですし、女性の喫煙者も年々増加しており、 また、喫煙は本人だけでなく、その周りにいる人にも影響を及ぼすといわれています。 特に肺の入口にできる肺門型の癌は喫煙と深く関係しています。 この癌はレントゲンには写りにくいのですが、痰の中に癌細胞がこぼれ落ちてくることが多いので、痰の細胞検査で早期に発見することができます。 特に50歳以上の重喫煙者の方は、肺の入口の部分の癌にかかる率が高く、定期的な痰の細胞診を行う必要があります。