ニコチン依存症

世界的に禁煙への動きが進む一方で、禁煙したくてもなかなか実行できない喫煙者は少なくありません。 それは、喫煙者が『ニコチン依存症』という病気にかかっていることが、大きな原因です。 ニコチンは、WHO(世界保健機関)の分類では、「精神および行動の障害」の原因物質とされています。 アルコール、アヘン、大麻、コカインなどの依存性物質と同列に扱われているのです。 ニコチン依存症は、「精神依存」と「身体的依存」がありますが、その程度により禁煙成功の確率が変わってきます。 自分のニコチン依存度がどの程度か、チェックしてみてください。


■タバコがやめられない理由①

「ニコチン依存症」という病気と心理的な依存が原因

日本人の喫煙率は、少しずつ低下しています。 女性の喫煙率は横ばいながら、男性はだいぶ下がり、全体としては減少傾向になっています。 厚生労働省が、喫煙者を対象にした調査結果では、半数以上の人が、禁煙を試みたことがあると答えています。 そして、「やめたい」「本数を減らしたい」と答えたのは、喫煙者の7割にも上っています。 喫煙者が減少する一方で、実は禁煙したくてもできない人が大変多いのです。 禁煙したくてもできないのは、『ニコチン依存症』という病気にかかっているからです。 また、心理的な依存も加わって、タバコに対して強く依存する状態になるため、なかなかやめられません。


●ニコチン依存症とは?

タバコに含まれる「ニコチン」には、体内に入ると脳に働きかけて快感をもたらす作用があるため、 精神依存と身体的依存が起こってしまいます。 ニコチンの血中濃度は、喫煙直後が最も高く、約30分たつと半減します。そして1時間後にはゼロに近くなります。 長年ニコチンを摂取し続け、ニコチン依存症になっている人は、禁煙してニコチンの血中濃度が下がると、 「タバコへの渇望感」「イライラ」「集中力低下」「睡眠障害」などの「ニコチン離脱症状」、 いわゆる”禁断症状”が現れます。 そのため、禁断症状を軽減し、ニコチンの血中濃度を保とうとして、1時間に1本以上吸う人が多いのです。

禁断症状で最も強いのが、「タバコを吸いたい」という渇望感です。 喫煙中の場合は、この欲望は朝に強くなります。 就寝中は喫煙しないため、ニコチンの血中濃度が非常に低くなっているからです。 ニコチンは、WHO(世界保健機関)の分類では、「精神および行動の障害」の原因物質とされています。 アルコール、アヘン、大麻、コカインなどの依存性物質と同列に扱われているのです。


◆心理的な依存

タバコを吸いたくなるという欲求には、ニコチンの血中濃度という身体的な要因とは別に、心理的な要因も関係しています。 心理的な依存は、長年の喫煙行動が、生活パターンに組み込まれているために起きます。 例えば、喫煙している人を見ると、ニコチンパッチによる治療中のようにニコチンの血中濃度が高いときでも、タバコが吸いたくなります。 これは、タバコを吸うという行為が、生活の中での習慣や癖、あるいは条件反射になっているからです。 長年身についた生活パターンを変えるのは難しいため、タバコもやめにくいのです。
喫煙している人は、下記の「ニコチン依存度チェック」で、自分がどの程度依存しているかをチェックしてみるとよいでしょう。


◆ニコチン依存度チェック

下記の6つの質問について、当てはまる項目の点数を合計すると、ニコチンへの依存度がわかります。


朝起きて最初にタバコを吸うのは何分後ですか 5分以内 3点
6~30分 2点
31~60分 2点
60分以降 0点
禁煙場所で我慢するのはつらいですか はい 1点
いいえ 0点
1日の喫煙でどちらがやめにくいですか 朝の最初の1本 1点
その他の1本 0点
1日に何本吸いますか 31本以上 3点
21~30本 2点
11~20本 1点
10本以下 0点
起床後数時間の方が、他の時間帯よりも多く吸っていますか はい 1点
いいえ 0点
風邪などで寝込んでいるときも吸いますか はい 1点
いいえ 0点


▼0~3点【依存度低い】
身体的依存は強くないので、コツさえつかめば禁煙に成功する可能性が高い。 心理的な依存が強い場合は、禁煙外来などでのカウンセリングが必要となる。
▼4~6点【中程度】、7~10点【依存度高い】
ニコチンへの依存度が強いと考えられるので、行動療法と併せて、禁断症状を抑えるために 「禁煙補助薬(経口剤)」「ニコチンガム」 「禁煙パッチ(ニコチンパッチ)」なども用いて、 禁煙に取り組むとよい。

■タバコがやめられない理由②

呼吸器の病気、がん、動脈硬化などの健康被害をきちんと理解していない

”タバコは健康に良くない”と漠然と思ってはいても、具体的な健康被害を十分に理解していないと、禁煙の動機づけが弱まります。 喫煙習慣があると、「肺癌」「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」 などの呼吸器系の病気が起こりやすく、全身のあらゆる部位にがんが発生しやすくなります。 特に「喉頭がん」は、非喫煙者と比較すると32倍以上もの死亡の危険性が高くなります。 また、喫煙は「動脈硬化」を促進させる大きな要因です。 その結果、 「心筋梗塞」 「脳卒中」などを引き起こす危険性が高くなります。
タバコの健康被害は、吸っている本人だけでなく、家族や周囲の人にも及びます (→受動喫煙)。


■禁煙開始に向けて

”思い立ったらすぐ”ではなく、きちんと準備してから始める

ニコチン依存症があると、喫煙は個人の意思だけでは中止できないことが多いものです。 禁煙を成功させるには、”環境”と”タイミング”が大切です。 きちんとした準備を行い、環境を整え、タイミングを計って、禁煙を始めましょう。 準備のポイントは、「考え方」と「行動」です。


●考え方

▼動機づけ
思い付きだけで禁煙すると、動機づけが弱いので長続きしません。 「子供が生まれる」「家族に喘息の人がいる」「健康診断の結果が悪かった」など、個人的な問題に結びついた動機があると、 成功しやすいものです。

▼禁煙のメリットに目を向ける
禁煙すると、刻々と体の状態がプラスに変化することを実感できます。 例えば、禁煙20分後には血圧が正常値になり、48時間以内に血液の酸素濃度が高まって、体調がよくなるのを感じられます。 そして、継続すると味覚や嗅覚が回復するのが実感できます。

▼小刻みにゴールを設定する
一度失敗すると、”禁煙は無理だ”とあきらめてしまいがちです。 そこで、小刻みにゴールを設定し、徐々に禁煙時間を延ばすとよいでしょう。 例えば、3日間禁煙できたら、次のゴールを4日目の朝にするなど、実現できそうな範囲で小刻みに目標を設定すると、 達成感を得やすく、禁煙への自信が生まれます。

●行動

▼禁煙開始日の決定
禁煙を決意したら、やる気が持続している2週間以内に始めましょう。 同時に家族や友人などに禁煙宣言すると、気持ちが楽になります。 親しい人からの励ましは、挫折しそうになった時の大きな支えになります。

▼吸えない環境づくり
ニコチン依存症の場合、喫煙行動が生活パターンに組み込まれているので、まずは、吸えない環境を作り、 生活全般を健康を意識したものに変えていきましょう。 例えば、部屋を掃除したりカーテンを新しくしたりして、タバコで汚したくない環境を整えます。

このように周到な準備を行っておけば、禁煙は半ば成功したとも言えるでしょう。